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第47話 ストーカー騒ぎ

 インターホンの音が鳴る。


 春陽が玄関のドアを開けると白い歯が見えた。


 春陽はトッサに玄関を閉めようとすると、片足が玄関に入っていて、玄関を閉めることができない。



「やあ、元気にしていたかーい。LAは熱かったぜ」



 諸星駿の白い歯がニヤリと見える。


 話をしなければイケメンなのに、大変残念だ。



「綾香先生はいるんだろう。呼んでほしいな」


「ここは俺の家ですけど、何かの勘違いじゃないですか?」



 春陽はズボンのポケットにあるスマホを、手元を見ずに操作する。


 諸星駿はニヤリと笑って、スーツの胸ポケットから数枚の写真を取り出した。


 全ての写真が、このマンションへ出入りしている綾香の写真ばかりだ。



「僕がLAで休暇している間、探偵を雇っておいたのさ。だから綾香先生の引っ越し先もお見通しだった。まさか生徒と一緒に住むとは思わなかったけど」


「俺と綾香先生は一緒に住んでいませんよ。ねー、京香先生」



 京香先生が、専用の部屋から出てくる。



「あら、諸星先生じゃありませんか。お久しぶりです。ここは春陽君のマンションです。私も綾香も春陽君を見守りに来ていますが、一緒に暮らしてはいませんよ」


「おお、麗しの京香先生ではありませんか。ウソはいけませんね。京香先生がこのマンションに遊びに来ているのは週に3回ほど、調べはついています」


「よく調べておられるわね」


「ええ、探偵を使って、ずっと張り込みさせていたから」


「その探偵って工藤進さんのことかな?」


「ああ、その他にも4名ほど探偵をつけていた。工藤進は使えなかったな。本当の情報を僕に隠していたからね」



 工藤進は春陽との約束をきちんと守っていたようだ。


 しかし、他に4名も探偵を尾けていたなんて、質が悪すぎる。



「そこまでして綾香先生に近づこうとするのは駿先生、ストーカ気質も甚だしいですね」


「生徒が先生に向かってストーカーなどと言うな! この泥棒が!」



 駿先生の顔が歪んで、険しい顔になり、真っ赤になっている。



「綾香先生はどこにいる? ここにいるのは知っているんだ! 綾香! 綾香! 愛しの駿がLAから戻ってきたよ」



 誰が愛しの駿だ。自分で言っていて気持ち悪くないのか。



「マイ・ハニー! I NEED YOU!」



 京香先生も駿先生の飛んだ発言を聞いて、青い顔になっている。


 綾香がゲンナリした青ざめた顔で、寝室から出て来た。



「駿先生、今、夜の11時を回っていますよ。普通は生徒の家を訪問する時間ではありません」


「何を言ってるんだ! そんなことを言っていたら京香先生も綾香先生も同じじゃないか!」


「違います。春陽君は一人暮らしです。私と京香は教師として、生徒を見守りに来ているだけです」


「そんな嘘が通用するもんか。僕は探偵を使って長期休暇中、ずっと綾香先生の身辺調査をしていたんだ。だから騙すことなんてできない」



 遠くからサイレンの鳴る音が聞こえる。


 数分もするとエレベータに乗った警官が5名、春陽の家へ到着した。


 警官は玄関の中を見て何気なく自然体で話す。



「何かあったんですか?」


「この諸星駿先生が自宅に不法侵入しようとしてるんです。そして俺の担任の綾香先生にストーカー行為をしているので警官を呼びました」



 駿先生は何を言ってるんだという顔をして春陽を見る。


 春陽はズボンのポケットからスマホを取り出す。



「警察への緊急連絡用のボタンを押してあったんだ。今まで駿先生が話したことは全部、警察へ筒抜けになっていたよ」



 京香先生がフワリとした微笑みで、警察官の皆さんにご挨拶をする。



「夜分に申し訳ありません。この諸星駿という先生は以前から香坂綾香先生のことを狙っていまして、以前にも飲酒させて、タクシーに乗せようとしたことがありますの」


「君、それは本当か?」


「ああ、それは事実ですよ。綾香先生の自宅までタクシーに乗って一緒に帰るつもりだっただけです」



 神経はさすがに図太い。顔色一つ変えない。


 春陽はスーツの胸ポケットを指さす。



「この駿先生は今でLAに居たんだけど、その間、綾香先生のことを5名の探偵を使って調査して、ストーキングを続けています。証拠は胸ポケットに入っている写真です」



 警察官は駿先生に両手を上げさせ、スーツの胸ポケットから綾香の写真を取り出す。



「すこし、鞄の中を拝見させていただきます」



 顔を青ざめた警察官は駿先生から鞄を取り上げて、中身を調べると4名の探偵事務所からの、綾香を調査した資料が出て来た。



「これって立派なストーキングですよね。今日は一人暮らしの俺のことを心配して京香先生と綾香先生が見守りに来てくれていました。俺と京香先生も怖がる綾香先生を守るために、今日はここに泊まって身を潜めていました」



 ここで警察官を味方につければ、諸星駿先生は教員免許剥奪になる。


 ここが正念場だ。



「それでも探偵を使って、この隠したマンションの場所まで割り出して追いかけて来たんです。危なくて綾香先生を1人にできません。ここなら京香先生も一緒なので安心と思っていました」



 警官が、駿先生の手首を持つ。そして真剣な眼差しで駿先生の顔を見る。



「ちょっと署まで、ご同行願おうか、協力してくれるね」


「これは僕がマイ・ハニーに会うために仕方なくしたことだ。僕達の愛を引き裂こうとするな!」


「私はあなたのことが大っ嫌いです」



 警察官は綾香を見て、駿先生を見る。



「この女性の方はあなたのことは大嫌いだと言っています。それなのに付きまとう、探偵まで使って身辺調査するのは、ストカー行為に該当します。署まで一緒に来てもらいますよ」



 駿先生はそれでも玄関を動かない。



「ああ、今日の所は引き下がってやる。しかし、春陽君、君は諸星グループを敵に回したことだけは理解しておけ。君の将来はないからな」


「俺の将来は俺が決めますよ。諸星グループ傘下には絶対に入社しませんので、安心してください」



 春陽は思いっきり駿先生を間近で睨みつける。


 京香先生と綾香は春陽の両腕を捕まえている。


 捕まえておかないと春陽が、いつ爆発して駿先生を殴るか、わからないからだ。


 警察官のいる前で暴行したら、傷害罪で春陽まで警察署に連行されることになる。


 京香先生も綾香も真剣な顔をして、春陽の腕を掴んでいる。


 駿先生も歯をくいしばって、春陽を睨みつけている。


 2名の警察官は駿先生をパトカーに乗せるため、一緒にエレベータに乗って、降りて行った。



「すみません。軽くでいいので、少しだけ、今までの経緯を話していただいてよろしいですか?」


「はい! もちろんです!」



 京香先生と綾香とは、もし駿先生がマンションに乗り込んできたと時にどう対処するかを決めてあった。これは春陽の継母の睦美さんからの指示である。


 その時に決めたとおりに警察官へ説明する。


 春陽は生徒で一人暮らしをしていて不用心。だから、担任の綾香は常に心配している。


 しかし、綾香も若い女性なので、頻繁に春陽の家に来ては、おかしな噂も立つ可能性がある。


 そこで親友の京香先生と綾香と2人で泊りこんで、頻繁に春陽を見守っている筋書きになっている。


 警察官は何の疑いもなく、京香先生が説明する通りにメモに書いていく。


 このシナリオは父、敦と継母の睦美さんにも話してあるので、両親に警察が問い合わせても辻褄が合うようにできている。


 たぶん、駿先生はストカー容疑で逮捕される可能性が高い。


 しかし、保釈金によって解放されるだろう。


 でも、このことによって駿先生の教員免許は剥奪される。


 2学期からは桜ヶ丘高校へ勤務することはできない。


 綾香を何とか助けることができて良かった。


 警察官3名は事情聴取も終わり、玄関から去っていった。


 京香先生、綾香、春陽の3人はリビングのソファに座って力を抜く。



「まさか本当に乗り込んでくるとは思わなかったよ」


「マイ・ハニーですって! 気持ち悪い!」


「京香! 止めてよ! 思い出しちゃう! 春陽君、ギュッとして!」



 綾香が震えて、春陽の胸の中へ飛び込んでくる


 春陽は綾香を抱きとめ、片手で両親へと連絡する。


 スマホに出たのは睦美さんだった。



『今日、諸星駿先生がマンションに乗り込んできました。睦美さんの予想が当たりました』


『やっぱりね。私のほうでも探偵を頼んで、諸星駿先生の性格やその他を調べておいて正解だったわね』



 今回のシナリオを考えたのは全て継母である睦美さんだ。


 さすがやり手の秘書だけはある。手回しがいい。


 諸星駿先生の性格や行動パターンまで探偵に調べさせていた。


 そのおかげで、綾香が危ない目に合わなくて済んだ。



『これで2学期から邪魔者もいないし、安心して綾香さんも学校で先生をできるわね』


『はい、ありがとうございます』


『諸星グループ自体は大会社だから、諸星駿先生を次期社長に願っている人は少なかったみたい。このことがあれば、100%取締役になることはないわね』



 睦美さんが非情な現実を明かす。



『それでもグループ傘下の子会社の社長ぐらいにはなれるんじゃない。そのほうがお似合いよ』



 睦美さんも同じ女性として、ストーカーは嫌いなのだろう。


 諸星駿先生に対する評価は厳しい。



『また遊びに行くわね。綾香さんと京香さんにも、よろしく伝えておいてね。夏休み中に行くから、春陽君も待っててね』


『わかりました。父さんは置いてきてくださいね』


『もちろんよ! また会いましょう!』



 睦美さんとの電話が切れる。


 京香先生と綾香は睦美さんと春陽のやり取りを聞いて、胸を撫でおろしている。


 京香先生は少し疲れたように甘い吐息を漏らした。



「妙に興奮しちゃって、眠気が来ないわ。綾香、今日は付き合いなさいよ」


「私も目が冴えてしまって、眠れそうにないよ。京香と一緒にワインを飲むわ」



 2人は大人だからワインを飲めていいよな。


 ワイングラスを飲みかわす2人の姿を見て、未成年の自分が少し羨ましい春陽だった。


 2人はそんな春陽の気持ちも知らず、笑いあってワインを飲んでいる。


 京香先生と綾香が眠りに落ちるまで、3人で和やかにソファで団らんを楽しむ。


 綾香が無事で本当に良かった。京香先生もありがとう。 


 桜ヶ丘高校へも警察から連絡がいくだろう。その後は桜ヶ丘高校から両親へ連絡が行くだろう。睦美さん、後のことは頼みます。


 綾香と京香先生は学校へ仕事に行く時、校長と教頭に呼ばれることになるな。2人一緒なら乗り越えてくれるだろう。


 理事長は諸星家の者だが、駿先生がストーカー容疑で警察に連行されているので、口出しはしてこないだろう。


 すべてはまだ可能性でしかなく、確定的ではないが、綾香が先生を辞めさせられなくて良かった。


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