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11話 心の壁

「もう大丈夫だ。見苦しい姿を見せて悪かった。…忘れてくれ」

アリーチェは弱弱しくそう言うと、俺を手で押して遠ざける。やまない雨音が耳を打ってやけに大きく聞こえた。

「たまには強がらないで、誰かに甘えてもいいんじゃないかい?」

俺の言葉に、アリーチェは何も言わずに静かに首を横に振る。

「駄目だ、ロレン。…勘違いするな、私が魔女であることは変わらない。お前の祖父を手にかけたこともだ。私の罪は消えたりしない」

苦々しい硬い声音が響く。まるで、罪を告白する罪人のような、そんな声。

「元々君は魔女じゃなかったんだろう?だったら、俺達教会側にも非があるよ」

「そうであっても、だ。私が奪った命は決して帰って来ることは無い。どんな事情があってもそれが真実だ」

「アリーチェ…」

泣きそうな表情に無理やり微笑みを浮かべながら、彼女は俺の目をしっかりと見て言う。

「教皇であるお前が私のような魔女と一緒に居るのは良くないだろう?一刻も早く指輪を外さなければな。そうだな…リタの所へ行こうか。私の魔法の師匠で親代わりのような人だ。リタなら解決できるかもしれない」

その提案はやんわりとした拒絶に聞こえた。アリーチェは俺のことを思って言ってくれている。それは分かるが、なんだか胸がちくりと痛んだ。

「君の親代わりか。それで、そのリタって人はどこにいるんだい?」

「……カスティーリャ王国だ」

「えっと、気軽に行ける距離では無いよね。…遠すぎないかい?」

俺の言葉にアリーチェは頭を抱える。

「そうだ、それが問題なんだ…。私1人なら空を飛んで行けばいいのだけれど」

「空を飛んで行くだって?」

「何を驚いているんだ。私は魔女だと言っているだろう」

呆れたような目を向けてくるアリーチェに思わずたじろいでしまった。

そんな俺の様子を見てアリーチェはまた悲しげに笑う。

「…魔女だと、何度も言っているのに。まだお前には私が同い年のか弱い少女にでも見えているのか?」

「そうだね。否定は出来ないかな」

「はあ…。本当にお人好しだな、お前は」

「君が思っているほどではないよ。誰にでも同じ態度を取る訳では無いからね。それで、その人に会いに行くとしたらやっぱり船で行くのが一番いいんじゃないかな」

その言葉を聞いた途端、アリーチェが固まった。

「ふ、船だと?本気で言っているのか?」

そうだった、先ほど水が苦手だと聞いたばかりだと言うのに無神経すぎる発言だった。反省しつつも他にいい案が思いつかず、気まずい沈黙が流れる。

雨音ばかりが響く部屋に、アリーチェの咳払いがやけに響いた。

「こほん。だ、大丈夫だ。私の事は気にしなくていいからな。大丈夫、大丈夫…少し船に乗るくらい」

明らかな強がりに引きつった笑顔。本当に水が怖いのだと伝わってきて可哀想になってきた。

「無理しなくていいんだよ、アリーチェ。他の方法を考えよう?例えば…その人にシチリアまで来てもらえないかな。魔女なんだろう?」

「ありがとう、ロレン。手紙を書いてシチリアまで来られるか聞いてみることにしよう」

多分読まないと思うけどな、というアリーチェの小さな呟きは雨音に混じって消えていった。

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