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第24話 大山大悟というやつ

少し間があいてすいません。


遊び呆けていた学生時代に始めてれば良かったなぁと思う今日この頃です。

 

 幼稚園の保健室──。


 椅子に座る俺の前には、ベッドで寝ている遥先生の姿があった。

 時折うなされているようで身動ぎしているが、起きる様子はなく爆睡している。

 やはり、ろくに寝ていなかったらしい。


「……寝てると、より先生には見えないな。少し成長の早い小学生って感じだ」

「わたしは先生ですッ………むにゃむにゃ………」


 ……びっくりした。

 寝ている人に話しかけると、返事するというのは本当なのか?

 ただの寝言にしてはタイミングが良いが。


 などと思いながら、ただ遥先生の顔を眺めていると、ドアが開いて長身の女性が入ってきた。

 眼鏡を掛けていて白衣を纏っている、知的な雰囲気のある先生である。

 この幼稚園の養護教諭だ。


「ゆうやくん。お父さんが仕事を切り上げて迎えに来てくれるそうよ。もう少し待っててね」

「うん。ありがと」

「うふ。それにしても、ゆうやくんが遥先生を連れてきたときはびっくりしたわ。車椅子で運んでくるんだもの」

「遥先生が倒れちゃったから………」

「そういうときは、泣き出すか先生を呼びにくるかのどちらかなのだけど………」


 さすがに担いで運ぶわけには行かず、近くに置いてあった車椅子を拝借したのだ。

 気絶したマダムたちは、適当なベンチに寝かせてきた。

 今頃はもう帰宅してるはずだ。

 膝の傷が消えた子供と共に………。


「………あのときは笑って流してたけど、遥先生の言っていたことが今ならわかるわ」

「ん?」

「いえ、なんでもないわ。先生はまだ少し仕事があるから遥先生のことお願いね」


 そう言って、彼女は保健室を出ていった。



「遥先生が可哀想だったから、子供の傷つい治しちゃったな。まぁ、これでとやかく言われないだろうからいっか」


 俺は、さっきの件を無かったことにするため、子供の傷を魔法で治癒した。

 もちろん、その子供には目を瞑ってもらってるうちにやって、おまじないってことにしたし、周りに人がいないことを確認した上で実行したので大丈夫なはずだ。


「でも、なんか忘れてるような?……あぁ、後ろに大悟がいたわ………寝ぼけ眼だったからきっと大丈夫だよな?」


 少しだけ心配になったが、別にバレても問題ない相手なのでこれ以上気にしないことにした。

 その後、恭介が迎えにきたが、遥先生は目を覚まさなかった。








「ただいまぁ、ううぅぅ」 


 目元をゴシゴシ擦りながら、覚束ない足取りで大悟はリビングに入った。

 今にでも寝てしまいそうな感じである。


「おかえり、大悟。靴は揃えた?」


 リビングが見渡せる所にあるキッチンから顔を出した大悟の母親が、そう声をかける。


「う、ん」

「じゃあ、手は洗った?」

「う、う、ん」

「洗ってきて。おやつ、あるから」

「──ッ」


 一気に目を見開いて覚醒した大悟は、すぐに踵を返した。


 十秒後──。


「おやつ」

「大悟。手を濡らしたのを洗ったとは言わないの」

「…………」


 またすぐに洗面所へ向かう大悟。


「うがいもしなさいよー」

「わかってるよっ」


 しっかり手を洗って戻ってきた大悟は、さっそくお楽しみのおやつタイムである。

 お昼にもたくさん食べたというのに、四角く切ってある一口サイズのケーキを嬉しそうに頬張っている。


 大好きな食事中だからか、一旦眠気が薄れた大悟は、今日の出来事を楽しそうに話し出す。


「ママ。ゆうやはね、ア○パンマンだよ。絶対」

「え?……ゆうやくん、ヒーローなの?」

「うん。悪いやつら(遥先生を苛めるマダムふたり)を懲らしめてね、先生を助けたんだ。それにね、それに、仲間(怪我をしていた子供)の傷を治したんだよっ!」

「………あぁ、もしかして、劇の練習なの?」

「違うよっ、だからね───」


 その後も、大悟の要領の得ない話が続く。

 祐也の読み通り、見られてもなんら問題のない相手であった。







 ~・~・~・~・~・~・~・~・~・~



「遥先生。一昨日は大丈夫でしたか?」


 複数のクラスの副担任を掛け持ちしている河合俊介先生が、合間を見つけて、遥に話しかけてきた。


「河合先生………」

「ん?どうかしましたか?」

「い、いえ………」

「そうですか。子供はどこで怪我をするかわかりませんからね。しっかりと、見てないとだめですよ」


 最後に含みのある笑みを溢した俊介は、遥の横を通りすぎてスタスタ歩いていく。

 その表情は、先程までとは打って変わり、怖いくらいの真顔だった。



「あ~イライラするッ。遥で遊ぶぐらいじゃ、全然紛らわせられない。それもこれも、朱美さん親衛隊なるバカパパどものせいだっ!なんだよ、親衛隊って………あ~うっぜぇ」


 頭を強くかきむしりながら、素の口調と表情で本音を吐露している。

 彼は、初めて朱美を目にしたときから、常に機会を伺っていた。

 自分のモノにする機会を。


「初めて朱美を見たときの衝撃は今でも忘れない。俺が堕としてきたどの女と比べても、朱美の前では霞む……。さっさとあの宝石のようなカラダを俺のモノにしたいっていうのに………なんなんだ、あいつらはッ」


 朱美は、このわかば幼稚園でマドンナ的地位を確立している。

 その最たる例として上げられるのが、去年、新しくできたばかりの組織──父兄会。

 裏の名を、“朱美さん親衛隊“。

 彼女が一歩幼稚園に入ると、すぐさま現れ一定の距離を保ちつつ見守っている。

 その構成人数は20人強に及び、その中には、大企業の若社長や有名プロレスラーまでいて、常に俊介の動向に目を光らせているのだ。


「……まさか、俺が狙ってることに気付いてるのか?いや、幼稚園では常に優しく頼りのある先生を演じきれてるはずだ。よく目が合うのは偶然だろう。祐也君公認だかなんだか知らないが、これ以上邪魔をするなら多少強引な手をとってでも………」


 爽やかな笑顔を顔に張り付け、表情と一致しない荒い口調でボソボソと独り言を溢しながら廊下を歩いていく。



 そして今、俊介が通りすぎたトイレの中では──ふたりの子供が用を足していた。


「……やっとボロを出したか。ふっ、それだけあの連中にイラついてるってことか。最初聞いたときは、呆れてものも言えなかったけど、意外と効果覿面じゃん」

「ゆうや。それでね、やられちゃったんだけど、ド○ンちゃんが助けにきてくれてね、それで──」

「強引な手……ねぇ。何を考えてるかわからないが、内容によっちゃ、消すぜ?」

「……ねぇ、ゆうや。聞いてる?」

「え?あ、ああ」


 大悟と一緒だと、雰囲気がぶち壊しである。

 俺今、結構殺伐としたこと考えてたんだけど?

 とか思いつつ苦笑いしていると、なぜか大悟の話が最初に戻っていた。

 なんで俺といるときは寝ないんだこいつっ!






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