表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者様は非公表  作者: 湯瀬
おまけの小話
71/93

小話1-2 ◇ 国民感謝の打合せ

完結まで見守っていただきありがとうございました。

活動報告の方でいただいたリクエストにお応えして


・アスレイ視点の第27期生同期会

・アスレイの妻メナー視点による回想

・ゼンとセレンディーナの邂逅

・クラウスの愉快な(?)エピソード


の4点を入れた一連の小話を書き上げましたので、投稿させていただきます(全4話)。基本、毎日投稿です。


「──といった形で、いかがでしょうか?ラルダ様。

 規模は控えめではありますが、初回の試みですし、魔導騎士団の方々へのご負担の少なさを第一にするのがやはりよろしいかと思いまして。

 ご希望でしたら、もう少し拡張した案もいくつかご提示させていただきます。」


 とある平日の夕方。


 私は魔導騎士団施設の執務室で、ラルダ様に「第1回 魔導騎士団主催 国民感謝バザー」の企画案の詳細をお話ししていた。


「ああ。完璧だ。非の打ち所がないな。

 それどころか、本来であればこちらが考えておかなければいけないところまで先回りしてもらってしまった。

 ただでさえお体を大切にしなければならないところを、わざわざこちらまで出向かせてしまって……申し訳ないな。感謝する。」


 妊娠中の私の体調を気遣ってご丁寧に頭を下げてくださるラルダ様のお姿に、私はつい笑ってしまった。


「ふふっ。いえいえ、私が好きでやっているだけですから。

 むしろこのような面白いお仕事に携わらせていただけて感謝しております。ありがとうございます、ラルダ様。」


 私の返しを聞いたラルダ様は頭を上げて、少しばかり苦笑した。


「ははっ。礼ならばアスレイに言っておいてくれ。貴方の夫が立案し確保した仕事だ。

 ……それにしても、アスレイが魔導騎士団に学園講師にと好き勝手やっていられるのは、こうして公爵家の仕事を見事に遂行してくれる敏腕なメナー様のお力あってこそだな。

 仕事だけ確保してメナー様に丸投げではないか。まったく、アスレイは。メナー様には頭が上がらないだろうな。」


 ラルダ様のお言葉に、私は笑って首を振る。


「いいえ。逆ですわ。

 私を信頼して仕事を任せてくださるアスレイ様には、頭が上がりません。

 ……本当に。理解のあり過ぎる、いい夫です。」


 それを聞いたラルダ様は、声をあげて笑った。


「相変わらずあなたたちは、お互いに理解のあり過ぎる仲睦まじい夫婦なのだな。

 私はまだまだ未熟だが、いずれは貴女のような良き妻になりたいものだ。」


 ──「仲睦まじい夫婦」。


 いつから私たちは、こんな夫婦になれたのだろう。


 私はラルダ様からのお褒め言葉を、しみじみとしながら受け取った。



「そう言っていただけると。……後付けの(きずな)も、案外良いものだと思えてきますわね。」



 私とアスレイ様の間には最初、恋も愛も、ひと匙ほどのときめきも……これっぽっちの好感もなかった。


 私はアスレイ様に玉砕覚悟で婚約を打診したあのとき、すべてを捨てたつもりだった。


 私の夢も、希望も、憧れも、誇りも──……すべてを捨てて、屈辱に塗れながらオーネリーダ家に頭を下げた。

 没落しきった私と父に残された一番マシな結末は、アスレイ様との婚約だと思ったから。


 そんな惨めな私の姿を、口元の笑みを隠すこともせずに面白そうに眺めていた彼の顔。……あれを見た瞬間、私は確信して諦めた。


 ──私は絶対、一生この人を愛せない。


 私の人生は、この人のもとに()()()のだと……そう思った。


 あの確信が、いつから変わっていったのだろう。



 私は魔導騎士団施設から公爵邸へと帰る馬車の中で、当時のことを懐かしく、不思議な気持ちで振り返った。



◇◇◇◇◇◇


◇◇◇◇◇◇



 私の憧れの人は、お母様だった。


 王国西部タゼル領の女領主【ハナー・タゼル】。


 一代にして「高級タゼル(ビーフ)」のブランドを築き上げ、何もなかったタゼル領の貧しかった民たちの懐を潤わせ、生活基盤を整え教育水準を引き上げた。


 男社会の政治世界。その中でお母様は、他の貴族たちに一歩も引けを取らずに、常に強くあり続けた。

 何度「女だから」と舐められようとも、一切妥協せずに強気に渡り合った。そしてその確かな手腕で、信頼と実績を勝ち取っていった。


 幼かった私は、お母様に純粋に疑問に思って聞いたことがある。


「お母様はどうしてそんなにも強くいられるの?」


 そのときにお母様が笑って答えてくれたこと。


「私は家族とタゼルの領民たちを愛しているからよ。

 愛する者のためならば、私はどこまでも強くなれるの。

 特に、娘と夫……貴女(メナー)(ジート)は、私が命に替えても守り抜きたい、世界で一番の宝物なの。」


 私にとって、何よりも心強かったお母様の言葉。


 お母様は世界で一番強い人だった。だから、何の心配もしていなかった。

 タゼルの領地はこれからも発展を続け、私たち家族は末長く幸せに暮らす。そんな将来を微塵も疑ったことはなかった。


 ……それが、あんな形で終わりになってしまうなんて、私は思ってもいなかった。



◇◇◇◇◇◇



「──っ、お母様!!お母様!!」


 11歳だった私は、お母様の遺体の前で涙と声が枯れるまで泣き叫んだのを覚えている。


 領地視察中の、崖からの馬車転落事故。

 強かったお母様は、呆気なく亡くなってしまった。


 大人たちから「見ない方がいい」と言われて引き止められたけれど、私はそれを振り解いてお母様の遺体の元へと走った。


 …………お母様の遺体は、私の知る「お母様」ではなくなっていた。


 あんなにも強かったお母様。でも、その遺体には、あの強さはもう微塵も残っていなかった。

 強さどころか「弱さ」すらも通り越して、顔の判別もできない、手も足もバラバラな方向に折れてしまった……ただの肉塊になっていた。


 それなのに、私がお母様の誕生日に作って渡していたお守りだけが、奇跡的に綺麗なまま、お母様の首元に掛けられて残っていた。


 …………お守りとお母様。逆になるはずだったのに。


 お守りはお母様を護ってはくれなかった。


 お母様はまるで……お守りの中にいた私のことだけを護って、私の代わりに死んでしまったかのようだった。



 お母様の遺体の前で、お父様と抱き合って泣いた日。あれほどの悲しみを超える体験は、私は未だにしたことがない。


 それほどに悲しい日だった。



◇◇◇◇◇◇



 お父様は、地方の子爵家の……()()、三男だった。

 子爵の後妻の連れ子で、実の母親を含めた家族全員から虐げられて育ったらしい。


 大人しく、常に人の顔色を窺う臆病な癖がついてしまった、弱々しいお父様。


 ──でも、お父様は百年に一人の「逸材」だった。


 子供を学校にすら通わせないとなればさすがに周囲から虐待を疑われる。お父様の家族は、お父様を裏で虐げながらも、世間の目だけのために地方の魔法学校へ入学させた。

 そしてお父様はそこで、剣術こそ学年最下位だったものの、驚異的な座学の成績を叩き出し、王宮から直接表彰されるほどの新魔法の発明をたった一人でやってのけたのだった。


 常に周囲の人間に怯えている、挙動不審で内気な痩せ細った少年。

 でも、その頭脳は王国中──それどころか、世界中が欲しがるほどに超一級だった。



 そんなお父様を子爵家という地獄から救い出したのが、同級生のお母様だった。



 お母様は、学校に入学して最初の定期試験がくる前……その驚異的なお父様の頭脳が成績として可視化され、皆に認知される前に、すぐにお父様の才能を見抜いた。


 臆病で内気で痩せ細った挙動不審のクラスメイトの少年が、誰よりも素晴らしい頭脳の持ち主だといち早く気が付いた。


 そして、その内にある──……家族に何年も虐げられ続けても、静かに孤独に魔法を愛し、学問を愛し、世界を愛し信じ続ける……お父様の綺麗な澄んだ心に、お母様はいち早く、誰よりも先に気が付いた。


 家族たちに食事を抜かれ、暴言を吐かれ、殴られ、蹴られ続けても、その目に美しい未来の世界を映し続ける純粋なお父様。そんなお父様に、お母様はすぐに恋をした。

 そして何年も何年もかけて、お母様はお父様を口説き続けた。

 お父様の「可能性」をお父様自身に信じさせ、お父様の「価値」をお父様自身に分からせて……お父様の「本当の強さ」をお父様自身に気付かせた。


 お母様は当時を振り返って「もう最後は半ば無理矢理だったわ。」と言って笑っていたけれど、そんなことはなかったと思う。

 お父様は最終的に強いお母様に惚れて、自分の価値を陥し続ける子爵家よりも、自分の価値を信じてくれるお母様の手を取ったのだと、娘の私は思っている。

 そうしてお母様は学校卒業と同時に、お父様を強引に子爵家から引き剥がし、婿として自分の家に引き入れた。


 私の憧れる、理想の美しい大恋愛。


 お父様とお母様はその純愛の果てに結ばれて、お父様は王国一の魔法研究者に、お母様は王国唯一の女領主になった。



◇◇◇◇◇◇



 お母様の「半ば無理矢理だった」を否定したかったのは、何も根拠がないわけではなかった。

 お父様のお母様への愛の深さなど、一目瞭然だった。



 ……だって、お父様は、お母様が亡くなって……すぐに()()()()()()()から。



 お母様が惚れた「才能」を。世界中が欲したその「頭脳」を。


 お父様はあっさりと何の迷いもなく、道端に落ちている(ごみ)のように捨ててしまった。



 もともとお父様はお母様のことが大好きで、離れたくない一心で、大人になってからもずっとタゼルの地で魔法研究者として個人研究を続けていた。

 何度王立機関から勧誘が来ても「自分はタゼル領主に婿入りした身だから、この領地で妻を支えたい。」と言い続けて、お母様の隣に居続けていた。


 そして、その肝心のお母様が事故で亡くなってしまったあの日を境に……お父様は迷いなく、残された娘の私を選んだ。


 研究者の道を捨て、タゼル領主として娘の私を育てながら、お母様の愛した領民たちを守るという選択をした。



 勿体無いと思った。

 11歳のまだ知識がなかった私でも、お父様の決断が魔法界の……世界の損失になることくらい、すぐに分かった。

 あんなにも強いお母様が認めた才能が、価値がないわけがなかったから。


 でも、幼かった私は、お父様の愛を素直に喜んでしまった。

 お父様が魔法よりも、未来の世界よりも、私を選んでくれたことが嬉しかった。


 そうして私は、お父様と一緒にたくさんお母様を想って何週間も泣いた後、大きな大きな夢を掲げた。



「私の将来の夢は、史上二人目の『タゼルの女領主』。


 お母様のような強い女性になって、成人したらすぐにお父様からすぐに領主を引き継いで、そしてお父様のことをまたもう一度、世界一の魔法研究者にしてあげるわ!」



 私がそう高らかに宣言したとき、お父様が泣いていたのを覚えている。


 私はその日が、お母様を失ってから初めてお父様と二人で踏み出せた、新たな希望への第一歩だと……そう思っていた。



◇◇◇◇◇◇



 でも、現実はそんなに甘くなかった。



「──っ、お父様!!これは一体……っ!?」


「すっ、すまないメナー……本当にすまない……っ!」



 私が書類の内容を読み驚愕する声を聞いて、泣きながら頭を抱える弱々しいお父様。


 お父様には、お母様のような強さが……「領主の才能」がなかった。「貴族の才能」もなかった。


 当然のことだった。

 お父様は、誰よりも純粋な世界をその目に映して愛すること()()()()()()、世界一の魔法研究者──世界一綺麗な心の持ち主なのだから。


 お父様は世界一美しい魔法科学の計算ができる。


 でも、世界一汚い貴族社会での醜い打算はできない。


 お父様は誰よりも純粋に魔法の可能性を信じることができる。


 だから、誰よりも先に腹黒い交渉相手に騙されて裏切られる。



 お母様が亡くなってから約2年半の月日が経った、私の14歳の誕生日。


 お父様はただ純粋に、娘の私の幸せと、タゼル領の発展を願って──……



 見事に、悪名高い伯爵家次男と私の婚約を成立させてしまっていた。


 そして、その婚約にあたっての契約として、領地の約半分の経営権と「高級タゼル(ビーフ)」の全権利まで奪われてしまっていた。



◇◇◇◇◇◇



 お父様は泣きながら一生懸命に再交渉した。


 とにかく「婚約をなかったことにしてほしい」「契約をなかったことにしてほしい」と相手方の伯爵家に切実に訴えた。


 ……そんなもので「では、そうしましょう。」と解決される訳がない。


 お父様の行動は、ただ向こうの伯爵家に「やはりタゼル領主は愚鈍な無能だ。搾取する相手としては最高だった。」という確信を深めさせるだけに終わった。



 そうして、私は決意せざるを得なくなった。


 悪名高い伯爵家次男との婚約を受け入れる。

 幸い相手は次男。私がタゼル領主を継ぐ道はまだ潰えていない。今はこの残されたタゼルの領地を守り抜く。


 そして近い将来、自分の実力で、いつか取られた領地と権利を取り返す。


 私の憧れた、お父様とお母様のような「愛のある結婚」は諦める。

 でも、タゼル領は絶対に諦めない。まだ幸せになれる道は残っている。私はそれだけは、手に入れる。


 ……私は、そう決意した。



 夢の一つを諦めながら、私は初めて、お父様を恨んだ。


 ……お父様は、本当は誰よりも才能溢れる世界一のお父様なのに。


 そんなお父様を恨まざるを得なかったことが、悲しかった。



◇◇◇◇◇◇



 現実は甘くない。


 そう痛感したはずだったのに、私とお父様は、まだこの汚い世界の中では……弱かった。



「メナー・タゼル!貴様との婚約を破棄する!」



 ──っ、やられた!!



「おっ、お待ちください!どうか、どうかお考え直しを──……!」



 王宮主催の「建国王初代クゼーレ・ウェレストリア生誕700周年記念パーティー」。


 数日に渡って開かれていた盛大な国を挙げての祝いの場で、15歳の私に突きつけられたのは、公開処刑などという言葉では生ぬるいほどの、最低で最悪な、この上ない屈辱的な婚約破棄だった。


 ()()()()()()()()に婚約破棄を突きつけられる、煌びやかな王都に縁のないしがない地方貴族の小娘。

 さぞ周りのパーティー会場にいた貴族たちの目には滑稽に映ったことだろう。哀れに見えたことだろう。


 でも、私はそれどころではなかった。


 王宮主催のパーティーというこんなにも厳かな場で、浮気相手の侯爵令嬢と腕を組みながら仰々しく威張り散らかす、馬鹿な大嫌いな伯爵家次男に向かって、私は恥も外聞も捨ててみっともなく縋った。


「どうか今一度、お考え直しいただけませんか!

 せめて……せめて、伯爵様と話し合いをさせていただく機会を──……っ!」


 このまま婚約破棄が成立してしまっては、伯爵家に取られてしまったタゼルの領地と権利が──お母様が愛した、お母様の大切な、私たちの大切なタゼルが、もう二度と取り返せなくなってしまう。


 何とか、何とかしなければ!

 せめて話し合いに持ち込んで、取られたタゼルを取り返してから──……!!


「貴様!いい加減にしろ!!

 まったくこれだから!俺はお前のような遠慮のない我の強い奴が大嫌いなんだ!

 それに比べて彼女は、俺のことをよく理解してくれる──……」


 そんなことはどうでもいい。今さらこの馬鹿な伯爵家次男に何を言われようが、浮気相手のどこが良かろうが関係ない。


 私は必死に何度も、せめて別れる前にまともな話し合いをしたいと訴えた。


 婚約者への侮辱と浮気相手への賛辞を吐き続ける伯爵家次男とそんな彼に必死に縋る私のやり取りは、当然長くは続かなかった。

 国中の貴族たちが集まる祝いの場でみっともないやり取りを繰り広げていた彼と浮気相手と私の三人は、すぐに警備兵たちに取り押さえられた。


「いっ、いきなり何をするんだ!」「きゃあぁっ!」


 馬鹿みたいに驚き騒いだ伯爵家次男と侯爵令嬢は、見苦しくじたばたしながら警備兵たちに引き摺られて会場から姿を消していった。



 それに対して私は──


 その彼らのありがたい「時間稼ぎ」の間に、瞬時に私たちを取り囲んでいた貴族たちの顔を全力で見渡していた。



 あのときの私は、お父様が魔法研究をしているときくらいに覚醒し、頭の回転が早くなっていたと思う。


 私はあの瞬間、すぐに伯爵家とのまともな交渉を諦めて次の一手を探していた。


 もう私の誇りなどはどうでもいい。世間体なども何でもいい。


 ただ、ここから私が奪われたタゼル領の約半分の経営権と高級タゼル(ビーフ)の全権利を取り戻すための起死回生の一手。

 それを掴むために、私は必死になっていた。



 ──そしてものの3秒ほどで、私は「彼」と一瞬だけ目が合った。



 私たちを取り囲んでいた大半の者たちが困惑や嫌悪、同情、憐みの表情を浮かべて引いている中で、一人だけ目を細めて口の端を吊り上げて何とも楽しそうに愉悦の表情を浮かべている男がいた。


 それが、私が初めて見た「彼」の姿だった。



 ──見た目からして恐らく彼は同年代。衣装からして恐らく家格はかなり上。表情からして恐らく性格はかなり悪い。



 私は彼を見てその情報をものの1秒ほどで読み取った。

 そして警備兵に腕を掴まれるまでの0.5秒の間に、彼の容姿を脳内に焼き付けた。



 一人目の婚約者がこんな最低な伯爵家次男だった私には、今さら二人目がどんな人物になろうともうどうでもよかった。


 タゼルさえまた立て直せるのならば。その可能性が砂の一粒ほどでも残っているのならば。



 ──「タゼル」が首の皮一枚でも繋がるのならば、それでいい。



 私はそう自分に言い聞かせながら、大人しく警備兵に連れられて会場を後にした。



◇◇◇◇◇◇



 会場を出た先の広い廊下のなかほどで、いい歳をしてみっともなく泣きながら私の後を追いかけて会場を出てきたお父様に……私はそっと確認をした。



「……お父様。

 お父様は、あの会場にいらした『私と同じくらいの年齢の、丸眼鏡を掛けた錆浅葱(さびあさぎ)色のお髪の、とても高貴そうなご令息』のお名前を知っている?」



 複雑な魔法式を一目見ただけで覚えてしまうお父様。

 でも、人の顔と名前はなかなか覚えることができないお父様。


 だから、お父様が頑張って覚えられている貴族は、タゼル領の取引相手と、隣接している領の領主と、国内の超有力貴族だけ。

 その中で、まだ領主の資料を見ることができない小娘の私が知らない顔と名前は「国内の超有力貴族」だけ。


 ……お父様が「彼」の名前を知っていたら、私の4.5秒で打った一手は、とりあえず何とか次へと繋がるはず。


 そう思ってお父様の返事を待っていた私に、お父様は泣きながらも困惑した声でこう言ってきた。



「……それは、『オーネリーダ公爵家のアスレイ様』のことか?


 いきなりどうしたんだ?メナー。……メナー、大丈夫か?

 ……メナー。すまない。……っ、本当にすまない。」



 …………繋がった。



 失敗する可能性は限りなく100%に近い。

 でも、今の私とお父様と「タゼル」には……これしか恐らく、もう道が残されていない。


 私は弱々しく涙する純粋なお父様に、人生で初めての、渾身の嘘をついた。



「ねえ、お父様。

 もしできるならば、()()()()()()のは『彼』がいいわ。


 ──私、さっきあの場で、『アスレイ様』に一目惚れしてしまったの。」




 最低で最悪な屈辱の婚約破棄をされたパーティーの次の日から、私はさっそく次の手に取り掛かった。

 お父様に頼み込んで、心配するお父様を説得して……そして無理矢理なんとかもっともらしい理由をつけて、必死に背伸びをしてタゼルの価値と私の長所を大袈裟に書いた、虚構まみれの婚約の嘆願書を完成させた。


 それを震える手で、オーネリーダ公爵家へと送付した。


 こちらのデメリットは何一つなかった。

 もうあのパーティーの場での婚約破棄で、私の印象などすでに地に堕ちていたから。

 取るに足らない地方の馬鹿な親子の狂った行動だと、鼻で笑われて封を開けもせずに捨てられるのが当然の反応。

 でも万が一封を開けられて、億が一にでも話を一度聞いてもらえるなら──そう思っての行動だった。



 今振り返ると、これが私の、人生で一番突拍子のない行動だった気がする。


 でも、それがこうして「今」に繋がっているのだ。



◇◇◇◇◇◇



 玉砕覚悟で送った婚約の嘆願書は、意外なことにまともに受け取られ、私たちタゼル領主家のもとにオーネリーダ家から話し合いの日時を決めるための連絡がきた。


 私は少しでも成功する可能性を上げるために、地方領主の小娘なりに全力で着飾って話し合いの場に挑んだ。



 あの婚約破棄されたパーティー以来の王都。

 タゼルを出て、嫌な記憶しかない王都に再び足を踏み入れて……そして私とお父様は、王都の中にある広大な敷地のオーネリーダ公爵邸へと初めて足を踏み入れた。


 ぎこちなくやってきた私とお父様は、公爵ご夫妻とそのご子息──アスレイ様に笑顔で迎えられた。


 笑顔で、と言うと聞こえはいいが、その顔はまったく温かいものではなかった。

 高位貴族の基本装備。ただの対外用の仮面。機械的に貼り付けられただけの冷たい笑顔に、私とお父様は迎えられた。


 それでも私は腹を括って、公爵ご夫妻とアスレイ様に、何度も練習してきたご挨拶と婚約打診の理由を改めてご説明した。



 あのパーティーの日に、初めてお会いしたアスレイ様に一目で惹かれたこと。

 婚約破棄された身でありながらこのような想いを抱くのは恥ずかしいことではあるけれど、それでも素敵な御方と一度お会いしてお話ししたいと強く思ったこと。

 ……それを受けて、このような場を設けてくださった公爵様には心から感謝していること。



 我ながら馬鹿馬鹿しかった。

 目の前で微笑んでいる公爵ご夫妻の顔には思いっきり「一目惚れなど。そんなわけがないだろう。」と書かれていた。


 そして目の前で白々しく「そのように思っていただけて光栄です。」と言ってきたアスレイ様の顔には──……あの婚約破棄の現場で見たときと同じ、惨めな私を面白がる、同情の欠片もない嫌味な愉悦の表情が浮かべられていた。



 ──ああ。私は絶対、一生この人を愛せないわ。



 口に出していることとは真逆のことを、私はその「彼」の表情を見たときに確信した。


 泣きたくなる気持ちを抑えながら、私は練習した後半の「タゼル領とオーネリーダ公爵家のさらなる発展を願って」の部分も何とか無事に言い終えた。



 私の口上を一通り聞いた公爵様は、私の口上の内容をまったく無視して、ただ事務的にタゼル領主であるお父様に向かって、とうとうと現状に対する所見を述べた。


「息子との婚約に関しては、こちらとしては特に強い希望や条件がある訳ではありません。

 そちらからの打診を受けてこの場を設けた理由は、どちらかというと『タゼルのもたらす利益』よりは『タゼルの独立主体性』にあります。

 我々は四大公爵家という立場上、周辺貴族との関係に配慮しながら息子の婚約者を決める必要があるのですが……タゼル領のお嬢様であれば、有力貴族間の現在の均衡を歪めることなく、分家や他家からの反発もなく収めることができるだろうと、そう考えました。」


 つまり「何かをもたらしてくれる有益な存在だとは思っていないが、その分、(がい)がないから楽でいい」と言いたいのだろう。


 ……多少は想定していたけれど。


 それでも、やはり直接聞くと、あまりにも惨めで屈辱的な理由だった。


 公爵様は「お前はどう思う。アスレイ。」と息子であるアスレイ様に振った。

 それを受けてアスレイ様は、変わらず胡散臭い笑みを浮かべたまま、父親の公爵様と同じように私の口上の内容をまったく無視しながら感想を述べた。


「まあ、悪くない話だと思います。


 タゼル領は広くはないが環境整備はよくできていて、領民の統治も丁寧にされている。名産品の『高級タゼル(ビーフ)』も価値が高い。

 こちらが何か改めて苦労をすることはないでしょう。素直に手に入るならば喜ばしい。


 ……お父様の言う通り、こちらとしては特に欲張る必要もありませんし、むしろ他家とのしがらみがない分、タゼル家との婚姻は割と好条件の部類ではないですかね。」


 それを聞いたお父様が、ピクリと動いた。


 私はみっともなく泣きそうな顔をしているお父様の代わりに、頭を下げながら「実は、例の伯爵家次男との婚約の際に、先方にタゼルの領地の約半分の経営権と高級タゼル(ビーフ)に関連するすべての権利を譲渡する契約をしてしまったのです。誠に申し訳ございません。」と白状した。


 これを伏せたまま婚約打診をするというのは博打だった。

 でも、このくらいの詐欺まがいの誤魔化しをしなければ、嘆願書に書けるような領地の売りが……私の価値が、何一つなくなってしまうから。だから私は、悩んだ末に「伯爵家との契約の件は伏せて騙して、まずはとにかく話し合いの場を得るところまで漕ぎ着ける」ことを選択したのだった。


 しかしこうしてバレてしまった今、ここからはもう素直に謝るしかない。公爵家相手に器用に言い訳をして乗り切れるほど現実は甘くはない。私はある意味でもう完全に開き直って、ただ深々と頭を下げ続けた。

 公爵様に「前提条件から覆ってしまうではないか!話が違う!」と怒鳴られて追い出されてもおかしくはないと思いながらも、私は惨めに謝った。


 ……そんな深々と頭を下げて謝罪する私とお父様の頭上に降ってきたのは、公爵様の怒声ではなく、アスレイ様からの淡々としたお言葉だった。



()()()()()

 私と貴女の婚約が成立した後に、あちらの伯爵家に()()()として請求し取り戻せばいいでしょう。


 貴女をあんな理不尽で惨たらしい目に合わせて、一方的に契約破棄をしたのはあちらだ。

 貴女が泣き寝入りする必要などどこにもない。


 まあ、交渉の際には私の名前を使えばいいですよ。

 新たな婚約者が『オーネリーダ公爵家嫡男』だと聞いて、それでもなお慰謝料すら踏み倒す度胸が先方にあるとしたら、そのときは真っ向から戦えばいい。

 こちらが負けるなどあり得ないのだから。搾り取り甲斐があるというものでしょう。」



 アスレイ様の頼もしいお言葉を聞いて、お父様はその場で泣き崩れた。


 アスレイ様に娘を救ってもらえる、タゼルを救ってもらえるのだと……そう感じたのだろう。


 でも、私は違った。

 私はその後に続く彼の言葉に……大切なタゼルを侮辱されたような気分になったから。



「──それで、タゼル領の経営とタゼル(ビーフ)の権利は、せっかくならば、本家(こちら)の直轄にしても良いのではないですか?

 大した負担ではないでしょうし。()()()()()()()()()()()()()?」



 ──彼は、あっさりと「タゼル全体」を奪った。


 当然のように、タゼル領とタゼル(ビーフ)を「タゼル領主のお父様のもの」として取り戻すのではなく、すべて「私の婚約者となるオーネリーダ公爵令息のもの」にした。

 最後に取ってつけたように私を気遣うような一文を添えて中和していたけれど、実際はタゼルの半分を奪った伯爵家の方がまだマシに見えるほどに、容赦がなかった。


 お母様が人生をかけて力強く取り組み、お父様が人生を投げ打って必死に引き継いだタゼル領主の仕事を「大した負担ではない」の一言で片付けてしまった。



 ……お父様とは違う意味で、私は泣きたくなった。


 泣きたくなるほどに、屈辱だった。



 でも、これが1番マシな「タゼル」の結末なのだと、私の頭は理解してしまっていた。


 オーネリーダ公爵家ほどの名がなければ、すべてを取り返すこと自体がそもそも不可能だろうから。他の伯爵令息や侯爵令息、それ以下の家格のご令息程度では、交渉し取り返せたとしてもほんの一部にとどまってしまうだろうから。

 あの伯爵家にタゼルの領地とタゼル(ビーフ)のブランドをこれからも踏み荒らされ続けていくのをただ何もできずに見ているくらいなら、まだオーネリーダ家に管理してもらっていた方が、領民たちにとっては幸せだから。

 ……私の頭は、そう理解してしまっていた。



 私が屈辱に震えていると、それに気付いているのかいないのか、彼はわざわざタゼルを「直轄」にする理由を付けてきた。



「何より、タゼル領がオーネリーダ家の直轄地になれば、ジート様が領主業をする必要がなくなります。

 これは私個人の望みではありますが……ジート様には今後は是非、王立魔法研究所でその類稀なる才能を遺憾無く発揮していただきたい。」


 そして彼は最後に、私の目の前で、丸わかりの嘘を吐いた。


「私はメナー様には王都に来ていただいて、ともに学園に通い親交を深めたいと思っていますので。

 お父様であるジート様にも是非、メナー様とご一緒に王都に来ていただきたいのです。」



 ……丸わかりの嘘。

 私のことなんてどうでもいいと思っているくせに。


 彼は私との親交を理由に、お父様を研究者として復帰させようとしていた。


 私との親交を望んでいるのは絶対に嘘。そんなのはすぐに分かった。

 ただ、お父様を研究者として復帰させたい理由が何なのかは、そのときの私には分からなかった。


 ──でもどうせ、お父様の研究成果から得られるであろう利権を、何やかんやで身内特権を駆使して根こそぎ得ようというのでしょう?


 この一家は……アスレイ様は、きっとそういう発想の持ち主。この小一時間ほどの話し合いだけで、嫌というほどに理解した。


 私はそのとき、そう思った。



◇◇◇◇◇◇



 両親を交えた話し合いがひと段落ついたところで、よくある「当人同士で交流」の流れになった。

 庭園を二人で散策しながら会話でもしてきたらどうか、と公爵様に言われて、私とアスレイ様は微妙な距離感のまま二人で外に出た。


 ……庭園に咲く花々に特に話を弾ませることもなく、適当にささっと一周回って帰ってくるだけ。


 そんな感じのものだった。


 そのときの会話は今でもよく覚えている。



 あのとき、屋敷から離れ使用人たちから距離ができたところで、前を向いてさくさくと歩きながらアスレイ様が唐突に私に聞いてきた。


「婚約にあたって、何かご要望はありますか?

 叶えられるかどうかは内容によりますが、聞いておいた方が良いでしょう。」


 私はそのとき、特に遠慮することなく一番の望みを口にした。


 ……今さら隠したって仕方がないと思ったから。


 だから私は、そのまま素直に


「もし叶うのであれば、学園卒業後は私も公爵家の──アスレイ様のお仕事に共に携わりたいです。

 そしてできることならば、私の亡き母が残してくれたタゼル領に関連する仕事を、私が責任者として継ぎたいと思っております。」


 と言った。



 我ながらみっともないと思った。


 もうすぐ「タゼル領」ではなくなってしまう……「()タゼル領」になってしまう私の故郷。

 ただのオーネリーダ公爵家の直轄地の一部になってしまう、お母様の大切な領地。


 肩書きはなくても、タゼルの女領主()()()のことを、できることならばしたいと思った。

 それでせめて、大切な領民だけでも守りたかった。


 オーネリーダ家に任せるのではなく、私のこの手で、守ってみたかった。



 すると、私の要望を聞いたアスレイ様は軽く笑った。


「まあ、いいんじゃないですか?

 貴女の手腕次第では可能なのでは?最初は父か私が最終的に目を通して確認することにはなるでしょうが。

 ……ではまず、例の伯爵家から領地とタゼル(ビーフ)の権利を取り戻すところから、()()()()()頑張ってみてはいかがです?」


 人によっては、これがアスレイ様なりの優しさだと、私への気遣いの形だと……そう捉えるかもしれない。


 でも、私にはこれがそこまで美しいものには聞こえなかった。

 アスレイ様はただ単に、言葉通りのことを思っただけで、それ以上でもそれ以下でもないような気がした。


 私は一瞬、そんな嬉しいとも悲しいともつかない、何とも言えない気分になって返す言葉を詰まらせた。



 ……そのとき。


 アスレイ様は私の返事を待たずに続けて、何故か


「……ちなみに、それが貴女の『本音』ということでよろしいですか?

 先ほどの『好感を持った』だの何だのというのは建前で、貴女の狙いは『タゼル領の実務に携わることができる立場』にあると。

 そのための婚約打診だったと解釈して、間違いはありませんか?」


 と確認をしてきた。



「…………はい。申し訳ございません。」



 私は少しだけ迷って、嘘を認めた。


 アスレイ様に好感を持っていようといなかろうと、単純に一人の人間として、私にだってさすがに分かる。


 ──私のこの婚約打診は、アスレイ様に対して「失礼」だ。


 貴方には微塵も興味がありません。私が欲しいのは、貴方の地位を利用した、タゼル領を保護するための力だけ。


 そんなのは、お相手に失礼だということは分かっていた。

 でも、ここまで言い当てられてしまっては、隠したところでさらに失礼になってしまうだけな気がした。


 だから私は認めるしかなかった。どこまで落ちぶれようとも、ここで嘘を上塗りするような──さすがにそこまで非礼な人間にはなりたくなかった。


 私はアスレイ様に不快に思われようとも、それによって多少の小言や暴言を吐かれようとも、それを受け入れる覚悟を決めていた。

 同時に、せめて婚約「不成立」だけは避けていただきたいと、身勝手な願いを心の中で唱えていた。



 そんな私の心の内を知ってか知らずか、アスレイ様はただあっさりと



「ああ、それならば良かった。……安心しました。」



 と、不思議な言葉を呟いた。



 結局、二人で庭園を散策したときの会話らしい会話は、これくらいしかなかった。


 そして屋敷にさっさと帰ってきた私たちは、そのまま無事に、婚約を成立させた。



◇◇◇◇◇◇



 アスレイ様との婚約を成立させた後、私はすぐにアスレイ様の名前を振り翳しながら()()()()である伯爵家次男に不義理による婚約破棄の慰謝料を迫った。

 タゼル領と高級タゼル(ビーフ)の返還、ついでにタゼル領に隣接する伯爵家の領地の一部と、そこの織物工場の利権を求めた。


 散々私とお父様を舐め腐っていた伯爵家が、手のひらを返して「息子は廃嫡いたしますので、どうかご容赦を!」と平謝りしてきた。


 私は腹が立った。(はらわた)が煮えくり返るとはまさにこのことだと思った。


 私とお父様をあんなにも馬鹿にして、お母様のタゼルを滅茶苦茶にしておいて……それでいて「四大公爵家嫡男アスレイ・オーネリーダ」というたった一人の名前だけで、こんなにもあっさりと怯えるなんて。


 そのとき私は、アスレイ様の「()()()()()頑張ってみてはいかがです?」という言葉を思い出した。


 そして私はそこで「あの婚約破棄の現場で私に一目惚れをしてくださったアスレイ様は、私を想って酷く心を痛め、同時にとても貴方たちに憤っている」と盛大に嘘をついて、「伯爵家ごと取り潰されたくなければ誠意を見せろ」とさらに脅した。


 嘘がバレることは決してないから、私は強気に行った。


 だって、(はた)から見れば「『アスレイ様からの一目惚れ』などでもなければ、没落しきった地方貴族の私と四大公爵家長男のアスレイ様が婚約をするはずなどない」のだから。


 私にだって正直、意味がよく分からない。何故婚約がこんなにもあっさり成立したのかが。


 でも、今はただ伯爵家次男への憎悪と復讐のために、私は新たな婚約者「アスレイ・オーネリーダ」の名前をまるで相思相愛かのように振り翳しながら脅しに使い、伯爵家から金も土地も権利も、搾り取れるだけ搾り取った。



◇◇◇◇◇◇



 そうして私は、アスレイ様のいるオーネリーダ公爵邸に2週間振りに婚約者としてやって来た。


 婚約者としての親交を深めるついでに、伯爵家との慰謝料交渉の結果のご報告をするためだった。


 ……婚約者としての親交の方が「ついで」だとしか思えなかったけれど。

 そこは敢えて見て見ぬ振りをした。


 お父様が、公爵家へと向かう馬車の中で嬉しそうに笑っていたから。


 ……娘の新たな幸せへの第一歩を、娘の「一目惚れ」から始まった大恋愛を、純粋に喜んでいるようだったから。


 私は公爵邸へと向かう馬車の中で、一生懸命アスレイ様の素敵なところを、お父様を安心させるために虚無の中から捻り出し続けた。

 最終的には「眼鏡のセンスがいい」だけで30分以上語った気がする。あれは今振り返ってもさすがに無理があったと思う。



 公爵邸に着いて、公爵様とアスレイ様に例の伯爵家からの慰謝料という名の搾取の成果をご報告したとき、お二人はとても嫌な笑顔をして喜んでいた。

 似たもの親子とはこのことだなと、私はそっと失礼な感想を抱いた。


 二人は、私との婚約が成立した先々週よりも明らかに嬉しそうにしていた。

 きっと公爵様は、未来の公爵夫人となる私の「手腕」を喜んでくださったのだろう。

 きっとアスレイ様は、婚約者となった私の「憎悪に塗れた復讐劇」の様子を面白がってくださったのだろう。


 あの場で素直な笑顔で娘の幸せを喜んでいたのは、世界一純粋な、優しいお父様だけだった。


 それからアスレイ様はさっそく笑顔のまま、私のお父様に楽しそうに王立魔法研究所への就職の推薦の話をし始めた。

 公爵家からの推薦状とお父様の過去の実績があれば、真っ当に就職活動などせずとも一度くらいの面接で簡単に年度途中でも中途就職ができるだろう──と、世界一の頭脳を持つお父様に向かって、当たり前のことを嬉しそうに語っていた。


 私の話は、もうそこで早々に終わりになっていた。



 それからお父様との話がひと段落ついて、私とアスレイ様はまた親たちに促されて、庭園の散策へと放り出された。


 前回と同じように大した雑談もない、花々を愛でることもない、さっさと周回するだけの時間が始まった。


 それでも婚約が成立した今、せっかくならば有意義な時間にしようと、私はアスレイ様に話を振った。


「──アスレイ様。

 唐突なのですが、私、少し気になっていることがございまして。」


「何だ?」


 私の振りに、アスレイ様はそう返してきた。


 私はすぐに察した。


 アスレイ様は、婚約者となった私を相手に、猫を被るのを早々にやめたのだろう……と。


 いきなり口調が変わったアスレイ様に特に反応することもなく、私は私で前置きをすることもなく早々に聞きたかったことを尋ねることにした。


「私が先々週、婚約打診の本当の理由──本音をお話しした際にアスレイ様がおっしゃっていた、『それならば良かった』とは……一体、どのような意味だったのですか?

 ……アスレイ様に失礼なことを言ってしまった自覚があったもので、いただいた反応が意外だったのです。」


 すると、私の質問に彼は表情一つ変えることなく、丸眼鏡を指で軽く押し上げながら即答した。


「どういう意味も何も、その言葉の通りだろう。


 貴女がもし『自分が婚約破棄をされている最中に、呑気に俺のような冴えない見た目の男に一目惚れをするような()()()()()()()』ならば、常識人の俺の手に負えない。


 ……それだけだ。


 そんな狂った動機を持つ令嬢よりも、まともな思考力のある打算的な貴女の方が余程いいだろう。


 俺は別に伴侶との輝かしい未来など夢見ていないが……さすがに伴侶とまともな会話すら成立しないような人生は送りたくないからな。」


 …………対外用の胡散臭い仮面を外した彼は、夢のない人だった。


 美しい大恋愛の果てに結ばれたお父様とお母様とは違って……早々に恋愛すら諦めている、つまらなさそうな人だった。



 私はそのとき、ふとお母様の言っていた言葉を思い出した。



 ──「特に、娘と夫……貴女(メナー)(ジート)は、私が命に替えても守り抜きたい、世界で一番の宝物なの。」



 憧れだった、強いお母様。

 私はタゼル領こそ失ってしまったけれど……それでも、まだお母様の言っていた「宝物」は、今からでも手に入れられるだろうか。


 ……でも、私はこの目の前の人を「宝物」にできる気がしなかった。


 …………彼との間に、「宝物」が欲しいと願えるようになるとも、到底思えなかった。


 そんなことを直球に言えるはずもない。だから私は、少しだけ本音を隠しながら、彼を探るために質問をした。



「アスレイ様はオーネリーダ家のご長男で、ご兄弟は他におられませんが……もし、私との間に跡継ぎが儲けられなかったら、どうなさるおつもりですか?」


 するとアスレイ様は私に向かって「いきなり随分と無遠慮だな」と言いたげな視線を軽く投げかけた後、ごく普通に答えた。


「さあ?

 ……まあ、そうなったら、分家から後継を養子で迎え入れれば良いだろう。

 早々に実親から引き剥がされるのは酷だろうからな。早いうちに後継の話だけ通しておいて、後継者教育の支援はするようにしておけばいい。移籍させるのはだいたい18歳くらいでいいんじゃないか?

 どうせ高等部卒業までは後継者本人がいようがいまいが、公爵家の実務に影響することはないからな。」


「…………そうですか。」



 堂々と浮気をしてきたあの伯爵家次男よりは随分とマシだろう。

 堂々と愛人を囲うと宣言されるよりは、まだ良いかもしれない。


 だとしても、こんなにも何も期待されていない私は、惨めでしかなかった。

 タゼルの領地と高級タゼル(ビーフ)の権利と例の伯爵家からむしり取った慰謝料を持参金としてのこのことやってきた私は、オーネリーダ家の中では早々に役目を終えてしまっていたようだった。


 私の意思を尊重してくれている──などという能天気で前向きな解釈ができないほどに、そこには一片の愛も感じられなかった。


 仕方なかったのかもしれない。

 ……だって、私からも彼に、微塵も愛を向けていなかったから。

 そんな私に、彼から温かい愛など向けられるはずもなかった。


 彼から話の締めだと言わんばかりの「貴女は質問が多い人だな。」という台詞を投げつけられたとき、私の中で何かが終わった。



 私はこうして、アスレイ・オーネリーダ公爵令息との婚約によって、「タゼル全体」を手放して……再び「愛のある結婚」を諦めた。



◇◇◇◇◇◇



 それから特に、婚約中に何かあった訳でもなかった。


 私は婚約とお父様の王立魔法研究所への就職に伴って、すでに代官が手配され新たな体制が整った()タゼル領を離れ、アスレイ様の通う王立魔法学園中央校に試験を受けて編入した。

 でも、私たちは学園内でも特に関わることはなく、それぞれ好きなように過ごしていただけだった。


 やはり、アスレイ様の()()は嘘だった。


 実際はただ、月の終わりの週末にオーネリーダ公爵邸に行って、そこで義務的に会って話して、それなりに親交を深めていっただけだった。


 ──でも、お父様がまた魔法研究者として楽しく働くことができている。


 この事実だけを心の支えにして、私はお父様の前ではアスレイ様に惚れているフリをし続けていた。

 そんな私を面白そうに眺めながらくだらない猿芝居に付き合うアスレイ様を見るたびに「もう諦めた私はともかく、貴方はそれでいいのですか?」と問い詰めたくなるほどに複雑な気分になった。



 婚約して1年くらい経った頃、私は何となくアスレイ様に「お互いに本音で『今、相手に思っていること』を言い合ってみませんか?」と提案をした。

 そのときアスレイ様は、返事の代わりに躊躇うこともなくいきなり「『のんびりとした見た目や喋りとは裏腹に、随分と気の強い人だ』と思っている。」と言ってきた。

 そこには、まだ特に何の感情もなかった。


 提案者側の私は素直に「失礼を承知で──……『賢いけれど、味気ない御方ですわ』──と思っております。」と伝えた。

 アスレイ様は特に私の言葉に傷付くような素振りもなく「何が失礼なんだ?別にどうでもいいだろう。」と返してきた。


 …………だから、そのとき私は


「『どうでもいい』という、その言葉が味気ないと言っているのです。」


 と、改めて伝えたのを覚えている。


 そしてアスレイ様に「二度も言われなくても理解している。」と返されたのも、覚えている。



◇◇◇◇◇◇


◇◇◇◇◇◇



 振り返ってみても、大した決定的な出来事もない。


 この瞬間に好きだと思った。

 あの瞬間に恋に落ちた。


 ……そんな瞬間は、どれだけ振り返ってみても、見つけられない。



 私が初めて質問をしてから、私たちの間では、何となく定期的に「本音で『今思っていること』を言い合う」ことが慣習になった。

 提案するのは、いつも私。私が思い立ったときに質問をして、彼がそれにすぐに答える。それが暗黙のルールになった。


 私は実は、そのお互いの本音を、初回から日付とともにこっそり記録し続けている。そしてたまに見返している。


 そんなに量は多くない。だから、手持ち無沙汰な移動中の馬車の中でも、こうしてすぐに思い出せる。



 思い出してみて感じることは、私たちの関係はただの地続きな事務契約の延長線だ。

 初対面のときの「一生愛せる気がしない」という第一印象から、劇的に何かが切り替わることもなく、かといって途切れることもなく、ただ二人で線を引き続けているだけ。


 だから、自分でもよく分からない。一体何がきっかけで、自分のどこが変わったのか。


 ……でも、不思議なもので、思い出の中の光景を眺めている「今」の私は、「昔」と違う感想を持っている。



 ──今思えば、私はあの屈辱的な婚約破棄を伯爵家次男にされた日に……もしかしたらアスレイ様に、嘘ではなく本当に「一目惚れ」することもできたかもしれない。


 6年ほど前に本音を言い合ったとき、彼は私に「面倒な書類の山をわざわざ俺から奪って笑っているメナーを見ると、『本当に仕事をするのが好きなんだな。楽しそうで何よりだ。』と感心する。ついでに助かる。」と言ってきた。

 私はそんな彼に「他人が落ちぶれていく様を見て愉悦の表情を浮かべているアスレイ様を見ると、『相変わらず貴族たちのいざこざの現場がお好きなのですね。楽しそうで何よりですわ。』と安心します。」と伝えた。


 だから、今の私なら、初対面でいきなり彼に好印象を持つこともできる気がする。



 ──今思えば、アスレイ様との婚約が成立した日の翌々週のあのときに……もしかしたら彼の味気ない「さあ?」という返しに、私は本気で憤ってしまえたかもしれない。


 3年ほど前に本音を言い合ったとき、私は初めて、自分から先に本音を伝えた。

 私は彼に、勇気を出して

「最近、特に理由はないのですが『貴方との子供がいる生活も悪くないかもしれない』と思っています。……けれど、ひとたび妊娠出産をしてしまったら、私はもう、これまでのように公爵家のお仕事に携わることはできなくなってしまうのでしょうか?」

 と言ってみた。


 ……彼はそのときもう既に「理解のあるいい夫」だったから。

 婚約期間中も、結婚式当日の夜も、その後の結婚生活でも……私は彼の方から一度も望まれることがなかった。彼からは何のプレッシャーも感じなかった。

 彼が私の意思を尊重してくれていた──そのお陰で、私たちはまだ、契約だけの、表面上の関係しかない夫婦だった。

 そのせいもあって、3年前のあのときが彼の本音を聞くのが一番怖かった。


 でも、彼は私の本音を聞いて、まったく躊躇わずにいつものように即答してくれた。

「そうか。……子供に関しては素直に嬉しく思う。ありがとう。

 ……だが、仕事に関して何故そんなに弱気になっているのか疑問だな。メナーは自分の母親に憧れているのだろう?貴女の母親は貴女を産んでからも領主を務めていたじゃないか。もともとメナーもそうするつもりでいたのかと思っていたが……『珍しく弱気になっている貴女が面白い』と、今思ったな。」

 ……と。


 それから、私はそう本音を伝えたはいいものの、結局2年以上、なかなか子供を授かれなかった。みっともなくアスレイ様の前で毎晩泣いてしまっていた時期もある。


 何故そんなに泣きたくなったのかは、自分のことなのによく分からない。何故か物凄く不安になって、ダメだったと分かるたびに酷く悲しくて仕方なくなってしまっていた。

 分家から養子を迎え入れれば良いなどという問題ではなく──……ただ、彼との子供ができないかもしれないという事実が、泣きたくなるほどに辛かった。


 ……だからきっと、今の私なら、私との子供をはなから期待せずに諦める準備をしていたあの日の彼に、大泣きしながら怒鳴り散らしていると思う。




 今日ラルダ様とお会いして、私は「いずれは貴女のような良き妻になりたいものだ。」という勿体無いお言葉をいただいた。


 きっと「昔」の私なら、お父様とお母様のような美しい大恋愛を経てゼン様と結ばれたラルダ様を羨んで、嫉妬して、「それに比べて私は……」と、何もなかった自分の結婚を嘆いていただろう。


 けれど、不思議と「今」の私は違う。


 すでにゼン様とラルダ様の方が、私たち夫婦よりも素晴らしい恋と愛で満たされているのだろうと思う。それでも私は、何故かラルダ様を羨ましいと思わない。

 「同期会」と称して我が家に集まっている魔導騎士団の第27期生の皆様のお姿をお見かけしても……絶世の美貌を世間に讃えられているクラウス様よりも、第一王女であるお美しいラルダ様と並ばれてもまったく引けを取らない整ったお顔のゼン様よりも……ただただ胡散臭いそれなりのお顔のアスレイ様が、いつも真っ先に目に入る。

 そのくらいには、私はアスレイ様にいつの間にか、まるで恋や愛のような──それに近い、情や絆を感じるようになったのだと思う。


 そして私はそれで良いと、今は何故か納得している。


 理想の美しい大恋愛も、タゼルの女領主の夢も……少女だった私が憧れていたものは、ここには一つもないけれど。

 それでも、他人に微塵も嫉妬せずに済んでいるくらいには、私は「今」の日々に満足をしている。



 ──それはきっと、()()つまらなくて味気ない、理解のあり過ぎるいい夫のお陰だわ。



◇◇◇◇◇◇



 オーネリーダ公爵邸に戻ると、部屋の扉の向こうから、理解する気にもなれない小難しい魔法理論らしきごちゃごちゃとした話し声が聞こえてきた。


 私は苦笑しながらノックをして中からの返事を聞き、それからそっと扉を開ける。


 そこには論文らしき紙束をいくつも抱えて、それを楽しそうにめくっている夫のアスレイ様と、その向かいで同じように紙束をめくりながら補足説明を一方的にペラペラと喋り続けているお父様がいた。


「あら。お二人とも、今日はお早いお帰りだったんですね。

 ちょうど夕食の時間になりますし、よろしければ一緒にいただきませんこと?」


 私が帰ってきて早々に二人にそう提案すると、お父様とアスレイ様は機嫌が良さそうに了承しながら立ち上がった。


 …………二人とも、その手に論文らしき紙束を持ったまま。


 まったく、二人ともお行儀が悪いわ。


 きっと私の提案には乗りたいけれど話を中断させるのは惜しいから、食事をしながら続きを話そうとでも思っているのだろう。


 性格は正反対なくせに妙に仲の良い、不思議な義理の親子関係を築いている二人に呆れながら、私はのんびりと廊下を歩きだした。



◇◇◇◇◇◇



 食堂に向かって廊下を三人で歩いている最中、アスレイ様が私に話しかけてきた。


「そうだ、メナー。

 再来月出産で体が大変なところ悪いが……今週、もしくは来週末あたりに、クラウスかゼンを誘ってギルドに行ってきてもいいか?」


 まったく悪びれる様子もなくウキウキと提案してくるアスレイ様に、私は呆れながらも笑ってしまった。


「また新魔法をお試ししたくなったんですか?」


 私が訊くと、アスレイ様は嬉しそうに頷いた。


「ああ。この論文に書かれている新魔法だ。

 ……まさかここにきて、ジート様が攻撃魔法の開発に興味を持って注力してくれるとはな。そんな日は一生来ないと思っていた。

 これは反発2属性の複合詠唱魔法なんだが……そもそもたった1週間でこれを開発したというのが信じられない。

 魔法研究所所長が直々に開発した高難度攻撃魔法など、こんなもの、実地で試さざるを得ないだろう?とにかく詠唱の省略法が斬新すぎるんだ。この詠唱で実際にどのように発動するのか、説明を受けても未だに想像がつかない。」


 横にいたお父様がそれを聞いて笑う。


「メインの研究の息抜きがてら、気まぐれでな。普段やらない分野でも考えてみようかと思い立ったんだが……思いの外、捗ってしまったんだ。

 昨日研究員たちに見せたら好評だったから、アスレイ君にも喜んでもらえるだろうと思って今日論文を持って帰ってきたんだ。楽しんでもらえたようで何よりだ。」


 お父様は、アスレイ様のことを「自分と同じく純粋な世界をその目に映している、美しい心を持った魔法好きの青年」だと、勘違いして信じきっているように思う。


 ……お父様は、人を見る目はまったくないから。すぐに腹黒い人に騙されてしまうから。


 でも、それでいいと私は思う。


 実際はアスレイ様は、美しい心の持ち主でも何でもない。

 きっとこの後の食事の場でも、意図的にお父様をおだてて気持ちよくさせて調子に乗らせるつもりだろう。

 この調子でどんどん面白い攻撃魔法を開発してもらおう……と、腹黒く考えているに違いない。


 ただ、「今」の私には分かるから。


 ──アスレイ様は「純粋に魔法が好き」な人。


 ──私の大好きな「お父様の価値」を、ずっと変わらずに信じ続けてくれている人。


 ──アスレイ様は、自分の婚約を消費してまでお父様を保護してしまうくらいの、魔法研究者のお父様の「厄介な古参ファン」。


 そして、お父様にとってはそれだけで充分。

 お父様はそれだけで、アスレイ様と心の底から楽しく、気を許して話を弾ませることができるのだから。


「……貴方(あなた)

 そんな『ご自分で想像もできない』ような新魔法にいきなりクラウス様やゼン様を巻き込んで、ご迷惑をおかけしないようにしてくださいね。

 お気をつけていってらっしゃいませ。楽しんできてくださいな。」


 私がそうアスレイ様に伝えると、彼はしれっと前半の注意を無視して、自分の都合のいいように後半だけを受け取った。



「ありがとう。


 ──ああ。本当に、メナーは理解のあり過ぎるいい妻だ。」



 本当はお食事のときに、今日ラルダ様とお話しした魔導騎士団主催バザーの件について軽くご報告をしようと思っていたのだけれど。


 ……まあ、いいでしょう。


 私はまた楽しそうに話を再開しだしているお父様と夫の二人の意味不明な言葉の羅列を聞き流しながら、「アスレイ様へのご報告はまた後ほど自室に戻ってからにしよう」と、そっと心の中で予定を変更した。


こちらのエピソードは長めなので、次回投稿は1日空けさせていただきます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ