第59話 幼馴染と瓜二つの少女
お久しぶりで~す!
まだまだ暑い日が続きますが、頑張って生きましょー笑
俺と葵はのんびり昼休憩を取った後、この地響きを起こしている元凶の元へ転移した。
視界が変わると、目の前には驚愕に目を見開き、アホ面で固まっている一匹の悪魔がいる。シックな衣を身にまとい、頑丈そうな二本の黒い角を生やした彫りが深いイケメン。見るからに高位の悪魔だとわかる風体だ。
なによりも、外にダダ漏れな魔力が周囲の生物・環境を否応なく威圧している。草木や空気さえも縮こまっていると感じる程である。
「こりゃ、驚いた。まだ転移魔法なんて代物が使える生き残りがいたとはな」
「どうもどうも」
「フッ、殺す前に聞いてやる。お前も勇──ッ!!」
話している途中で、悪魔は後方へ切り揉みしながら大きく吹き飛んだ。そして、呆気なく気絶し大の字で伸びている。やったことは単純明快。地を蹴って肉薄し、顔面に蹴りを放っただけだ。例えその全てが別次元のスピードと威力を伴っていたとしても、やったことは子供でもできる簡単な喧嘩の挨拶である。
人として最低限挨拶ぐらいはするが、呑気に無駄話をする気はない。もちろん知りたい情報はあるが、殺しさえしなければ情報を引き抜くのは容易だ。
「祐也君?その人、何か聞こうとしてたけど……」
「そうみたいだな」
「……私たちも聞きたいことがあったんじゃ」
「ああ。だから、こうした方が手っ取り早い。《メモリアウト》」
俺はその悪魔の頭を鷲掴みにすると、記憶を引き抜くスキルを発動した。引き抜くといってもあくまで閲覧するのみで、奪う訳ではない。これに近いスキルで《メモリリブァイズ》というものがあるが、こっちは記憶を改変してしまう凶悪なヤツだ。まぁ、記憶を弄るのは流石に可哀想かなと思って。
「…………びっくりしたぁ。これは似すぎだろ」
直近の悪魔の記憶を覗くと、自然が干上がった荒野にて4人の登場人物がいた。まず、この悪魔と同等かそれ以上に感じられる悪魔が一匹。こいつの仲間だろう。それから、この悪魔二匹と対峙する形で正面にいるのが、敵意剥き出しの三人の人間だ。
右に大盾を持った黒髪の力士のように肥えた男、左に長杖を携えた桃色髪の女、そして真ん中にいるのが、俺が知る昔の──高校生の時の咲良と瓜二つの少女である。
冒険者のような粗野な格好に、剣を両腰に二本差していても、その整った顔と意志の強そうな瞳は紛れもなく若き日の咲良そのものだ。
『追い詰めたわよ。羽虫共』
だが、これ程までに怒りを称えた咲良は見たことがない。口も悪いし。……いや、彼女は咲良じゃなかった。小学生で戦いの中に放り込まれ、ここまで生き延びてきた勇者、飯田唯だった。
『中々厄介ですね。邪神様方の猛攻を受けて、未だに生きている勇者は、やはり何かが違う』
斜め前でこちらに背中を向けている悪魔が、余裕そうな声音で話す。態度や雰囲気から察するに、コイツよりも格上だろう。悪魔の階級なんてろくに知らない俺からしたら、ちょっと強いかな?って感覚だけど。
『御託はいいンダナ。フィリアちゃんの仇はボクが取るンダナ!唯は見てるだけで良いンダナ!』
変な語尾で話す力士風の大男が、唯の前に出て大盾を構えた。その直後、大盾も含めて巨体が赤いオーラを纏い、その先が九つに枝分かれすると、それぞれが竜の頭の形を取り、やがてそれは具現化する。
『ほう、この魔力。あなたも勇者でしたか。失礼。弱そうで気付きませんでした』
『……ワイはコウタ・ゴダイ。推しを殺されたオタの怒り、とくと味わうと良いンダナ!』
竜の頭部を象った魔力の塊が、それぞれに意思があるかのように動き出し、こちらへ殺到する。
俺、悪魔視点なんで。なるほど、これが敵の見る景色か(棒)
『ヒュドラ!アイツらを喰らい尽くすンダナ!!』
ズドオオオオトオォォォォンンン!!!!
力士風勇者──コウタの体から生えているように見える『九頭竜』がその強靭な顎で持って悪魔たちに食らいつき、地面まで抉り取った。
本来、魔力とはあくまで魔法を行使するためのエネルギーのようなものであり、それ自体には当然ながら実体はない。ゆえに、攻撃手段たりえない。だが、俺が昔やらかした魔力爆発やこの悪魔が集落へ攻撃していた魔力弾等も、言ってしまえば魔力である。
行き場を失い、濃縮されたエネルギーは、やがて限界を迎え破裂することになる。その原理を逆手に取って攻撃手段へと昇華させたのが、悪魔が良く使う魔力弾だ。
魔力とは、常人では計り知れない程の自然原理であり、その用途は恐ろしく奥が深い。多くの魔法、魔力制御を体得してきた俺ですら理解できない部分は多い。
そう、魔力制御。これは最上級魔法を会得するよりも難易度が高い。なんせ自分の中と外にあるよくわからんエネルギーというか気体というか、オーラ?を支配下に置き、制御しなければならないのだ。例えるなら、言葉の通じない動物を自分の思い通りに手足のように使うのと同じだ。……ちょっと違うかな?
【違います。魔力に生命はありません】
いやだから、例えでね。。。
おっと。そうこうしているうちに悪魔の記憶では、コウタが肩から血を流し、こちらを睨み付けていた。
何の話だっけ。あぁ、つまり、魔力の具現化は相当に難易度が高いということだ。それこそ勇者クラスの人物でなければ会得困難な程に。
それもあってヒュドラの具現化には驚いたが、彼の場合は如何せん魔力量やその質の方に問題がある。あれでは、身体のほとんどが魔力で出来ている悪魔には、それ程のダメージとはならない。現に、この記憶を持つ悪魔は微動だにせず、魔力障壁のみでヒュドラの一撃を防いでみせている。
そしてその間に、もう一人の悪魔は超跳躍し、スピードに振り切った高速の魔力弾を放っていた。見るからに大した威力のない魔力弾だが、恐ろしく速いソレは、コウタの肩口を掠り、なんとUターンして戻ってきたのである。魔力弾の制御が完璧にされている証だ。
そして、その悪魔が次にとった行動は、魔力弾に付着したらしきコウタの血液を体内に取り入れることだった。その様子を見て、俺はこの悪魔が異能持ちの悪魔だと気付き、またそれを裏付ける記憶が流れ込んでくる。
「……『血征体』。血を取り込んだヤツの身体を乗っ取り、精神支配する異能……か。これをレジストするには、術者と同等以上の魔力適正か強靭な精神力が必要……と。さて、この勇者は」
次の瞬間、コウタの目が赤黒く変色し、その場で膝をついた。そして、術者である悪魔の体は霞んで消えた。
「……負けたか。じゃあ、こっちの女も危ういなー」
記憶を覗きながら、勇者vs悪魔の戦いを実況する俺。遠方で絶賛行われている師匠率いる集落の人たちvs魔物の軍勢を見て応援している葵。
消えた悪魔に意識を向ける唯。膝をついた仲間に意識を向ける魔法使いらしき桃色髪の女。四者四様だ。
その魔法使いの女は回復が必要だと思ったのか、無防備にコウタへ近寄り──勢い良く突き出された大盾によって弾き飛ばされ、後方の岩に背中から激突した。魔法使いの女は血反吐を吐き、ズルズルと落下し臀を地面に付けた状態で、岩を背にしてピクリともしない。見るからに瀕死。明らかにクリティカルヒットだった。
『康太……君?』
女子高生の年齢なのに、眉間にシワが寄る程静かにキレている唯。おー怖。あの力士っぽい勇者とは違って、彼女はかなり強そう。
『フン。勇者のメンタルも存外大したことない。おいグリス。彼らの拠点は西の最奥にある森の中だ。強力な隠蔽結界が張ってあるが、確実に認識していれば作用しないようだ』
『なっっ!?』
『なるほど。じゃあ、そこらの魔物でも連れて遊んでくるわ』
この異能は、対象の記憶も乗っ取る。つまり、集落が襲われたのは、この雑魚勇者が漏洩したというわけだ。
そしてこの悪魔はさっさとこの場を離れ、今に至ったわけだな。当然ながら、その後の展開は不明。ただ一つわかったことは、唯がめっちゃ咲良だったということだ。
「だいたいわかった。よし行こうか、葵」
「お師匠さん、凄い!っ、えっ、えっ?えっと、なにがわかったの?どどど、どこに行くの~??」
俺は片手で掴んでいた悪魔を雑に異空間へ飛ばし、葵と手を繋いで再び転移した。
師匠たち、頑張れ!




