15話 ヒヨコの修行
「ところでカルロ。なんでア...リモーネは怒ってたんだと思う?」
「え?分からないのか?」
何やらカルロに驚いた顔をされて俺の方が驚く。
「え、なんだい、そのわかって当然みたいな顔は」
「いやいや、リモーネちゃんはわかりやすい子だと思うぜ?ロレン、いくら見た目でモテてもそんなに鈍感じゃあなあ。俺のようになるには苦労しそうだな?」
「.........」
鈍感って俺が?
自覚がなかったので結構ショックだった。たしかに神学校では女の子と接する機会なんてなかったし、女の子に慣れているカルロに言われると納得するしかない。...アリーチェにも世間知らずと言われたし。
「鈍感か...そうなのかもしれないね。こういう時はどうすればいいか教えてくれないかな、カルロ先生」
「ははは、俺が先生か。いいぜ、まずはリモーネちゃんと仲直りしないとな。そうだ、さっきみたいな口説き文句で褒めちぎってみたらどうだ?」
「...なんだか楽しそうに言うけど、もしかしてからかってないかい?」
「からかってなんかないって。ほらはら、行ってこいよ」
笑顔で背中をバシバシと叩くカルロになんだか納得はいかないものの、自然と部屋に向かって足が進む。
ちなみに部屋と言っても今の時代だと個室なんて贅沢なものはないので、甲板にいるか、貨物室の荷物と一緒に過ごすこととなる。...という事で、アリーチェは貨物室にいるはずだ。
船の中に入ると貨物室の荷物の片隅にちらほらと乗客の姿が見えた。更にぐるりと見渡すと、膝を抱えて頬ずえをつきながら、不機嫌そうに座っているアリーチェを見つけた。俺は思い切って、カルロのアドバイス通りに声をかける。
「やあ、薔薇のように綺麗なお嬢さん。そんなに顔をしかめていてはもったいないよ。美しい君には笑顔の方が似合うからね」
アリーチェは俺の精一杯の口説き文句を聞いて、顔を引きつらせた。
「お前...カルロの影響だな?ああ、もう!変なことを勉強してくるな!この大馬鹿!馬鹿ヒヨコ!!」
アリーチェの大声に周りの乗客の注目が一気に集まってしまう。俺は慌てて彼女の口を塞いだ。
「落ち着いて、君の古城と違って人が多いんだから叫ぶと話が筒抜けになってしまうよ?」
「誰のせいだと思ってるんだ、この世間知らず!」
怒りがおさまらないのかアリーチェはそっぽを向いてしまう。そこで慌てた様子の船員、カルロが入って来た。
「おいおい...。心配で様子を見に来たら、何更に喧嘩してるんだよ」
カルロが呆れたようにそう言うと、俺とアリーチェの肩をぽんぽんと叩いた。
「あのな、だいたいお前がロレンに変なことを教えるからだぞ」
「え、俺?」
アリーチェのジト目に怯むことなくカルロは明るく笑った。
「うーん、それは困ったな。でもせっかく船にいるんだ、喧嘩より楽しいことを考えようぜ。そうだな...海の上だと夜になったら遮るもののない最高の星空が見られるんだ。夜になったら一緒に星空を見ようぜ、リモーネちゃん」
「星、か…。そういえばゆっくり見ることはなくなってたかもしれないな。」
少し考え込むと、怒っていたのが嘘のように小さく微笑む。
「いいかもしれないな。夜になったら3人で星を見ようか」
「あー、3人か。まあ、いいぜ。人数が多いと楽しいもんな」
カルロはどうやらアリーチェと2人で星が見たかったようだが、自然に距離を縮めている様子に俺は衝撃を受けた。
「うん、やっぱりカルロはすごいね。俺も修行を頑張らないと」
「はは、だろ?」
「いや、何を頑張る気だ、お前は…」
アリーチェが頭を抱えるが、その呟きは波音にかき消されて消えていった。




