表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
27/53

第27話 和尚の受難

 ジョディ先生が来てから1週間が経った。


 その間に中間考査のテストが行われた。


 いつもより英語のテストが難しくないか? 確かに英語の教科書通りの内容だが、回答が英語の長文解答になっている。


 日本人の先生なら、学生からこんな長文の回答が戻ってきたら、イヤだろうが、ジョディ先生にかかれば、簡単に答えを割り出していくだろう。


 丁寧に単語1つづつ、確かめられていて、長文の回答の中に△や〇などが幾つも点けている。


 1問20点の長文解答だが、0点はおらず、△や〇の合計点数となっている。


 春陽の点数は15点だったので、良い点のほうだろうと思う。


 こんな回答をもらったのは初めてだ。たぶんジョディ先生が居なかったら体験できなかったことだろう。


 中間考査から3日が経ち、廊下の掲示板に上位50名の名前が張り出されることになった。


 3位に香織の名前があり、5位に優紀の名前があり、8位に春陽の名前があった。和尚の名前は33位にあり、信二の名前は残念ながら載っていなかった。


 信二が掲示板に名前が載っていないのは常連になっているので、何の興味も示していなかった。



「ずいぶんと順位をあげたじゃないか。前は13位だっただろう。10位以内に入ったのなんて初めてだろう」



 さすが優紀、春陽のことを良く観察している。


 最近では綾香の部屋で勉強を教えてもらうことも多く、綾香の教え方は丁寧で上手いので、頭への吸収も早い。


 和尚と信二には言えないが、時々、京香先生にも綾香の家で勉強を教えてもらっている。


 もちろん、対価として缶ビールを奢らされているけど、京香先生のビールを飲んでいる姿は妖艶で、春陽も見惚れるほどだ。


 いつも、和尚は20位代の成績を取っているのに今回は大幅に順位を落としている。


 和尚に聞くと、何も言わず首を横に振るばかりだ。



「まだまだ修行が足りません。足りません。足りません」



 和尚の言葉を正面から捉えると、修行が足りないという言葉だが、和尚の内面を知っている優紀と春陽はため息をついた。


 和尚は京香先生のことが好きだ。一途に京香先生を想い続けている。


 しかしジュディ先生がやって来た。ナイスバディのジュディ先生のスタイルに和尚の煩悩が刺激されているみたいだ。


 最近では毎日のようにジョディ先生を見る度に「修行が足りませぬ」と言って、数珠を取り出して、授業中にも拘わらず、お経を小さな声で呟いている。


 和尚の周りの学生達は気味悪がって、和尚の近くには近寄らないようにしている。


 ジョディ先生も和尚の奇妙な行動に気づき、ある日、和尚の肩をポンポンと叩いたことがある。


 和尚はジョディ先生の顔を見て、「……ビューティフル」と言って、顔を赤らめ照れていた。


 ジョディ先生はニッコリと笑って和尚の頭を撫でると、「おおーー! なりませぬーー!」と言って、急いで席から立ち上がり、教室から出て行って、帰ってこなかった。


 ジョディ先生は逃げていく和尚を見て悲しい顔をしていたが、信二が大きな声でジョディ先生を励ます。



「ジョディ先生があまりにも美しいから、和尚の奴、ビビッて逃げ出しただけだよ。別に和尚はジョディ先生のことを嫌ってないよ。むしろジョディ先生のことが好きなんだよ」


「おお浩平君は私のことが好きですか! OK! もっとスキンシップを図りましょう! ナイスアドバイス信二!」



 ジョディ先生はサムズアップで親指を立って信二に合図を送る。信二もサムズアップ答える。


 その日から和尚の苦難の日々が始まった。


 京香先生に聞くと、保健室に和尚は毎回、逃げてきているらしい。そして悩み事も言わず、京香先生とじっと見つめて、手を合わせて何かを呟いているという。


 京香先生は和尚が奇妙な行動をしても、いつものことなので、放置しているという。


 ある意味で京香先生の和尚に対する取扱いは合格と言っていいだろう。


 和尚の心の中で京香先生の一途な愛と、アメリカ生まれの黒船ジョディ先生のどちらが勝つのか、春陽も優紀も信二も密かに面白がっている。


 いつも悟りを開いているような和尚が、この2週間は高校2年生になって悶えているのだ。これほど面白いことはない。


 初めのうちは春陽に興味を示していたジョディ先生も、和尚の仕草を可愛いと思っているのか、常に和尚のことを構うようになった。


 春陽にとっては和尚様様である。和尚がお寺の跡継ぎで、日々、お寺の修行に励んでいることをジョディ先生に教えてあげると「ファンタスティック!」と言って目を輝かせていた。


 ジョディ先生は屈託なく、自由奔放で、明るい。最近では信二と和尚の2人だけの昼ご飯に、ジョディ先生も混ざって、和尚にお寺のことを聞いている。


 和尚は照れながらも、自分の知っている、お寺の知識をジョディ先生に伝えている。額と汗が頭からダラダラと流れているそうだ。


 それをジョディ先生が、タオルで拭いてあげているから、信二にとっては面白いショーらしい。


 和尚が最近、痩せてきたと話題になっている。ぽっちゃりとしたゼイ肉が落ちて、筋肉は見え始めているという。


 和尚に聞くと、既に15kgも体重が減少したそうだ。一休さんのように可愛い童顔にマッチョな体の和尚は想像するだけで不気味だ。


 ジョディ先生は、そんな和尚の変化に気づいていない。和尚を見ると「ベリーキュート♡」と言って剃っている頭や、頬を、自分のタオルで拭いている。


 そして、ジョディ先生のダイナマイトボディで、和尚にハグをして、挨拶程度のキスを頬にしてくるのだ。


 和尚は「……権現様」と呟いて、目を虚ろにしている。随分と心が揺らいでいるようだ。


 女性達はジョディ先生に日本男性にハグをしたり、フレンチキスをするのは禁止と教えたので、和尚はもう少しで倒れていた所を助かった。


 信二は腹を抱えて笑っているばかりで、助けてくれようともしない。



「信二殿、お恨みいたしますぞ!」


「美人の女性教師にハグされて、頬にキスされてるんだ。俺が恨まれる筋合いなんてねーよ。俺も代わってもらいたいぐらいだ! せいぜい苦しめ! エロ和尚! これで京香先生は俺の者だ!」



 和尚が椅子を立って、数珠を持ち直す。そして目をクワっと見開く。



「それはいけませぬ。それは許しませぬ。美の権現様に近づこうとは、この不埒者め。信二殿には説法は聞かぬ。実力行使させていただく」



 信二は和尚が本気になった、ヤバいと思って席を飛びのいて逃げようとしたが、時、既に遅かった。


 歌って踊れる和尚の体は俊敏だった。逃げた先に和尚が仁王立ちに立って、両手を重ね合わせて、数珠を巻いている。



 「改心されよ! 菩薩掌!」



 両手を合わせたままの和尚の手が、大上段から振り下ろされ、力一杯に信二の頭にめり込んでいく。


 信二はあまりの痛さに、その場にしゃがみ込んで、そのまま倒れた。



「京香先生に手を出そうとは不埒者。この和尚が成敗してくれたわ!」



 教室の中の生徒達は、信二と和尚のいつものことだといった感じで、信二が気絶しても放っておいた。


 京香先生が絡めば、和尚が本気になることは、クラス全員が知っていることだ。信二以外はからかいに行こうとする者はいない。


 春陽と優紀も見ていた、信二が悪いということで放置しておくことにした。


 最近、信二の和尚へのからかいが酷くなっているような気がする。


 信二がピクピクと体を痙攣させて目を開く。



「和尚! お前こそな、ジョディ先生に懐かれて、良い思いばかりしやがって、その上に京香先生まで手を出そうとしてるんだから、二股じゃねーか! 二股ヤローに言われたくねーよ!」


「それは違いますぞ。最近、分かり申した。美の権現様は1人あらず。女人の数だけ多くいても良いのだ」



 和尚がいつもと違うことを言い始めたぞ。



「拙僧も1000枚以上DVDを鑑賞してきた男。あの1000枚以上のDVDには1人1人の美の権現様が映っておられた。あれもまた美の権現様なのだ」



 1000枚のDVDもとうとう美の権現様に格上げされたぞ。仏様の一員か。



「京香先生は美の生き仏様であり、ジュディ先生も美の生き仏様なのだ。だから優劣はござらん。拙僧の心が狭量であっただけのこと。最近、気づき申した」



 優紀が呆れた顔で、和尚に声をかける。



「それで、和尚は京香先生とジョディ先生のどちらが良いんだよ?」


「和の京香先生! 洋のジョディ先生! 世界は広し!」



 それを聞いた優紀は春陽の肩を叩いた。



「また和尚の病気が悪化したようだぞ。少しの間、放っておこう」



 和尚もそれなりに常識を知っている男子だ。いきなりジョディ先生を襲うことはないだろう。ジョディ先生も和尚を気に入っているようだし、少しの間は様子を見ていよう。


 放課後になるとジョディ先生の英語の授業が始まる。


 春陽と和尚は決まったように当てられる。それも春陽に対しては難問が多い。


 春陽は信二の肩を抱き上げ、信二を立たせる。



「大丈夫か? 和尚の菩薩掌を受けて立てたのは、信二が初めてだぞ!」


「あんな奴のヘナチョコな技なんて、俺に効くはずねーよ!」



 そう言いながら信二の体は揺れている。



「京香先生の所へ行こう。俺が肩を貸してやる」


「ありがとうな春陽。和尚よりも春陽のほうが優しぜ」



 春陽に信二を助ける気持ちなんて一切ない。ジョディ先生に難問を当てられるのがイヤなのだ。


 そして保健室には妖艶な京香先生もいて、信二をダシにしてベッドで休むこともできる。


 幸運であれば綾香にも会える。


 春陽の行動は全て打算的だった。しかし、そのことを信二は知らない。信二は春陽に感謝している。


 信二を連れて、教室から出ていこうとすると、優紀が小さな声で春陽にだけ声をかける。



「お前、信二をダシにして逃げたな。お前は逃げられていいよな。俺は香織がいるから京香先生を見に行くことができない!」



 それは京香先生よりも香織を選んでいる優紀の心だとは言わない。もし優紀にそれを言うと必死になって否定される。逃げる時間がなくなる。


 春陽は信二の肩を抱いて、ゆっくりと教室を出て、人通りの少なくなった廊下を保健室へと2人で歩いていった。


 保健室のドアを開けて、京香先生が座っている前に信二を座らせる。


 白衣を着た京香先生はいつもと同じく妖艶で、煽情的な大人の艶やかな色香を放っている。


 ポテッとした唇と、顎の色気黒子が色っぽい。



「今日は一体、どうしたの? こんな時間に来るなんで珍しいわね!」


「和尚と信二が喧嘩したんだ。和尚の怪力チョップが信二の脳天にヒットしたから連れてきた。まだ朦朧をしているみたい」


「浩平君は怪力よ。信二君も真正面から浩平君と喧嘩するなんて無茶し過ぎよ。今度からダメだからね」


「……」



 京香先生が頭を触ると、妙に信二の頭が凹んでいる。



「今は凹んでいるけど、後から大きなコブになるからね。痛いと思うけど、コブに触ったらダメよ。今から冷やすから、自分で氷袋を持ちなさい」



 そう言って京香先生は氷袋を信二の頭に当てる。そして信二の手を取って、氷袋を押えさせる。


 信二は顔を真っ赤にして喜んでいる。



「今回の喧嘩の理由は何なの? また私絡み? それだとイヤだな!」



 京香先生が頬をピンク色に染めて口を少し尖らせる。その顔が非常に色っぽい。


 信二が不満気に口を開ける。



「和尚の奴、京香先生を美の権現様と崇拝してるのに、最近はジョディ先生とイチャイチャしてるんですよ。だからそのことを注意したら、ヤラレちゃいました」


「別にいいんじゃないの。私は美の権現でも何でもないんだし。ジョディが浩平君を気に入ったなら、それでいいと思うわよ。ジョディって和物が好きだから」


「俺は京香先生に一筋っす!」



 ハァーと京香先生が甘い息を吐く。



「信二君には困ったものね」



 京香先生はそんな信二を見て優しく微笑んだ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ