その顛末
帰還するとマイ=ブリット・ジリアクス団長の温かくも苛烈な労い?の言葉を貰い、怪我の治療と療養、起き上がれるようになったらなったで大量の報告書を書かされた。
その間、アオイ様から何度も見舞を受けたが、(アオイ様は空気を読み、あの男共とそれに付随する諸々を私達に持ち込みはしなかった。ほっ)私達は距離を保ったまま接した。アオイ様とファルベ殿は悲しそうな残念そうな顔を浮かべた。が、これが私達の偽らざる答えだ。
そうそう。あの隣国の悪役と部下達は捕まった翌日、まんまと逃げおおせたらしい。報告書に埋もれる私の所までわざわざタイニオ副団長が来て、教えて下さった。なんで?
「ティッティ」
柔らかい声に振り返るとユリアだった。
「もしかして総団長室?」
「ああ。・・ユリアもか?」
「これでしょ?」
ユリアは白い封筒をひらひらして見せた。私も制服の内ポケットから同じものを取り出す。
あの襲撃、誘拐事件から一月が経っていた。関係者は軒並み逮捕、処断がなされた。首謀者とされていたフリベルイ公爵家だったが実はおとり役だったらしく、陛下に惚れていて反アオイ様派だったミカエラ様に至っては全部演技だったとの事。アオイ様の騒ぎに便乗して反王家派の燻りだしを狙った訳だったらしい。裏でウチの団長や筆頭七貴族達と糸引いてたとか噂が流れてる。なんかもうすげぇ。そしてますます陛下と以下4人の立場ねぇ。
「お耳に入れようと何度か陛下の元へ足を運んだのですが『他の』事でお忙しそうだったので。独断で動いてしまい申し訳ありません。ああそれと・・恐れ多い事ですが妃候補を辞退したく。男に縋って生きるのも悪くはありませんが『真の』高貴なる立場とは自分の力でのし上がってこその価値だと思っておりますので。まぁ、負け惜しみに聞こえても構いませんが」
痛烈なイヤミをミカエラ様は陛下とお歴々方の前で堂々と笑顔でのたまったそうだ。そのお姿は印象的でとても美しかったという。実力主義の我が国。女性であるという事はなんらネックにはならない。近いうちにミカエラ様は気概にあった地位を自らの手で手に入れるだろう。私はというと報告書も全て片付け、体も回復したので久々に実家に帰り、纏わりつく家族に辟易しながら書類を認めた。
私とユリアは笑みを交わすと総団長室のドアをノックすると、許可が下りた。
「失礼します。総団長、今よろしいでしょうか」
私は敬礼すると総団長に伺う。室には団長の他にタイニオ副団長がいて、珍しくあの飄々としただが本心は窺えない顔を強張らせていた。なんだろう?また陛下がなんかやらかしたのか。
ん?
「・・・総団長?あの・・」
総団長に目を戻すと、こちらもやけに強張った顔をしている・・・何かあったのだろうか。だとしたら間が悪かったかな。
「あ、いや、大丈夫だ。ゴホン。どうした?」
出直してきましょうかと問いかけるより早く持ち直したらしい総団長は金の目を彷徨わせながらも返事を返す。私はちらりと横に立つユリアを伺った。
・・・・あれ?ユリアの目がすっごく恐いぞ。どうしたユリア。
「あの・・実は折り入って話がありまして・・」
私はそこまで言うと真っ白な封筒を団長のデスクに置いた。ユリアも続く。
「これは・・・」
「お読み頂ければわかります」
ユリアが冷え込んだ声音で言うと総団長が固まった。ウワー ユリアの冷気がひどい。
「どうしたんスか?」
異様な雰囲気にタイニオ副団長が声を掛けてきた。デスクに置かれた二つの封筒を見た途端、副団長も固まる。
「・・・ヤべぇじゃねぇの」
・・・はぁ?
深刻な表情のタイニオ副団長。なぜだ?ていうかこんな風なこの人初めて・・・いや最近見るの多いな。
「あの・・・総団長?」
タイニオ様の呟きは置いといて、私は取り合えず総団長を促した。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。
そしてそのまま五分過ぎる。
途中、時計を見たから正確に五分だ。
その間誰も動かない。団員が訪ねてきたが私達を認めると静かにドアを閉めて出て行った。せめてツッこんでいけよ。
「男らしくありませんわよ。早く読んで下さい」
沈黙が停滞する中、痺れを切らしたのか相変わらず冷たくユリアが言い、ずずい、と総団長に封筒を押し付けた。私も慌てて続く。・・・あの、タイニオ様。その顔なんか企んでます?ごっつ悪い空気出してますよ。
総団長は観念したのかユリアと私から封筒を受け取り、またかなり逡巡して(3分)から中身を取り出しようやく読み出した。
はぁ・・・えらい時間かかったなぁ。私が息を付くとタイニオ様が今度は胡乱気に私を見る。やめて下さい。怖いです。総団長に目を戻すとユリアの封書を読んでいるところだった。平静を保っているがすごく顔が蒼い。
「・・・本気なのか」
「そこに書いてあるとおりですわ」
「・・・・ふーん」
横から除いたタイニオ副団長が声を上げる。ユリア何を書いたんだ?
「・・・あの噂は本当なのか?」
どの噂?
「貴方には関係ない事ですわ」
うーん。確かに直属ってわけじゃないしな。
「・・・・あるだろう」
あるのか!?
「あの事は間違いです」
どの事?
「間違い・・・だと?」
「はい」
こっ恐いよー!ユリアだけじゃなく総団長まで黒いオーラが!
ダァーン!
団長がデスクを叩きながら立ち上がる。そしておもむろにユリアの肩を掴むと引き寄せた。
・・・・・・・人のキスシーンをこんなに最前列で見るのは初めてだ。
タイニオ副団長は落ちた私の封筒を拾い、ポカンと口を開けた私を担いで回収すると執務室を出た。後ろ手に閉めたドアからバチーンと何かを景気良く叩く音が聞こえる。
「・・・あの、ユリアと総団長はあの、もしかして」
我に返った私はいつの間にかタイニオ副団長の私室にお邪魔していた。
「ああ、まぁな。随分前から意識してたらしいが、付き合いだしたのは最近だ」
「・・・そうだったんですか・・全然気が付かなかった。あ、どうも」
タイニオ様自らお茶を入れて下さったらしい。一口二口飲むとこんがらがった頭も冷えてくる。
「え、で、どうして団長はキレたんですか?噂とやらのせいですか?それとも辞表のせいですか?」
私が疑問を口に出すとタイニオ様は意外そうな顔をした。
辞表を出したくらいであんなに取り乱すか?たかがといっては悪いがユリアは階級も中ぐらい、実力も私とほぼ同じBランクぐらいの兵士だ。なので残るは噂のせいとなる。
「知らないのか?」
「実家に帰ってから外に出てないんですよ。ユリアとも会いませんでしたし、私とユリアの友人は被らないんで、そういう話も本人以外では聞きません」
女学生でもあるまいし、妙にべたべたしないユリアとの友情は貴重だ。
「そうか・・・噂というのはヘイストロームがどこぞの貴族と婚約したっつー噂だ」
「ユリアが・・・あれ?総団長?」
「いや、うだうだぐだぐだ総団長と違って若くて将来性があって決断力も行動力もあり、唸るほどの資産と地位と名誉もある若い貴族ってぇ触れ込みだ」
「そこまで言わなくてもいいと思うんですが」
はーなるほどなるほど。そのタイミングで辞表なんか出されたらな。
「辞めんのか」
「タイニオ副団長・・」
低い声に顔を上げると薄青の目と目が合った。
あの・・・タイニオ副団長が真剣な顔をしている!いつもふざけた態度で薄ぼんやりしてるのに!・・・どうしました?
「あーいや、私のは配属移動願いです」
目に見えてタイニオ様の空気が弛んだ。
「何だよヤキモキさせやがって・・・なるほどなぁ・・・散々な目に合ったものな、当然だろう」
「はい・・アオイ様は良いお方なんですが・・・私にはもう勤め上げる自信がありません」
「うーん」
「階級が下がっても構わないのでどうでも外して欲しいです」
「ジリアクス団長はなんて言ってた?」
タイニオ様が腕を組んで聞き、私はあのゴージャスで男兵士も打ち負かす腕力と眼力が凄すぎる上官を思い浮かべた。
『お前の好きにすればいいさ。ヴィティッカが渋るようなら私が直に話そうじゃないか』
美しい肉食獣の容貌の上官は正しく獲物を狩る微笑みで私を送り出してくれた。
そう言うとタイニオ様は盛大に顔を顰めた。普段の彼らの関係が伺えてちょっと面白い。
「因みに配属が叶わなかったらどうすんだ?」
「そうですね、多分辞めます」
仕事は楽しいがあの騒ぎの渦中に入るのは真っ平御免だ。いっその事辞める。
タイニオ様は「そうか」と言って立ち上がると、壁に凭れかかり私をじ~と見据えた。
・・・何故だか後ろめたい気分に。
「えーとタイニオ様?ボン・キュイの赤ワインでしたらうちの団長の仕業で」
「やっぱりかよ!あの人何回目だ!俺の取って置き!」
しまった・・・バラしてしまった。どうしよう。
と、タイニオ様はため息を深く吐くと再び私を見据えた。
「・・・その事は・・・よくはないが置いとけ」
「は、はぁ・・・あの・・では」
開いた窓から風が吹き、タイニオ様の匂いが。
彼の私室に2人きりという事態に今更ながら意識し始める。
「お前達が攫われたと聞いた時・・・在り来たりなな言い方だが、本当に心臓が止まるかと思った。神だのなんだのに初めて祈ったよ」
「・・・神だのなんだのって・・・かわいそうですよ」
「クク・・だな」
タイニオ様は苦く笑うと大きく息を吸った。真剣な顔が半分陰になり、ゾクッと背筋に痺れが走る。
「・・・ティッティ・・・お前本当によく無事だったな。よく頑張った。偉いぞ」
「・・・タイニオ様」
「よく頑張ったからご褒美のチューしてやろう」
「タイニオ様・・・もうそのネタはいいです」
さっきまでの緊張感はお陰で霧散した。この人一体なにがやりたいんだ。
「お前よ」
「はぁ」
「総団長の事どう思ってんの」
「はっ?・・総団長ですか?」
「ああ」
今度は総団長?というか今までの流れが全て滅茶苦茶だけど。
「もちろん尊敬してます。近衛兵の模範としても人間性にしても目標とするお一人です」
部下に手出していたは知らんかったが・・・うーん、良くはないがまぁいっかな。
「それだけか?」
「それだけって・・他に何があるんです」
後は早く名前をどうにかしてほしいってのはあるけど・・
「男としてどうなんだよ」
「異性としてという意味ですか?ないです」
総団長はとても魅力的な壮年代表だと思うが、男女の情というのは一切ない。
「じゃ、なんで総団長見ると顔赤いんだよ」
・・・それを言うか・・・
「・・・・名前ですよ」
タイニオ様は怪訝そうな顔になった。
「名前?」
「そうです」
「・・・すまん、つながらん」
「・・・だからー・・間違えて呼んでるんです。それだけでもかなり恥ずかしいですけど、それを仲間達が面白がっちゃって」
「・・・テッカネンじゃねぇのか」
アンタもかっ!
「ティッカネンです!!ティッティ・ティッカネン!しがない一男爵の家名なんてどうでもいいかもしれませんが!地味に効いてくるんですよ!」
「ていうか面白い語感だな」
「知ってますよ!悪いですか!言っときますけど私も不本意ですから!むしろ私が一番思ってますから!被害者ですから!シェバス・ビーギルドヴィク・コード56歳!呪われろ!神よぉ!クソ名付け親に天罰を!近年ないかなりでかい天罰よろしくお願いします!!」
「落ち着け。その件は要課題として総団長に言及しておくから。な」
ゼイゼイゼイ
「あ・・・取り乱してすいません。よろしくお願いします」
「そうか・・・最大の懸念はこれで解消したな・・あとはコイツの鈍さ加減をどう攻略するか・・」
「あの・・タイニオ様?お茶美味しかったです。もう帰っていいですか?」
なんかブツブツ呟きだしたタイニオ様に暇を告げると、何故か今回一番の深いため息を吐かれてしまった。
その後の事だが。
アオイ様は散々揉めに揉めた末に(遠くと~お~く~から見物させて貰った)、目出度くガイナス様と婚姻を結ばれた。
驚愕ッ!!
そりゃあ激震が起こったとも。何でも互いに一目惚れで密かに愛を育んでいたらしく、今回の騒動でガイナス様が我慢できなくなったらしい。さすがですガイナス様。狙った獲物は逃さん!なその早業、今後役に立つのかわかりませんがしかと学ばさせて貰いました。ガイナス様なら安心してアオイ様を預けられるな。ガイナス様モテないし。なんでかっていうと怖いからとか怖いからとか怖いからとかあるからな。・・・いや深い意味はないぞ?
ちなみに振られたあの5人だが、陛下と左宰相は姉君であるジリアクス団長と夫君のジリアクス右宰相閣下から厳しく叱責と激しい折檻・・いや魂の鍛練を受け、イングベルグ様とシュナウダー様とアウデンリート様はそれぞれの上司と上官とお父上のこれまた厳しい再教育、監視の下、職務に忠実に励んでいるらしい。めちゃくちゃどうでもいいが。というかそれが当たり前だ。
ユリアと団長だが行き違いや意地の張り合いが暫く行われた末にこちらも目出度く纏った。ユリアは辞表を撤回し、元の要人警護の任に就いている。想い人と結ばれたせいか、ますます綺麗になった。総団長は言わずもがな。
あー・・で、私だが。
「ティッカネン、負けたらどうなるかわかっているだろうな」
「・・・はぁ」
「ま、死んでこいとは言わんが死ぬ気で行って来い」
「それ同じでは?」
「つべこず言わず受け取らんか」
「・・・貴女様の御心に添い叶える為、このティッティ・ティッカネン。全てを昇華する事を白き薔薇に誓います」
「ああ。逝ってこい」
無情なジルベルク団長の言葉に背を押され私はトボトボと高く設けられた壇上へと上った。
簡潔な兜を透かして正面を見ると屈強な兵士の姿が見える。
グレイの強い髪は私と同じ様な兜に隠れ、常は薄青色のダルそうな目が奇妙な輝きを湛えて私を見据えている。高位貴族らしからぬ鍛えられた体。対峙してみると意外にもその威圧感は半端なく、いつもの怠惰な雰囲気は微塵もない。背中からなんかのオーラが噴き出している。
「タイニオ様・・・」
ごくっと唾を飲み込み、乾いた唇を舐めるとタイニオ様がニィと笑った。こっこぇぇええええ!!
・・・・・辞退してもいいかなー?
私が一縷の望みを抱いて振り返ると、ジリアクス団長は親指を立て、首を掻き切る明確な『仕置きジェスチャー』をして見せた。
・・・・・・退路は断たれた。
開始の合図。
潰した刃を緩く手に持ち、間合いを摺り足で探る。
腰を落とし。浅く息を吐き、吸い。
「ハァアアア!!」
上段に切りつける。が、横たえた刀で受け取られた。返す刀で横から続けるが今度は縦にして防がれる。
下から切り上げ、柄に充てると強引に上げた。僅かに弛む力に素早く体を引いて突きを繰り出した。
ガキィイイインン
届く寸前で跳ね返された。腕が痺れる。まずい。
体勢を立て直そうとするがそれまでに待ってくれるわけがない。
脇腹に下されようとする鋼が視界に入る。
片手を付き、体を跳ね上げた。ギリギリかわす。が、そこまでだった。
手首を掴まれ、強引に引き寄せられる。
「ちょ・・」
剣を持った手を脇に挟まれ、首元に彼の剣を付けられてチェックメイトだ。
「参りました」
あっけなく勝負はついた。あーあ。もうちょっと頑張りたかったな。
ため息をついて剣を下ろしたが拘束は解けない。タイニオ様は剣を放りだすと兜を脱いだ。
不思議に思って顔を上げると私の兜も脱がされる。汗で湿った髪に外気が心地よい。気持良さに目を細めると何かが唇に触れた。
・・・・・あ?・・・なんだ?
湿った肉厚な舌が固まる私の口を割って中に侵入する。蓋でもするように薄い唇がぴたりと重なった。呆然とした私の耳に歓声らしい怒号が聞こえた。
暫くして満足したのかタイニオ様は漸く離れる。でも腕の拘束は緩まない。
「よくもまぁ今の今まで逃げてくれたなぁ」
「逃げていたわけでは・・」
「へーえ?ほーお?ふーん?」
「若干の誤解が生じている模様です」
あの後私は結局異動願いを取り下げた。今はユリアと共にたまにコンビを組みながら相変わらずの毎日を送っている。
あとはええとー、そうだな、まぁ、うん、変わった事もある。
「じゃっかんのごかいぃ?俺が非番の日に限って出張だったり遠出したり、休息時間や夜に会いに行くと下手な用事や居留守使ったりしたとかが誤解だと・・・いうのか?」
「え、ええと・・」
「なぁ、そんなに俺はあり得ないのか?」
「タイニオ様・・・もうその事は」
タイニオ様から告白された。
でも・・・私は逃げまくってる。アオイ様の事言えないくらいこの人から逃げまくっていた。
だって釣り合わない。この人は公爵家の次男で私は男爵家の長女で。近衛総団の副団長と平の分団兵で。10も年上で。あ、いや別にユリアと総団長の事を非難しているわけでは決してないのだが。いや今は関係ない・・
「また例の釣り合わないって話しか?・・・・あのよ、あれから目も合わせてくれないお前と話をするために俺が出たくもねぇこんなクソ大会に出て、特別参加のお前と戦うまで7人抜きをし、ガイナスのオメデタ野郎に勝ってまでここにいるのをお前は」
首を後ろから攫まれぐぐっと顔を近づけられる。彼の青の虹彩に入る、黒い筋まで見えた。
「お前を束縛したい。何所にも行けぬよう俺の名の下に縛りつけたい。家名や地位なんてどうとでもなるだろ、不安にさせる事もあるだろうが肝の据わったお前なら大丈夫だって。いや俺が大丈夫なように鍛えてやる。・・・ティッティ」
額に彼の湿った髪が触れた。高い体温。汗の混じった彼の匂い。
鍛えてやるって・・・え?
「俺と一生添い遂げてくれないか」
「タイニオ様・・・」
タイニオ様は苦しそうに告げる。と、唐突にニヤリと笑った。
・・・・ゾクリ。
いや色っぽさにゾクリとかではなく、正真正銘の悪寒のゾクリの方。
「あの・・タイニオ様?」
「あのよー俺と結婚すればお得な特典がな、ある」
特典?
「お前の面白い語感がな、解消されると思わねぇか?それとお前が行きたがってた甘味屋と飲み屋だが実は俺が経営してるの知ってたか?」
「ええっマジですか!あの数々の女性達を魅了するあまり限定販売しかしない『スウィーツプリンセス』とマニアも泣いて酔い潰れる伝説の『怒弩鼓魯屋』が!タイニオ様の!?」
「なんだそりゃ・・・いつの間にそんな事に」
「何言ってんですか超有名ですよ!」
「まぁいい。その超有名な店に特別に タ ダ で食わせてやってもいい」
「ななななんだとぉ!!!」
「ただし」
「・・・ただし?」
「ジリアクス」
「なんだ」
「幾らでテッカネン・・・ゴホン。ティッカネンを売った」
「売ったとは人聞きの悪い。私は恋する哀れな男に同情しただけだ。決して奴の前で『ジルコニアの奇跡を一箱飲みたいなぁ。そうしたらティカネンを・・・ごにょごにょ』等と聞えよがしに呟いてなどおらん」
「おまっ・・!!!ジルコニアの奇跡だと!一本25万は下らんワインではないか!」
「そうであったか。確かに美味かった。奴は涙目だったが」
「・・・ひっ人でなし・・・」
「クフフフフ・・・何を言うか。私は弱った獲物を更に痛ぶるのが趣味なだけだ」
「タイニオ・・・それにしてもあいつ等長くないか?」
「タイニオも必死なんだろう。大方、自身の売り込みだけでは間に合わないので食いモノとか酒で釣ってるんだろよ」
「何か間違ってないか?色々と」
「特に害はないからいいんじゃないか?お前の方こそヘイストローム家の承諾は取れたのか」
「取れた。だが肝心のユリアが・・・・」
「ヘタレが。このままではタイニオの方が先に式を挙げるな」
「ぐ・・・・『ヘタレ』ってなんだ?」
「アオイの世界の言葉でな、まさにお前の事を」
「もういい。聞きたくない」
「そう釣れない事言うな」
「やめろっ!」
「クフフフ・・・・」
「ただし・・・」
いやーな汗が流れていく。それに比例するようにタイニオ様の笑顔が大きくなった。言っとくけど貴族の高貴さが全然ない。悪徳業者と言われた方が納得する。要するに悪どそうな上に胡散臭い。爽やかさの欠片もない。・・・ああ何処かで見た事あるなぁ。と思ったらウチの団長がよくしてる。
「もうわかってんだろ?勿論俺の女房になったらの話だ」
「うっ・・・」
「どうする?マニア垂涎とやらの店でタダで飲み食い。そそるだろ?」
「くっ!卑怯ですよ!」
「何とでも言えよ。お前を手に入れられるんなら何でもやってやるさ。・・・さて、返事は?」
タイニオ様は顔を寄せると私の耳元に囁く。
こうまで乞われては逃げることは叶わない。
それに・・・いつの間にか彼を目で追っている自分に先日遂に気づいてしまった。
「わかりました。タイニオ様、返事は・・・」
いやー無事完結出来てヨカッタヨカッタ。
・・・わかってます。これから(他の作品)書きに逝ってきますw