逃げるのは罪ですか?
スミレさんがこっちの世界に来てくれて、もう1ヶ月。
先週無事にマリアに後継人になって貰い、パトリックに嫁いだ。
見ているだけで胸焼けするほど、二人の雰囲気は甘い。
さすが新婚。
「パトリック…そのにやけた顔を何とかしなよ…」
「すみません……なんだかこんなに可愛らしいお方が私の妻なんだと思うと…」
「………………………」
照れくさそうなパトリックの言葉に、呆れてしまう。
スミレさんの方は、全くいつもと変わらず仕事の鬼と化しているというのに…。
「美愛ちゃん、どうしたの?」
「なんでもなぁい…なんかあれだね、二人の子供出来るの早そうだよね」
「やだっ! そんなっ…私高齢出産になっちゃうじゃない…」
「リーチェも私も居るし、安心安全に産めると思うから大丈夫じゃね? スミレさん若いし。 双子とか産んじゃいそう…」
「やだぁ~もうっ、美愛ちゃんったら…」
きゃあきゃあ嬉しそうなスミレさんと、顔を真っ赤にして困ったように眉尻を下げるパトリック。
ホント我ながら良い仕事をしたなと思う。
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「つっかれたあああああああああ…」
夕食後お風呂に入り、ベッドにうつ伏せで倒れこみ、私はゆっくりとすでにベッドの中に居たアレクの横に潜り込む。
「大丈夫か?」
「ん~…最近身体が重いんだよね…オークデュレ帝国来た時から欲求不満は感じても、全然疲れとか感じてなかったんだけどさ~」
無表情だが不安そうなアレクに苦笑しながら話すと。
「………………ミア、明日の朝、リーチェ様に交信を掛けて貰えるか…?」
「良いけど…なんで?」
「いや…もしかしたら…妊娠してるのではないか?」
「………………え?」
あまりにも深刻な声音でそう言われ────、私はその可能性にやっと気がついた。
「そういや…このところバタバタしてて気にしてなかったわ」
あはは、と笑って誤魔化すと。
アレクはジトッと視線を向けてきた。
「明日の朝一番にリーチェに確認してみる…」
「そうしてくれ。 今日はゆっくり寝よう…おやすみ」
「うん…ごめんね、アレク…おやすみ」
なんだか心配させてしまったことが悪かったのか、アレクの顔はいつもより険しい。
それが────まるで、アレクが私との子供を望んでないようで……急に悲しくなった。
だからつい謝ってしまい──────私は、ギュッと瞼を閉じてアレクに背を向けた。
「ふむ…居るのぅ…」
朝一番確認しに来たリーチェにそう言われて────私の目の前は真っ暗になった。
──────────どうしようっ…!
「ミアっ──?!」
完全に私の頭の中はパニックで状態で。
リーチェの前から。
城の中から消えることを望んでしまった私は────リーチェの驚きの叫びを無視して空間移動で逃げ出してしまった。
────────────逃げるのは罪ですか?




