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不器用な怪異たちシリーズ  作者: 瀬戸 陽子


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死神 Prologue – 静かな案内人の起源 –

光や風と同じように

影にもまた、静かな精霊がいた

人の涙のそばに立ち続けたその存在が

やがて“死神”と呼ばれるようになるまでの

静かな始まりの物語

1. はじまりの精霊


まだ人々が“死”という概念をはっきりと理解していなかった頃。

世界には、光の精霊や風の精霊と同じように、

“影の精霊”が静かに存在していた。


影の精霊は、光が生まれれば自然と生まれ、

人の足元に寄り添い、

揺れ、伸び、形を変えながら、ただそこにあった。


影は恐れられるものではなかった。

光と同じように、

世界の一部として当たり前に存在していた。


影の精霊は、

疲れた人のそばに静かに立ち、

眠る人の枕元で揺れ、

涙を流す人の背中に寄り添った。


誰にも気づかれないまま、

ただ“そばにいる”だけの存在だった。


---


2. 変わりゆく世界と「別れ」の誕生


時が流れ、人々は“生まれる”ことを喜び、

“別れ”を悲しむようになった。


影の精霊は、その変化を静かに見つめていた。


ある日、ひとりの老人が静かに息を引き取った。

家族は泣き、村人は祈り、

その場には深い悲しみが満ちていた。


影の精霊は、

老人の影がゆっくりと薄れていくのを見つめた。


「……どこへ行くのだろう」


影の精霊は、消えゆく影を追った。


影は風に溶けるように、

静かな場所へと流れていった。


そこは、光も闇もない、

ただ穏やかな“静けさ”だけが満ちる場所だった。


影の精霊は理解した。


「これが……“終わり”なのだ」


---


3. 影の精霊の決意


影の精霊は思った。


「人は、別れの時にとても悲しむ。

 行き先が分からないから、不安になるのかもしれない」


だから影の精霊は、

“影の行き先”へと案内する役目を選んだ。


誰かに頼まれたわけではない。

義務でもない。


ただ、

涙のそばに立ち続けてきた影の精霊が、

自然と選んだ“在り方”だった。


---


4. 人の姿への変化


影の精霊は、人に寄り添うために形を持つことを選んだ。


風のように揺れ、

闇のように静かで、

人の姿に似ているけれど、

どこか現実から少し離れた存在。


その姿を見た人々は、

いつしかこう呼ぶようになった。


「死神」


その名には恐れが込められていたが、

死神の心は、影の精霊だった頃と変わらず、

ただ静かで、ただ優しかった。


---


5. 死神の役割


死神は、命が終わりに近づいた人のそばに立つ。


怖がらせるためではない。

奪うためでもない。


ただ、

その人が“ひとりではない”と伝えるために。


影が薄れていくとき、

死神はそっと手を差し伸べる。


「大丈夫。

 行く先は、静かで、穏やかな場所ですよ」


その声は、

風のように柔らかく、

火の灯りのように温かかった。


---


6. 現代の死神


現代の死神は、

人々の前に姿を見せることはほとんどない。


けれど、

悲しみの中にいる人のそばには、

必ず静かに立っている。


誰かのそばにふらりと現れるのも、

誰かの“心の影”が揺れたとき。


そして、

ひとことだけ残して消える。


「……自分を縛るものこそ、

 時に“呪い”となるのですよ」


それは、影の精霊だった頃から変わらない、

静かな優しさの名残。


死神は今日も、

誰かの影に寄り添っている。


次話:最終回

2026/6/10 20:00に更新します

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