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帆布に描くぎじゅつ  作者: Aa_おにぎり


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47/50

#47

北海道 苫小牧 午後九時五〇分

戦場となった北海道、そこで不幸にもスキー旅行に来ていた冬歌達は北海道を出て安全な地域に移動するために苫小牧に訪れていた。


「ここ?」

「ええ、行きましょうか」


苫小牧の港に到着した四人は荷物を持ったまま見回していると、彼女達の前に車が一台止まる。

駅には北海道からの脱出を目論む観光客がフェリーのチケットなどを求めて殺到していた。


「冬歌様」


その車から一人の女性、心陽が降りてくると冬歌を見た後に頭を下げる。


「港に船を用意しております」

「ええ、頼むわよ」

「はっ」


するともう一人降りてきた別の従者が沙耶香達の荷物を持つ。


「お連れ様もどうぞ」

「あ、ありがとうございます」


そして四人は迎えに来た高級ミニバンに乗り込むと、そのまま港まで向かう。


「これから皆様にはボートに乗って八戸港に向かいます」

「そう…そこから新幹線?」

「はい、席はすでに予約しております」


現在、空は飛行制限が設けられており。プライベートジェットの飛行はできなかった。


「今の状況は?」

「現在、上陸部隊は撤退を開始したそうです。単冠湾より出撃した第四艦隊は露軍艦隊と交戦中です」


助手席に座る心陽から報告を聞き、冬歌は短く頷くとその後ろでさくらは冬歌の立ち場と言うものを目に見えて感じていた。


「(冬歌はやっぱり貴族なんだ…)」


それも跡取りと言う、沙耶香よりも命の価値がある人物。だから、彼女は当たり前のように護衛がいる事に違和感を持って居なかった。

沙耶香ですら、こんな護衛はいない。


「(なるほど、これが後継ですか…)」


愛結はたとえ友人だけの旅行といえど、必ずどこかには護衛がいる冬歌の姿に、沙耶香と違う感覚を感じて居た。

血で言うなら、自分も後継ではあるのだが。実家の会社は親戚に奪われたような状態で、父は病に倒れて今な病床に就いている。


「(まさか私が狼八代家の船の乗るなんてね)」


沙耶香は席に座ったまま、先程冬歌が聞いていた戦況を思い出す。正直、狼八代家の時期当主候補の冬歌を本当の意味で一人にするとはさらさら思って居なかった。だからすぐに迎えの者が来た事に違和感を感じて居なかった。

ただそれよりも気になったのは狼八代家の持つ情報網だ。今の詳しい戦況、少なくともニュースなどでは絶対に流れて居ない情報をすでに掴んでいた。実家みたいな軍人の家系ならまだしも、狼八代家は表向きはただの公爵家だ。


「(やはり、宮家の情報部隊を担当していると言う噂は本当かも知れんな)」


沙耶香はそんな事を妄想していると、車は苫小牧のクルーザーの多く止まる桟橋に到着した。


「それじゃあ、行こうか」

「う、うん…」

「よろしくお願いします」

「おうよ」


冬歌はこれから乗り込むクルーザーを前に三人を見ると、彼女達は荷物を持って貰いながら船に乗り込むと、心陽も乗り込んだ。


「出します」

「ええ、急いで頂戴」


そう言うと、もやいを解いてクルーザーのエンジンが掛かると、海に出ていった。




その頃、紋別沖でロシア海軍の補給艦に乗っていたセッテ達はつけているイヤホンから連絡を受けた。


『ーー子供達』

「っ!!」


先ほど、日本軍の無人攻撃機を叩き落としたばかりの四人はその通信の相手に一瞬で切り替わる。


「ファータ?」

「どうしたの?」


そこでノーヴェとウンディが聞くと、向こうでエドモンドは言う。


『相手が動いた。苫小牧から出たクルーザーに乗っている』

「「「「…」」」」


それを聞き、四人の顔が一瞬で引き締まる。


『頼んだぞ、作戦通りだ』

「「「「了解」」」」


そう答えると、セッテ達は赤紫色の髪の青年ドーディを見る。


「頼んだ」

「了解、任せな」


そう答えると、彼は両腕を少し前に伸ばして彼の髪と同じ色の空間が生まれるとそのまま四人の体は宙に浮いた。


「あっ!お、おい!どこに行く?!」


補給艦の甲板に慌てて出てきた兵が叫ぶと、彼らは答える。


「うちらの用事があるんだ。じゃ、お先に失礼」

「ま、待てーーー」


その瞬間、その兵士はその赤紫色の空間に吹き飛ばされるように吹っ飛び、そのまま気絶してしまった。

そして四人はそのまま艦隊を離れるとそのまま南に向かって飛び去っていった。


「何だと?!」

「逃げたのか!?」


ヴァーリャクの艦橋から艦隊を飛び去っていく彼らを見た士官達は驚愕した。


「どこに行く気だ?!」

「呼び戻せ!!」


そしてこの四人が消えた事実に太平洋艦隊は狂乱してしまっていた。




その頃、海に出て八戸に向かって飛ぶ冬歌達はクルーザーの中で不安げに冬の海を見ていた。


「大丈夫よ」

「……」


クルーザーの中でさくらは不安げに遠くを見ているのを見て、冬歌が同じ様に外に出て話しかけた。


「…ううん、そうじゃなくてね」


しかしさくらは冬歌に少し俯きながら答える。


「やっぱ、冬歌って凄いなって…思っちゃってね」

「?」

「ほら、こんなに護衛がいるわけだし」

「ああ、そう言う…」


そこで冬歌はさくらが思って居た事に納得できた。


「仕方ないわ。お母様が心配性ですもの」

「あはは…」


もはや子供依存症の域だと彼女は語る。よっぽど愛されている証拠だとさくらは答えると、冬歌は少し迷惑に感じることもある、と言って海を見る。

中型クルーザーの後ろ甲板にも二人の拳銃を装備した護衛の人がおり、常に冬歌を見ていた。


「怖くないの?」

「もう慣れちゃった。ずっとこんな生活だったから」

「…そっか」


さくらはそこで冬歌と自分の立場の差を改めて感じる。

自分はただの金持ち家具店の一人娘、反対に冬歌は公爵家の直系の一人娘。親の意向で正体を隠していなければ、沙耶香と同等の偉い人だ。こうやって友人として仲良くできているのも奇跡なのかも知れない。

さくらはその事実に少し実感をしながら同時に感謝していた。


「…あれ?」


そして曇天の空を見ていると、ふと違和感を感じた。


「何だろ、これ…」

「ん?どうした?」


そんなさくらの異変に冬歌は話しかけると、彼女は空を見ながら指をさした。


「あっちの方向、なんか変な感じしない?」

「え?」


そこで冬歌はよく目を凝らすと、その遠く離れた先から()()()がまっすぐ飛んできていた。


「っ…!!」


その姿を見た時。冬歌が叫ぼうとしたが、その前に彼女は札を取り出した。

その瞬間、彼女の展開した障壁術式に操縦席に座る心陽を狙っていた高圧の細い水の線が当たり、四方に弾かれる。


「きゃあっ!!」

「ちっ…」

「お嬢様!!」


咄嗟に従者が持っているTİSAŞ ジガナを持って引き金を引いた。


「拳銃じゃあ届かん!早く彼女を中に」

「はっ!」


従者は分かっていた、普通の人は術師に対して非力であることを。そしてさくらは従者に抱えられて中に入れられると、そこから入れ替わるように沙耶香が飛び出した。


「冬歌!」


そこで彼女は叫ぶと、しまっていたSCARを投げつけた。


「すまん」


その直後に今度は目に見えなかった別の術式が冬歌の展開する障壁術式に当たった。


「誰だよ」

「多分……()()だ」


その瞬間、豪速球で飛んできたその陰に沙耶香はHK416で防いでいた。その瞬間、衝撃で船が大きく揺れた。


「くっ!!」

「おぉー、姉ちゃんすっげ」


青緑色の髪を持ち、鉤十字の瞳を持つ青年はそう答えると従者が拳銃の引き金を引いた。


「おっと、効かないぜ」

「「っ!!」」


すると放たれた拳銃弾が空中で赤紫の膜に覆われて止まった。


「術だ!伏せぃ!」

「っ!!」


その瞬間、護衛の放った拳銃弾は元の場所に向かって帰るように逆進した。


「ふんっ!」

「伏せろ!」


そして沙耶香は飛んできたセッテを蹴り落とす勢いで蹴り飛ばすと、そこにすかさず冬歌の術が飛ぶ。


「おっと、危ない危ない」

「なっ…?!」


そして蹴り飛ばされたセッテは沙耶香に蹴られた部分を軽く払うと、そのまま宙に立って見せた。


「宙に浮いてる?!」

「術式か…」


冬歌が呟くと、セッテが反応した。


「せいか〜い…と言いたいけど少し違うかな」

「「?」」


意味がわからない様子の冬歌達にセッテは言う。


「正確には…




()()だよ」


彼は至って真面目な様子で答えていた。






「心陽様」


襲撃を受けた直後、さくらを中に入れた護衛が操縦席に上がってくる。


「すまん、運転を」

「はっ!」


操縦席で心陽は慌てて上がってきた護衛に運転を渡すと、航行中の船の後を追うように赤紫の膜で覆われているセッテを見た。


「…化け物め」


そこで彼女はセッテを包んでいる幕の正体を突き止めるために当たりを見回した。


「…いた」


冬歌が障壁術式を展開しているおかげでいかなる攻撃も防いでいる。

襲撃してきたのは分かる限りで二人だった。


「冬歌様…」


そして操縦席の下から彼女は対物ライフルのAI AS50のパーツを取り出して簡単に組み立てていた。






「魔法だと?」

「馬鹿な事抜かすな」


セッテを睨みつけながら二人はそう答える。当然だ、魔法というのは数世紀も前に魔女狩りでその技術は失われているのだから。

それが世界の常識であり、通説だからだ。

しかしセッテは至って真面目な様子で言う。


「嘘じゃないさ、事実。僕たちは魔法を使える」


そう答えると、彼の横にもう一人少女が降りる。


「うちが前に術式じゃないって言っただろう?」

「っ!お前…」


その女に、沙耶香は見覚えがあった。


「やぁ、また会ったね虎寺家の長女さん」


青い髪をした少女、ノーヴェは沙耶香を見て気さくに答えた。

二人の共通点は瞳に映る鉤十字のマーク。そしてベースカラーと呼ぶ人工術師のプロトタイプである事だ。


「…」


そんな二人を見て冬歌は札を取り出すと、そのまま術式を発動した。

その瞬間、クルーザーの近くの海が一気に凍結し、海上になだらかなリンクが出来た。その地面はとても自然現象では起こらないほど平らだった。


「冬歌?」

「ここじゃ足場が不利だ」

「…」


今いるのはクルーザーの狭い後ろ甲板。おまけに背中には武器を持っていないさくらと愛結がいる。とてもじゃないが圧倒的不利な条件だった。


「ほほう、向こうでやる気?」

「いいよ、君がそう望むならね」


そんな氷塊を見て二人はそう反応すると、先に向こうに飛んでいた。

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