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第3話
観測対象と仮契約
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「あなたを観察したいです」
「やだ」
即答。
うちはそのまま踵を返して歩き出した。
関わったら絶対面倒なタイプだこれ。目がキラキラしてるやつは大体やばい。しかも魔法オタクっぽいし。
「待ってください」
「来るな来るな来るな」
歩くスピードを上げる。
――ついてくる。
「なんで普通についてくるの!?」
振り向く。
いた。
さっきの銀髪エルフ。
めっちゃ自然に横に並んでる。
「まだ話が終わっていません」
「終わったよ!うち断ったよね!?」
「承認されていません」
「誰に!?」
「私にです」
「ルールが独特すぎる!」
周りの冒険者がくすっと笑ってる。
うわ恥ずかしい。
でもリリアは全く気にしてない。
むしろ真剣な顔。
「あなたは明らかに異常です」
「その言い方やめて?」
「事実です」
「二人目!」
《同意します》
「だからお前は黙って」
頭の中でツッコむ。
リリアは少しだけ目を細めた。
「……今、誰と話しました?」
「独り言」
「変わった人ですね」
「君にだけは言われたくないんだけど」
しばらく歩く。
でも、離れない。
横にいる。
ぴったり。
「で、何したいの?」
諦めて聞く。
リリアは即答した。
「あなたを観察したいです」
「だからやだって」
「理由を説明します」
「聞いてない」
「重要です」
「聞いてないって言ってるでしょ!」
でもリリアは止まらない。
「あなたの魔力は異常です」
「またそれ」
「通常、人間の魔力は一定の流動パターンを持ちます」
「へえ」
「ですがあなたは違う」
一歩近づく。
「密度、流動、発熱、全てが規格外です」
「なんか怖いんだけど」
「さらにその翼」
「だから近いって!」
「魔力で維持されていますね?」
「まあたぶん?」
「ですが構造が不明です」
「知らんがな」
「つまり」
びしっと指を差される。
「あなたは“未知の魔法体系”です」
「言い切った!」
目が本気。
やばい。
これは完全に研究対象として見られてるやつだ。
「未知は観測する価値があります」
「怖い怖い怖い」
「なので観察します」
「強引すぎる」
一回、深呼吸。
落ち着け。
このまま押し切られるのは嫌だ。
「……逆に聞くけど」
「はい」
「観察してどうすんの」
「理解します」
「その後」
「応用します」
「怖いって!!」
リリアは少し首を傾げる。
「問題がありますか?」
「あるでしょ普通」
《合理的ではあります》
「お前はそっち側だろうね」
でも。
ちょっと引っかかる。
「……てかさ」
「はい」
「うち、この世界のことよく分かってないんだけど」
言った瞬間。
リリアの目が鋭くなる。
「やはり」
「やはりってなに」
「あなたは知識がありませんね」
「……あるけど」
「ありません」
言い切られた。
「文字は読める」
「はい」
「言葉も分かる」
「はい」
「でも」
一拍。
「街の反応、視線への戸惑い、ギルドでの挙動」
リリアは淡々と言う。
「すべて“初めて”の動きでした」
「……」
図星。
「つまり」
「言語理解はあるが、常識がない」
「言い方ァ!」
「事実です」
《正確です》
「お前ほんと容赦ないな」
腕を組む。
確かにそうだ。
この世界のルール、魔物の強さ、依頼の危険度、何も知らない。
今はなんとなくで動いてるだけ。
「ですが」
リリアが続ける。
「私は知っています」
「……」
「魔物の種類、危険度、依頼の難易度、地域ごとの特徴」
「へえ」
「そして」
一歩近づく。
「あなたの価値も」
「怖いって」
「取引を提案します」
「取引?」
「私が知識を提供します」
「うん」
「その代わり」
「観察させてください」
「実験対象じゃん」
「観察対象です」
「言い換えただけでしょ」
《同一です》
「うるさい」
少し考える。
正直、嫌だ。
でも。
便利そうではある。
このまま一人で動くのはちょっと不安だし。
それに。
「……戦えるの?」
「はい」
即答。
「理論上は」
「理論上!?」
「実戦経験は少ないですが、知識はあります」
「不安すぎる」
「ですがあなたも初心者ですよね」
「……まあ」
「なら同じです」
「絶対違うでしょ」
でも。
完全に間違ってるわけでもない。
「一人よりは二人です」
「それはそう」
「合理的です」
「友達いなさそうな言い方だな」
「いませんが」
「直球!」
一瞬、変な空気になる。
でもリリアは気にしてない。
「どうしますか?」
「……」
掲示板を見る。
依頼が並んでる。
読める。
でも分からない。
どれが安全か。
どれが危険か。
「……まあ」
ため息。
「いっか」
リリアの目が少しだけ開く。
「では」
「ただし」
指を立てる。
「観察はほどほど」
「難しいです」
「即否定すんな」
「努力はします」
「あと勝手に触らない」
「はい」
「あと話が長い時は止める」
「納得できません」
「長いからだよ」
「必要な説明です」
「もう長い」
リリアは少しだけ不満そうにしながらも頷いた。
「……わかりました」
「よし」
「ではパーティですね」
「いや仮な?」
「仮パーティ」
「そこ大事」
こうして。
うちとリリアは組むことになった。
まだ仲間って感じじゃないけど。
とりあえず、一人じゃなくなった。
「で、どれ受ける?」
掲示板の前に立つ。
リリアがすぐに指を差す。
「この三つです」
「早」
「ランクFで安全かつ効率的な依頼です」
「有能」
「最初からです」
「言うねえ」
依頼を見る。
スライム討伐。
薬草採取。
見回り。
「じゃあスライムでいいんじゃね?」
「妥当です」
「即決だな」
「初戦闘として適しています」
「ゲームっぽい」
依頼書を取る。
受付へ向かう。
ミレナがこっちを見る。
「依頼の受注ですね」
「これで」
「はい」
リリアが横で頷く。
「お二人で?」
「仮です」
「パーティです」
「温度差」
ミレナが少し笑う。
「連名で登録しておきますね」
「そんなのあるんだ」
「新人さんにはよくあります」
手続きが進む。
紙を書く。
確認。
「こちらで受理しました」
依頼票を渡される。
「対象は街外れの湿地帯、青スライム三体です」
「三体」
「核を回収してください」
「核?」
「スライムの中心結晶です」
リリアが即答。
「基本です」
「助かる」
依頼票を受け取る。
ギルドを出る。
外の空気。
夕方の光。
「……なんか冒険者っぽくね?」
「もう冒険者です」
「まあね」
少し歩く。
隣にリリア。
変な感じ。
「……ほんとに組んだな」
「合理的判断です」
「そればっかだな」
「事実です」
少しだけ風が吹く。
翼が揺れる。
尻尾も動く。
リリアの目が光る。
「あ、今の動き――」
「だめ」
「まだ何も言ってません」
「言う顔してた」
「観察眼がありますね」
「誰のせいだと思ってんの」
リリアはほんの少しだけ笑った気がした。
気のせいかもしれないけど。
うちは依頼票を見る。
スライム三体。
初依頼。
初戦闘。
「……よし」
顔を上げる。
「行くか」
「はい」
こうして。
うちの冒険は、ちゃんと“始まった”。




