【本編】Ep.24 呪いの発動
初めて呪いは成功し、発動した
……はずだった。
それでも世界は変わらない。
残酷さの狭間で、呪いの人形だけが静かに震えていた。
夜。
満月が、街灯よりも白く冷たく光っていた。
アパートの前の細い路地に、
ひとつの影がふらりと立つ。
長い髪。
赤いコート。
白いマスク。
…口裂け女。
口裂け女(心の声)
(……花粉、まだ飛んでる……
マスク外せない……)
鼻の奥がむずむずする。
くしゃみが出そうで出ない。
その時だった。
足元の植え込みの影から、
小さな人形がぴょこんと顔を出した。
呪いの人形だ。
呪いの人形(心の声)
(……今日……満月……
南南東……この方向……
あとは……古語……くしゃみ……
……今日こそ……今日こそ……!)
人形は震える手で、
呪言をそっと唱え始める。
呪いの人形:
「……いと、あな恐ろし……いと、あなをかし……
鬼のごとくに強く……世に捨てられにけり……」
(この瞬間……何かが変わるはず……)
——
その言葉が吐き出されると同時に、
空気がひときわ重くなるのを感じた。
息を呑んだその瞬間、彼女の周りが光に包まれた。
その声に、
口裂け女が振り返り、南南東へ向けてふと足を止めた。
呪いの人形:
(……揃った……!)
そして――
口裂け女:
「ワタシ…キレ……っ…くちゅん!!」
呪いの人形:
「!!!!!!!!」
蒼い光が人形の体を包む。
──発動した!!
空気がぐわんと揺れた。
足元から蒼白い光が立ち上がり、
複雑な紋様を描きながら、
一瞬で街一つを呑み込むように広がった。
ほどなく光が消えた。
しかし、その後世界はあまりにも静かだった。
呪いの人形:
「……これが……“呪い”……?」
風がひとつ吹き抜ける。
街灯の下で、落ち葉がころりと転がる。
どこにも、
不幸の気配がない。
周りを見渡し、音を拾う。
電灯は?……割れてない。
犬は?……吠えていない。
空気は澄んでいて、重さは全くなく、
影が薄く滲んでいる。
車のクラクションすら鳴っていない。
ただ、
いつも通りの夜。
それどころか、
猫はのんびり欠伸をしていて、
どこか遠くでは笑い声まで聞こえてくる。
呪いの人形:
「……どうして……?
本当なら……何か……起きるはず……なのに……」
胸の奥が、
すうっと冷えていく。
「役目を果たしたはずなのに、
何も変わらない。」
それが、
何よりもつらかった。
---
口裂け女は、
何が起きたのか分からず首をかしげる。
口裂け女:
「あなた……キレイだったよ。
キラキラしてた」
その言葉は、
呪いの人形にとって
最も残酷な優しさだった。
呪いの人形:
「……違う……
私は……呪いの……
……役目を……果たしたかっただけ……」
ぽすん、と座り込む。
呪いの人形:
「……何で……?
条件揃ったのに……
何で……何も起きないの……
私……何のために……」
涙がぽろぽろ落ちる。
口裂け女はそっとしゃがみ込む。
口裂け女:
「……大丈夫?
おうち帰ろう?」
呪いの人形はぶんぶんと首を振る。
呪いの人形:
「……帰れない……
だって……
私……役に立てなかった……」
口裂け女は、
その小さな体を見つめて
ほんの少しだけ目を細めた。
口裂け女(しばらく沈黙してから、静かに言う):
「あなた……キレイだったよ。
それだけで……いいじゃない」
そう言って、
彼女はまた夜の闇へ消えていった。
その言葉が、呪いの人形の心に静かに染み込む。
彼女の中で何かが崩れ落ちる音がした。
呪いの人形(涙を拭うこともせず):
「……私は……一体、何だったんだろう……?」
小さな体が震え、足元にぽたぽたと涙が落ちる。
自分の存在意義が、初めて揺らいだ夜だった。
---その頃…
空気が、ひとつ震えた。
風が止まり、
街の灯りがわずかに揺らぐ。
神様は、遠くの社で目を開いた。
神様:
「……今の揺れは……
“呪”ではない……
いや……“呪”の形をした……別の何か……」
九尾もまた、尾をふるわせた。
九尾:
「……妖気が乱れた。
だが、これは……殺意ではない。
もっと……脆い……泣き声のような……」
二柱は同時に、同じ方向を見た。
なぎの家の方角。
神様:
「行くぞ」
九尾:
「…承知」
風が巻き、
九尾の影と金色の光が走る。
次話:【本編】Ep.25 陰陽師子孫が語る真相
2026/5/18 20:00に更新します




