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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第二章:カウボーイ&カウガール
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第五話

 帰還報告。

 意識を喪失するか否かの瀬戸際。

 自由になった体が、だらりと地面に横たわる。と、同時に凄まじい吐き気に見舞われ、倒れ込んだまま噎せ返り赤い液体を吐き出した。

 鮮血が地面を濡らした。


「ほら、意識をしっかり保て。精神世界で気絶とか、ややこしいからやめろ」


 マリが駆け寄り、薫に馬乗りになって平手で頬を叩く。

 無理矢理だが効果はあったらしく、沈みかけていた意識が鮮明になってきた。


「マリさん、騎乗位とか……大胆ですね…………」


 思わず口走った言葉に、鉄拳が飛んで来た。

 危うくまた意識が無くなりそうになったが、何とか堪えることが出来た。


「馬鹿が馬鹿を言えるなら、大丈夫そうだな?」


「はい、ちょっと、骨と筋肉と内臓が軋んだだけですので…………」


「頑丈なところは変わらんな。ほら、起きろ」


 それでも重傷である事には変わり無いが、伸ばされたマリの手を掴み、無理矢理に体を起こす。後、殴られた頬の方が痛かったりする。

 それはともかく、立ち上がれはした。が、歩くことは叶わず、マリにもたれ掛かる形となってしまった。


「柄にもなく捨て身の攻撃とか。おまけに尻拭いは他人任せと来た。本当に馬鹿野郎だな?」


「面目無い…………」


「まぁ、説教は後だ。ーーーーあれを見ろ」


 マリは薫を支えながら、倒したばかりの黒い化け物の方を見る。

 既にアラクネーは動かなくなっており、全裸の女が仰向けに倒れるような形で地面に転がっていた。眼球に刺さっていた『適性銃器』は、既に消えていた。


「強敵でしたね…………」


「馬鹿、よく見ろ。まだ終わってないぞ」


 マリの一言に疑問符を浮かべながら、薫は改めて化け物の亡骸を注視する。

 すると驚くべき事に、化け物の黒い体躯に迸った赤い筋が脈動するようにチカチカと光っているではないか。


「『コア』は破壊した筈ですよね…………?」


「破壊した。完全に、な。しかし、こいつはまだ動いている」


 『不死人』は原則的に『コア』を破壊すれ行動を停止する。

 生物で言うところの“死”である。

 特例として、コアを複数持つ『不死人』も居るのだが、このアラクネーはそれに当てはまらない。

 では、一体何が起こっているのか。

 それは思わぬ人物により明かされる事となった。


「何か出てくるぞ」


 不意にマリが指を差す。

 アラクネーの下腹部であり、そこにはまるで卵がひび割れるが如く亀裂が走っていた。亀裂は徐々に広がっていき、やがて腹部が崩壊した。


 ギチギチギチギチーーーー。


 そんな羽音を立てながら、世にも奇妙な“蟲“が姿を現した。

 全身は黒く、蝉のようにも蜂のようにも見える醜悪な見た目をしている。大きさは犬や猫のような小動物程はあり、羽は吐き気を催すような虹色透明をしていた。

 目のような複眼は三つあり、いずれも真っ赤に染まっていた。口は、まるで人間のそれと同じ形をしている。

 形容するならば、“この世成らざる醜悪な昆虫の戯画”であろう。


「何なんだ、あれは…………?」


 驚愕するマリ。

 薫は言い表し様の無い恐怖心で、体が固まってしまっていた。


「あれは『不死蟲(パラサイト)』と言います」


 不意にあらぬ方から声が聞こえてきた。

 そちらを向くと、三科凛子が朗らかな表情で佇んでいた。


「よくぞここまで辿り着きました。流石は私の一番弟子、信じていましたよ」


「世辞は良い、付け上がるだけだ」


 折角の賞賛の言葉を無下にするマリは、顎先で『不死蟲(パラサイト)』と呼ばれた蟲を差す。

 心なしか機嫌が悪い。


「あいつは何だ? 『アンデッド』の新種か?」


「『アンデッド』ではありますが、『不死人』ではありません」


 凛子は表情を引き締める。が、笑みは絶やさない。


「即刻射殺して下さい。飛び立つ前に」


「私に指図するな」


 凛子の指示に従うのは不承不承と言った様子に、マリは回転式拳銃を構えトリガーを弾いた。

 銃弾は『不死蟲』の眼球を捉え、撃ち貫いた。濁った緑色の体液が撒き散らされる。


「さて、『不死人』とは人間を媒体とし、様々な形に変化させたモノを差す言葉です。アラクネーのような。ーーーーしかし、これは違います」


 凛子は唐突に説明を始める。

 前置きが無いのは、何も珍しい事ではない。よくある事だ。


「これは昆虫を媒体として造り出された『アンデッド』です」


「昆虫の『アンデッド』?」


 今まで昆虫に似た『不死人』の変異種の報告は複数ある。

 しかし、昆虫が『アンデッド化』したという話しは聞いたことが無い。犬などの動物なら、幾つか事例はあるのだが。


「薫くん、よく見ておきなさい。これが『RED SHOT』の正体です。あの赤い液体の中にはマイクロ単位の『不死蟲』が複数入っていて、人体に入り込み精神を侵食する。やがて『不死人』にしてしまうのです」


「『パラサイト』、“寄生虫”って事ですか?」


「その通り。けど、今までの『不死蟲』は人体の内部でしか生きられなかった筈なのですが、新たに改良された『RED SHOT+』の『不死蟲』は、あの様に昆虫の形を取って体外へ出る術を得たようです。変異作用は、例えるならあの形態を取る為の蛹化のようなものですね」


「液体が幼虫で、変異種が蛹。で、あれが成虫って事か? ゾッとしないね」


「て言うか、あれが僕の体の中に入ってきていたなんて…………」


 そちらの方がゾッとする。

 “パラサイトダイエット”では無いのだから、自らの体の中に寄生虫が居るなんて聞かされては嫌悪感を抱かずにはいられない。


「ともかく、これで薫くんは無事に回復へ向かうことでしょう。よくやり遂げました」


 凛子は朗らかに笑んで、薫の頭を撫でようと手を伸ばす。が、その手はマリによって叩かれた。


「薫に触るな」


「これは失礼。ーーーーでは、二人とも元の世界に戻りましょうか」


 そう言って凛子は指を鳴らす。

 瞬間、意識がぐらりと揺れてあっという間に暗転してしまった。

 随分とあっさりした、精神世界とのお別れであった。










 ぼんやりとした意識の中で、仄かな明かりを知覚した。

 月明かりだろう。

 部屋は真っ暗で、窓辺に引かれたカーテンの隙間から薄い光が差し込んでいた。今日は満月なのだろうか。


 薫はベッドに寝かされていた。

 病院のベッドであろう。

 あの夢で見た光景とは違い、今は集中治療室から一般病棟へ移されたと考えて間違いは無い。

 天井がそれを物語っている。

 滅菌室の天井に、黒染みなど無いだろう。


 あの夢での一件は何だったのか。

 精神世界での戦闘、マリとの共闘。そして三科凛子がもたらした新事実。

 考えることが山ほどある。


「隊長?」


「隊長!」


「薫」


 嗚呼、いや、やはり真っ先に考えなければならない事が一つあった。

 思わず失念していた。

 先ずは小隊長として、隊員に報告せねばならなかった。


「的場薫、只今、帰還した…………」


 照れ臭くも、薫は三人の部下に対して帰投報告を告げた。

 次の瞬間ーーーー







「「「この、大馬鹿野郎!」」」







 三人分の体重が、一身にのし掛かって来たのだった。

 五話に纏めたかったのですが、ちょっとはみ出しちゃいました。

 という分けで、次回から新章になります。

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