ガラホの檻と、フレネミーの毒
かつて日本を包み込んでいた「護送船団方式」の甘えが遺したお墨付き信仰。
そして「金を学ぶことは意地汚い」とタブー視してきた歪んだ精神性が、令和の時代に2,800億円もの巨大なねずみ講事件を呼び込んだ。
時代は今、自己責任という冷酷なパラダイムシフトの真っ只中にある。本作は、システムや組織が完全に機能不全に陥った壊れた世界で、表面的な看板に惑わされず、家族の絆を守り抜いた命の闘いの記録である。
「本作品は純然たる創作物フィクションです。登場する人物、団体、地名、事件等の名称はすべて架空のものであり、実在するものとは一切関係がありません。万一、実在の対象と類似する点があった場合も、それはすべて偶然の合致であり、当方に意図的な権利侵害や名誉毀損の意図は一切存在しません。」
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第一幕:
川崎の下町に降り注ぐ秋雨は、冷酷なまでに容赦なく、古い木造住宅の瓦を叩き割るような音を立てていた。
居間で一人、小さな液晶画面を見つめる優子(62)。その手にあるのは、物理キーのついた「ガラホ」だった。
スマホのタッチパネルを恐れ、「誤送信が怖い」と震える母のために、かつてアカネ(32)が選んだ、優しさの象徴であるはずの端末。しかし今、そのボタンの一つひとつが、優子を底なしの蟻地獄へと引きずり込むスイッチとなっていた。
画面の中では、LINEの文字が血のように飛び交っている。
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マツエ:
【画像:トシソウケンの華やかな成田パンフレット】
ゆうこさん、今月も私の口座に『成田』から2万円、きっちり入ってたわ。アキラくんが「マツエさんの応援のおかげです」って私の手を握って泣いてくれたのよ。あの子の成績のためにも、私は最後まで支えるわ!
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セツコ:
あら、うちの真之介くん、だって負けてないわよ! 先月私が二百万円追加したら、「セツコさんは僕の女神です」って。若い男の命を預かってるのよ、私たちは。
優子は老眼鏡の奥の目を潤ませ、ちゃぶ台の上の契約書を見つめた。半年前に逝った夫カズオが、油にまみれて残した三百万円。
「カズオさん、私、寂しくて死にそうなの。この三百万円で、あの子たちの未来を買えるなら……」
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ゆうこ:
二人とも、羨ましいわ。私、明日アキラくんに三百万円のハンコを押すわ。これで私も、誰かの「家族」になれるかしら。
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マツエ:
ゆうこさん、大正解よ! テレビCMだって流れてるし、国も許可を出しているんだから。アキラくんを信じないなんて、ただの【嫉妬】か、頭の固い人間のひがみよ!
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(既読3がついたまま、画面が凍りつく)
現実の時間を3年前に戻すことはできない。騙された何万人もの人々が途方に暮れる中、私たちを救うのは「うまい話はない」「実体がない」と見抜く冷徹なリアリズムだけだ。
過去の痛みを、かてに、守り抜いた300万円の重み。いつか小料理屋『桔梗』で、あの誠実な友人に最高の鱧しゃぶを奢るその約束のために。
すべての正常性バイアスに溺れる現代人に捧ぐ、本物の幸福を掴むための知恵。




