第百三章 大魔人
俺が神の塔から戻ってくると結界の塔の戦闘は終わっていた。完全に人間は撤退し魔物側が取り付いている状態だ。
俺は興味深げに結界の塔を調べているパルテの元へ向かう。
「どうだ? 破壊できそうか?」
「あー。王牙っちか。ちょっちまって。・・・はぁ。これは駄目そうさね。崩れそうでヒビも入ってるのに壊れない。ヒビの間に何も入らないんだけどナニコレ」
パルテは結界の塔の壁面を撫でながら話を続ける。
「なんていうかひび割れた壁の絵が描かれた何かみたい。ハッキリ言って異常さね。ヒビの間には触れられるのに、何かを入れようとすると入らない。なんか常識がずれてる。あーしの手に負えそうにない。王牙っちの戦果はどう?」
諦めたパルテがこちらへ向く。
「戦果は上々だな。これを破壊できる神の塔の力を借り受けた。いつでも壊せる状態だ。そちらの準備は良いか?」
「んー。もうちょい待って。色々試したいね。その準備もあるけど、アイツとの話はどうだった? あーしに聞かせるような話があるなら付き合うよ?」
そうだな。パルテには話すべきか。神の塔の真の役割。それを語れるのは限られている。まず最初に語るのならばこいつだろう。何よりも魔王としてリブラと組んでいた奴だ。
「ああ。時間を貰えるか? 場所を移したい。内容が内容だけにな」
「オーケー。その顔だと戦果よりも厄介ごとの方が多いんじゃないの? あーしじゃなきゃ話せないなんて何を聞いてきたのさ」
「そんな大層な事じゃない。結界の塔の仕様だ。思ったよりも厄介だ。色々な意味でお前でなければ話せんな」
「なんだ。それならあーしも興味があるよ。大~丈~夫。王牙っちが理解できる程度ならあーしが理解できないわけないじゃん」
「何それ。理解したくないんだけど」
俺とパルテは結界の塔から離れて話していたが、開口一番それだ。まあその気持ちはわかる。
「つまり、神の死の隠蔽って事よね? それでバレたら他世界の神々がやってくる。こっちは神が居ないから全力で対処できないって事だよね? それで王牙っちはそれに対処できるの?」
「実践はしてないが神を殺す方法だけはコア持ちに使っている。リブラの態度ではそれで問題ないようだった。リブラは俺が他世界の神々を殺せると信じているだろう」
「こりゃアイツがあーしに語れないわけだ。王牙っちが居なかったらこんな話乗ってないよ」
「確かにな。俺が使えるからこそ奴は全てを話したのだろう。パルテお前は降りるか?」
「う~ん。難しい所さね。こんな綱渡り上手く行くかってのもあるけどさ。この結界の塔を破壊していいかも微妙さね。王牙っちの神の塔で結界の塔を吹き飛ばしたら完全破壊になるっしょ。そこまでやっても良いのかどうか。壊したら直せないでしょ」
確かに直せるかとは聞いてないが、現状その通りだろう。
俺の顔を見てパルテが話を続ける。
「王牙っちはさ。この話に乗るの? 乗ったのはわかったけどさ。本当に実現できると思ってるの?」
「それに関しては思っていると答えておこう。俺の存在以外にも他世界の神々と戦える存在は居るだろう。レオニスの神呪の剣。楽園の守護者。最悪神を立てればコイツラはこの世界の為に動く。俺が討たれたとしても手はまだある筈だ」
「そうじゃない。アイツをそこまで信用できるの? アイツこそこの世界を棄てて逃げ出せるでしょ」
「それに関しては信用しているという他にないな。俺はリブラをこの世界だと定義づけている。神ではないがこの世界を維持し作り上げて来た張本人だ。奴が居なければ神を立てたとて、この世界は元のままではいられないだろう。リブラを除いた選択肢はあり得ない。敵に回したくないというよりも味方に欲しいというのが本音だ。リブラの裏切りは俺が奴の陣営に加わる事で防いでいるつもりだ。人間ではなくこの世界の側に着いた、という意味だがな」
俺の言葉に考え込んでいたパルテだったがその口が開く。
「・・・そっか。王牙っちがそこまで入れ込んでるのか・・・」
「お前はどうだパルテ。そこまでリブラは信用できないか?」
「アイツの頑固さは知ってるよ。人間を死滅させる方法はいくらでもあった。あの時は人間から神を立てるって躍起になってたからね。半端な方法で人類一致団結なんてできるわけないじゃん? とっととぶっ殺して減った所で良さそうな奴に神の力を一極化させればいいじゃん? それこそあーしら魔王側が次代の神である人間の勇者を選別すればいい。だってのにアイツの弱腰と言ったら。口では威勢がいいのに行動が伴ってない。結局あーしら魔王側はこの結界にすら辿り着けなかった。そりゃキレるでしょ」
そりゃキレるな。思わず俺も頷いてしまう。それに呼応するかのようにパルテの言葉が続く。
「でしょ。今回もどこまでアイツを信じていいか。確かにあーしに結界の事を話せないのはわかるよ? 当時の王牙っちが居ない時にこれを聞いてたら他世界の神々にコンタクトを取ってたね、間違いない。こんな世界に未練なんかあるわけない。それこそ魔王を引き受けるぐらいだしね。ただ今のあーしは正直この世界を気に入っている。アイツがこの世界だってのも納得できる。なによりシノもレオニスもいるしね。あーしは失ったものすら取り戻せた。魔王になって諦めたもの。それが今全てここに在る」
やはりパルテに話したのは正解だったな。その顔を見ればわかる。
「腹は決まったようだな」
「業腹だけどね。アイツじゃなきゃこの世界を維持できないんじゃ仕方ない。取り合えずあーしは王牙っちを信じるよ。アンタは絶対に死ぬんじゃないよ。その時はシノっちとレオニっちを抱えてこの世界とはおさらばさね。その算段は付けておく。裏切るかどうかはアンタ次第。気張ってね王牙っち」
「心得た。だが一度くらいは転生に耐えられる。その心づもりだ。早合点はしてくれるな。だが、もしもの時は二人を頼む。そう簡単にあの二人がこの世界を棄てる事は無いだろうがな」
「そりゃそうさね。そこが一番問題。なら、あらゆる可能性を用意しておくよ。あの二人がこの世界に留まる選択をしてもね」
俺は安堵の溜め息を吐く。
「それが聞きたかった。お前に話したのは正解だったな。その時は真の魔王か?」
「現金だね王牙っち。確かにアイツと手を取り合って神を立てるならそうなるさね」
「捨てた称号をもう一度か。一度目の魔王になる理由はなんだったんだ?」
「アイツから聞いてないの?」
「聞いたが乙女の秘密とはぐらかされた。何か余程の理由があるのか?」
「・・・そっか。話してないんだ」
「聞いた方が良いか? 必要な情報なら共有したいが」
俺の言葉にパルテは笑う。
「逆。聞いてたらアンタを殺す所だったよ王牙っち。一度だけの勘弁はここで使い切る所だった。リブラっちが話さなかったのは正~解~。あーしが敵に回っていたかもねー」
「それほどの事か?」
「興味を抱くんじゃないよ。ゲスの勘繰りさね。王牙っちが聞くことじゃないよ。それともあーしを敵に回してでも知りたいかい?」
そういう事か。ならば聞くのは邪道か。
「案ずるな。心の領域については心得があるつもりだ。心と記憶を暴くのは体を穢すよりも醜悪な行為だと自覚している。レオニスのプライベートを暴いてはいないだろう?」
「アンタってホントそれだよね。その顔で言う事? 風体と行動が合ってないよ」
「言わんとすることはわかるがこれが俺だ。信用を捨ててまで個人の趣向を追求する趣味はないぞ」
「そんなに気になる王牙っち?」
「ならないと言えば嘘になる。お前ほどの女が魔王に堕ちる動機だからな。その存在に興味はある。それでも俺が知るほどの情報ではないのか?」
「ないない。絶対ない。あるわけない。王牙っちはあーしを買い被り過ぎ。取るに足らない男さね。ま、隠すほどじゃないけどね。信用の証明に使っちゃうー。これに気付いたらどこかでアンタを裏切るかもね」
「ここまでヒントを出せば言っているようなものだろう。それを知るのはリブラとシノだけか?」
「・・・王牙っち。それをシノに話したら、うん、その、後ろから刺してもいいよね? その口を開けない様にしてあげる」
「・・・わかった。シノを傷つけ、お前を敵に回してまで知る必要のある情報でもなさそうだ」
「王牙っちは話が分かる。だからその話はシノにはしないで」
「心得た。だがシノがこの話を振ってきた時は受け取るぞ。それで裏切り判定は無しだ。まったく、世界の根幹に関わる話よりも余程の厄介ごとだな。素直に話しておいた方が安全ではないか?」
「うん。そだね。あーし達にとっちゃ世界の根幹よりも深刻。それは世界が崩壊するのと同じだから。だから教えなーい。王牙っちには知ってほしくない。友達だからこそ知られたくない事ってあるじゃん?」
「わかった。だがそれなら俺が知っても裏切るのは無しだ。完全にフラグだからな。言わないのならそれぐらいは受け入れろ」
「了~解~。王牙っちのフラグ嫌いは有名だもんね。それならあーしも聞いてあげるよ」
ヤレヤレ。世界の崩壊よりも男の方が重要だとはやれやれだ。
だが、だからこそ、ここに居るのだろう。
世界と人の心とはままならないものだ。
ーーー
「パルテはまだ気にしているのか」
結界の塔の調査に戻ったパルテを送って、俺はシノと辺りを調査している。調査と言ってもただの散歩に近い。結界の塔周辺は安全圏だとは思うが、シノの立っての希望だ。
どうも俺とパルテの仲を疑っているらしい。それで俺は吐いてしまったわけだ。だがシノの反応はあっさりとしたものだった。
「パルテは相当に気にしていたぞ。とてもではないが冗談でこの話題を出せないほどには緊張していた。そしてこの話をお前にするなともな」
「・・・ふむ。私に関してはどうでもいい事だ。蒸し返すほどでもない。王牙、お前は気になるのか?」
「それはな。察するにシノとパルテで取り合った男という所だろう。シノ、お前がかつて愛した男だ。そこを気にするなというのはな」
「なんだそこか。ゲスな勘繰りなら蹴りでも入れようかと思ったが、嫉妬では仕方がない。そこについては誤解を解いておこう。その時の私は人間に転生していた」
「それは可能なのか?」
「可能だった。私はこの世界の技術だと思っていたが、どうやら違ったようだがな。私に残る女神の残り香のものだろう。髑髏だった私は人間を知るためにこの姿で人間に転生した。私は、どこかでこの姿が特別だと知っていたのだろうな。度重なる転生で全ての記憶を保持しているわけではないが、今の結果を知ればそうだろう。私は女神の姿で人間に転生し、何かを探ろうとしていた。その時に会ったのがパルテだな」
「なるほどな。お前が転生にここまで自信があったのは前例があったからか」
「そうだ。そこでは私も人間の女の子だ。魔物としての意識はあってもその体がいう事を聞かないことはお前も知っているだろう?」
シノの言葉で俺がレオの体に取り込まれた時の事を思い出す。確かに意識は在っても体に引きずられていた。その感覚はわかる。
俺の顔に納得を見て取るとシノの言葉が続く。
「そこで色々あったのだ。人間としての私がな。今の私は魔物としての私だ。私が私として自覚して愛しているのは王牙、お前だけだ。これで納得できるか?」
シノの顔が笑顔に変わる。その顔は俺が惚れ直しそうなほど美しく見えた。
「納得した。ならば何も言う事はない。俺が興味を引かれたのはお前の心を動かした男だからな」
「たいしたことではないぞ。パルテは元が人間だからな。私もそうだが元が魔物に近い。私とは少し感性が違うのだろう。だが内容は話せないぞ。それこそパルテは友人だ。それに夫婦間で全てを共有しては味気ない。秘する所があった方が魅力が増すだろう?」
確かに。
俺はシノを抱き上げる。
「確かに魅力的だ。このままどこか人気のない所に行きたい所だ」
「実際に行動に移すな。今度は何をやらせる気だ」
「何も難しい事はない。シノ、お前の形を俺の手でなぞりたいだけだ。触れただけでシノだと理解できるほどにな」
「お前のその変態性は何処からくるんだ。私だけだぞこんなお前に付き合うのは」
「知っている。わかっている。それを理解し再確認したいだけだ。俺がこの世界を救う理由。それはただお前の為だけだ。それを違えない様に存分に俺自身に言い聞かせる必要がある。これはこの世界の救済行動ともとれないか?」
「お前の変態性を正当化するために救世を屁理屈に使うな。それこそお前は神の代弁者と結託して神を立てようとする大魔王だろう。救世とは程遠いぞ」
「魔王種はもういるだろう。それならば魔人だな。魔人種とでも呼ぶべきか。大魔人となればしっくりくる。正に俺にうってつけだな」
「大魔人王牙か。確かに今のお前にはぴったりだ。鏡で今のお前の顔を見せたい所だぞ。救世主よりもお似合いだな」
そうだとも。魔人か。それが今の俺にはうってつけだな。
ーーー
Tips
魔人種
本当は魔神種にしようかと思いましたが、大魔神が被るので一応魔人に。
後の変更点として強大な魔人種を魔神種という形にしようと思ってます。
ですので大魔人王牙の名称は変わりません。




