【本編】Ep.25 陰陽師子孫が語る真相
満月の夜
呪いの人形の涙に触れた者がいた。
小さな揺れを追った陰陽師が
ひとつの真相に触れる。
満月の夜。
こういう時は、何かが起きる。
陰陽師の子孫は、
古い血の記憶に従うように街を歩いていた。
ふいに、空気が震えた。
ただの地震ではない。
もっと鋭く、もっと古い――
“結界が解ける音”。
陰陽師の子孫:
(……これは……呪術の発動……?
でも、こんな気配……初めてだ)
音の方角へ走る。
路地の奥。
街灯の下に、小さな影が座り込んでいた。
白い布の体。
黒い糸の目。
古びた赤い紐。
呪いの人形だった。
肩を震わせ、
小さな声で泣いている。
陰陽師の子孫は、
その姿を見た瞬間、
胸の奥がざわりと揺れた。
(まるで、古文書の中でしか知らなかった“あれ”だ)
そっとしゃがみ込む。
呪いの人形:
……この気配……懐かしい……
自身の呪いに関する関係者だ…
なぜかそう思い、その人に胸の内をさらけ出す。
呪いの人形:
「……私……失敗した……
せっかく……条件揃ったのに……
何も起きなかった……
私……役に立てなかった……」
陰陽師の子孫は、
しばらく黙ってその涙を見つめていた。
そして、静かに語り始める。
陰陽師の子孫:
「……違うよ。
あなたは、ずっと“祝福”を運んでいたんだ。」
呪いの人形:
「……え……?」
陰陽師の子孫:
「本来、あなたは“呪いを弱める器”だった。
恨みをそのまま世界に出さないための、最後の歯止め。
呪いを遠ざけるための存在。」
人形の黒い糸の目が揺れる。
陰陽師の子孫:
「でも……ある時代にね。
“呪い”の字が“祝い”に書き換えられた。
ほんの一文字。
けれど、その一文字が……
あなたの役目を変えたんだ。」
その一言が、呪いの人形に静かな衝撃を与える。
呪いの人形:
「……私が……変えたの……?」
呪いの人形(心の中で混乱しながら):
(私が……変えた?
本当に、私が?
役目を果たせなかったのに、どうして……?)
その疑念に絡まれながらも、彼女は沈黙を守る。
だが、陰陽師の子孫の言葉に、少しずつ心がほぐれていく。
陰陽師の子孫:
「多分ね。
あなたは優しすぎた。
最後の最後に、
“誰も傷つかないように”って……
無意識に書き換えたんだと思う。」
人形は小さく息を呑む。
陰陽師の子孫:
「もし本当に呪いが成就していたら……
その瞬間、あなたの存在意義は終わっていた。
役目を果たした道具は、そこで消える。」
呪いの人形:
「……消える……?」
陰陽師の子孫:
「でも、あなたは消えなかった。
だから、あなたはずっと、
“呪い”じゃなくて、
“祝福”を運んでいたんだよ」
呪いの人形:
「……祝福……?」
陰陽師の子孫:
「誰も不幸にならない。
誰も傷つかない。
むしろ、ほんの少しだけ幸せが増える。
あなたは、ずっとそうだった」
ぽたり、と涙が落ちる。
呪いの人形:
「……じゃあ……
私……役に立ててたの……?」
陰陽師の子孫は微笑む。
陰陽師の子孫:
「うん。
今日、あなたの“祝福”は確かに発動した。
頑張ったね。
その分……きっと、どこかで良いことが起きる」
呪いの人形は、
自分が流している涙の意味が
もう“悲しみ”ではないことに気づかない。
ただ、静かに泣いていた。
陰陽師の子孫は、何も言わず静かに彼女の隣に座った。
ただ、しばらくその場に寄り添い、何も求めず、ただ共にいた。
呪いの人形が落ち着くまで、
ただ静かに。
---
少し遅れて、金色の光と九尾の影が
月明かりに浮び上がる。
そこには――
泣き崩れる人形と、ただ寄り添う陰陽師。
呪いの人形は、肩を震わせ、
声にならない声で泣いていた。
陰陽師は、何も言わない。
ただ、そばにいるだけ。
人形の涙が落ちるたび、
古い呪文の気配が淡く消えていく。
九尾は一歩踏み出しかけて、
神様に袖をつままれた。
神様:
「……やめておけ。
あれは“呪”ではない。
“心”じゃ」
九尾:
「……しかし……」
神様:
「あやつ(陰陽師)が横におる。
ならば、任せてよい」
九尾は、静かに息を吐いた。
九尾:
「……そうか。
これは我らの領分ではないな」
二柱は、ただ見守った。
人形の涙が止まるまで。
陰陽師がそっと寄り添うまで。
夜が静かに落ち着くまで。
誰も声をかけなかった。
誰も触れなかった。
次話:【本編】Ep.26 呪いの人形 エピソード0 「造られたモノ」
2026/5/20 20:00に更新します




