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帆布に描くぎじゅつ  作者: Aa_おにぎり


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44/50

#44

二〇二六年 二月十三日 午前十時頃

北海道 スキー場


朝早くに着替えて冬歌達は今日も今日とてスキー場に向かう。

明日でこのスキー旅行も終わりを迎える。人並みに滑れるようになった冬歌は大いにスキーを楽しんでいた。


「気持ちいわね」

「ええ全く」


二人ともスキーで滑走しながらリフトに乗って山を登っていた。


「ってか、冬歌って筋肉痛大丈夫なの?」

「え?」


リフトに乗っている最中、さくらは冬歌に聞く。すると彼女は少し虚どった様子で答える。


「え、うん。だ、大丈夫だよ」

「…」


それを見てさくらは冬歌のスキーウェアを触る。


「わぁっ!?何をする!!」

「絶対術式使ってるでしょう!」

「そ、そんなわけ…」

「嘘おっしゃい!じゃなきゃ冬歌、筋肉痛で死んでいるはずだもん!」


そう言い、ウェアの上から触っていると、少し違和感を感じた。


「やっぱり。お札貼っているよ」

「あらら。バレちゃったわね」

「あまり使いすぎない方がいいんじゃ?」


さくら自身はよく術師の事に関しては使えないので分からないが、あまり使ったら代償も大きそうだと思っていた。

しかし彼女は飄々とした様子で答える。


「いいのよ。こう言うのは楽しんだ者勝ちだもの」

「まぁ…冬歌の体力じゃあね…」


親友すら認める体力の無さに冬歌自身も努力しているのだと思っていた。

別荘から遅く出た二人は近場のカフェで軽くお茶をした後にゲレンデに訪れていた。

体力バカの沙耶香とは違い、二人はゆっくりとスキーを楽しむことを目的にしていた。


「今日はどこ滑る?」

「昨日と同じでいいでしょ」

「うーん、そうね。少なくとも初心者のうちらじゃあ、上級者コースで滑ったらまず死ぬだろうしね」

「そうね」


事実、上級者コースは斜面が急で滑ったら絶対転ける上にコース街まで転がっていきそうだった。だから二人は中級者までのコースに分かれて滑ろうと考えていた。




そして冬歌が一人で訪れている事になっているこのスキー旅行だが。日本の公爵の…それも希少種の獣人の直系の娘を本当の意味で一人にすはずはなかった。


「…」


ゲレンデで滑っている冬歌を遠くから双眼鏡越しに心陽は監視していた。彼女の執事兼護衛責任者である彼女は東京ではなく、この北海道の地まで冬歌を見にきていたのだ。

もちろん彼女に気を使わせぬよう、遠くからではあるが。


公爵の娘と言う点でどこに行っても必ず護衛が付くと言うのは冬歌自身もわかっている話で。彼女は遠くから見られている事にあえて気にしていなかったのだ。

最も、攻撃を受けた所で常に背中に貼っている御札を通して障壁術式を展開しているので大きな怪我をすることは無かった。


「異常はないか?」

『はい、問題ありません』

「そのまま監視を続行。不審者は片付けて構わない」

『了解しました』


そう答えると、心陽は冬歌を見ながら相変わらずの雪の過保護っぷりに半分呆れもしていた。


「(立場を考えれば妥当なのでしょうけれど…)」


同じ公爵の直系の娘とはいえ、沙耶香は虎寺家を継ぐ立場ではない。

しかし冬歌は次期当主がほぼ確定している身である。彼女がその権利を放棄しない限り、狼八代家の次期当主は冬歌が担う事になる。その責任は計り知れないものがあり、その先に待っている縛られた時間ではこのようなことをする時間はないだろう。

だからこそ、高校での自由な生活はある程度雪は黙認していたのだ。


「(それはご自身の経験からきているのでしょう…)」


雪自身、先々代の狼八代家当主からは厳しい躾を受けてきていた。おそらくはその反面教師なのだろう。

今回のスキー旅行だってあらかじめ決まって居た予定だ。そろそろ狼八代家の仕事の引き継ぎを始める頃。おそらく最後に近い遊びだろう。


「(今のうちに楽しんでもらいましょう)」


特に冬歌は外に敵を多く持っているのだから…。






同時刻

北海道 紋別市


北海道北部に存在するこの街は弓状に伸びた天然の良港が存在し、オホーツクにおける漁業の中心地であった。


「…」


そんな紋別市に存在する港では今日も釣り上げた魚を乗せた漁船が入港しており、競りも終えて今は片付けに入っていた。


「今日の魚はどうだ?」

「だーめだ。外は国から制限が出ている」


イェルサレム共和国が警戒体制に入ったことを受け、オホーツク全域に置いて船舶の航行は制限を受けていた。

その影響で、ここら一体の漁業は大打撃を受けて居た。


「一体いつになったら制限が無くなることやら……ん?」


すると漁師が海を眺めた時、ふと水平線状に浮かぶ複数の影を見た。


「なんだあれ?」

「どこかの船じゃないのか?」

「でも船が来るなんて聞いてないぞ?」


突如現れた船舶に首を傾げていると。突如、その船舶から閃光が見えた。


「え?」


そしてその直後、港の民間用レーダーが吹き飛ばされた。


「っ!!」


衝撃波が走り、爆発が起こったことに一斉に港にいた人間は逃げ出した。


「逃げろ!!」

「くそっ!誰なんだよ?!」

「ロシアだ!ロシアの艦隊が攻めてきたぞ!!」


港にいた人間は水平線上に現れた艦隊に掲げられた旗を見て驚愕した目で叫んでいた。




そして民間の港が攻撃を受けた報はすぐさま旭川に本部を置く陸軍第七師団に通達が向かった。


「現状は?!」

「はっ!紋別沿岸に出現した露艦隊は港を攻撃し、揚陸艇を発進させたものと思われます」

「偵察部隊を遅れ!上陸されるな!」

「くそっ、防衛システムはどうなっていたんだ?!」


近場であれば歯舞諸島に設置されているはずのミサイルサイロの稼働は確認されていなかった。


「くそっ!イェルサレムに上陸じゃなかったのかよ!!」


司令部も驚きの作戦行動に驚きを隠せなかった。

何せ、今までの歴史上。イェルサレム共和国の樺太に何度も侵攻作戦を行ってきたロシアは今度もまた行うのは間宮海峡からの上陸だろうと予測していたからだ。だが、実際は紋別市を中心に上陸作戦を展開してきたのだ。


「どうやって千島列島を抜けてきたのだ!?」


オホーツク海防衛の要である千島列島にはレーダーサイトが存在し、オホーツクを進む船舶の動きは全て監視されている。それを通り抜けることなど…。


「上陸地点に第73戦車大隊が出撃しました!」

「当該区域、海岸線はすでに上陸されて居ます」

「空軍が艦隊に攻撃を開始!」


錯綜しかける中をこれだけ統率が取れているのも、長年対ロシアを意識してきた北鎮部隊だからだろうか。


「ミサイル発射。上陸してきた奴らを海に叩き返せ!!」

「了解!」


そう叫ぶと、北海道に待機しているミサイル部隊が対地ミサイルを発射して居た。




その頃、上陸作戦を展開中のロシア艦隊旗艦。ヴァーリャクの艦橋で艦隊司令官は気分をよくして居た。


「ふむ、こうも気づかれずに上陸できたのは予想外だ」

「あまりにも拍子抜けしてしまいますな」


そこで参謀が答えると報告が入る。


「日本軍の反撃が開始された模様。敵航空機による一回攻撃が始まりました」


その瞬間、対空防御をして居たゾヴメレンヌイ級が一発の空対艦ミサイルの着弾を受けた。

その直後に日本軍のマルチロール機が艦隊上空を対空砲火を受けながら急速に通過する。


「ブァーストルイ、被弾!」

「被害は?」

「損害軽微。戦闘続行可能です」

「よし、対地攻撃を続行させろ」


北海道に上陸を開始したロシア艦隊の奇襲攻撃は日本軍を驚かせるのには十分だった。その証拠に上陸部隊に対する抵抗は些細なものだった。


「これも、例の術師のお陰ですな」

「ああ、全くだ。おかげで一切気づかれずに接近できた」


そう言うと、艦隊司令は艦隊後方に控える輸送艦の艦橋上で座り込んで食事をとっている四人の少年少女を見ていた。

彼女らの髪はド派手な髪色をしており、染めたのかと思うほど鮮やかだった。


「本部から彼らを乗せろろと聞いた時は心底驚いたものだが…」


彼らは数ヶ月前に日本で我が軍の特殊部隊を一瞬で蹴散らしたと言われている噂の人口術師のプロトタイプという噂だ。まぁ、このことを口にすれば恐らくラーゲリ送りにされるかも知れないがゆえに見ざる言わざる聞かざる状態なのだが…。


「艦隊丸ごとをレーダーから隠せる能力があるのであれば、これほど頼もしいことはありませんな」

「ええ、全くです。これさえあれば、作戦の幅が大きく広がります」

「君たち。少しは口を慎みたまえ」


司令はそう答えると、大型揚陸艇が歩兵戦闘車を積んだ状態で海岸線に揚陸を開始していた。




そして艦隊参謀らが噂しているベースカラーの子供達四人はそれぞれ話していた。


「どう?」

「うーん。まだかなぁ」

「気配は感じない」

「ってか来るの?」


青緑・青・紫・赤紫の色を持つ男女二人ずつの四人組は補給艦の艦橋上で戦闘が起こっている地上を見ていた。


「ウンディ、こっからの予定は?」


赤紫色の髪と瞳をもつ青年が紫色の髪が特徴的なウンディに問いかける。


「ドーディ。そう急かさなくたって…」

「まあ良いわよ。どうせ待つ事に変わりはないんだから」


青緑の髪のセッテと青髪のノーヴェが答える。

彼らは父親と呼ぶ人物からの指示で、この何の正当性も意味もない……はっきり言って碌でもない侵攻作戦に協力していたのだ。

元々十二人いた子供達の内、四人は銃殺されており。遺体も既に確認済みだ。元々孤児であった彼らは今は八人しか残っておらず、その瞳には特徴的な鉤十字のマークが薄く浮き出ていた。

色とりどりの地毛は自分たちが人工的な術師となってからの後天的な症状であった。


「全く、ファーターも無茶言うよ」

「仕方ないじゃない。少なくとも、彼女が北海道に居るのは感じているんだから…」


彼らは世界中から素体として狙われていることを知りながらも、その姿を表してその能力を遺憾なく発揮していた。

正直、この作戦の成否は彼らにとってはどうでも良いことであり。これはある種の実験場であった。


「さて、彼女が乗ってくれるかどうか…」

「果報は寝て待てってね」


下でノーヴェが言うと、日本側のミサイルが着弾する戦場となった北海道の沿岸部を眺めていた。

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