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ZERO-DELAY  作者: WE/9
嵐のあと

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34/102

来訪者



徹夜の会議により、本部全体の空気はどこか重苦しく沈んでいた。指揮室では一晩中、各国の司令官たちのホログラムが明滅し、台北で起きたあの「十分間の奪城(乗っ取り)」の背後にあるN組織の真の意図について、激しい論争を繰り広げていた。


そんな中、会議への参加を免除され、高圧的な任務を終えたばかりのミナトアキラには、貴重な休暇が与えられていた。


「なんだか実感が湧かないわね」


曉はコンビニで買ったおにぎりを手に、早朝のひっそりとした基地の廊下を見渡した。


「台北のあの戦いはあんなにらくだったのに、こんなに潔く休みをくれるなんて」


「それが体制の優しさってやつだよ。少し不気味な気もするけどね」


湊は一つ欠伸あくびをし、背伸びをしようとした。その時、視界の端にホールの突き当たりから歩いてくる目立つ白い人影を捉えた。


白鷺零次シラサギ・レイジが、いつものように優雅な足取りでこちらへ向かってくる。普段と違うのは、彼の傍らに男女二人の見慣れない顔ぶれがいることだった。


「おや、二人とも。休暇の初日から随分と早起きだね」


零次は足を止め、その読めない淡々とした微笑を浮かべた。彼は一方の腕を、隣にいる青年の肩に自然に置いた。その青年は21歳前後、極めて平凡な顔立ちで、タクティカルスーツを着ていてもなお、どこか「通行人」のような存在感のなさを漂わせていた。


「紹介しよう。僕が京都から連れてきた弟子だ」


零次は隣の青年を指差した。「今田イマダだ」


今田は慌てて姿勢を正し、少し緊張した様子で湊と曉に向かって深く一礼した。その声は落ち着いており、礼儀に溢れていた。


「初めまして、今田です。至らぬ点ばかりですが、先輩方、ご指導のほどよろしくお願いします」


曉は三秒間今田を凝視した後、湊に耳打ちした。


「……この人、ミンよりも堅物そうだけど、あんたみたいなリズム感(節奏感)は全くないわね」


「おいおい、それは褒めてるのか貶してるのかどっちだい?」湊は苦笑いした。


そして零次のもう一方の背後には、小柄な少女が立っていた。彼女は極端に深く被った黒いベースボールキャップを被り、両手をタクティカルジャケットのポケットに突っ込んでいた。中学生ほどにしか見えない小柄な体躯たいくだが、その周囲に漂う鋭い気場オーラは、空気をかすかにピリつかせていた。


「そして、こちらが九條 クジョウ・リンだ」零次が紹介した。


凜は顔を上げ、帽子のひさしの下から湊と曉を素早く観察した。普段なら「なんでわざわざ反応の鈍い先輩に挨拶しなきゃいけないの」と毒づき始めるところだが、数々の戦場を生き抜き、部隊でも名の知れた伝説的なペアを前に、その激しい気性をいくらか抑えていた。


彼女は少しぶっきらぼうに頷いた。その口調は17歳の少女らしい強気さを孕んでいたが、いくらかの敬意を隠しきれてはいなかった。


「九條 凜。台北のデータ記録は見たわ……まあ、私にギリギリついてこれるレベルね。以後、お見知り置きを」


「へぇ、面白いガキだな」


湊は凜のその「小鋼砲スモールキャノン」のような佇まいを見て、興味深げに笑った。


「東京支部も、これから賑やかになりそうだ」


零次は若者たちを見つめ、その瞳にわずかな優しさと深みのある光を宿した。


「会ったからには、仲良くやってくれ。なにしろ、これからの戦場は、リズムが狂っていく一方だからね」


顔合わせの後の静寂は長くは続かなかった。廊下の突き当たりから、規則正しく響くブーツの音が聞こえてきた。それは成熟した、圧倒的な圧力を伴う香水の香りと共にやってきた。


草壁螢クサカベ・ホタルが、身体にフィットした黒いレザーの教官服を纏い、ハイヒールブーツを鳴らして現れた。ウェーブのかかった長い髪を無造作に流した彼女の「大人の女(御姉様)」のオーラに、それまで言い合っていた一同は瞬時に静まり返った。


「あらあら、うちの小さな天才じゃない?」


草壁は九條 凜を見つけるなり、悪戯っぽい笑みを浮かべた。彼女は歩み寄り、凜が反応するよりも早く、キャップの下の髪を力一杯かき回し、さらにはその幼さの残る頬を指でつねった。


「うぅ……離して! この筋肉脳マッスルヘッドお姉さん!」


凜は必死に抗った。その姿は首根っこを掴まれた仔猫のようで、顔を真っ赤にしていた。


草壁は快活に笑い、それから湊と曉に視線を向けた。その口調はプロフェッショナルで鋭いものに変わる。


芝山シザンの報告書は読んだわ。無様ぶざまな戦い方ね。休暇で脳みそが錆びついてないかテストしてあげる。行きなさい、訓練場へ。腕試しよ」


【ZERO-DELAY 専用射擊場】


空気中には清潔なガンオイルの臭いが漂い、遠くでは電子移動標的が規則正しく行き交っていた。


まず最初に場に立ったのは曉だった。台北での死線を越えた訓練を経て、彼女の集中力は著しく向上していた。規則正しい銃声と共に、電子スクリーンに驚異的な数値が表示される。


「20発中、19発が中央のレッドゾーンに命中」


「綺麗だ。上達したな」


湊が後ろで口笛を吹いた。曉は自分の成績を見て、珍しく自信に満ちた微笑みを浮かべた。部隊の中でも、これはトップクラスの精鋭の証だ。


しかし、傍らに立っていた九條 凜は鼻で笑い、そのまま一歩前に出た。


「遅すぎるわ」


凜は帽子を深く被り直し、左利きの手で特製の銀色のハンドガンを熟練の動作で構えた。彼女は数秒間の照準すら行わず、身体そのものが周囲の環境と共鳴する奇妙な状態に入ったようだった。


バンバンバンバンバン――!


耳をつんざくような連射音は、急き立てるようなドラムのビートのようだった。わずか三十秒足らずの間に、彼女は30発の弾丸を撃ち尽くした。


一同がスクリーンを見つめると、全場は死寂に包まれた。


30発全てが的の中央一点に重なり、電子標的の紅心に焦げ付いた大きな穴を開けていたのだ。


「これが……演算システムを必要としない弾道シミュレーション?」


曉は銃を握る手にわずかに力を込めた。天賦の才能というものの絶対的な格差を、彼女は初めて目の当たりにした。


零次は後方に立ち、スクリーンのデータを見つめていた。その口角は無意識にわずかに上がり、極めて自慢げな、そしてどこか優しい笑みを浮かべていた。


「先生、何笑ってるの?」


凜は銃を収め、零次よりもさらに誇らしげに、傲慢なまでの口調で言った。


「これは私の『天賦ギフト』よ。弟子としてこれくらい、当然でしょ?」


彼女は振り返り、まだ呆然としている湊と曉を見て、挑発的に帽子の庇を弾いた。


「先輩、あなたたちのリズム感じゃ、私の弾丸の残響エコーすら掴めないのかしら?」


草壁螢は腕を組み、面白がるような笑みを浮かべていた。射撃成績を見終えた一同を見渡し、気怠げながらも威圧感のある声で言った。


「射撃場で威張って何になるの? 動かない標的を撃つなんて誰にでもできるわ。実戦といきましょう。あなたたちが何を学んだか見せてちょうだい」


草壁の「提案」により、対抗戦のメンバーが即座に割り振られた。


• Aチーム: 曉 & 今田


• Bチーム: 湊 & 凜


• 審判: 零次 & 草壁螢


「凜、僕の戦い方はかなり複雑だよ」


湊は非致死性のペイント弾を確認しながら、自分より頭一つ分以上背の低い少女にウィンクした。


「もちろん、君の能力なら、ずっと離れて単独で戦うのも自由だけどね」


凜は冷たく湊を射抜き、帽子の下の視線は刃のように鋭かった。彼女は左手の銃をホルスターに差し込み、声は意外なほど落ち着いていた。


「あんたの実力を見るまでは、一応尊重してあげるわ。でも、もし私のリズムを遅らせたら……あんたごと撃ち抜くから」


「へぇ、怖いねぇ」


湊は笑ったが、ゴーグルを装着した瞬間、その瞳は鋭利なものへと変わった。


耳を劈くホイッスルの音と共に、両チームは鋼鉄とコンクリートで構築されたシミュレーション迷宮の両端へと瞬時に消えた。


湊と凜はセンターラインに向かって急速に前進を開始した。移動中、湊はこの傲慢な少女との連携には時間がかかるだろうと考えていたが、驚くべきことが起きた。凜は一切の言葉によるコミュニケーションを必要としなかったのだ。


彼女は黒い影のように、常に湊の背後の斜め角を維持していた。湊が予兆なく停止し、方向を変え、加速するたびに、凜はそれを予知していたかのように動く。彼女は時折、湊の足取りをちらりと見るだけで、身体が自動的に湊のリズムに合わせてポジショニングを変更していた。


「この小僧……」湊の心に衝撃が走る。


「僕に合わせてるんじゃない。僕を『読み取って(リードして)』いるんだ」


双方が交戦ラインに到達した瞬間、戦闘が爆発した。


湊は極めて奇妙なフェイントを利用し、遮蔽物の影で連続して身を翻した。彼は焦って発砲せず、リズムの緩急の差を利用して、意図的に標的を存在感の薄い今田へと向けさせた。今田は平凡だが、その「安定性」こそが曉が最も必要とする支柱であることを彼は知っていた。二人を分断しなければならない。


「今田君、僕と遊ぼうか!」


湊は軽く笑い、濃密な射撃と欺瞞的な動きで、強引に今田を主戦場から引き離した。


現在、フィールド中央には二人の女だけが残された。


曉は遮蔽物の後方から素早く転がり出し、手にしたペイントガンで正確な点射を放ち、凜の退路を封じた。彼女は凜のあの天賦の才に圧力を感じていたが、その圧力こそが、彼女の中にある「絶対にミスを許さない」強靭さを呼び覚ましていた。


「遅すぎるわ、先輩」


凜の声が突如として曉の左側に響いた! それは曉が予見していた視覚的な死角だった。


凜は左手で銃を握り、身体の重心を信じられないほど低く保っていた。彼女は遮蔽物に隠れるのではなく、極めて優雅なスライディング・ステップで開けた場所を移動していた。帽子の下の瞳には狂信的な光が宿り、手にした銃口はすでに曉の肩を正確にロックオンしていた。


曉は奥歯を噛み締め、強引に身体を捻った。大脳は極限の圧迫の下で狂ったように回転する。


「まだ終わってない!」


二つの視線が空中で交錯した。一方は数々の生死の試練を越え、極限の効率を追求する新堂 曉。もう一方は生まれながらにして万物をリズムへと変える九條 凜。


ペイント弾の発射音が廊下に響き渡る。これは単なる実力のぶつかり合いではなく、二人の少女の間で交わされる「誰が零次の最も優秀な継承者か」という音のない宣告だった。


バチッ! 鈍い音がし、ペイント弾が曉の耳元の鋼鉄板に当たって弾けた。


曉は生死を賭けた戦いで磨かれた直覚を頼りに、自虐的とも言えるサイドロールで、凜の必殺の一撃を紙一重でかわした。


「射撃で決着をつけようなんて、そんなに甘くないわ」


曉の瞳が沈む。彼女は瞬時に悟った。中遠距離であの「生まれながらの弾道モデル」を持つ怪物と撃ち合うのは自殺行為だ。彼女は爪先に力を込め、遮蔽物の視角差を利用し、しなやかな豹のように凜へと急速に肉薄した。


彼女が賭けたのは、凜は超一流の射撃センスとリズム感を持っているが、わずか17歳で小柄な彼女は、近接格闘と物理的な筋力においては間違いなく弱点があるということだ!


案の定、曉が三メートル以内に突入した時、凜の顔に初めて焦燥の色が浮かんだ。


「チッ! 鬱陶しい先輩!」


凜は距離を置こうとしたが、曉の動きは執拗にまとわりつく。二人は瞬時に近接肉弾戦の膠着状態に陥った。曉は体重とパワーの優位性を利用して強引にねじ伏せ、凜の長い銃を完全に封じ込めた。凜は片手で必死に耐えるしかなかった。


【訓練場・東側迷宮區】


一方の端では、湊と今田の対決が奇妙なほど静かに行われていた。


「今田君、かくれんぼにも限度があるよ」


湊は軽やかな雅痞ヤッピースマイルを浮かべ、戦場の死角に対する精密な計算を駆使して、光と影の境界に身を潜めていた。


彼の目には、今田は反応の鈍い後方支援員のように映り、そのリズムは平坦で脅威は微塵も感じられなかった。湊が遊び心を持って、今田の背後に回り込んで「サプライズ」を仕掛けようとしたその瞬間、空気の振動周期が突如として変わった。


それまでおどおどとしていた、存在感の極めて低い「透明人間」のような今田の瞳が、その瞬間に完全に冷却された。


ダダダダダ――!


今田は何の予兆もなく振り向き、銃口から火を噴いた。彼は視覚的な接触が一切ない状態で、驚異的な忍耐力と聴覚を頼りに、背後のあらゆる視覚的死角を一気に掃射したのだ!


「なんだと?!」


湊の心の中に警鐘が鳴り響き、無様に地面を転がった。


今田のリズムは一瞬にして「ゼロ」から「マックス」へと跳ね上がった。彼はあの平凡な偽装を脱ぎ捨て、まるで零次のような冷酷な威圧感を放ち始めた。彼はもう逃げなかった。逆に湊の位置に向かって高速で接近し、一発一発の銃弾を湊の着地地点に正確に食いつかせていく。


彼は湊に正面対決を強いていた。これは凡人の戦い方ではない。頂点に立つ捕食者の自信だった。


「面白い……これが零次の言っていた『感情に左右されない』特質か」


湊は笑みを消した。今田の一瞬の爆発力は驚異的だったが、湊が東京支部のエースである理由は、単なる計算高さだけではない。


今田が遮蔽物から飛び出した刹那、湊は元エリート警察としてのトップレベルの体術を披露した。彼はまず大胆な正面へのフェイントを仕掛けて今田に撃たせ、予想通り弾丸が身体を掠める瞬間に、腰の力を利用して奇怪な**「転回後に遮蔽物を利用したフェイント、さらに再転回」**を完成させた。


今田の安定性は、この時ばかりは欠点となった。彼は湊のような一切の法則性を持たない螺旋状の変位についていくことができなかった。


「悪いね、今田君。経験ってやつは、平凡さじゃなかなか補えないんだ」


湊の姿は鬼魅きみのように今田の背後に現れ、銃口をその背中に突きつけた。


プシュッ!


金色のペイント弾が今田の背中で弾けた。


「今田、脱落」


放送から零次の、平穏ながらもどこか満足げな声が流れた。


今田はその場に立ち尽くし、やがてあの鋭い気場は一瞬で消え去り、元の相貌の平々凡々な男へと戻った。彼は少し決まり悪そうに頭を掻き、湊に向かって深く一礼した。


「湊執行官……流石です。やはり僕は焦りすぎました」


「いや、今のは正直死ぬかと思ったよ」


湊は額の汗を拭い、中央エリアへと目を向けた。


「あとは、あのお嬢様たちがどう決着をつけるかだね……」


その時、リンアキラの手首を必死に抑え込み、曉もまた凜の腕を力でねじ伏せていた。二人の銃口は、もつれ合うような押し合いの中で、互いの腹部を捉えようと激しく火花を散らしている。 どちらも一歩も譲ろうとせず、その瞳には負けず嫌いな意志が燃え上がっていた。


「どうかしら……この引き金を私が先に引くか、私が先にあなたを組み伏せるか」


曉が冷たく問う。


凜は抑え込まれて肩で息をしていたが、帽子の下の口角をわずかに上げた。


「先輩……忘れたの? 私にはまだ『左手』があるって」


「終わりよ、先輩」


その言葉が聞こえた時、曉の指先はすでに引き金を引いていた。凜の胸元まではわずか数センチ。しかし、その銃声が響いた瞬間、凜の小柄な身体は極限の柔軟性を見せた。彼女は後退するのではなく、曉の力に逆らうようにして、奇怪な至近距離でのサイド・スライド(横滑り)を敢行した。弾丸は彼女のプロテクターの端を掠めて飛んでいった。


直後、凜の左手が毒蛇のように飛び出し、横滑りと同時に銃口を曉の脇腹に正確に突きつけた。


「時間だ! 対抗戦終了。双方引き分け!」


放送から零次の指令が下り、それまで極限まで張り詰めていた空気が一気に弛緩した。


二人の少女は互いに銃を向け合った姿勢のまま、激しく喘いでいた。しばらくして、曉はペイントガンを収め、自ら手を差し出した。凜は一瞬呆然としたが、やがて帽子を深く被り直し、少しぎこちなくその手を握った。


「先輩……あなたの手の動きは規則正しすぎて、観察しやすかったわ」


凜は喘ぎながらも、やはり京都の少女らしい傲慢さを崩さなかった。


「後半のあなたの筋肉の動きから、私の脳内ではすでにルートが演算されていたのよ」


「そう? でも私の賭けは当たったわね。あなたは近接戦が苦手。あとで格闘の訓練に付き合ってあげる。零次隊長は教えてくれなかったの?」


「……自分から教えを請わなかっただけよ。あんなにトロい動き、私の効率リズムには合わないもの」


凜は顔を背けたが、その声は少しだけ小さくなった。


「でも……今は、なかなか悪くない指導者候補を見つけた気がするわ」


曉はわずかに目を見開き、そして珍しく微笑んだ。


別の場所では、湊が今田の肩を叩いており、二人の雰囲気は意外なほど調和していた。


「今田君、さっきのあの『瞬発的なリズム』、本当に見事だったよ」


湊は二本のエネルギー飲料を手に取り、一本を差し出した。


「撃たれはしたけど、君の『魔法』は確かに発動していた。だろ?」


今田は飲料を受け取り、少し恥ずかしそうに俯いた。「湊執行官……気づいておられましたか」


「ああ。道中のあの一見無意味で、極めて平庸な観察の数々。それを最後に一気に繋げて一つの動作にしたんだろ?」


湊は今田の打法を一言で見抜いた。


「僕に『ただの通行人』だと思い込ませて、実は遮蔽物を通り過ぎるたびに僕の視界の死角を計算していた。あれは一瞬の爆発じゃない。十分間にわたる忍耐の積み重ねだ」


今田は「計略を見破られた」という無念そうな表情を浮かべたが、それ以上に湊への敬意が勝っていた。彼は眼鏡を押し上げ、真剣な口調で言った。


「流石、湊執行官です。あなたの直感を欺けるかと思いましたが、最後の転回で、0.1秒の誤差まで計算に入れていたとは」


「気にするなよ。あんな忍耐強さ……僕には到底真似できないからさ」


湊はハハハと大笑いし、それからゆっくりと歩いてくる零次と草壁教官の方を向いた。


零次は二組の師弟と仲間たちを見つめ、その瞳にわずかな欣慰よろこびを滲ませた。


「凜、君は直感に頼りすぎだ。今田、君は環境に頼りすぎている」


零次は簡潔に総括を述べた。「だが、今日の君たちの動きは、京都の名を辱めるものではなかった」


草壁螢は湊と曉のそばに歩み寄り、意味深に湊の肩を叩いた。


「湊、あなたは試合に勝ったけれど、気づいたかしら?」


草壁は声を潜め、彼らだけに聞こえる音量で言った。


「今田はあなたに撃たれる前に、あなたの背中の壁に小さなステッカーを貼っていたわよ。彼がシミュレートした『爆薬マーク』よ」


湊は勢いよく背後を振り返った。果たして、そこには「Boom」と書かれた黄色い付箋ポストイットが貼られていた。


「もしこれが実戦だったら、あなたは今頃肉片の山よ」


草壁は眉を上げた。「これが凡人の恐怖よ。彼らは英雄を倒すことなんて望んでいない。ただ、あなたを道連れにすることだけを考えているの」


湊は少し離れた場所で、礼儀正しく曉に一礼している今田を見つめ、背中に冷や汗が流れるのを感じた。



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