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第49話 花火大会

 京香先生が運転するセルシオは、隣の市へ向けて高速道路を走っている。


 運転している京香先生は、髪の毛をアップにして、色っぽい項を見せている。


 春陽の隣に座っている綾香は、浴衣姿で髪の毛を結い上げて、きれいな項を見せている。


 やはり女性の浴衣姿は良い。何とも言えない色香が醸し出されていて良い。


 今日は隣の市で1番大きな花火大会が河川敷で開かれる。


 春陽達の住んでいる市では、それほど花火大会は盛んではないので、隣の市まで電車に乗って花火大会に行く者も多い。


 夏の思い出が欲しいと京香先生が言ってくれたおかげで、今回の花火大会へ行くことができた。


 春陽と綾香だけであれば、家で2人っきりでいるだけで幸せだと、ノンビリして外に出ようと計画することもなかっただろう。


 最近、わかってきたことだが、春陽も綾香もノンビリ屋でインドアな性格を少し持っている。


 2人一緒に家にいれば良いと考えている部分が共通していて、京香先生が声をかけなければ、外へ出かけようという発想がない。



「春陽君、まだ高校生なんだから、外で遊ばないとダメでしょ。綾香なんて放っておくぐらいの元気がないと」


「そんなのダメです。高校生でも野外の外出は危険です。春陽君は家で私と一緒にいるのが一番なの。京香は邪魔しないで」



 ああ、また綾香と京香先生の痴話喧嘩が始まった。


 いつも、いつの間にか痴話喧嘩が始まり、いつの間にか終わっている。


 この2人は本当に仲が良い。


 今では、京香先生は週4日は春陽の家から学校に行くようになってしまった。


 京香先生が家に帰るのは荷物の持ち帰りと、休日の時だけ。


 何かが間違っていると春陽は思うが、綾香が楽しそうなので、特にそのことには触れていない。


 時には2人っきりになりたい夜もあるが、そこを言ってはいけないと春陽は思っている。


 そんなことを考えている間に、セルシオは高速道路を降りて、一般道路に入り、花火大会が開かれる河川敷へと向かう。


 既に河川敷は人がいっぱいで、少し離れた場所のパーキングに車を置いて、春陽達3人は歩道を歩く。


 一番コケやすそうな綾香を真中にして、春陽と京香先生が綾香の両手を握る。


 小柄で童顔な綾香が、両手を持たれている姿は、どこか幼さがあり、子供っぽくて可愛い。


 しかし、本人としては不満そうに頬を膨らませている。



「私は子供じゃありません。24歳です。2人から子供扱いされるのはおかしいです」


「仕方ないでしょう。綾香が1番コケやすいんだから。浴衣でコケたら怪我するわよ。春陽君に心配させることになるのよ。それでもいいの?」


「~~~~~!」



 京香先生に諭された綾香は何も言えなくなった。


 春陽の手をギュッと握って、ウルウルした瞳で春陽の瞳を見つめる。



「また京香が意地悪を言うんですー! 春陽君からも、京香に何か言ってください!」


「京香先生が正しいと思うよ。綾香は意外とドジな部分があるから、コケるとケガするし、俺も心配だよ」


「春陽君まで私をバカにしてー」



 童顔の綾香はどうしても実年齢よりも下に見えてしまう。そんな綾香が少し怒った姿が、とても可愛い。


 歩道には屋台が立ち並び、ソースの香ばしい匂いと、屋台からの大きな掛け声が、花火大会のムードを盛り上げる。


 綾香がジーっとイカの串焼きを見ている。


 あれは危険だ。タレが落ちて、浴衣にタレが付いたら、今日の花火大会が台無しになる。


 京香先生が屋台で買ってきた、焼きそばのパックと箸を綾香と春陽に渡す。



「これならパックだから食べこぼさないでしょ。タレもつかないし、焼きそばでも食べましょう」



 京香先生、ナイスアシスト。


 しかし、座って食べる場所がない。人並みが列になっているので、外れることもできない。


 周りを見回すと、全員、屋台で買った食べ物を、立って歩きながら食べている。


 春陽も皆にならって、パックを開けて、箸で焼きそばを食べる。


 食べ終わったパックはゴミ捨て場に捨てて、人の波に押されるように歩いていく。


 飲み物がほしいところだが、左手でパックを持って、右手に箸を握っているので、飲み物を持てない。


 無理やりに飲み物を持って、浴衣にこぼしたら、大惨事だ。


 綾香が小さな口で、少しずつ焼きそばを食べていく。


 京香先生も歩きながら焼きそばを食べているが、どうやったらそんなに色っぽく食べられるのか。


 京香先生はそういう人種だと割り切ってしまっている。


 最近の春陽は、見慣れてきたのか、京香先生の色っぽい姿を見ても慌てることがない。


 だから3人で暮らしているような状態にはなっているが、春陽としてはそれが日常になってしまった。


 綾香の日々変わる表情や仕草のほうがドキドキしてしまう。


 どこまでも綾香と京香先生には甘い春陽である。


 人並みに押されるようにして、列を乱さずに河川敷へと降りていく。


 暗い階段を降りて、河川敷に広がる大きな公園へと進んでいく。


 樹々が生い茂り、花火を見るには不都合な場所に、3人が座れるほどのコンクリートがあった。


 このまま立っているのも疲れるし、花火大会が始まるまで、座って待っていることにする。


 春陽は近くにあった自動販売機から、冷たいお茶を3本買う。


 そして座っている綾香と京香先生に冷たいお茶を渡し、自分もフタを開けて、一気に喉を潤す。


 真夏の夜の湿気が体にまとわりついて、汗がにじみ出る。


 冷たいお茶で一気に喉を潤すと、体から汗が出てくる。


 綾香がハンカチを取り出して、春陽の顔を首筋を拭いてくれる。


 京香先生は自分のハンカチで首を拭って、ハンカチで顔をあおいでいる。


 ドカーンという地響きと音と共に、花火が打ち上げられる。


 大空に虹色の大輪の花が咲いたように、花火が浮かび上がって、とてもきれいだ。



「もう少し、見える場所へ移動しましょう」



 京香先生の提案に乗って、春陽と綾香も歩いて、花火が見えやすいスポットへ移動する。


 次々と打ち上げられていく花火。


 真下にいるおかげで、春陽達の真上で花火が大きく広がっては消えていく。


 その迫力と豪華さに3人は声もなく、ただ立って、花火の魅せられていく。



「こんなに近くで花火を見たのは初めてよ」



 珍しく京香先生がはしゃいだ声を出す。



「今日は花火を見にきてよかったです。今年で1番の思い出になりそう」



 綾香はそう言って、春陽の手を握る。


 今日、花火大会に行くことを提案してくれた京香先生には感謝しないといけないな。


 こんなにきれいな花火を見れるとは思ってもみなかった。


 花火が輝く度に、2人の艶やかな浴衣姿が春陽の目に映る。


 こんな美女2人と3人で花火が見れるなんて、春陽は今年はツイていると思う。


 綾香の耳元で春陽がそっとささやく。



「花火もきれいだけど、綾香のほうが百倍きれいだよ」



「ハワワ、春陽君は急に何をいうんですか。いきなり言われると恥ずかしいです」



 綾香の顔が首筋まで真っ赤に染まる。


 それを見た京香先生はジト目で春陽を見る。



「京香先生も、いつもと同じで艶やかできれいです」


「春陽君に言ってもらってもねー。私も早く大人の男性を見つけないとなー」



 京香先生は春陽を見て、おどけて笑う。


 大空では花火が大輪の花を咲かせ、地上では花火を打ち上げる地響きが続く。



「来年もまた花火大会に来たいです」



 綾香は春陽の手をギュッと握りしめる。



「ああ、来年も皆で来ような!」



 京香先生も嬉しそうに微笑んでいる。


 3人は花火大会が終了するまで、夜空に咲く色とりどりの花火を、笑顔で十分に満喫した。

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