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馴染みの剣鬼  作者: スタミナ0
六話「錆びた角」上門
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 大陸の北東部。

 世界最悪の胎窟を擁する北海に面した土地は、常に樹皮も割れるほどに乾いて凍てつく空気に包まれている。

 木々の根を隠す雪は厚く、踏めば足の形をそのままに残す。

 そこは常冬(とこふゆ)の土地の風情。

 雪におおわれた深山(みやま)に、春を知らない者たちが住んでいた。


 静かな谷に切り開かれた集落。

 合掌造(がっしょうづくり)の家屋たちが静かにたたずむ。

 その内の一軒。

 一つの顔が戸を開いて外を覗く。

 道は見えず、ただ白く盛り上がった地面が深さを増していく風景が広がっていた。まだ雪の止む気配はない。

 子供は戸を閉めてもらした息も白く。

 指先は赤らんで小さく震えていた。

 (ふところ)に手を突っ込む。

 幾ばくか体温によって寒さも和らいだ。

 戸口の脇に置いた雪駄(せった)をはいて、しっかり上着を着込む。首もとにも布を巻いた。

 そして。

 意を決して外へと飛び出す。

 踏みしめた雪は柔らかい。

 だが、頬をなでる冷気は小さな震えを催した。

 長い外出は体に障る。

 なるべく早く()()を済まさなければ。

「これは、一苦労だなぁ」

 家の周辺をかこう高い積雪。

 登れそうな傾斜を見つけて、そこから表通りへとよじ上がる。

 触れた雪の冷たさと格闘して。

 ようよう雪の上に着いた。

 集落を横断する一本道の上に出る。

 誰も外には出ていない。

 当然だ――なにせ、()が怖いのだから。

「ふん、臆病者め」

 白い吐息まじりに。

 昂然と胸を張って独り威張ってみせる。

 平生できない振る舞いも思いのまま。

 まるで一人だけの世界のようだった。

「もし、そこの小童(こわっぱ)

「へぁっ!?」

 油断しきっていたところに。

 他人の声による誰何で背後から聞こえた。

 驚いて、勢いよく身をひるがえす。

「おう、そう身構えんでくれ」

 そこには。

 一人の青年が立っていた。

 笠の下から雪を(みが)いたような銀髪が揺れて、灰色の瞳が奥からこちらを窺っている。獣のような鋭い視線だった。

 笠の上にもだが。

 黒いコートの肩に、わずかに積もる雪。

 その下で、二本の剣がちらと(のぞ)く。

「旅の者なんだが」

「え、こんな深雪(みゆき)の土地に?」

「まあ、方々を巡っていてな」

「へえ」

 丁寧に受け答えをする青年に。

 子供の緊張感が少しだけ緩和された。

 荒くれ者、では無さそうだと感じた。

「それで、ボクに何か」

「ああ。この近くに温泉があると聞いてな」

「あー、なるほど」

 子供は納得した。

 ここを東へ過ぎたあたりに、有名な温泉郷がある。旅人やお忍びの要人がが足繁(あししげ)く通う名所として周知されていた。

 もちろん、旅人が滅多に通らないこの集落も知っている。

 青年が申し訳なさそうに。

「それで地図を辿ったんだが、この雪で難儀している」

「はい」

「一晩だけ宿を頼めんだろうか」

 子供は少しだけ考えて。

 青年をしばらく見上げてからほほえむ。

「良いですよ。我が家でよければ」

「助かるよ。俺はタガネ」

「あ、ボクの名前はリフ」

 名前を交換すると。

 青年タガネが相好をくずす。

 子供リフは一瞬だけその笑みに見惚れて。

 慌てて取り繕うように。

「そ、その前に買い物したいから、少し待ってて」

「わかった」

 タガネを置き去りに。

 リフは雪路(ゆきじ)をつまずきながら走った。





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