3
天井から肉が吊るされた奇観。
いささか面食らって。
すんすん、と鼻を鳴らして嗅ぐ。
それらから悪臭はしていない。
凝然と頭上を振り仰ぐタガネの背後で、鈴を転がしたような笑声がする。
かえりれば。
リフが口元を隠して笑っていた。
「ボクは狩人なんだ」
「こりゃ、仕留めた獣の肉か」
「うん、冬の備蓄さ」
タガネは一つずつ検める。
なるほど、丁寧な下処理がほどこされている。
保管されているのは、鹿、猪、兎、そして中でも一際大きいのは熊があった。これには目を剥いてしまう。
それも見事な大きさだった。
「こりゃ熊肉なのかい」
「はい」
「さぞ労を要した代物だろう」
心底から感服して。
タガネはためつすがめつした。
初夏の日。
山岳部で同じく狩りをして暮らす少年と会った記憶がある。彼もまた狩猟能力に長けた人物だった。
俊敏に駆け回る鹿を一射で仕留める。
その手練は美事の一言に尽きる。
ただ。
賛嘆に価する所業でも、熊はまた別格。
技巧云々ではなく、何よりも獰猛で強く、生半な覚悟では返り討ちは必至の強敵である。
それを。
この年端もいかない子供が仕留める。
荒唐無稽な話にさえ思われた。
「凄いな」
「えへへ」
褒めれば照れ臭そうに笑う。
リフは帽子を脱ぎ、首の布を取り払った。
そこから。
肩に触れる寸前で切り揃えられた亜麻色の髪があふれた。円な赤い瞳は、血のように鮮やかである。
着込んでいた服も脱ぐ。
立ち居振る舞いは精悍な少年だが、服の下には華奢で女性のような体付きだった。
しかし。
それよりも視線を引くのは。
「おまえさん、それ……」
「え、ああ、これですか」
リフの帽子の下。
そこに、額から隆起した錐形状の出来物。
いや――俗に言う、角があった。
「驚いた。おまえさん鬼仔か」