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烈氷の剣姫  作者: 黒曜 砕
1章 流転する運命
3/31

第3話 第六王女と流浪の旅人

 1


 ツバキはフーニカール王国に流れ着いた旅人である。

 低身長で白い髪を短く揃え、しなやかな筋肉の着いた無駄のない肢体をしていた。

 そして何より皆白い肌をしている中、彼女だけが黒い肌を持っていた。

 衆目は彼女を嫌ったが、ツバキはフーニカールに来るまでにもう疲れ果てていた。そのような風説に耐える程度でいいのなら、いくらでも好きに言えばいいとすら思っていた。


 もう命が左右されるような仕事なんてばかばかしい。やってられない。

 彼女の持つ芸術的センスと、かつて習った技を活かしてカルラシード家の庭師として駄目元で応募してみた所、そのセンスが目に留まり見事合格し、庭師としてメイドになる事が出来たのだ。


 しかし喜ぶのもつかの間、その肌の色から忌み嫌われ、ありもしない風説を流され始める。生来持つ彼女の無口さ・ぶっきらぼうさもそれに拍車をかけた。

 挙句の果てにはそのセンスと腕前に嫉妬し、庭師の中でも段々と浮き始めていた。


 彼女は「流刑地」であるカルラシード家次女に仕えよと命じられる。

 しかしろくに事情に興味もない彼女は、当然の如く応じる。

 彼女は王国に仕える訳でなく矜持がある訳でもなかったからだ。なんなら、王都から離れて良かったとすら感じている。貴族や従者たちのありもしない風説もいい加減鬱陶しく感じていた所だ。

 そして他のメイドと共に、辺境の地へと飛ばされる事となる。


 病弱な次女の名は、レィナータ=フォン=カルラシード。

 第六継承権を持つが、元々病弱で、すぐに死んでしまうような体の弱さを持った儚い少女であった。



 2


 ウズの村にやってきて、一ヵ月が経った。

 村人が興したという宴では手厚く歓迎されたし、サリーの作った料理には村人皆で舌鼓を打った。

 とはいえ、自治を任せている以上、この家でする事は無い。

 本来礼儀作法や初歩的な魔法の基礎を勉強するものだが、もうすぐ死ぬであろうレィナータには必要のない事であり、自ら書庫に籠って本を読む程度しか、彼女には特段趣味も無かった。


「レィナータ様。外、行かない?」


 ある日、ツバキはそう言ってレィナータを連れ出した。

 ウズの村のすぐ近くの草原。小川がせせらぐ、一面の花畑。

 まるで御伽噺のような光景に、レィナータは思わず感嘆の声を漏らす。


「わあ……!!」


「ふふ。童みたい。」


「わっ、童だもの、私。」


 照れくさそうにツバキからの指摘に反論した。

 それは先日の貴族然とした態度ではない、年相応の少女の顔がそこにはあった。


「レィナータ様。身体、だいじょうぶ?」


「ええ、ありがとう。この自然のお陰かしら。身体がずっと楽なの。」


 そう言って、身体をぐぐっと伸ばす。

 王都に居た頃には考えられないだろう。青空の下、何にも縛られずにただゆっくりと過ごしているなど。


「お父様は、もしかして私を最期にこうしてゆっくり過ごさせてくれるためにこちらへ寄越したのかもしれないわね。」


 あまりにも晴れやかな気分からそう漏らす。

 貴族であるサリーやメリアスであれば否定しただろうが、ツバキは違った。


「そう。きっと、そう。だって、これほど素晴らしい場所は中々ない。

 何もないけれど、食べ物が豊かだし、環境は安定してて、村には小さなお店や薬師まで揃ってる、何より平和。

 とても、素敵。」


 気休めであっても良い方向に考えたっていいじゃないかと、ツバキは思った。

 まだフーニカールの言葉にも不慣れながら必死に励ますツバキを見て、レィナータはえへへと笑う。


「本当は、少し心細かったけれど、貴女達で良かった。

サリーは優しいし、ツバキはまるで姉のよう。いや、姉って言っても姉上みたいって訳じゃなくてね。普通の家に生まれて、普通のお姉ちゃんが居ればこんな感じかなって。」


「お嬢様。」


「メリアスには、ちょっと悪い事したかなって思ってる。でも、私はメリアスも好き!かっこいいもん!」


「そう、だね。」


 レィナータは十歳らしいニコニコとした顔をして三人のメイドを褒める。

 ツバキにとってはそれが誇らしいし、くすぐったかった。


 ツバキは片手間に、花で冠を作り上げ、それをレィナータの頭に載せた。


「わ、かわいいねこれ!」


「ふふ。まるで、王女様だよ。」


「王女かあ……。私王女様だけど、そんなのよりツバキからくれた冠はもっと嬉しい!」


 何もかもを捨てて流れ着いた王国で、妹のように愛くるしいレィナータに仕えられている。二人には少し悪いけれど、ツバキはそれがとても充実して、楽しい日々だった。

 ツバキは元々流浪の身であり、地位も名誉も興味がない。

 それでも、こうして守りたいと思える人が出来たのだ。


「ずぅっと、お守りします。レィナータ様。」


 そうゆっくりと呟いた。

 いつも気ままに話すツバキが、畏まって敬語を使ったのを聞いたレィナータは少し驚いて、その後に嬉しそうに答える。


「ありがとっ、もう少しだけよろしくね。」

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