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第58話 魔物の軍勢

 

 師匠特製の不可視の結界が呆気なく砕け散った。

 とても耐えられないような威力の魔法攻撃を受けたのだから壊れるのは必然だが、俺でもない限り、早々この場所が気付かれることはないと思っていた。耐久力はあまりないようだが、見つからないという点では、よく出来た結界だったのに……。


「「…………」」


 この場に沈黙が落ちる。

 結界が破られたのを感じ取った師匠とギアスの顔が真剣味を帯び、俺を含めた三人で目を合わせると、二人はすぐさま外に出ていった。師匠にいたっては、足が治ったばかりだというのに、それを感じさせないような俊敏な身のこなしだった。


 俺?俺はお腹がすいたので、まず腹拵えがしたい。


「えっ?え、えっ?」


 ただ一人。葵だけは状況が掴めていないようで、二人が出ていった扉と呑気な様子の俺のことを交互に見ている。


「二人は急用ができたようだな。葵も食べよう?」


 俺は時間停止のアイテムボックスから、コンビニ飯を取り出した。おにぎり、サンドイッチ、お湯を入れておいたカップラーメンなどなど。某猫型ロボットの異次元ポケットのように、あるものをたんまりと出した。


「え、えっと」

「唯を救いたいんだろ?腹が減っては何とやらだ」

「そうですね。じゃ、じゃあ、おにぎりを」

「何の具が良い?」

「鮭を」

「ほい」

「ありがとうございます」


 異世界で食べるコンビニ飯というのも中々乙なものだ。こういう時のために、色々詰め込んでいて正解だった。一々転移で日本に戻るのも面倒くさいからな。


「外はかなり騒がしいが、皆ちゃんと飯は食ったんだろうか?」

「……モグモグ」

 ・

 ・

 ・



 少し遅めの昼食をとって缶コーヒーで一服していると、慌ただしくギアスが戻ってきた。そして、葵に肩もみしてもらっている今の状況を見て、唖然とした。いや、まだ六歳なのに肩がこってつい。


 その後、何を思ったのか、ギアスは深呼吸をするとゆっくりと腰を下ろした。さっきまでの慌てようが嘘のように穏やかな顔で胡座をかき、俺が肩もみされている平和的な光景を黙って眺め始めた。目に入れても痛くないという孫を見守る祖父のような顔だ。


「どうしたんだ?ギアス」

「いや、さすがは〝恣意的な勇者(セルフィッシュ)〟と揶揄されるだけのことはありますな。肝の据わり方が違う」

「あぁ、そんな呼ばれ方もしてたな……うっ……葵、今のとこ良い」

「ここー?」

「そこそこ」

「………リアン殿には今の状況がどう見えているのか、お聞きしても構わないだろうか?」


 今は敵の侵略を受けている真っ最中だ。

 それも、道中で出会ったオークジェネラルのようなチャチな存在ではない。高位の悪魔が従える数千規模の魔物の軍勢。それがこの集落の南東方向に展開している。

 北側には広大で険しいエストア山脈があるこの立地では、安全な退路は西側しかない。だから非戦闘員を逃がすならそこなのだが、如何せん魔物が多すぎるため、戦闘中にそっちに流れていく可能性がある。ゆえに、この場合は籠城戦がベターだ。


「魔物の数はざっと2千体だ。浮遊にも結界にも魔力を割かなくて良くなった今の師匠なら、頑張れば何とかなるんじゃないか?」

「……では、ヤツらの奥にいる存在はどうするのじゃ」

「それなんだけど、フィーを殺したのは悪魔らしいな」


 俺は少しだけ目を細めた。

 恐らくフィーを殺した悪魔とは違うと思うが、悪魔なんて皆同じようなもんだ。憂さ晴らしにはお誂え向き。それに、何故この場所が分かったのかも知りたい。


「恐らく違う悪魔かと。フィリアを殺った悪魔は、ユイたちが追っているでな」

「唯はパーティーを組んでいるのか?」

「うむ。三人組の勇者パーティーじゃ」

「なるほど。だが、その悪魔の下っ端って可能性はあるよな」

「……そうじゃな」


 と、ギアスと話をしているうちに、特大の衝撃音が響いてきた。何かが地面に直撃したような轟音だ。その影響で、集落が大きく揺れた。


「師匠の魔法か。結界を破った悪魔の魔法弾にも劣らないな」

「ルイーゼの先制攻撃じゃな。儂はそろそろ行く。……あの悪魔は」

「気にしなくていい」

「それは心強い」


 不敵な笑みを浮かべたギアスが去ったあと、完全に置いてけぼりを食らっていた葵を伴って、悪魔の下へ残暑見舞いに赴く。




 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



 集落を護る結界が破られたのを感じ取った瞬間、私とギアスは同時に家を出て、正門へと急いだ。やはり足があるって良い。浮遊に魔力を使わなくて良くなったし、ようやく全力が出せる。


 正門へ到着した私たちは、門の櫓から見下ろし、遠方から迫ってくる魔物の大群を認識する。


「……ギアス。皆を」

「うむ!非戦闘員は北側に退避させておく。ルイーゼはどうするのじゃ?」

「あれを迎え撃つしかねぇが、奥のヤツはヤバそうだ」

「知性ある魔物も従えておるし、恐らく高位の悪魔じゃな。……ところで、リアン殿は」


 そこで、ギアスが当然の疑問を口にする。

 一緒に向かうと見せかけて、奴は家から出てこなかったのだから当然だ。その直前には、『用事がやってきた』みたいなことを呟いていたのだから尚更、手助けしてくれると思うだろう。


 アイツの珍行動を一々気にしていたら疲れるだけだ。どうせ来たばかりだからとかの理由で寛いでるんだろう。


「ほっといていいぞ」

「……なるほど。リアン殿の昔の異名を思い出したわい」

「ふっ、自己中なアイツにお似合いのあれか」

「じゃあ、避難を終えたら、少しリアン殿の様子を見に行ってくるのぅ」


 そう言ってこの場を離れたギアスを見届け、私は前方の魔物の大群を視界に収める。まだ攻撃範囲外の距離だ。しかし、確実に近付いてきている。

 統制された動きとちらほら確認できる上位種を従えているのだから、後ろに控えているヤツは爵位持ちの悪魔であることは容易に想像がつく。もしかしたら、先日フィリアを殺した悪魔と繋がっているかもしれない。


「だとしたら、私が直接屠ってやりたいが……」

「ルイーゼ、遠距離魔法と弓が使える者たちは配置に着いた。いつでも放てるぜ」

「わかった。合図を待て」

「俺達もいつでも行けるぜ」

「前衛の連中は、魔法や飛び道具で敵の数を減らしてからだ」

「オーケー」


 ヤツらを迎え撃つ準備はできた。

 あとは、もう少し近付いてくるのを待つだけ……と、警戒は怠らずに構えていると、強烈な魔力の収束を感じ取った。それは、ヤツらの後ろから発生し、徐々に膨らんでいく。


「さっき結界を破った魔力弾かッ」

「結界がない今、あれをまともに食らったら……」

「あの程度なら問題ない」


 私はすでに発動待機させておいた魔法を組み上げる。


「〈流炎降りゅうえんふ〉」


 こっちに飛来してきた悪魔の魔法弾に直撃して、それをかき消しつつ、魔物の軍勢の先頭付近に落下したのは、ドデカい炎の奔流。私の火炎系最強の殲滅魔法、〝流炎降〟だ。

 その影響で大地が揺れた。悪魔の魔法弾を防ぎはしたものの、魔物の方は全体でみたら一割も倒せてはいない。


「やはり、まだ距離があるか」


 そう考えると、あの魔力弾はかなりの射程だ。私の結界を破壊しうる威力を維持したままこの距離を飛ばすというのは、中々のバケモンである。だが幸いにして、今はこっちにもバケモンがいる。アレの相手はヤツに丸投げだ。本人もそのつもりだろうからな。


「ルイーゼ、また来るぞッ!」

「ちっ、ろくにクールタイムもないのか」


 私が再び魔法で迎撃しようとしたときだった。三度膨れ上がっていた魔力の収束が、突然消え、それとほぼ同時に、その地点に新たに二つの気配が出現した。

 リアンとアオイの反応だ。戦えないであろう彼女をわざわざ連れていくあたりが、いかにもアイツらしい。


「……魔力攻撃が消えた?」

「どうやらリアンが抑えてくれたようだ」

「「「「う、、、うおおおおおおぉぉ」」」」


 敵の魔法攻撃が止み、それを成したのが勇者リアンだと知ることで、こっちの士気が高まる。散々好き勝手して色々言われてきた勇者リアンだが、その強さは世界が知るところだった。

 そんな存在が子供の姿で生まれ変わったと聞いて、最初は皆信じてはいなかったが、ギアスや私の態度、そして高位であろう悪魔を抑えたというこの事実に、希望が見えてきたのだろう。皆、やる気に満ちている。このままの勢いで、一気に叩き潰す。


「我々はあの有象無象を屠ればいい。簡単だろ?」

「「「「「おおおおおおぉぉぉぉ!!」」」」」

「よし、私の魔法に続け。……〈光剣万刺こうけんばんし〉」


 私が久々に全力で発動した魔法。

 万の数の光の剣が虚空より飛来し、私の魔法射程内に足を踏み入れた愚かな魔物共を片っ端から串刺しにし、地面へと縫い付ける。その光景は、まさしく天罰のようであり、光り輝く剣に身体を貫かれた魔物共の汚ぇオブジェが量産されていった。


「「「「…………こ、この人も大概だ」」」」



下降気味だったブックマークが最近少し増えてきてて嬉しいです。

ありがとうございます!


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