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Outlaw Gunners ーハーレム小隊の憂鬱な日々ー  作者: 梨乃 二朱
第二章:カウボーイ&カウガール
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第三話

 最強、マリさん。

 “守護天使”とは、よく言ったものだ。

 マリは目を疑うような、一騎当千の実力を見せていた。


 簡単に説明すると、薫が一体のゾンビを倒している内に、マリは三体を撃破している。

 右手にリボルバー、左手に軍刀を振るい、流れるように『不死人』を倒していく様は、正しく“戦乙女”の様相であった。


「手を休めるな! 三時方向、来るぞ!」


 そして激しく舞う只中で、戦場の全体を把握している。

 マリが指示を飛ばした直後、薫の右手方向から幾つもの銃声が轟いた。


 慌てないよう落ち着いて銃口をスライドさせると、そこにはゾンビでありながら銃器を構える『不死人』が居た。

 “半ゾンビ化”と言って、意識はあるが肌や肉は爛れ、肉体の制限を取り払い凶暴化した兵士である。

 厄介な敵である。

 ゾンビ化している癖に意識がある為、人間と同程度の知恵を持っている。そのくせ、ゾンビと変わらず頭か心臓を潰さねば死にはしない。


 薫は耳の傍を銃弾が掠めるも冷静を保ち、レバーアクションライフルのアイアンサイトの照準を『不死人』の頭部へ向ける。

 撃発。

 『.45口径対不死人弾』が撃ち放たれ、ゾンビの頭部へ命中。更に内部で炸裂し、弱点である『コア』を完全に破壊した。

 撃破確認もそこそこに、レバーを操作し空になった薬莢を排出して次弾を装填する。


「■■■■■ーーーー!」


 刹那、耳元で身の毛もよだつような咆哮がした。

 いつの間にか『不死人』が傍に寄っていたのだ。


「クソッーーーー!」


 振り返り様に銃床を振るい、ゾンビの頭を打ち据える。

 そして倒れたゾンビの胸板を踏みつけ、右目に銃弾をお見舞いした。


「クソッタレめ!」


「落ち着け、薫。恐怖を怒りで上書きするなんてのは、三流のやることだ」


 スピードローダーを回転式弾倉に押し込めながら、マリが薫をなだめる。

 全てお見通しのようだった。

 薫は今の一瞬で胸中に恐怖を広め、視野を極端に狭くしてしまっていた。その証拠に、次に自分がやるべき事を見失ってしまっていた。


 マリの言葉に平静を取り戻した薫は、レバーを操作しコッキングする。

 そのまま次の標的を見定め、トリガーを弾く。


 油断してはならない。

 怒りは隙を見せる。

 マリに何度も言い聞かされた言葉だが、未だに追い詰められたら怒る癖が抜けていない自分に気付かされた。


 そうして二人は『不死人』を殲滅していった。











 やがて最後の一体を撃ち倒した二人は、『不死人』の死体で溢れる村を探索するように闊歩していた。

 目的は『不死人』の殲滅である。

 マリは襲ってきたゾンビが全てでは無いと見ているようだ。

 薫もそれには同感だった。


 三科凛子の話によると、変異種の『不死人』の因子が薫の中に入り込んでいるらしいのだが、襲ってきた『不死人』は、全て従来の型ばかりだった。

 そうなると、村の何処かに特殊変異した『不死人』が居ると見て然るべきだ。


「しかし、陰鬱だな。お前の精神世界は」


 マリは周囲を見渡して、呆れるように言った。

 確かに薫の精神世界は陰鬱で不気味だ。何かモデルがあるのだろうが、何処の何か分からない。

 ただただ不気味な村である。


「こう不気味なゴーストタウンを見ると、戦時中を思い出す。お前はどうだ?」


「僕は戦争なんて体験してませんから、何とも言えません」


「ん? そうか。そうだったな」


 『ガンスリンガー』として戦場を馳せては居るが、薫は戦争には参加して居ない。

 戦時中は『咲浪銃器学園』の中等部で、研鑽を磨いていた。もしかすると、戦争がもう少し長引いていれば、薫も戦線へ投入されていたかも知れない。

 ギリギリで難を逃れた、と言ったところか。


「…………ッ!?」


 その時、頭に鋭角な痛みが走った。

 たまに起こる頭痛だ。

 精神世界に居ても変わり無い痛みに、薫は苛立ちを覚える。


「どうした? 大丈夫か?」


「えぇ、問題ありません」


 薫は心配そうに顔を覗き込むマリへ笑みを向けながら、試しにジャケットの内ポケットを探って見る。

 運良く常備薬のケースが入っていた。

 早速、錠剤を取り出して口に含んだ。


「具合、悪いのか?」


「さほどは。精神的なものらしいのですが、直ぐに治ります」


「精神世界に居て精神的な頭痛に悩まされるとか、器用な奴だな?」


「ははっ、誉め言葉として受け取って置きますね」


 痛みは直ぐに消えてくれた。

 精神世界でも薬はちゃんと効いてくれたようだ。もしかすると、偽薬効果なのかも知れない。

 いずれにせよ、痛みがなくなった事で頭がスッキリとした。


「おい、薫。あれを見てみろ」


「え?」


 不意にマリが何かを指差した。

 薫はマリの指差す方向を目で追う。

 その先にあったモノは、薫に言い表し様の無い嫌悪を与えるものだった


 古びた一軒家が立ち並ぶ軒並みの向こう。

 巨大な黒い蜘蛛が在った。

 正真正銘の化け物。

 それはしかし、全裸の女性が逆立ちをしたような姿をしている。

 全長は三メートルはあるだろうか。真っ黒な体躯に迸る赤い血管のような線が、心臓が鼓動を打つように明滅を繰り返している様子が気持ち悪い。

 顔のような部分はまるで蜘蛛のそれで、八つの赤い目玉がそれぞれ独立して周囲を見渡している。

 女性の醜悪な戯画という表現が、或いは適切かも知れない。


「何だあれ…………?」


「変異種、“アラクネー”だ」


 “アラクネー”とは、ギリシャ神話に於ける蜘蛛にさせられた乙女である。

 成る程、あの化け物を差す名前には適切かも知れないが、それでも冒涜的に思えてならない。

 『不死人』、アラクネーはこちらに気付いている様子もなく、のそのそと軒並みを通り過ぎていく。


 戦時中は前線にて、対歩兵用兵器としてよく見掛けられたというが、薫は見るのは初めてであった。

 どうやら、あの変異種が元凶なのかも知れない。


 特徴は八本の手足と見掛けに依らぬ俊敏性。

 そして実体弾以外を受け付けない、特殊な皮膚である。

 弱点は眼球。

 その奥に存在する『コア』を破壊する事で、倒すことが出来る。が、やはり強固であり、拳銃弾で貫通させられる保証は無い。


「どうしますか?」


「狙撃したいところだが、私らの銃弾じゃちょっと不安だな」


 マリは自身のリボルバーを見下ろし言った。

 薫のレバーアクションライフルもマリのリボルバーも、拳銃弾を使う点では同じだ。射程はライフルとして銃身の長い『Outlaw M1894』の方が遠くまで飛ぶが、威力の面ではさほどの違いは無い。

 狙撃したところで、一撃必殺となる可能性は低いのだ。

 そもそも薫は狙撃を得意としていない上に、ライフルにはスコープすら付けていない。こんな状態で狙撃など無理だ。


「接近して銃剣を突き刺しますか?」


「バカ者、接近する前に捻り潰されるのがオチだ。ちょっと待てよ…………」


 マリは周囲を見渡して一考する。

 薫も及ばずながら、策を巡らせる。

 先に声を上げたのは、マリであった。


「そうだ。薫、ここはお前の世界だな?」


「え? あ、はい、そうですけど…………?」


「よし、じゃあRPGゲームみたく、対戦車ライフルでもサクッと呼び出せ!」


 ビシッ、と人差し指を突き付けるマリ。

 名案とばかりに、その表情は生き生きとしている。


「バズーカでも良いぞ!」


「…………いや、無理ですよ」


 当然、自分の世界と言えど、そんな都合良く武器を呼び出せるわけがない。

 どうやらマリは、特に案を思い付けなかったようだった。

 カウガール、ガール?

 とか思ってると殴られるので、スルーしときましょう。

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