~終わりと初まり~
夏休みが終わった。それは長いようで短かった。ただ、この年の夏休みは俺にとってみんなにとって特別なものだった。いや、この二学期が始まるまでが俺たちにとって特別なものだったのかもしれない。
九月だというのに暑い。残暑どころじゃなく。これは本暑だなんてバカみたいなことを思いながら長い坂道を歩いていた。俺の初めての登校だ。高校二年になってからの初めての登校。ただそれだけのことなのに涙がこぼれた。きっと傍から見れば変な人だと思われるだろう。
涙を拭い階段を上がる。一歩ずつ一歩ずつ踏みしめて歩く、青々とした緑からいつか見た木漏れ日が揺れていた。階段を上がり終えると、見えたのは校門だった。たくさんの生徒がその門をくぐる。俺も初めてその一人になった。
そして、初めての始業式が行われた。長く退屈な校長の話しが始まった。俺は、そんなものを耳に入れず。ただボーっと風の音を聞いていた。そんなことをしていると校長の話しはいつの間にか終わっていた。
始業式が終わるとその日の授業は何もない。俺は急ぎ足で部室へと向かった。
部室の扉を勢いよく開けると祥悟と如月がゲームをしていた。今日もストリートキングファイターか。
「如月、今なん連敗中だ? 」
「聞かないでくださいよ」
「真志、こいつが俺に勝てるとでも? 」
「思う訳無いだろ」
俺と祥悟は如月を馬鹿にしながら笑った。
「じゃあ、負けた奴俺と交代な。まあ、如月が交代するだろうけど」
「うっさいすよ」
俺と正午は笑い、如月は頬を膨らませて怒っていた。
「負けたー」
「交代な」
俺は如月が差し出したコントローラーを手に取るとキャラクターを選ぶ。祥悟はいつもの赤髪だ。だったら俺は、この金髪帽子にするか。
「神山先輩はこのゲームやったことあるんですか」
「シリーズ最新作は初めてだが、こいつにこのゲームを教えたのは俺だ。だから負けん」
2分後。
「負けただと。この俺が負けた。それも、パーフェクト勝負だと」
「二分前のお前に見せてやりたいよ」
「宮城先輩の本気を見てしまった。私とやる時はめちゃくちゃ手を抜いてくれてたんですね」
「いやこれでも全力の5割だ」
俺は敗北の味を噛み締めながら地面に手を突いていた。そこに、水島が部室の扉を開けた。水島は荷物を自分の席に置くと持参した麦茶を湯呑に淹れて俺たちに渡した。
「どうぞ~」
「サンキュー」
俺は少しにやけている水島からキンキンに冷えた麦茶を受け取るとグイッと飲む。冷たい麦茶が喉元を通るとこの暑さも忘れるくらい気持ちが良かった。
廊下からドタドタと走ってくる音が聞こえる。
―――バーン
「みんな映画を撮るわよ」
「えっ! 」
突然扉を開けた京子の第一声にほとんど全員が驚いていた。
「京子どういうことだよ」
俺はとりあえず突っ込んでみる。
「それはね。瑞樹ちゃんの口から聞きなさい」
俺たちは水島を見る。水島は立ち上がりみんなを見た。
「えっと、8月の終わりに兄の意識が戻ったの」
「マジか? 」
「良かったな」
「良かったっす」
「これもみんなのおかげです。ありがとう」
水島はみんなに何度もお辞儀をした。
「その時、兄が不思議な事を言ったの。ある時、夢で小さな男の子が『もう起きる時間だよ。あなたの止まってる時間を進める時が来たよ』って耳元で囁いたんだって。そして、目を開けてみたら自分の未完の映画が完成しているのを見て感動した。って言ったの」
俺たちはその男の子が誰なのか気付いた。どうやら水島も気付いているようだ。
「それで、その夢で見た男の子に感謝の気持ちを込めて映画を撮りたいんだって」
「みんなどう、協力してくれるわよね」
京子がみんなを睨む。
「当然協力するに決まってんだろう」
俺は水島にサムズアップしてみせる。
「もちろん当然だ」
「もちろん協力するっす」
二人共笑いながら水島を見ていた。
「ありがとう」
水島はまた同じように何度もお辞儀をしていた。みんな笑っていた。部室の窓際に置いてある写真の涼一は笑っていた。まるで、俺たちと一緒に笑ってるようだった。俺はそれを見ると部室の窓を開ける。その時、俺たちのそばを懐かしい風が吹いていた。
良かった、兄さんはちゃんとやれてるようだ。僕は部室が見える中庭にはの木に座っていた。まだいていいよね。今日のこの日ぐらいいてもいいよね。その時が来たら……。いや寂しくないよね。うん、悲しくないよね。心配することはない。みんななら大丈夫だ。
最後にみんなで過ごした場所を見て行こうか。
一年生の教室を目指す。もうそこには誰もいなかった。『僕』の席に座る。ここが初まりだ。この教室で学園F・N・F解明部はできた。祥ちゃんがゲームで勝ったことで部を成立させることができた。あの時の僕の姿を思い出す。京ちゃんの命令で『僕』が女装をした。傍から見ていた少し恥ずかしかったけど、案外似合っていたなと思う。今にして思うと兄さんも女装をしたら案外可愛いかも知れないな。なんて思いながら笑っていた。
席を立ち体育館を目指した。すでに、バスケ部やバレー部の練習が始まっていた。
この場所でバスケ部と勝負をした。結局兄さんのおかげで勝てたんだ。やっぱりみんなには兄さんが必要なんだよ。兄さんが戦っている姿はかっこよかった。最後のブザービーターの時は僕もみんなと一緒になって「入れー!」って叫んだんだよ。ゴールに入ったときは本当に嬉しかったな。
兄さんが他の部と勝負した場所を次々と見ていった。次に足を運んだのは、水島さんと出会った場所だ。ここで水島さんのお兄さんと出会った。僕は水島さんと彼をちょっとだけ羨ましいと思ったんだ。まだ、生きているし、意識もいつかもどるかも知れない。僕と兄さんにはもうできないことだった。だから、少しだけお手伝い。彼の耳元で囁いた。
そして、今日彼の意識が戻ったことを知った。本当に嬉しかったな。これから水島さんがお兄さんと仲良く楽しく過ごしてくれたらと願う。
次は奈央ちゃんと出会った場所。僕は幽霊だから屋上に向かうのも簡単だ。だから、ちょっと奈央ちゃんや兄さんの必死さを思い出すと少しにやけてしまった。
屋上は誰もいなくだだっ広かった。確かにこの場所は昼寝をするにはもってこいだと思った。横になってみる。太陽が眩しくて眠ることなんてできなかった。まあ幽霊だから眠るなんてことはないのだけど。目を瞑りあの時を思い出す。僕は奈央ちゃんをみんなと出会わせるためにびっくりさせてしまった。あの時の彼女の顔も申し訳ないけど面白かった。
屋上から外を眺めてみる。下校時間なのだろうみんなが校門をくぐっている。その外側を歩く一人の中学生に目がいった。その中学生は寂しそうに歩いていた。僕は少し祈ってみる彼が寂しくないよう過ごせるように。
さあ、もう行こう。みんなの幸せを祈って。
高校の屋上で白い泡が天に昇るのを僕は見た。
学園F・N・F解明部 完
皆様長い間お付き合いいただき誠にありがとうございます。
これにて学園F・N・F解明部は完結しました。
初めてここまで長い長編を完成させることができました。
この話で書きたかったことは人間関係や愛情なんかです。
感動できる話だと自分では思っています。
あと第一章から第七章までの真志の地の文では、幽霊の涼一目線での文がいくつかあります。
そういうのも見つけつつまた最初から読んでもらえると嬉しいです。
皆様本当にありがとうございました。




