プロローグ4
プロローグ長くてすみません。
「ここよ」
文化系部活のある校舎に渡って、その1番奥まである教室に歩いて彼女は言った。
なんとなく、薄暗い校舎にふさわしいような教室に似合わない扉にかけられているごつい南京錠。
彼女はスカートのポケットからおもむろに鍵を取り出し、南京錠につき入れ回した。
ガキンと言う音が静かな校舎に響きわたる。
「入って」
と、いう彼女の後について教室の中に入った俺が目にしたのは、10センチ程度のマザーボード?を包む透明なケースが大量に積まれていま光景だった。
その透明なケース一つ一つから、小さな赤いランプが点灯しており、無数のケーブルが繋がっているのが見える。
「何これ?」
「異世界転移装置」
「…」
そう言って彼女は、どこからともなく、昔の体を動かして遊ぶダンスゲーム用のマットを取り出し、おそらく無数のコンピュータ?から出ているであろうケーブルと接続した。
「流石に説明が足りないと思う…」
「そうね…簡単にいうと、転移する人間のデータとこちらの希望する世界を入力して、転移者を求めている人がこちらの望んだ世界にいれば、その世界に転移できるって機械よ、こちらと転移先の希望が一致しないと行けないから、変な世界に行くことはないはずよ」
「ないはずって…絶対じゃないの?」
「まだ、試してないから」
「…」
いや、まあそりゃそうだ。なんかすごいような気もするが、さすがに本気で異世界に行けるわけではないだろう。
ここは、単純に彼女と仲良くなるチャンスと考えて素直に合わせてみるべきだな。
「凄いな…じゃあさっそく試してみようか?」
「待って」
「ん?何か準備がいるの?」
「チートが必要なのよね?」
「え?」
「賢介くんの読んでいた本を調べたのだけど、あの本だと神様にすごく強いスキル?と言ったものをもらって、活躍していたじゃない?」
「でも、私は神様じゃないしそんなものを与えることは出来ないわ」
「そりゃ、まあそうだろうね」
そんなものを与えることの出来る人間がいるわけがない。
「だから、作ったの」
「ん?」
「身体を色々いじるのはリスクもあるし、得策ではないわ。だから、武器を作ったの」
身体を改造することも出来るってことか?いや、まさかな。
て、それより…
「武器を作ったって!?」
確かにファンタジー世界で銃とか大砲とか近代兵器を使って無双する話もあるけど、今ここは日本だ、銃刀法違反とか大丈夫なのか?
「これよ」
といって、またもどこからともなく彼女が取り出したのは…
「手袋?」
安心すると同時にちょっと拍子抜けだ。彼女が取り出したのは、黒い革の手袋だった。
困惑して、姫野さんの方を見るが、表情をあまり出してないように見えつつも満足気な感じに思える。
これをどうしろと?
いや、手袋だから手に着けるのだろうけども…。
「えっと…」
「これは、愛と光の手袋よ」
…ラブリーとか、もしかしたら俺愛されてる?
いや、そんなことはないか。
「この手袋ってどうすればいいの?」
「まず、手袋を着けて相手に触れながら、痺れろ!と思えば、触れた相手に電気が流れるわ」
「スタンガン!?」
しかも、思うだけとはどういう仕組み!?
「もちろん、触れないと使えないならチートと言えるほど強くないのはわかっているわ。だから、遠距離にも対応しました。スパークと言えば、眩い光を放ち、ショックと言えば、雷のような電気を放つわ。どちらも手の平を開いて言えば、広範囲に。指を指したり、握った状態だと相応に範囲が狭くなるの」
光や電気の強さは、思いによって変化するので、ちょっと動きを止めるだけとか、殺してやる!とか、心の思いの強さによって自動で調節されるようにできているの」
「えっと…着けてみていいのかな?」
「どうぞ」
そう言って着けた革グローブは、まるでオーダーメイドのように俺の手にフィットした。
「この着けた状態で、スパークとか、ショックとか言えばいいんだよね?」
「そうよ、でも今発動すると、転移装置に影響するかもしれないので、今は止めておいてもらえるかしら」
「あっ!そうだね。了解」
「じゃあ、準備も出来たことだし、マットに乗ってみてくれる?」
「あっうん…」
そういや、そんな話だった。
「もう、データは入力しているから乗るだけでいいわ」
そう言って姫野さんは、僕に手を差し出した。
「ん?」
「賢介くん一人で乗って、何か不具合があったら危険だわ、私と繋がった状態で乗った方がいい」
「なるほど」
どんなヤバい装置なんだよ…と思いつつも、本当に異世界転移装置を作ったと考えているなら、無理もない。
内心、同級生の女の子と手を繋ぐことにドキドキしながら、彼女から言ったことだしと、平常心を装おって差しだされた手を握った。
「ん…」
何故か満足そうに握りあわせた手を抱えこむようにした彼女と一緒に、僕はマットの上に入った。
…………。
特に何も起こらない。
そりゃそうだ。
残念だったねと、彼女に声をかけようとした瞬間。
急なめまいを感じて…一瞬目を閉じると何処とも知れない"外"に立っていたのだった。