愛死手流! 勇者ファンクラブ!
◇◇
この世界は5つのエリアに分かれている。
そしてそれぞれの地域で象徴的なものがあるのだ。
西は『塔』。
北は『氷山』。
南は『浜辺』
そして、
中央は『王宮』。
東は『魔王城』。
人間が東の『魔王城』への道を切り開く為には、なぜか西、北、南の三か所に居座っている『中ボス』を倒さねばならない。これは仕様である。
勇者タイシは『西の塔』の中ボスであるタイガ将軍を倒した。
彼らが次に向かうのは『北の氷山』だ。
しかしその前に、彼らは国王に呼ばれて『中央の王宮』へと足を運んだのだった――
………
……
王都に入ってから王宮までのメインストリート。
『西の塔』の主を倒した勇者を一目見ようと、大勢の観客が所せましと押しかけていた。
もちろんタイシたちにも民衆の熱狂ぶりは事前に聞かされている。
なんと『勇者ファンクラブ』なるものもできているらしい。
そしてタイシは王都に到着するなり『ファンとの集い』に参加することになっているのだった。
「ははは! みんな、安心してくれ! 俺はただ一人の誰かのものじゃない! みんなの勇者だ! だから、決してファンにちょっかいなんて出さないから! ぐへへ」
勇者タイシよ、つまらぬ嘘をつくでない。最後の笑い方でバレバレである。
「ふん! あんまり調子に乗ると痛い目にあうわよ!」
リリアンが鼻を鳴らすと、タイシは彼女の顔を覗き込みながら言った。
「あれえ? リリアンさんはもしかして嫉妬しちゃってるのかなぁ? 俺の人気が爆発したことに」
リリアンは顔を真っ赤に染めると、タイシに向けて口を尖らせた。
「んなわけないでしょ! いい加減なことを言うと、あんたを爆発させるわよ!」
「ははは! それはやめてくれないか! 俺のファンたちが悲しむだろうから」
タイシの言葉にスカートの中のアカネが反応した。
「ファンがどんな人たちかも知らないくせに、ずいぶんと大きなことを言うのね!?」
「ははは! 俺を愛してる人たちなんだぜえ? 俺が愛せないはずはないだろう!」
調子に乗りまくって天まで飛び上がっていきそうなタイシに、リリアンが声を震わせながら問いかけた。
「だったらあんたが愛せなかったらどうするのよ!?」
「その時は、リリアン。俺を爆発してくれてもかまわないさ。ははは!」
くくく。見事なフラグを立ててくれたではないか、勇者タイシよ。
こうしてタイシのくだらない自慢話でリリアンとアカネがうんざりしていたところに、前を行くソフィアの声が響いてきた。
「あっ! 見えてきました。王都です!」
「おお! ついにきたか! 俺も心待ちにしてたぜ! 愛するファンクラブの美少女たちよ! あはは!!」
タイシは目を輝かせながら、その場から一人で駆け出した。
誰もテンションマックスの彼を追いかけようとする者はいなかったが、アカネだけはそうもいかない。
彼女はスカートの中でぐらぐらと揺られていたのだ。
……と、次の瞬間。彼女の耳に民衆の声が響き渡ってきた。
――うおおおおおおっ!!
想像していたものよりも、かなり野太い声だ。
――勇者さまああああ! うおおおお!
――こっち見てえええ! 勇者さまー! うおおおお!
――ああ……。早く食べちゃいたいわぁ。うおおおお!
それらは、明らかに『人間のオス』の声。
スカートの中からでは外の様子は分からないが、スライムのアカネにも容易に想像がついたのだ。
勇者ファンクラブの人々は、みんな『オス』であることを――
タイシは「げっ!」という声とともに、ずりずりと後ろへ下がっていく。
しかしその肩をがっしりと掴んだのは、リリアンだった。
「あらぁ? どうしたのぉ? 『勇者様! 愛死手流』って垂れ幕、薔薇があしらわれて素敵じゃない」
「いや、違うだろ。そうじゃないだろおおおお!!」
タイシが頭を抱えて叫びだした。
それもそのはずだろう。彼が想像していたのは『若い女の子たち』ばかりのファンクラブ。
しかし目の前でずらりと並んでいるのは、『筋肉ムキムキの男たち』なのだから……。
「ふふふ、どうやら可愛らしいスカート姿が噂となって、殿方たちのお心を掴まれたようですね。さすがです、タイシさん!」
「がははは! うらやましいな、タイシ! みんなで筋肉について語り合えるじゃねえか!」
どこまでも楽観的なソフィアとダニエル。
しかしこの時ばかりは、タイシが彼らに調子を合わせることはなかった。
「裏口だ! 王都には裏口があるはずだ! そこから忍びこむぞ!」
道を変えようとするタイシ。しかしその首根っこをつかんだのはリリアンだった。
「待ちなさいよ。あんたはファンのことを愛してるんでしょう? もし愛せなかったら……」
「ゴクリ……」
「約束通り、爆発してもらうわよ」
「いやああああああ!!」
泣き叫びながらも、リリアンの爆発が怖いのか、一歩また一歩と前を進むタイシ。
――来たぞ! 勇者様だ! うおおおお!
――よしっ! 勇者様を『二丁目の花園』へお連れするんだ! うおおおお!
――ああ……。早く食べちゃいたいわぁ。うおおおお!
王都に入るなり、もみくちゃにされるタイシ。
「待て、待て、待ってくれ! 延期だ! ファンたちとの集いは延期!」
――照れてるのねぇ。うおおおお!
――ツンデレゴスロリ勇者なんて、ますます気に入ったわぁ。うおおおお!
――ああ……。早く食べちゃいたいわぁ。うおおおお!
「やめろ! あんっ! そこはだめだろー!! おいっ! ダニエル! 筋肉には筋肉で戦うしかねえ! どうにかしてくれ!!」
わらをも掴む思いで、ダニエルに助けを求めるタイシ。
どうやらダニエルにもタイシの気持ちが伝わったようだ。
「そうか! タイシはピンチなんだな!」
「そうだ! だからなんとかしてくれ! 頼むよ!」
「分かった! 俺に任せとけ!」
ダニエルは、ドンと分厚い胸を叩いた。
その様子に、タイシはほっと胸をなでおろす。
しかし勇者よ、お忘れか?
ダニエルは脳みそまで筋肉でできているということを――
彼はタイシのそばまでやってくると、くわっと目を見開いて周囲に一喝した。
「みんな聞いてくれ!!」
――何よ、あの男!? うおおおお!
――まさか勇者様の『恋人』!? うおおおお!
――ああ……。早く食べちゃいたいわぁ。うおおおお!
ダニエルは周囲の殺意に満ちた視線などものともせずに、言い放った。
「今、タイシは『ケツの穴』に大きな問題を抱えている!! だから『ソレ』だけは勘弁して欲しい!! 他は元気だから! よろしく頼む!!」
「なっ!? てめえ! 裏切ったな!!」
タイシが顔を真っ赤にしてダニエルに詰め寄ろうとする。
しかしダニエルは鉄をも粉砕する張り手をタイシの背中に飛ばした。
バシイイイイッ!
「ぐはあああっ!」
タイシは二歩よろめく。その先には男たちの太い腕が待ち受けていた。
ガシッ!
男の一人に力強く抱きしめられたタイシは、そのまま筋肉の渦の中へと消えていった。
「グッドラック・タイシ! 下がダメなら上があるさ! ニコッ!」
「いやああああああ!!」
――やっぱり間近で見ると可愛いわぁ! うおおおお!
――お肌がすべすべ! うおおおお!
――ああ……。早く食べちゃいたいわぁ。うおおおお!
こうして楽しい、楽しいファンとの集いは始まった。
そしていろいろなものを失ったタイシが仲間の待つ宿屋に姿を現したのは、深夜になってからのことだった。
しかし『中央の王宮』で待ち受けている困難は、まだ始まったばかり。
果たして勇者タイシとスライムアカネは、困難を乗り越えることができるのだろうか――




