第25話 河合俊介の企み
恭介と俊介、似てるので誤字があったらすいません。
名前のチョイス間違えたなぁと……。
「いないいなーい、ばあっ!」
俺が変顔をすると、必ず笑ってくれる琴那に癒されながら、ひたすらあやし続ける。
「高い高ーい!」
「あいあい~」
「………可愛いすぎる」
俺はそれから何時間も琴那を抱っこしながら、あっち行ったりこっち行ったりをしていた。
そして、ようやく笑い疲れたのか、天使のような寝顔を見せる。
「こと。どうしてお前は天使なんだ」
脳内で完全に“ことフィルター“が掛かっている今の俺は、自然とミュージカル調でセリフを紡ぎ、テンションがハイになっていることに気付かない。
寝たあとも、俺の腕の中で抱きしめながら、黙って天使の寝顔を見つめ続けていた。
そんなわけで、朱美がママ友とのお茶会から帰ってきていないことに気付いたのは、お腹の虫が鳴った午後五時過ぎのことだった。
「ママー?まだ帰ってないの?」
琴那をベッドに横たえてから、リビングに戻り声を掛けるも返答がない。
というか、気配がないので帰ってきていないのは一目瞭然であったのだが。
とりあえず、朱美のスマホに電話をかけてみる。
ツー、ツー、ツー。
……繋がらない。
嫌な予感が脳裏を掠め、反射的にひとりの人物を思い出した。
「さすがに犯罪には手を染めないと思ってたんだが、俺が甘かったのか?………いや、ただ単に買い物中ってこともあるよな」
俺は例によって朱美の生命反応を呼び出す。
「…………どこだ、ここは?」
あまり離れてはいないが、知らない建物だった。
もしかして、新しいお店でもできたから、ママ友とショッピング中とか?
『この地点は、現在空き家になっています。元は、ラブホテルが入っていました』
俺の有能なスキルさんが、答えを返す。
「…………そうか。いつも悪いな」
『スキルに感謝など不要です。マスター』
「そうか?心なしか、声が弾んでいるように聞こえるけど」
『…………』
「まぁいい。今はそれよりも…………」
式神・火諜鷲
どこからともなく現れた、無数に舞う長方形の真っ白な紙。
それらが寄り合わさり、小さな鷲の形を象る。
スキル“式神操作“で作り上げた俺のオリジナルだ。
さらにそこに、火系統の魔法も合わさっており、見た目は不死鳥のように翼が燃えている。
「この地点へ偵察を頼む。中に入れなければ、俺が転移するから場所を記憶しろ」
『……………』
俺の命令を受けた火の鷲が飛び立ち、窓から北の空へと飛んでいった。
待つこと五分。
火諜鷲が灰になって消えたのを知覚した。
「さすが、速いな。……やはり、中への侵入は無理だったか。ということは、人がいるってことだな」
火諜鷲は、情報収集用の式神で常に誰にも見つからないように行動するため、建物に入れないということは、つまりそういうことだ。
そして、火諜鷲が見た映像を、俺の脳内で映し出す。
視界をリンクさせることも一応可能なのだが、その場合は魔力を消費し続けるので、念のため記録として見ることにした。
場所を鮮明に把握できてさえいれば、今の俺なら転移可能な距離だ。
古ぼけた感じの三階建ての建物が見える。
外れかけた看板には、確かにHOTELと書かれている。
その横にある小さな駐車場には車が二台止まっており、窓などはないが、確かに人がいそうだった。
「もし本当に朱美に手を出してんなら…………文字通り、消す」
俺はもう一匹の火諜鷲を産み出し、お留守番をお願いしてから、その場で転移した。
~・~・~・~・~・~・~・~・~・~
「ここは…………?」
気が付くと、薄暗い部屋のベッドの上にいた。
視線だけで周りを見渡しながら身を起こそうとしたところで、バランスを崩して前のめりに突っ伏してしまう。
「あだっ、鼻が………」
シーツの上に鼻をぶつけたので、反射的に手で擦ろうとして、腕が後ろから動かせないことに気付く。
どうやら、後ろ手に縛られているようだった。
「これって………わたし、誘拐でもされたのかしら?」
いつものおっとりした口調で、冷静に状況を分析していた。
彼女は、基本的に慌てることがない。
“胆が据わってる“ともいう。
恭介が結婚を決めた魅力のひとつ“余裕のある大人の女性“である。
まぁ、この状況でも余裕というのは、少々場数を踏んでいるというのもあるのだが──。
ここに至る経緯を思い起こそうと、頭を捻っていると、正面にひとつだけあるドアが軋む音を立てながら開いた。
「ようやくお目覚めですか。…………おぉ、美しい。これは、俺でも君に相応しい言葉が思いつかない」
そう甘ったるい声を発しながら入ってきたのは、彼女のよく知る人物……息子が通う幼稚園の副担任──河合先生だった。
「河合、先生?いったい、どういうことですか?」
さすがの朱美も、いつもと全く違う雰囲気を醸し出している俊介に驚きを隠せない。
彼女が知る河合俊介という人物からは、こんなことをするなんて考えられなかったのだ。
これは、決して彼女が鈍いのではなく、俊介の猫かぶりと祐也の観察眼が抜きん出ていただけである。
「いやー、普通に誘うということができなかったので、少し強引な手を使わせてもらいました。君が飲んでいたタピオカに眠くなるお薬を混入してね」
「──ッ。いつ………」
「向かいに座っていた櫻井さん。彼女、俺の女なんですよ」
「なっ………」
朱美の滅多に見られない唖然とした顔が、俊介の琴線に触れたらしく大笑いを始めた。
ひとしきり愉快そうに笑ったあと、肉食獣が獲物を前にしたときのような鋭い眼光を朱美に向ける。
「そして、今日からは朱美。君も俺の女になってもらう。ここは一応防音だから好きに泣き叫んでも構わないけど、朱美にはそんなことして欲しくないな。いつも美しい君を汚したいとは思わない。美しいまま、俺に堕ちろ」
獰猛な瞳で舌なめずりしながら、徐々に近付いていく俊介を前にして、朱美はただ黙って見返していた。
その瞳には、驚きも怯えもない。
いつもと変わらぬ余裕のある態度だった。
「ああ、綺麗だ。そのままで、俺のモノに…………?」
凛々しい顔つきで俊介の目を見返してきていた朱美の瞳が、急に閉じたかと思うと、背中からベッドに倒れ込む。
(な、なんだ?……実は、恐怖を抱いていて限界がきたから気を失った、とかか?)
「あけm………」
「おい。死ぬ覚悟はできてるな?」
「───ッ!!」
背後から、得たいの知れない強烈なプレッシャーと共に、ドスの利いた昏い声がした。
それを肌で感じた俊介は、恐怖で足が竦み、体が思い通りに動かせない。
今すぐ逃げた方が良いと本能が告げているのに、振り向くことすら叶わないのだ。
「な、な、な、」
上手く言葉を発せない俊介を、後ろの人物は嘲笑う。
「何か言いたそうだな?」
「お前………どうやって…………」
「もしかして、下の階にいた連中のことか?もちろん、邪魔だから眠ってもらった」
「………………」
「それにしても、お前は運が良い。もし、朱美を傷物にでもしていようなら、お前を殺していたところだ」
「……お前は、いったい………」
「十秒やる。朱美に謝って、二度と近付かないと誓え。そうすれば、今回は見逃してやる」
「何をッ……」
「十」
「おい」
「九、八」
男は、問答無用で死のカウントダウンを始める。
「七」
「おいっ!何をする気だッ!」
「六、五………」
「わか、わかったから、ちょっと待てッ」
「四、三………」
「……朱美さん、申し訳ありませんでした!二度とこのようなことをしない!そして、今後一切近付かないと誓う!」
「破るなよ?もし、破れば……」
そこで、男から放たれていたプレッシャーがさらに強まり、俊介は崩れるようにして地に伏した。
「俺も甘くなったな。まさか、遥先生の顔がちらつくとは思わなかった……」
男は自嘲するような苦笑いを溢してから、その小さな身体で朱美を抱き上げて、その部屋を後にした。
「タイミングが良すぎる!」と、自分でツッコミを入れていました(笑)




