理想を取り消す宙の時計
魔女と魔法使いは困り果てました。
このままペンダントを野放しにしておくわけにはいきませんが、肝心の彼の居場所がどうしてもわかりません。ペンダントに込められた力を頼りに気配を探っても、世界のあらゆるものを映し出す泉を覗いても、なぜだか一向に行方が掴めないのです。
考えあぐねた魔女と魔法使いは、とうとう最終手段に出ることにしました。
「いっそ、すべてをなかったことにしてしまおうか」
二人は全ての世界の時間を司る『大時計』の元へ行きました。
あらゆる時間を操ることができる大時計には、沢山の針が回っていました。
魔法使いはそのうちの一つに手をかけると、力任せに回し始めました。
途端に、全てが目まぐるしく回って、どんどんと世界が巻き戻っていきます。
針がちょうど一周すると、世界はついに綺麗に戻りました。
夢見る少年は太陽の鏡に頼らないまま痩せぎすで働く日常に、望みを秘める少女は簪を知らないまま奥底に想いを押し込む日々に、願いを述べた少年はペンダントを手にすることなく暴力に苦しむままの毎日。
誰も、魔法を知りません。
「ひとまずこれで安心ね」
魔女と魔法使いは安堵のため息を漏らしました。
けれども安心したのも束の間に、一つ大きな問題が起こっていました。
肝心のペンダントだけ、なぜか魔法使いたちの手にないのです。
割れたはずの鏡も折れたはずの簪もすっかり元通りになってここにあるというのに、ペンダントだけ戻ってきていません。
どうやらペンダントだけ、巻き戻る世界の理に弾かれて、世界のどこかに消えてしまったみたいです。
「これでは本当に見つからないじゃないか」
「一体どうしたものでしょう」
魔法使いと魔女は頭を抱えました。
ペンダントの行方は誰もわかりません。
魔法使いと魔女は今でも、そのペンダントを探して、世界を密かに巡っています。
三つの魔法が消えた世界。
かつて魔法に助けられた三人の少年少女たちは、皆悲劇に見舞われました。
夢見る少年は体を壊して命を落とし、
望みを秘めた少女は想いに焼かれて命を絶ち、
願いを述べた少年は届かず命を奪われてしまったのです。
三つの理想はどれも全て、魔法なくしてあっけなく散ってしまいましたとさ。




