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スラムギーク、ビリオネア!!  作者: 夕野草路
楽園の計画[the_project_of_EDEN]
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12/204

キミが最強になることを、今から証明しようか。――EP.3

[You'ill be invincible.――EP.3]

 迷宮都市ゲーテ。


 都市という名前だが、遠目には巨大な樹だ。

 巨大と言っても常軌じょうきいっしている。

 先端が雲をかすめるほどの高さなのだ。

 約850メートル。

 墨田区にそびえるスカイ・ツリィを軽く超える。


 しかし、主役はこの樹ではない。


 大樹の根に抱かれながら、地下に広がる大迷宮。

 その入口に俺はいた。


「じゃ、行こうか」


 コンビニでも行くような調子でツヅリは言う。


「待て待て待て。準備は?」

「要らんよ」

「要るよ!」

「エンはウサギちゃんだなー」

「どういう意味だよ?」

ウサギちゃん(おくびょう)って意味」

「この迷宮、1線級のプレイヤでも死ぬんだろ?」

「深層ならね。大丈夫、大丈夫。今日はお試しだから。潜っても2層までかなぁー」

「それなら……」


 最難関ダンジョンに足を踏み入れる。


「ここがゲーテの地下迷宮……」


 これまでに発見された迷宮の中で、最大にして最難関。

 

「ふあぁー」


 しかし、隣であくびをする少女が1名。

 緊張感の欠片も無い。

 冒険の高揚というか、覚悟というか、そういう感情を返して欲しい。


「ん。どーかした?」

「別に……」


 地下へと続く迷宮を歩く。

 そこは複雑に絡まった根の隙間だ。

 隙間と言えども、巨大樹の根。

 人が通るのに十分な空間があった。


「深い森って感じだな……」

「1層はねー」

「2層は?」

「それはまた後で。来たよ。お客さんだ」


 根の間には無数の泉がいていた。

 あふれる水は川はとなって地下へと流れていく。

 そんな川の水面が盛り上がる。

 突如、水中から現れる巨大な生物。


「ザリガニ!?」


 振り上げるのは巨大なハサミ。


宣言:関数デクラレーション・クイックチェンジ  早業」


 出現する巨大な剣。

 壁となってハサミを受け止める。

 轟音。

 そして、火花。

 ツヅリは動じない。

 俺がその一撃を止めると分かっていたかのように。

 凛と立ち、目の前の敵を見据みすえる。

 そして、言った。


「大丈夫。湖女王蟻レイク・アントクイーンの方が強いから」

「当たり前だろ」


 アレより強い動的対象《MOB》がほいほい湧いたら困る。


「宣言:関数 早業 鋼鉄の短剣」


 愚者の剣がナイフに変える。

 跳んで下がる。


「どうするの?」


 遠くから眺めるツヅリは、からかうように問う。


 俺の身長を超える巨大なザリガニ。

 イボだらけでヌメヌメとした茶色の体表。

 動物特有の白い部分が無い目。

 改めてみると不気味な生物だ。

 宇宙人のみたに。

 正直、何をしてくるか分からない。

 ならば、


「先手必勝!」


 短剣を投げる。指先が離れる直前――


「宣言:関数 早業 鉄槌」 


 関数を呼び出す。

 短剣は巨大なハンマァに変化。

 一直線に飛翔。

 ザリガニの胴体を捉える。

 甲殻に放射状のひび割れ。

 やはり、固い殻には打撃が有効だ。


「宣言:関数 鉄槌」 


 追加の鉄槌てっついが飛ぶ。

 その時だ。


「しゅーーーー」


 ザリガニが泡を吐いた。

 飛翔する鉄槌が泡と衝突。

 瞬間、どす黒く変色。

 まるで砂のようにボロボロに崩れ落ちる。


 この泡、腐食性ふしょくせいの強毒か。 


「しゅーーーー」


 ザリガニはさらに泡を吐く。

 気づけば、周囲に漂う泡、泡、泡。

 空間を埋めつくす。

 俺は身動きが取れないでいた。


「ん-、詰みだねぇ」


 そんな様子を見てツヅリは呟く。

 そして、


「宣言:関数  劫火インフェルノ―」


 そっと囁く。  


――引数アーギュメント:温度上限」


 穏やかな声と裏腹に、現象は強烈。

 ツヅリを中心に燃え盛る炎が渦を巻く。


「うおっ!?」


 熱で肌が痛い。

 炎が起こす風で身体が浮く。

 熱で目を開けることも困難。

 そんな大火が周囲をめ尽くす。

 気づけば泡は消えていた。

 川が沸騰している。

 そんな即席の鍋の中、真っ赤に茹で上がったザリガニ。

 何本も生えた節足をピクピクと震わせるばかり。


「エン。とどめ」


 ツヅリが言う。


「お、おう……」


 ハンマーを何度も叩きつけて頭を潰す。

 コンソール画面に通知。


[>>> 392(JPY) aquired]


 392円獲得。昨日のアリの約10倍。


「今の、中ボスとか?」

「まさか。雑魚だよ」

「これで……」


 腐食性の泡で周囲を埋めつくす攻撃。

 それでいて固い装甲。

 おまけに力強いハサミ。


 これで普通の雑魚。

 しかも、最も浅い階層の。


「これがゲーテの地下迷宮……」


 思わずつぶやく。

 すると、ツヅリはあり得ないことを言う。


「うん。これがゲーテの大迷宮。キミの目標はその最下層まで行くことだね」

「ふざけてんのかよ!?」

「本気」

「本気?」

「本気本気。キミならできる。大丈夫。その手順を今から説明するから」

 

 当たり前のようにツヅリは言う。


「で、今の敗因は?」

「……泡かな」


 怪物が吐く腐食性の泡。

 おかげで身動きが取れなくなった。


「そうだけど、ちょっとズレてるかな」

「ズレてる?」

「キミさ、さっきのザリガニの()、見てた?」

「いや……」


 振り上げた巨大なハサミに目を奪われて、口まではきちんと見ていなかった。


「実はね、泡を吐き出す前、口がみょうにモゴモゴ動いてたんだよ」

「……きちんと見ていれば、あの泡は避けられたってことか?」

「そゆこと。キミ、やっぱり賢いね」


 ツヅリは満足そうに笑う。

 そして、胸を張って語り始める。


「動的対象《MOB》の口はね、攻撃の起点になる場合が多いんだよ。それから弱点にも、ね」

「なるほど……」


 確かに、牙が生えていたり、毒液を吐くのも口だ。

 そして、モノを食べるという性質上、極端な甲殻で覆うことはできない。

 弱点にもなり得るのだ。

 

「なるほど……」


 その時だ。


「じゃあ、行ってみようか。リベンジマッチ」


 ツヅリが言う。

 目の前に2体目が現れた。

 ザリガニの死体に釣られたらしい。

 彼らからすれば同族の死体もエサなのだ。


「勝てるよねー?」


 ツヅリはとぼけたように言う。


「上等!」


 目をらす。

 確かに、ザリガニの口元がモゴモゴと動いている。

 泡を吐く前兆だ。


 短剣を抜く。


「宣言:関数  早業 鉄槌」


 投げた瞬間、巨大な槌に変化。

 勢いそのままに飛翔。

 ザリガニの口を直撃。

 ボタボタと体液と腐食液がこぼれ落ち、地面を溶かす。


「っし!」


 攻撃を封じることに成功。

 しかし、致命傷には遠い。

 ハサミを振り上げる敵。

 

 先ほどの負けは、口元の泡に気づけなかったこと。

 つまり、きちんと相手を観察できなかったこと。

 教訓を活かすのだ。

 だから、今度は見る(・・)

 そして、気付く。

 確かに、ザリガニの甲殻は頑丈。

 しかし、間違いなく弱い部分も在る。

 

 脚だ。


 稼働させる以上、節、つまり装甲の薄い部分を造らざるを得ない。


「宣言:関数  早業 鉄槌」


 勢いよく飛ぶ鉄槌。

 数本まとめてザリガニの脚を砕く。


「いいね」


 ツヅリは口の端を吊り上げる。


「百点満点」


 彼女は言った。

 脚を砕かれて体勢を崩すザリガニ。

 すかさず距離を詰める。

 その頭部が良い高さにあった。

 片手には短剣。


「宣言:関数 早業」


 振り下ろす瞬間、巨大な剣に変化。

 俺は10万円プレイヤ。

 最弱の部類だ。

 STR(筋力)も無い。

 しかし、あとは重力が仕事をしてくれる。

 大剣はその重みで、ザリガニにちる。

 

 断頭台。


 首の無い頭部が、胴体と泣き別れる。]


「勝てた……?」


 思わずつぶやく。

 とんでもない強敵だと思った。

 しかし、戦い方を工夫すれば、勝てない相手ではない。


(いや。ちょっと待てよ。これ、すごいんじゃないか……?)


 【計画】の攻略法は、ほとんど公開されていない。

 当然だ。

 このゲームでは、敵を倒せば本物の金が手に入る。

 【計画】の攻略法とは、つまり、金を稼ぐ方法だ。

 そして、確実に金を稼ぐ方法が在ったとして、それを公開するだろうか。

 怪しいネットの広告ではないのだ。

 普通は独占する。

 仮に共有したとしても、本当に親しい身内だけ。

 しかし、彼女はそんな情報(・・・・・)を教えてくれるらしい。

 出会って間もない俺に。

 一体、彼女の狙いは……?


 ぱちぱちぱち。

 ツヅリは無邪気に拍手していた。


「おめでとう。1段、強くなったね。……最強は遠いけどねぇ」


 ツヅリは笑う。





—―――――――――――――――――――――――――――――――――――――

総資産:95,309(日本円)

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