表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/38

巧みな誘導尋問?

 その週明け、学院に登校し午前の授業を終えたわたしは、お昼休憩の始まりの鐘の音とともに、急いで教室を飛び出した。


 先週のように、またアデラインさまと取り巻き令嬢たちの昼食の席に参加することになるのは避けたかったからだ。


 食堂で手早く昼食を済ませると、図書館へ向かい、いつも座っている席に着席したところで、ようやく安堵の息を吐いた。


(別においしいものを食べさせてもらったり、何か物をもらったりしなくても、言いふらしたりしないのにな……)


 わたしは考えながら、机に突っ伏す。


「はぁ……、でも、なんて言えばいいんだろう……」 


「何をだ?」


 突然声がしたので、わたしは驚いて顔を上げる。


「レイ!」


 そこにいたのは黒髪の少年、レイだった。


「おい、ひどい顔してるな」

 レイはわたしの顔を見るなり、顔をしかめる。


 たしかにわたしは、身なりにはあまり頓着しない令嬢らしからぬ性格だという自覚はあるが、それでも女性に対してなんてことを言うんだ。しかし疲労困憊(ひろうこんぱい)気味のわたしには抗議する気力も残っていない。


「何か悩み事か?」

 そう言いながら、レイはわたしの向かいの席の椅子を引いて腰かける。


 一瞬、わたしは言葉を詰まらせる。ごまかすように視線をそらしながら、

「あー、えーっと、授業で難しいところがあって」


「ふーん」

 レイは頬杖をついて、手元に開いた本に視線を落としながら漏らす。


 しかし、ページをめくる手をピタリと止めて、

「で、誰に、何を言うんだ?」


 まるでごまかしは効かないとでも言うように、じっとわたしを見つめる。


 数秒の沈黙のあと、わたしは諦めるように深く息を吐き出してから、かいつまんで話す。


「……ちょっと、行き違い? みたいなのがあって、気にしないでって伝えたいんだけど、なんて言えばいいのか悩んでるだけ」


「それで、相手は?」

 レイはさらに追求するように訊いてくる。


 とはいえ、さすがに部外者のレイにアデラインさまのことを言うわけにはいかない。


「学院の(かた)だよ」


 わたしは無難な返しをする。


「ふーん、だいぶ格上の相手なのか、厄介だな」


 わたしは思わず腰を浮かしかけた。


 レイはニヤリと笑って、

「言い方が悪い。”学院の方”なんて、親しい友人に使うはずがないからな」


 わたしは自分のうかつさを悔やみながらも、なんだか負けたみたいで悔しくてむっと唇を引き結ぶ。少しの沈黙のあとで、


「そうだけど、これ以上はレイでも言えない」


 さらに誘導尋問されてはたまらない。先に釘を刺しておく。


「まあ、いいさ。無理に言う必要はない」


 レイはそう言うと、もう興味を失ったようにまた手元の本を読み始める。


 わたしはほっとしながら、ふとレイが開いている本にちらりと目を向ける。


(また難しそうなの読んでるな……)


 レイは大人でも手にする人は少ないであろう、難解な本をいつも読んでいる。


(学院に入学すれば、首席だって狙えそうなのに……)


 そのとき、お昼休憩の終わりを告げる鐘の音が聞こえた。


「あ! もう行かなきゃ!」


 わたしは慌てて立ち上がる。


 このあと時間差でもう一度鐘が鳴ると、午後の授業が始まるのだ。


「じゃあね、レイ」


 そう言って、わたしは図書館から出て行く。


 遠ざかるわたしに視線を向けたまま、


「ウェイレット侯爵家のアデライン嬢か……」


 とレイがつぶやいたその声は、わたしには聞こえなかった。



ここまでご覧くださり、ブクマやポイントなどでの応援ありがとうございます!すごく励みになります。引き続き楽しんでいただけるようがんばります。


「面白かった!」「続き読みたい!」「応援しようかな!」など思っていただけましたら、ブックマークや、下にある☆ボタンを押していただけると連載の励みになります(*ˊᵕˋ*)よろしければ、よろしくお願いいたします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ