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第5話
黒の剣と仮じゃない関係
森から街へ戻る道は、来た時よりも静かだった。
スライムの残骸の匂いが少し残っていて、湿った空気に混ざって鼻につく。夕方の光はすでに赤く傾いていて、木々の間から差し込む影が長く伸びている。
「……つかれた」
ぽつりと呟く。
正直、想像よりきつかった。
三体って聞いてたのに、あの数。
しかも足取られるし。
「想定外の事象でした」
リリアが横で言う。
「想定外で済ませていいレベルじゃなかったけどね」
「ですが、無事です」
「まあね」
歩きながら、自分の足を見る。
まだ少しぬかるみがついてる。
でも動く。
問題ない。
「……さっきのさ」
「はい」
「セラって子」
「強かったですね」
「だよね」
思い出す。
無駄のない動き。
速さ。
全部が違った。
「なんか、別ゲーだった」
「同意します」
「お前も?」
「戦闘技術において、明確な差があります」
「ぐさっとくる言い方だな」
でも事実だ。
うちは強い。
たぶん。
でも、戦い方が雑。
セラは違う。
全部が洗練されてた。
「……悔しいな」
ぽつりと出た言葉に、自分でも少し驚く。
リリアが少しだけこちらを見る。
「珍しいですね」
「なにが」
「感情です」
「あるわ!」
「ありますが、方向性が新しいです」
「どういう意味」
「向上意欲です」
「……あー」
そうかもしれない。
負けたわけじゃない。
でも、差を見せられた。
それが引っかかってる。
「……まあいいや」
軽く頭を振る。
「とりあえず飯」
「切り替えが早いですね」
「重要だから」
街の門が見えてくる。
夕方の人の流れが少し増えている。
門番がこちらを見る。
「……お前か」
「あ、どうも」
「無事だったか」
「なんとか」
「その格好でよく行ったな」
「まあね」
軽く手を振る。
そのまま中へ入る。
街の空気。
人の声。
匂い。
ちょっと安心する。
「……帰ってきた感ある」
「拠点ですから」
「まだ今日来たばっかだけどね」
ギルドへ向かう。
扉を開ける。
中は相変わらず賑やかだ。
でも、少しだけ視線が増えた気がする。
「なんか見られてない?」
「見られています」
「やっぱり」
受付へ向かう。
ミレナがこちらを見る。
「おかえりなさい」
「ただいま」
「依頼の達成ですね」
「うん」
核を取り出す。
半透明の球体。
ちょっと綺麗。
「こちらです」
ミレナが確認する。
「三体分、確認しました」
「よし」
「報酬はこちらになります」
袋を渡される。
中を見る。
「お、入ってる」
「初依頼達成ですね」
「そうなるね」
ちょっと嬉しい。
なんか、ちゃんとやった感ある。
「お疲れ様でした」
「ありがとう」
そのとき。
後ろから声がした。
「……あ」
振り向く。
いた。
黒髪。
無表情。
セラ。
「いた」
「……」
セラは少しだけこちらを見る。
そして、そのまま近づいてくる。
「……無事」
「うん、なんとか」
「……」
少し沈黙。
なんか、会話が続かない。
「えっと……」
うちが口を開こうとしたとき。
リリアが先に言った。
「あなた」
「……」
「先ほどの戦闘について、いくつか質問が」
「長い」
「まだ何も言ってません」
「長くなる」
「なりますが必要です」
「いらない」
「いります」
「……」
セラ、少しだけ眉が動く。
うち、ちょっと笑いそうになる。
「まあまあ」
間に入る。
「さっきは助かったよ」
「……ついで」
「それ言うね」
「……事実」
セラはそれだけ言う。
でも。
完全に他人って感じでもない。
「ねえさ」
「……」
「また一緒にやらない?」
セラがこちらを見る。
少しだけ目が細くなる。
「……なぜ」
「え?」
「組む理由」
「……」
ちょっと考える。
なんでだろ。
「強いから?」
「……」
「あと、うちらまだ弱いし」
「……」
「ほら、バランス的に」
リリアが頷く。
「戦力として合理的です」
「それそれ」
セラは少しだけ考える。
ほんの数秒。
でも、その沈黙が妙に長く感じる。
「……条件」
「お?」
「無駄な動きしない」
「はい」
「話、短く」
「……」
リリアが固まる。
「無理です」
「なら無理」
「ちょっと待ってください」
うちが笑う。
「ははっ」
「笑ってる場合じゃありません」
「いやだってさ」
セラが少しだけうちを見る。
「……あんたは」
「ん?」
「まだマシ」
「それ褒めてる?」
「……」
答えない。
でも、少しだけ空気が柔らぐ。
「じゃあさ」
うちは手を出す。
「仮じゃなくて、ちゃんと組もう」
「……」
セラはその手を見る。
少しだけ間。
そして。
「……いい」
手は握らない。
でも。
それで十分だった。
「よし」
リリアが小さく息を吐く。
「これで三人です」
「パーティ成立だね」
「正式には仮ですが」
「まだ言うそれ?」
「重要です」
「はいはい」
セラが小さく言う。
「……名前」
「え?」
「パーティ名」
「もう考えるの!?」
リリアが目を輝かせる。
「必要です」
「早くない?」
「重要です」
「それ好きだね」
うーん、と考える。
翼。
炎。
三人。
「……紅炎の翼、とか?」
言ってみる。
少し沈黙。
リリアが頷く。
「悪くありません」
セラは何も言わない。
でも、否定もしない。
「じゃあ決定でいい?」
「はい」
「……いい」
「よし」
ちょっとだけテンション上がる。
「紅炎の翼、ね」
なんか、それっぽい。
ギルドの中の空気が少し変わる。
周りの冒険者がちらっと見る。
三人。
うちと。
リリアと。
セラ。
「……なんか始まった感あるな」
ぽつりと呟く。
リリアが言う。
「始まっています」
セラは何も言わない。
でも。
その場にいる。
それだけで。
「……よし」
うちは軽く伸びをする。
翼が少し広がる。
「次はもっとちゃんとやる」
「はい」
「……」
セラが一瞬だけうちを見る。
その目は。
ほんの少しだけ。
興味を持っているように見えた。




