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学園F・N・F解明部  作者: 山神賢太郎
学園F・N・F解明部
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涼しい風の音

 俺たちの最後の答え合わせ。最後の解明をしよう。

 俺は京子の手を取り走る。涼一の待つ場所を目指して、ひたすら走る。

 走ってるだけなのに涙がこぼれてきた。俺は涼一が死んだということが認めたくなかった。だから、七年間も嘘をつき続けたんだ。

 俺は、涙を拭き前を見る。遠回りした答えと出会おう。

 走ってたどり着いた場所は、涼一の眠る墓の前だ。初めて俺は俺自身の足でここに来た気がする。俺は、すべてを避けていたんだ。

 「どうしたんだ」

 振り返ると、そこにいたのは祥悟だった。俺はなんて言っていいかわからなかった。

 「真志が言いたいことがあるらしいの。みんなが来てから話すわ」

 京子とそんなことを話してはいなかった。でもみんなには話しておかなければならない。俺が誰なのか。

 「そうか。わかった」

 祥悟はたぶんわかっている。あいつは、妙なところで感が冴える。だからなのか、すこし悲しそうな顔をしていた。それでも追求してこないのがあいつのいいところだな。

 数分後、水島と如月がやってきた。

 全員が揃った。まずは俺と涼一の話しをしなければならない。俺は、みんなに全てを話した。俺が本当の真志であること、涼一のこと、あの日のこと。何も知らない水島と如月は驚いていた。それもそうだろう。俺は嘘をついていたんだから。その嘘に付き合ってくれた京子も祥悟にも申し訳ないことをした。

 「ここに。この場所に、みんなを呼んだのは俺じゃないんだ。涼一なんだ。たぶん、最後にみんなに会いたかったんだと思う」

 俺も最後にお前に会いたい。

 風が吹いた。懐かしさのある涼しい風が吹いた。その風が呼んでいる気がした。俺は、その風を追いかけるように走る。風がたどり着いた場所、そこはすぐ近くだった。木に囲まれたその場所には木漏れ日が降り注いでいた。気が付けば俺の後ろにみんながいた。

 「みんな来てくれてありがとう」

 その声は、目の前にある一際大きな木の後ろから聞こえた。俺はこの声を知っている。そう、この声は涼一の声だ。

 「ああ、みんなを連れて来た」

 そして、涼一は木の後ろから姿を見せた。その姿は、高校生ではなくあの日のままの小学生の涼一だった。その姿を見ただけで俺は音もたてず泣いていた。

 「兄さん……」

 涼一は、少し悲しそうな顔をしていた。そして、迷いを断ち切るかのように頭横に振った。

 「僕はいつもみんなのそばにいたんだ。今まで全部を見ていた。兄さんが二重人格になった時も、学園F・N・F解明部ができる時も。そして、みんなが出会った時も全部僕は見ていたんだ」

 涼一は俺たちの顔を一人ずつ確認するかのように見た。全員を見終わるとニコっと笑った。

 「僕は、ずっとこの日を待っていたんだ。兄さんが兄さんとして生きることができる日を。でもその時が来たらきっと兄さんは悲しむと思ったんだ。だから、仲間を増やしたかった」

 「仲間を増やしたかったってどういうことだ」

 涼一は俺の顔を見る。そして、また笑った。今度は京子と祥悟を見た。

 「最初のきっかけは京ちゃんだよ」

 「えっ私」

 その時、ここに来て初めて京子の顔を見た。その顔は少し泣いていた。

 「うん。京ちゃんが一学期の目標を決めて、祥ちゃんがあの旧映研の部室を見つけなければ何も起きなかったんだよ」

 祥悟はなにも言わないが静かに涼一を見つめていた。

 「そして、みんなは水島さんに出会った。僕も少しは手伝ったんだよ。うん。水島さん、君のお兄さんはもうすぐ目を覚ますよ。そしたら、あの日作った映画をもう一回見せてあげてね」

 涼一はニコッと笑いながら水島を見た。水島も涙を流していた。

 「次は、奈央ちゃんだ。正直に言うとあの謎の光は僕なんだ」

 涼一はいたずらっぽく笑った。

 「僕は、学園F・N・F解明部には奈央ちゃんは必要な人だと思ったんだ。僕がいなくなったあと、祥ちゃんの相手を出来る人間は奈央ちゃんだと思ったんだ。だから、学園F・N・F解明部と出会って欲しかった。でも怖がらせたのは悪いって思ってるんだよ。ごめんなさい」

 涼一は如月に向かって軽くお辞儀をした。

 「奈央ちゃんはこれからも祥ちゃんと仲良く遊んでね。よろしくお願いします」

 「了解っす」

 如月は敬礼をしていた。それを祥悟は鼻で笑ったが、その顔は喜んでいるようだった。涼一は全部俺のために動いてくれていたのか。涼一は俺が俺であるようにただそれだけを望んでいたのか。

 「お前は俺を恨んでいないのか」

 「兄さん僕はあの時、兄さんを助けに行かなかったらきっと後悔していた。僕は後悔したくなかった。兄さんを助けることしか考えられなかったんだ。だから、兄さんが助かってくれて本当に良かったんだ」

 「でも……」

 「僕は、兄さんが僕の人格を作ってくれたことは、最初は困惑したよ。でも僕はずっと見ていて過ごすことのできなかった青春が見れて嬉しかった。その反面兄さんがその青春を送れなかったことが僕は嫌だった。だから、兄さんに体を返したかったんだ。僕はみんなのそばで過ごせたことが本当に幸せだと思っているんだ。だから、これからずっと兄さんは笑ってみんなと過ごして欲しいんだ」

 俺は、偽りの中で生きてきた。みんなに嘘を吐いて、自分に嘘を吐いて。それで、癒されていた。そうやって嘘の中で生きることが楽だった。でもそれじゃダメなんだ。俺が前を進むためには真実と向き合わなければならない。

 俺は二度も救われた。涼一に二度も救われた。ただのエゴだったんだ。俺は、あの日諦めていた。助からないと絶望していた。なのに、お前は諦めなかった。そのせいでお前を死なせてしまった。そして、また俺は諦めた。自分の人生を諦めた。生きることに絶望していた。なのに、お前は生きる希望を与えてくれる。

 お前は、いつでも俺を救ってくれる。いつも俺が助けていると思っていたんだ。いや、そう思いたかった。お前を守ることで俺の心を守ることができていたんだ。でも逆だ。お前が俺を守ってくれていたんだ。

 ありがとう。もう、それしかお前に言えないよ。

 「ありがとう。お前はいつでも俺を救ってくれる」

 「違うよ。兄さんが僕を守ってくれてたから恩返しだよ。ありがとう兄さん」

 俺は泣いていた。その言葉だけで救われた気がした。全てが許された気がした。

 風が吹き始めた。木漏れ日が揺れ涼一に当たる。涼一の姿が透け始めていた。

 涼一は自分の手を見て、

 「もう時間だね。僕はみんなに会えて良かった。また、みんなに会いたいな。じゃあね」

 「涼一ーーーーーーー! 」

 風が強く吹いた。木の葉が宙に舞っている。そして、風は遠くへ行ってしまった。もう涼一の姿は無くなっていた。俺は遠くなっていく風の音を聞きながらただ泣いていた。

 京子は泣いている。祥悟は空を見ていた。京子、祥悟二人は今何を思っているんだろうか。水島は崩れ落ちながら泣いていた。こいつは、涼一のことが好きだったんだろう。俺のせいで好きな人と離れ離れになってしまった。すまない。如月は困惑していた。ずっと過ごしてきた仲間が急にいなくなったんだ。そうなるのも仕方ない。

 風が止んだ。七月の終り頃だった。俺はこの日を忘れないだろう。俺は、この日鳴った涼しい風の音を忘れることはできないだろう。優しい風の音だった。

 俺は、木漏れ日の揺れるその場所を後にする時振り返ってみた。その時、風が吹いた。その風は、まるで手を振っているように見えた。

 ああ、また会おう。俺はお前を忘れない。俺はその場所に手を振り笑った。


                            学園F・N・F解明部 解明

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