第189話 ジャキの力
ガロウが弾除けになってくれたが、別にあのデカブツを倒したわけじゃない。
とにかく、まずはあいつを排除しないと護衛任務は達成できないだろう。
そんなことを考えた直後だった。
ジャキの巨大な拳が、俺めがけて振り下ろされる。
「ちょ、リョウガ!」
イザベラの叫びが耳朶を打つ。
次の瞬間には、俺の視界からジャキの姿が遠ざかっていた。
どうやら拳で吹き飛ばされたらしいな――。
◆◇◆
「あの馬鹿、油断しやがって!」
苦虫を噛み潰したような顔でガロウが吐き捨てる。
「おやおや。ジャキの拳をまともに受けては、もう立ち上がれないでしょうね」
白衣の男が肩を竦めながら笑った。
「この中で一番強い男が退場したのですから、もう諦めては?」
「あん? 一番強いだと?」
その瞬間、ガロウの蟀谷がぴくりと波打った。
「俺の方がアイツより強ぇよ。そんなデカいだけの木偶なんざ、俺が細切れにしてやる」
「ほう。それは愉しみですねぇ――」
白衣の男が目配せした直後、ジャキが拳を放つ。
轟音。
空気そのものを叩き潰すような暴風が走った。
だがガロウは跳躍。拳を躱すどころか、そのままジャキの腕を踏み台にして頭上を取る。
「抜刀昇華――千閃!」
鞘から刀が抜かれた刹那、銀光が空間を埋め尽くした。一瞬の間に千を超える斬撃。
ジャキの全身へ無数の斬線が刻まれ、黒い肉体がズタズタに裂けていく。
「これでどうだ!」
ガロウが吠える。
だが――
「甘いですね」
白衣の男は余裕を崩さなかった。
裂けた肉が蠢く。
切断された筋肉が絡み合い、裂傷が音を立てて塞がっていく。
「な――こいつ、再生持ちか!」
ガロウが顔を歪めた。
再生――一部の魔物や魔獣が有する特殊能力。受けた傷を瞬時に修復する厄介極まりない能力だ。
しかもジャキの再生速度は異常だった。
千閃によって刻まれた傷が、数秒もしないうちに跡形もなく消えていく。
「やはり貴方では力不足ですね」
白衣の男が薄く笑う。
その直後、ジャキが両腕を高々と振り上げた。
「当たらなきゃ意味がねぇんだよ!」
ガロウが地を蹴る。
だが――
「そうとは言い切れませんよ?」
ジャキの拳が地面へ叩き込まれた。
轟音――大地が陥没し、爆発じみた衝撃が周囲へ広がる。
砕けた土砂と衝撃波がガロウを呑み込み、その身体が弾き飛ばされた。
「ガッ――!」
受け身を取り損ねたガロウが地面を転がる。
「踏み潰してしまいなさい。ペシャッとね」
白衣の男が愉快そうに指示を飛ばす。
ジャキの巨大な足が持ち上がり、ガロウめがけて振り下ろされた。
重苦しい衝撃音が響き、大地が震える。
「ハハッ。野良犬もこれでおしまいですね」
「お前らは兄貴を舐めすぎだ」
群がるマタンゴを殴り飛ばしながら、ウドンが吐き捨てた。
白衣の男が怪訝そうに眉を動かす。
その瞬間だった。
ジャキの背後――月を背に、一つの影が跳び上がる。ガロウだ。
口元から血を流しながらも、その眼光は死んでいない。
「抜刀昇華――極一閃!」
甲高い斬撃音。夜空を裂く一筋の銀光。
次の瞬間、ジャキの首から上が宙を舞った。
「やったわね!」
イザベラが歓声を上げる。
だが――ジャキは止まらない。
首を失った巨体が両腕を伸ばし、自らの頭部を掴み上げる。
そして何事もなかったかのように首へ戻した。
肉が蠢き、骨が繋がり、再び首が固定されていく。
「残念ですが、この程度なら再生可能です。そして――」
パチンッ。
白衣の男が指を鳴らした。
瞬間、夜空から雷が落ちる。
「ガハッ!」
直撃を受けたガロウの身体が痙攣し、空中から叩き落された。
「私も戦えることをお忘れなく」
地面へ落下したガロウへ、ジャキの拳が容赦なく迫る。
だがその瞬間――轟ッ、と衝撃音が響いた。
ジャキの巨体が横殴りに吹き飛び、地面を跳ねそのまま上空へ打ち上がる。
「て、テメェ……生きてたのかよ」
「勝手に殺すな」
地面に転がるガロウを見下ろしながら、リョウガが淡々と言い放った。
その腕は、袖の内側で僅かに膨張していた――。




