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第37話 初体面

「ハワワ! お父様です! 玄関を開けないと失礼です!」


「ダメだ! 綾香! 父さんは危険なんだ!」



 春陽と睦美さんの顔に緊張が走る。


 綾香は制止を振り切って玄関のドアを開ける。


 父、敦は憮然とした顔で玄関に現れ、綾香と視線を合わせる。


 すると綾香を見た父の顔が綻び、一瞬、エロ親父の本性を見せるが、次の瞬間にはキリッとしたキメ顔になった。



「お嬢さんは誰かな? どこかでお会いしたことがあったかな? 俺は女性の顔は忘れない主義なんだが?」


「ハワワ! お父様、春陽君の担任をさせていただいています香坂綾香コウサカ アヤカです!」


「ほうー、春陽も幸せ者です。こんなきれいで可愛い先生が担任なんて。春陽に代わって俺が学校に通いたいくらいです。春陽の父で敦です」



 父さん、担任の先生が息子の部屋に夜に居る時点でおかしいとは思わないのか。


 キメ顔で息子の彼女を口説く体制に入るのは辞めろよ。



「敦さん、私を迎えにきたんじゃなかったの?」



 そこで初めて気づいたかのように睦美さんへ顔を向ける父。


 今までのキメ顔から一気に汗が噴き出ている。



「もちろん! 睦美を迎えに来たに決まってるじゃないか! 春陽の顔も見たかったしな!」



 嘘つけ!


 睦美さんはニッと笑って父さんを見る。



「綾香さんは口説いてもダメですよ。春陽君の彼女なんですから」


「え? 春陽の彼女? 担任の先生?」


「ええ、そうです。綾香さんは彼女でもあり、春陽君の担任でもあるんです。親子で手が早い所だけは似ていますね」


「おお、そうか。さすがは俺の息子。俺に似て手が早いか。俺と春陽は似ているんだな」



 父、敦は春陽と自分が似ていると言われ、満面に微笑んで喜んでいる。


 春陽は睦美さんの一言で、絶対に父親みたいにはならないと心に誓う。


 父さんが靴を脱いで勝手にリビングへと入ってくる。そこには妖艶な京香先生がリビングのテーブルに座っていた。


 父さんの目が京香先生から離れない。頬をピンク色に染め、いきなり髪を手で整え始めた。


 そして、とっておきの歯キラの笑顔を京香先生に向ける。そしてキメ顔とキメポーズをとる。



「この美しいお嬢さんは誰かな?先ほどの綾香さんは春陽の彼女ということは、彼女は綾香さんの友達かな? 実に美しい。父さんにも紹介してくれるかな? 春陽?」



 誰が紹介なんかするもんか。


 春陽は父から顔を背け、絶対に教えないと雰囲気で答える。



「ハワワ、京香は私の親友で、同じ学校の保険医をしています」


「京香さんか! 京都の雅な風のような女性だ! 保険医の先生とは思えない! いや、美人女医も捨てがたい!」



 そう言いながら、父さんは京香先生のテーブルの前に自然と座って、京香先生に爽やかな笑顔を披露する。



坂本京香サカモトキョウカと申します。桜ヶ丘高校の保険医をさせていただいています。綾香とは親友になります。よろしくお願いしますわ。それにしてもお手が早いですわね」


「美女を口説くのは俺の務めと思っています。是非、今度、時間がある時にディナーに付き合っていただきたい。有意義な時間になることは保証します」


「お誘いはありがたいのですが、生徒のご家族と個人的に懇意にしてはならない、学校の決まりがございまして、せっかくのお誘いですがお断りしないといけませんわ。残念です」


「おおー、なんと学校は残酷なルールを作るんだ。生徒の家族と先生が一緒に食事に行っても何も問題ないのに、残酷すぎる」



 何が残酷だ。京香先生を睦美さんの前で堂々と口説くな。


 父さんが今までバツ4だった理由がわかったような気がする。いつもこんな感じなんだな。


 春陽は自分だけは絶対に浮気はしない。綾香だけを一途に愛するんだと心に誓う。


 あんな大人にだけはなりたくない。父さんと似るのはイヤだ。


 春陽は父のようにバツ4にはなりたくない。


 京香先生が艶やかに笑って、睦美さんの方向を見る。



「睦美さんが見られてますわよ。奥様になられたばかりと聞いていますわ。あのような美しい奥様を放っておかれると、他の男性に取られますわよ」



 睦美さんが父さんの隣に座って、腕を絡め、父さんの手の甲に爪を食い込ませる。


 父さんの顔から一気に汗が噴き出る。


 相当、痛いと思う。



「睦美、忘れていたわけじゃないんだ。あまりにも美しい方なので、挨拶をしていただけさ。おおー今日はすき焼きか。父さんの大好物じゃないか」


「敦さん用に作った訳じゃありません。綾香さんが春陽君のために作った料理です。あなたは私と今日はディナーね。連れて行ってくれるわよね」



 睦美さんが美しく微笑む。しかし、目が笑っていない。鋭い視線が父さんに突き刺さるのが見えるようだ。


 それでもキメ顔を崩さない父の根性はすごい。



「わかった。今日は高級ホテルでディナーを食べて一泊しよう。外で泊るのは睦美と結婚してからなかったからな」


「嬉しいわ。私以外の女性に目を奪われたことは許してあげる。だからすぐに連れて行って」



 睦美さんがスッと立ち上がって、父さんを促す。


 もっと京香先生と話していたかった父さんだったが、睦美さんの動きに合わせるしかない。


 父さんは凄く自然な仕草でスーツの内ポケットへ手を伸ばし、自分の名刺を京香先生の前に自然に置く。



「何か困ったことがあれば、連絡ください。これでも都会で一級建築士をしています。顔は広いほうです。何でも相談に乗らせていただきます」



 京香はやわらかく美しい微笑みを顔に浮かべ、名刺を見る。



「ありがたい、お言葉ですわ。その時には春陽君を通して、ご相談させていただきますわ」



 柔らかい仕草で、京香先生は名刺を睦美さんの前に渡す。


 睦美さんは会釈をして名刺をテーブルの上から取ると、自分の鞄の中へ入れる。


 京香先生と睦美さんの連携プレイがすごい。アイコンタクトは完璧だ。



「さー、春陽君のお食事の邪魔をしてはいけません。私達も早く出発しましょう」



 睦美さんは強引に父さんを玄関へ連れていく。 


 そして玄関のドアを開け、春陽に向けて手を振る。



「また、ゆっくりと来るわね。今日は敦さんが急にお邪魔してごめんなさいね。ごきげんよう」



 父さんは京香先生に何かを言いたそうに口を開けようとするが、睦美さんが玄関のドアを閉める方が早かった。


 こうして2人は春陽の部屋から去っていった。


 京香先生が安堵のため息をつく。



「手が早いとは聞いていたけど、本当に手が早いわ。それに綾香、あの顔見た?春陽君にそっくりな甘いマスク。若い女性が口説かれるのも納得よ」


「そうですね。春陽君はお父さん似だったんですね。春陽君の顔とお父さん顔がそっくりでした。すごくチャーミングで可愛いお父さんです」



 止めてくれーー! 父さんと顔が似ていることは言わないで! 結構、悩んでいるんだから!


 京香先生が手を団扇のようにして顔を扇ぐ。



「後、10歳ぐらい若くて、30歳代だったら、私も危なかったわ。私の好みのど真ん中だもん」


「そうですね。京香は年上好きですからね」



 京香先生って年上好きだったのか。初めて聞いたぞ。


 優紀や信二が聞いたら悲しむだろうな。


 綾香はニコニコと笑ってすき焼きに肉を追加していく。



「楽しいお父様に、美しい継母様、楽しい家族ですね。私もこれからが楽しみです」



 完全に綾香は誤解している。何か間違ってる。


 春陽の目が泳いで、京香先生を見る。



「綾香は性格が天然だから。綾香なら上手くやっていけると思うわ」



 やっぱり、綾香は性格が天然なんだ。天然かなと疑っていたけど、京香先生から見てもそうなのか。


 すき焼きを食べ終わり、京香先生と綾香がキッチンで後片づけが終わった後、リビングのソファでくつろぐ。


 綾香が春陽の隣に座って、いきなり唇を吸って

きた。



「やっぱり春陽君の唇がすき焼きのように甘くなっていますね」


「綾香の唇もすき焼きの味がしたよ。美味しかった」



 2人のやり取りを見ていた、京香先生が少し呆れた顔をする。



「最近、あなた達2人は私が家に来ても、スキンシップが激しいような気がするんけど。独身の前でイチャつくのは止めてよ」

 

「だって京香って週の内3日は泊っているでしょう。段々、存在感が自然になってきちゃって……エヘヘ」


「京香先生を気にしていたら、綾香とイチャつけないから、気にしないことにしました」



 綾香、春陽の2人の言葉を聞き、額に手を当てて、首を横に振る京香先生。



「私はあなた達2人がイチャつき過ぎないように監視に来てるの。監視の意味がないじゃない。やってられないわ。綾香、私のワイン取って」



 京香先生は春陽の家にワインセットを置いている。そして空き部屋には京香先生のコレクションのワインが置かれている。


 完全に空き部屋1つは京香先生専用の部屋と化していた。


 綾香もワインは好きな口で、酒に弱いのに、ワインを飲みたがる。


 綾香は嬉しそうに形の良いお尻をフリフリと振って、冷蔵庫からワインを取り出す。


 ああ、お尻が愛らしい。


 先ほど、京香先生が自分用に冷蔵庫に入れたワインを持った綾香が嬉しそうに京香にワインを渡す。


 ワインを飲む準備をするのは京香先生の役割と自然と決まってしまった。


 春陽はお酒が飲めないので、毎回、コーラを飲んでいる。


 ワイングラスにワインを注いで、ゆっくりと味わうように飲む、京香先生の仕草は実に煽情的で蠱惑的だ。


 綾香もワインを少しずつ飲んでいる間に、段々と色っぽい甘い吐息を漏らすようになってくる。


 綾香はワイングラスを置いて、春陽の膝の上に顔を乗せる。



「ハフ! 酔っちゃいました!」


「綾香はお酒に弱いんだから飲み過ぎはダメだよ」


「ハーイ」



 綾香は良い返事をして、春陽のお腹に顔をスリスリと気持ち良さそうに擦り付ける。


 京香先生がワイングラスを手に持って、綾香を見て優しく微笑む。



「綾香がこんなに甘えたなんて知らなかったわ。段々と甘えたの度が増しているような気がするんだけど」


「そうですね。綾香は段々と甘えたになっていますね。そこが可愛いんですけど。綾香、もっと甘えていいよ」


「うん! 嬉しい!」



 綾香が嬉しそうに、春陽の首に腕を回して、春陽の首に縋りつく。


 もう春陽の膝のうえで抱っこ状態だ。


 京香先生が綾香を羨ましそうに見る。



「私には無理ね。無防備で人に甘えるなんて、そんな危険なこと、私には真似できないわ。綾香が少し羨ましいかな」


「京香先生の色香で甘えられたら、男性は耐えられませんよ」


「そうなのよね。すぐにベッドに連れて行かれそうになるから、男性には注意信号が走るのよ。だから、無防備にはなれなくなったわ」



 京香先生にも特殊な悩みがあったんだ。



「今は綾香の甘えている姿を見て、ワインを飲んでいるのが一番の安らぎなの。毎回、お邪魔して悪いわね」


「そんなことないですよ。京香先生は綾香の親友だし、美しい先生に来てもらうのは嬉しいです」


「そういう所、お父さんにそっくりね。自然とそういうセリフが出ちゃうんだから」



 ああ、また父さんと似ている部分を指摘された。


 どうしても春陽には父と似ている部分が多いらしい。春陽は自分の将来が不安になる。


 京香先生がクスリと笑う。



「春陽君も楽しいし、春陽君の友達達も学校の中では個性的な子が多くて楽しいわ」



 確かに全員がフェチだから特殊だ。



「浩平君なんて、彼女がいなかったのに、もうジョディと結婚の約束までしてるし、面白いわ」



 和尚は春陽の友達の中でも特に異質だと思う。



「今度、皆でキャンプに行かない? 登山をしてみたいの。 私、登山やキャンプをしたことがないから。皆で行けば楽しいと思うわ」



 京香先生や綾香が虫に刺されるはイヤだが、2人が行きたいというなら、一緒に行きたい。



「春陽君の友達も一緒に行きましょう。私が車を手配してあげるから。期末考査が終わった後に行きましょうよ」



 京香先生が優しく微笑んで、春陽に聞いていくる。


 信二や優紀も京香先生と遊びたいだろう。



「俺は全然いいですよ。たぶん皆も大丈夫です」


「話は決まりね。初のキャンプ。楽しそう……ウフフ」



 春陽と京香先生もずいぶんと打ち解けて、今は友達のようになってきている。


 そのことに気づかない2人。



「2人だけでお話はズルいです! 私も混ぜて! 春陽君、キス♡」



 甘えてくる綾香と春陽は何度も唇を重ねる。そんな2人を見て、京香先生は安らぐように笑っている。

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