↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
婚約者様は非公表  作者: 湯瀬
第四部(旧 おまけの小話)
70/130

1-1 ◇ 国民感謝の企画案

完結まで見守っていただきありがとうございました。

活動報告の方でいただいたリクエストにお応えして


・アスレイ視点の第27期生同期会

・アスレイの妻メナー視点による回想

・ゼンとセレンディーナの邂逅

・クラウスの愉快な(?)エピソード


の4点を入れた一連の小話を書き上げましたので、投稿させていただきます(全4話)。基本、毎日投稿です。


 オーネリーダ公爵邸での、魔導騎士団第27期生定例の同期会。


 普段から何だかんだで話題は魔導騎士団関連のものになりがちだが……それにしても今日は珍しく、ラルダが直球で仕事の悩みをぼやいてきた。



「最近、魔導騎士団に苦情……とまではいかないかもしれないが、要望の声が多く上がっているんだ。

 私とドルグスの最近の地味な悩みの一つなんだが……どうにもな。いい解決策が思い浮かばないんだ。」



 俺たち3人は目を丸くした。


「は?苦情?……要望?何だそれ。」

「僕、部隊長だけどそんな話聞いてないよ?何かあったの?」


 ゼンとクラウスが揃って首を傾げる。


「ラルダの魔導騎士団の率い方に不満を持つ人間などいるのか?

 ……魔物被害の出た地域の者から何か言われたか?それとも、過激派の生物愛護団体から魔物討伐に関して何か言われているのか?」


 俺も二人に続けて質問をすると、ラルダはゆるゆると首を振った。


「……いや。アスレイの言うような内容ではない。

 そういった意見書が届くこともあるが、それはある程度は覚悟しているからな。例年通りだ。特に急増している訳ではない。」


 それからラルダは、試験本番でいきなり範囲外の初見の問題を出題されて困惑している優等生のような、そんな素直な困り顔をした。



「私とゼンの婚礼式典が終わった半年前あたりからか。何故か急激に増えてきたんだ。


『魔導騎士団が国民の前に出る機会が少ない。魔導騎士団員と触れ合える機会を設けてくれ。』


 ……という意見がな。」



◇◇◇◇◇◇



 ラルダを困らせているその要望の内容にいち早く嫌悪感を丸出しにしたのは、彼女の夫のゼンだった。


「はぁあ〜?何だそれ。意味わかんねえ。無視すりゃいいだろ、んなもん。」


 妻を要らぬことで悩ませる一部の国民たちへの不快感も多少はあるのだろうが……それよりは、普通にただの筋違いな要望に対する苛立ちのようだった。


「っつーか、そもそも公開訓練や討伐遠征の隊列に向かって騒いでんのだって相当おかしいだろ。

 んなことしたけりゃ劇場にでも行っとけよ。アホか。」


 毎度騒がれながらも国民を大切にするラルダやクラウスとは違い、ゼンは率直にそういった部類のファンにあまりいい印象を持っていない。


 ……まあ、もともとコイツはただでさえ人前が苦手な生粋の恥ずかしがり屋だからな。当然の感想とも言える。


 それに、たしかにゼンの言う通りではある。


「……言い方はともかく、ゼンの意見はもっともだ。

 魔導騎士団は舞台役者や歌手、芸人といった人気商売をする集団ではない。

 たまたま現在はラルダやクラウスをはじめとしたカリスマ性のある人材が揃っているが、あくまで魔導騎士団の仕事は『魔物を討伐して国民の命を守ること』だ。

 それ以外は要求されたとしても、応える義理はないだろう。むしろラルダやクラウスのような者たちが、見た目だけでなく確かな実力を兼ね備えているからこそ、ここまで人気が出たとも言える。硬派であることは、今までも決してマイナスではなかったはずだ。」


 俺がそう意見を述べると、ラルダは困り顔のまま溜め息をついた。


「ああ。ゼンとアスレイの言う通りだ。

 ……だが、そうも言っていられないほどになってきてしまったんだ。」


 俺が「どういうことだ?」と続きを催促すると、ラルダは微妙に言葉を詰まらせながら続けた。


「その……一般市民や個人からの要望の声ももちろん急増しているんだが……、最近は国内貴族からもそういった声がちらほら上がるようになってきていて、だな。

 ……まあ、その……魔導騎士団の活動費や施設維持費を、国家予算以外の資金援助や寄付金にも頼っていることも事実だからな。

 多少は支援者の声を聞いて還元することも必要だと……そういう話だ。」


 ──要は「国民から金を取って運営しているのだから、出資者である国民のご機嫌も取らないといけない」ということだ。


「それに、その……まあ、最近は王宮側も、施策によってはより資金調達が捗るだろうと言い出していてな。

 資金が潤沢になれば、その分我々の活動自体も充実したものとなる。

 ……悪い話ではないのは理解しているのだが、いかんせん……本来の業務との兼ね合いが難しいのだ。鍛錬を疎かにして団員や国民の犠牲者を増やすなど、決してあってはならないからな。

 だが……まあ、そういうことでな。

 ……皆、何かいい案はないだろうか。」


 ラルダは最後に俺たちに丸投げをしてきた。


 ──要は「この国民人気が『金(かね)になる』のは確かだから、魔導騎士団員の負担にならない程度に何か企画して、国民の要望を叶えつつついでに金を取ろう」ということだ。


 ラルダは俺たちの表情を見て、俺たちが正しく内容を察したのを確認し、それから「業務時間内に団員たちを集めてゼロから案を出す企画会議などしていては、それこそ時間の無駄だ。だが、私とドルグスはこういったことを考えるのが不得手だと……ここ数週間ほどで痛感しているのだ。」と付け足した。


「うーん……なんて言うか、綺麗事だけじゃやっていられないのは分かるし、仕方ないんだけど……世知辛(せちがら)いね。」


 クラウスが苦笑する。ゼンは露骨に嫌そうな顔をして「やってらんねー」と文句を垂れていた。


 俺はラルダに質問をした。


「ラルダとドルグス副団長……あとは王宮か。まあ、要望書に書かれていた内容でもいいが。

 具体的には、今のところどんな案が出ているんだ?」


 すると、ラルダは苦虫を噛み潰したような顔をした。




「一応、要望書に書かれたもののリストアップに加えて、他国の似たような団体の資金調達法の例を探したりしてみたんだが……。


 今のところ挙がっているのは、魔導騎士団員による『剣劇』、『歌舞』、『握手会』、『公開訓練の回数増加、および観覧者との交流等への内容変更』……この4つだな。」




 ……………………。



「嫌(いや)に決まってんだろ。」



 重苦しい沈黙の後、ゼンがド直球な感想を述べた。


「何が悲しくて魔導騎士団に就職した俺たちが『歌って踊って劇をして、挙げ句の果てに握手会』しなきゃなんねえんだよ。

 魔導騎士団に求めてねえでまじで劇場行けよ。バッッッカじゃねえの。」


 ゼンが口汚く吐き捨てる。


「それを『劇場にいる役者たちではなく、ラ(・)ル(・)ダ(・)や(・)ク(・)ラ(・)ウ(・)ス(・)た(・)ち(・)で(・)観たい』という要望なんだろ。」


 俺が一応補足してやると、ゼンは「そのラルダやクラウスが役者っつー仕事を選ばなかったんだから、その時点で諦めろよ。まじでバッッッカじゃねえの。赤の他人に何を要求してきてんだよ。」とまた口汚く正論を吐き捨てた。


 クラウスはそんなゼンに苦笑しつつ、やんわりと「その中だったら『公開訓練』が一番マシかな。……あんまり人に見せる方向に寄り過ぎちゃうと、訓練としての質は下がっちゃうけど。」と消極的に意見を述べた。


 ラルダは現役魔導騎士団員であるゼンとクラウスの嫌がる顔を見て、悲しそうにしつつ頷いた。


「二人の言う通りだ。

 私もドルグスも、やはり要望があるとはいえ、団員たちの心身の負担を増やしたくないのだ。だからこそ、私たちの中でもどれもしっくり来ずに悩んでいる。

 これらはどの案も、団員たちの訓練の時間を削ったり効率を下げたりするものばかりだ。


 時間の拘束だけで言えば一番負担がないのは『握手会』だろうが……これは国民と団員が個別に密に接触をするものだ。

 時間の負担こそ少ないが、団員によっては強い拒否反応を示しそうな内容でもある。本来の業務から外れていることに対する不満も確実に出る。それによって団全体の士気を大いに下げてしまう可能性がある。

 であれば、剣を握っている『剣劇』の方がまだマシだと考える者も出るだろう。」


「でも『剣劇』って、それはそれで『魅せるための実用性に欠ける剣舞』をわざわざ練習しなきゃいけないんでしょ?

 むしろ、変な癖がついたりして団員たちの実力が下がるまである。僕は絶対に嫌だな。僕自身はもちろん、部下たちにもそんなことさせたくない。

 だったらさっきも言ったけど、公開訓練の模擬戦を増やす方がマシ。……観覧客のいる模擬戦って、その場での振り返りや改善がそんなに丁寧にできないから、訓練の効果自体は低めなんだけどさ。」


 クラウスが隊長として、強い口調で反対意見を述べる。


「『歌舞』に至っては論外過ぎんだろ。それこそ訓練の時間が削れまくるしな。

 っつーか、人前で歌って踊りてえ奴はそもそも魔導騎士団に入ってきてねえよ。まじクソだろ。」


 ゼンが口にするのも嫌だという顔をしながら付け足す。


 それはそうだ。

 それこそ完全に別業種だ。


 ラルダはもはや辛そうな顔をして、大人しくしている唯一の引退者である俺の方を見た。


「……アスレイ。何か元騎士団員として、客観的に今の話を聞いていて思ったことはあるか?


 ……私としては、やはり団員と国民の命を第一に守ることだけは揺るがせたくない。

 一般市民や貴族からの不満が出てしまうことはもう仕方がないと割り切って、私の方から国民に向けて、今まで通り魔導騎士団の本来の業務への理解を求めるよう真摯に伝えていくのが一番だと思っているんだ。」


 板挟みに合っていながら、愚直にそこに辿り着くラルダは、やはり清い性格の持ち主だな。


 良く言えば、一番大切なものが何かをきちんと分かっている。団員たちからすれば、リーダーとしてラルダは最高だ。決して脇道に逸れたり変に周りに唆(そそのか)されたりせずに、団員たちを守っている。


 それで充分だとは思うが……まあ、強いて言えば、ラルダは「一番大切なもの」を揺るがさない強さはあるが、どちらも程よく妥協してどちらも程々に納得させるといったような「折衷(せっちゅう)」が苦手ではあるか。


 団員からの不満をそこそこに抑え、国民からの要望をそれなりに叶えて満足させる。ついでに金が回収できる。

 そういった落とし所を探ればいい。


 俺は適当にその場でとりあえず思いついた「折衷案」を口にした。



「そうだな。

 ……今のところ俺が思いついたのは『バザー』くらいか。」



◇◇◇◇◇◇



「『バザー』?」


 ゼンが中途半端に顔を顰めながら首を傾げてくる。


「まあ、アレだ。要は祭りの出店(でみせ)のようなものだ。

 魔導騎士団が一日限りで王都に出店を出して、そこで魔導騎士団員が食べ物などを手売りする──ということだ。」


 俺はゼンあたりから反対の声が上がる前に、とっとと詳細の説明をすることにした。


「もちろん、何かを国民に対してしなければならないという縛りがある以上、多少は魔導騎士団側は通常の業務外で時間を割かなければならないだろうな。

 だが、これならば限りなくその『割く時間』は少なく済む。その上、新たな技術の習得も必要ない。さらに金の調達と王都の経済活性化も見込める。」


 俺が説明を進めようとしていると、クラウスがすかさず反論をねじ込んできた。


「え?でもバザーって、それこそ手間がかかり過ぎない?

 出店の内容を決めて、準備をして、なんなら提供する料理とかの練習をして、売上金も管理しなきゃいけない。要は『そのイベントに合わせて接客業者になれ』ってことじゃん。大変だと思うんだけど。」


 俺はそんなクラウスの反論を否定した。


「まさか。

 学生じゃあるまいし。学園の学祭のクラス模擬店のように心血を注(そそ)ぐ訳がないだろう。当日以外は──何なら当日も含めて、ほとんどを外(・)注(・)で済ませるんだ。」

「どういうこと?」


 俺は一瞬だけ話す順番を考えて、それから再び説明を始めた。



「簡単に言うとこういうことだ。


 まず、『魔導騎士団主催のバザー』として、王都の店に出店(しゅってん)を依頼する。そうだな……騎士団の部隊数である5件、もしくは倍の10件くらいか。まあ細かい数字は今はどうでもいい。

 そして出店者には当日の商品と販売員の用意をしてもらう。もちろん有償でいい。売上金から払えばいいからな。


 屋台の準備や場所の確保、出店者との連携、国民への周知や宣伝といった当日までの諸々の雑務は、企画協賛者や事務方にやらせればいいだろう。


 ……あとは当日だ。

 調理や包装、金銭のやりとりはプロの販売員に任せて、騎士団員は横で簡単な接客作業を手伝う。

 客に向かって『いらっしゃいませ』、販売員が用意した商品を客に手渡しして『ありがとうございます』。その程度でいいだろう。


 以上。これが大まかな流れだ。何となくイメージはついたか?」



 3人が微妙な顔をして頷く。

 俺はそんな同期たちに説明を続けた。


「まず国民らの要望はこれで叶うだろう。

 魔導騎士団主催バザーというイベントに行けば、直接騎士団員から物を買うことができる。間近で交流ができて新たな一面にも触れられる。満足だろう。


 ……出店(でみせ)価格ということで、多少値段を割高に設定しても問題ないはずだ。」


 俺の最後の一文に、3人共そっと何かを察し始めたようだ。

 そのまま俺は続ける。


「次に魔導騎士団員。

 彼らはたしかに本来の業務と外れたことをしなければいけなくなるが、負担は最小限で済む。

 やることといえば、部隊ごとに依頼したい王都の店の候補をいくつか上げること。あとは当日出店(でみせ)に立って販売員の手伝いをすること。この2つだけだ。

 当日もシフト制にしてしまえば、一人当たり数時間の休日出勤で済むだろう。


 具体例を挙げるなら……例えば第3部隊。

 隊の特色を出すとして、隊長であるクラウスの好物の一つ、アップルパイを売りたいと決める。骨付き肉は面倒くさいからな。

 クラウス、お前の好きな王都のアップルパイの店の名前は──何だったか?」


 俺の振りに、クラウスは「ベルレンティー」と即答した。


「そう。そういった候補を部隊でいくつか挙げる。

 そして裏方がベルレンティーに出店(しゅってん)を依頼するんだ。それで、ベルレンティーの出店が決定したとしよう。

 バザー当日に第3部隊員は『クラウス隊長のお気に入り!パイ専門店ベルレンティーの特製アップルパイ』の出店(でみせ)に、ベルレンティーの販売員とともに立ってひたすらアップルパイを販売する。それで終わりだ。

 剣劇や歌舞に比べて、ただ店の商品を渡したりするだけだ。何の技術も準備もいらない。

 握手会と比べてもだいぶマシだろう。自分自身を商品化するといった、俳優まがいの真似をしなくていいのだからな。貴族ならほぼ全員が学生時代に経験したであろう『平民への炊き出しのボランティア活動』のようなものだ。なんならアレよりも簡単だ。」


 ゼンが微妙な顔をして「んー、まあ……まじでやりたくねえけど、歌って踊って握手会よりはマシだな。」と呟いた。


「出店者側にもメリットはある。……というか、王都の多くの店は出店(しゅってん)したがるはずだ。

 魔導騎士団の人気を利用して、何の苦労もせず店の知名度を上げることができるからな。

 そして当日も普段以上に売り上げを伸ばせるはずだ。魔導騎士団員という特別な存在を無料で手伝い要員にできる上に、集客にも使える訳だしな。

 当日以降も『あの魔導騎士団員のお気に入りの店』という感じで、リピーターが見込める。経済効果も少しではあるが期待できる。客である国民も出店者側も、双方が喜ぶイベントになるはずだ。

 継続して……例えば半年に一回、あらゆる店とコラボしていけば、その効果は高まるだろうな。


 国民の要望に応えて魔導騎士団の好感度をさらに上げつつ、王都の経済活性化も狙う。

 そして騎士団員の負担は最小限に抑えられる。下手に効果の薄い公開訓練を闇雲に増やすより、割り切って数時間の休日出勤をして終わりにする方が団員たちにとってもいいだろう。


 ……どうだ?詳細はもちろん詰めればいろいろとまた出てくるだろうが、大枠はこんなものでいいんじゃないか?」



 ラルダとゼンは表情的にすでに納得しかけていたが、クラウスは団内きっての人気者にしかない独特な視点を口にした。


「うーん……アスレイの案の良さは分かった。

 でもさ、その例に出したアップルパイの店『ベルレンティー』。どこから漏れたんだか知らないけど、最近『僕の行きつけの店』ってことで何故か一部の人たちの間で話題になっちゃってるみたいでさ。もうすでに僕自身が店に行きにくくなっちゃってるんだよね。

 休日とか仕事帰りに寄ろうとしても、いっつも混んでるし。ちょっと店に近付くとすぐ僕が買いにきたって周りのお客さんにバレちゃって、騒がれ始めちゃうんだ。お店の前で変な人だかりを作っちゃうと迷惑にもなるし……だから結局、いつも回れ右して諦めて帰ってる。

 お店自体が人気になるのはいいことだし嬉しいんだけど、それで僕がそのベルレンティーみたいに、お気に入りの店にどんどん行けなくなっちゃうのは嫌だな。やっぱり。」


 それを聞いたラルダとゼンが、クラウスに同情の視線を送る。


 ラルダは王女だから王都で堂々と買い物をする機会自体がもともと少ないし、ゼンはそもそも魔導騎士団員としても固定ファンがつくほどまだ人前に出ていない。

 前衛枠で参加した例の公開訓練のときに観覧席で「あれは誰だ?!」と話題になっていたが、その後は一度も公開訓練にも討伐遠征の隊列にも姿を現していないゼン。今のところ観覧客たちからは「謎の幻の最強団員」と思われているようだ。その一日でついたファンも、ゼンの存在はまだはっきり認知できていない。

 だからクラウスのぼやきの内容は、ラルダやゼンには当てはまらない。彼だけの悩みだ。


 俺はそんなクラウスに軽く返す。


「ならば尚更いいじゃないか。

 バザーのコラボをきっかけに、今後は個別に対応をしてもらえばいいだろう。

 今はただの一(いち)顧客だから無理だろうが。魔導騎士団が公式でコラボをした後ならば『店の広告塔になってくれたお(・)得(・)意(・)様(・)として特別に宅配対応をしてもらう』程度の待遇は期待できるぞ。

 そうすればクラウスは人目に触れることなく、魔導騎士団施設内やサーリ邸でいつでも──いや、いつも以上に好物のアップルパイを堪能できるはずだ。」

「さすがアスレイ!それ、できたら嬉しいかも!」


 クラウスは俺の話を聞いて、ご令嬢たちが卒倒しそうなくらいの破壊力抜群の笑みを浮かべた。


 ……よっぽど最近、買えずに諦めていたんだな。好物に飢えているんだろう。


 俺は最後に付け加えた。


「この『バザー』の形態ならば、『資金調達』の目的も比較的やり易いだろう。

 先ほど言ったように商品の価格設定を高めにするのでもいいが、そのバザーの出店(でみせ)のところで、騎士団員たちに『活動のための募金をお願いします』と直接資金提供を呼びかけさせてもいいだろうな。意外と集まるはずだ。

 ……特にクラウスが募金箱を持って突っ立っていれば、瞬時に軽く100万リーク程度は集まるだろう。

 まあ、そんな小(・)金(・)稼(・)ぎ(・)よりも、このバザーとそれによる経済効果を見た貴族たちからの資金援助が本命にはなるがな。

 王都の飲食店に限らず、各領地の名産品等に手を広げてもいいしな。そうすれば領地経営をしている貴族たちが直接釣れる。……いけると思うぞ。」


「うーわ。……お前ら貴族って、やっぱえげつねえな。」


 ゼンが呆れながらも感心している。


 ……甘いな。ゼン。お前はまだまだ貴族の腹の内の読みが浅い。


 俺が善意のボランティアだけで、ここまで魔導騎士団と国民と王都経済に親身になって考えてやる訳がないだろう。


 そして俺は最後に、俺(・)の(・)狙(・)い(・)を通しに行くことにした。



「……ということで、ラルダ。


 もし俺の案を採用するのであれば、この『魔導騎士団主催バザー』の主(・)管(・)は我がオーネリーダ公爵家に任せてもらおうか。


 元魔導騎士団であり四大公爵家のこの俺が、魔導騎士団と王都経済、双方の発展を願って立案したんだ。

 もちろん協賛者は他にも募ってもらって構わないが、主管だけは譲れないな。そこは通してもらうぞ。」



◇◇◇◇◇◇



 ゼンがキョトンとしながら、無言で微かに首を傾げる。


 ラルダはそんな素直な庶民の夫、ゼンの姿を軽く見て、微笑ましそうに目を細めた。それから俺の方へと視線を戻し、


「ああ、もちろんだ。

 ……立案、協力に感謝する。相応の利益を出すと約束しよう。」


 と、王女然とした表情でしっかり頷いた。


「よし。言質は取ったからな。」


 口頭で仮契約を成立させる俺とラルダを見て、クラウスが「こんなときまで仕事するなんて働き者だね。さすがアスレイ。」と笑った。

 そして続けて、不思議そうに俺たちを見つめているゼンに、俺に代わって軽く解説をした。


「要はさ、アスレイは『このバザーの実質的な運営はオーネリーダ公爵家で取り仕切るから、そこで回収できた資金から、公爵家に一番多く報酬をくれ』って言ってるんだよ。

 なんやかんやで大きなイベントを動かしたら、一番儲かるのは出店者や参加者じゃなくて主催者だからね。

 イベントが成功したときに主催者の魔導騎士団の次に儲かるのが、主管──影(・)の(・)主(・)催(・)者(・)であるオーネリーダ公爵家──つまり、アスレイってこと。」


 ゼンはクラウスの解説を聞いて「うーわ」と言いながら顔を顰めた。


「金にが(・)め(・)つ(・)い(・)っつーことか。」

「が(・)め(・)つ(・)い(・)とは失敬だな。当然の権利だ。」


 俺はゼンの言葉を即座に訂正する。

 それから、もう一度念の為にラルダに釘を刺しにいった。


「いいか、ラルダ。

 分かっているとは思うが、く(・)れ(・)ぐ(・)れ(・)も(・)『俺からの善意の立案』として、オーネリーダ家が主管の前提で話を通せよ。

 間違っても『魔導騎士団の立案』扱いにして主管や協賛者を公募──なんてことはするなよ。」


 念入りにラルダに確認する俺に、ゼンが素朴な疑問を口にする。


「それ、何が違えんだよ。変わんなくね?」


 俺はゼンに教えてやることにした。


「ゼン。俺の敵はお前の未来の身内にいるんだ。」


「…………は?」


「いいか?もし『魔導騎士団の立案』でバザーの主管を公募でもしてみろ。

 利益が出ると踏んだ貴族たちが、主管の権利を得ようとこぞって出資額を提示してくるだろう。要はバザーの主管が『競り』にかけられる訳だ。」


「ふーん。……で?」


 まだまったくピンときていないゼンに、俺は包み隠さず言い放つ。



「主管を『競り』にかけられたら、我がオーネリーダ公爵家は間違いなく負ける。

 王国一(いち)大胆な金遣いをする、巨額投資の権化(ごんげ)──パラバーナ公爵家にな。」



 するとゼンがようやく少しだけ理解し始めたのか、俺の発した単語に反応した。


「パラバーナっつったら……アレか。ユンの婚約者の家だろ。

 何?そんなやべえの?別に普通に競り勝てばいいだろ。」


「……やれやれ。ゼン、お前は知らないだけだ。あの家はや(・)ば(・)い(・)ぞ。

 あそこの金の使い方は普通の貴族の資金繰りとはまったく違う。平気で数十億、数百億といった規模で、ギリギリのラインを見極めながらバンバン投資してくる。

 真似をしようとして真っ向から張り合ったら、そこら辺の貴族ならば即破産だ。

 我が家はさすがに即破産とまでは行かないが……それでも、無傷では済まないだろう。


 この魔導騎士団の案件に関しては特に、ユンもいることだしな。

 パラバーナ家の者たちは、高位貴族にしては情に厚い傾向もある。しかもイベント大好きな派手好き一族だ。

『この件は赤字になってもいいだろう。ユ(・)ン(・)く(・)ん(・)の(・)応(・)援(・)のためにも、絶対に主管になってイベントをド派手にして盛り上げるぞー!』

 という理解し難いテンションで、法外な金額を提示してくるに違いない。


 俺も魔導騎士団のお前たちには情も思い入れもある。だとしても、赤字覚悟でパラバーナ家を相手に札束で殴り合うなど、そんな恐ろしいことは絶っっっ対にしたくない。

 勝っても負けても損しかない競りは御免だからな。


 だが、せっかく美味しい話があるんだ。パラバーナ家と張り合わずに主管の立場が手に入るなら、そうしておきたいに決まっているだろう?」


 俺の話を聞いたゼンは、何とも言えない微妙な顔をしながらようやく納得した。


「あ゛ー……まあ、細(こま)けえことはよく分かんねえけど、よく分かったわ。

 要するに、あの家族がユンにゲロ甘なせいで、馬鹿みてえな金額ふっかけてきそうだっつーことだろ。

 ……分かるわ。やりそうだわ。あの家族。」


 俺が「ゼンはパラバーナ公爵一家にはもう会ったことがあるのか。」と言うと、ゼンは妙な表情のまま頷いた。


「まあな。ついこの間、顔合わせした。まじでユンに全員ゲロ甘かった。俺にまでゲロ甘だったわ。

 ……っつか、今思い出した。あの家たしかにやべえわ。


 俺はその公爵に『ユンくんと娘の婚約成立のお祝いとして、こちらとしてはご家族であるお兄様のゼン様に1億リークほどお贈りしたいと考えております。……少額で申し訳ないのですが、いかがでしょうか?』って初手で言われたからな。


 まじで怖かった。丁重に速攻でお断りした。何もしてねえのにいきなり1億リークも手に入るとか、逆にホラーだろ。

 ユンが隣で白目剥いて倒れそうになってた。」


 俺はその愉快な光景を想像しながら、一応「まあ、四大公爵家の令嬢の婚約だからな。その金額設定はあり得る範囲ではある。」とフォローを入れた。


 それを庶民のゼンユン兄弟相手にも振るというのが異常なだけで。

 ……いや。パラバーナ公爵家のことだから、庶民相手に謙虚になった結果がその金額なのだろう。「少額で申し訳ないのですが」という不穏な言葉にその異様な感覚が垣間見えるな。


 もしユンが貴族だったら……婚約で10億、結婚で100億ときてもおかしくない。ついでに1000億相当の物品や権利、土地なども付けてくるだろう。

 溺愛する愛娘セレンディーナの祝いの場だからな。


 やれやれ……狂っているな。相変わらず。



「何はともあれ、現実的な案が出てきて良かったね。ラルダ。

 あとはもう少し詳細を考えていって、実際にできそうかどうか判断してみたら?」


 金の話がひと段落ついたところで、クラウスがラルダに振った。


「ああ。これで何とか前進できそうだ。ドルグスと共に、この話をもう少し詰めてみるとしよう。

 皆、貴重な意見と有益な提案をありがとう。」


 ラルダがクラウスの言葉に頷き、律儀に俺たちに礼を言ってきた。


「あ゛ぁ〜……アスレイの案が一番マシっつーのは理解してっけど、まじでやりたくね〜サボりてぇ〜せめて店に立つ以外の裏方やりてぇ〜。

 これ、全員強制参加か?出なくて済む方法ねえの?やってらんね〜。」


 ゼンがボスッと音を立てながらソファーの背もたれに身体を預け、だらしなく背もたれの上に頭を乗せて天井を見上げながら、団長であり妻でもあるラルダの前で堂々と非協力的な態度を取る。


「ゼン。お前が人前が苦手なのは重々承知しているが、たったの数時間だぞ?そのくらい我慢しろ。」


 俺がそう言うと、ゼンは頭を上に向けたまま目線だけこちらに向けて、雑に言い放った。


「それもあっけど……違(ちげ)えよ、アスレイ。

 んな誰が来るか分かんねえところに立ち続けるなんて怖(こえ)えことしたくねえっつーだけ。

 俺の敵は王都内にいんだよ。お前ら貴族には分かんねえと思うけど。」


 ………………まあ、何となく察した。


 ゼンの言葉に、クラウスが「結局人見知りってことじゃん。」と素直な解釈によるツッコミを入れた。ラルダも同じように受け取ったようで、申し訳なさそうな顔をしながら「団員の負担は平等にせねば不満も出るだろう。すまないな、ゼン。」とわざわざ謝っていた。


 ……ゼンが言っているのは、恐らくそういうことではないぞ。クラウス、ラルダ。


 俺は二人とは違う解釈をもとに──しかし、その解釈が二人に……特にラルダには伝わらないように配慮しながら、ゼンに雑に返した。


「……ならば、その数時間の中で『敵』に遭遇しないよう、せいぜい祈るんだな。」


 俺の返しを聞いたゼンは舌打ちだけして視線を天井に戻し「あ゛ぁ〜……やってらんね〜」と嘆いた。



 ──要は、ゼンは「王都内にいる『過去に関係があった女性たち』には絶対に遭遇したくない」と言っているのだろう。



 恐らくバザーが開催されれば、一番の客層は魔導騎士団のファンになる。

 老若男女問わずファンはいるものの、特に熱狂的なファン層である若(・)い(・)女(・)性(・)が大量に押し寄せる可能性が高い。

 そしてもちろん、バザーならば貴族も庶(・)民(・)も気軽に来ることができる。


 ……そう。ゼンがラルダと付き合う前に、交際していたり関係を持っていた庶民の女性たち──つまり、過(・)去(・)の(・)彼(・)女(・)や(・)遊(・)び(・)相(・)手(・)がバザーに来ても全然おかしくはない。……そういうことだ。


 もちろんゼンは、ラルダと交際を始めてからこれまでの間に、同時進行で他の女性と関係を持つような不道徳な行いはしていないはずだ。ゼンは誠実な男だからな。

 だから実際に何か問題がある訳ではないのだろうが……まあ、理屈は抜きにして、いい気分はしないだろうな。


 恋愛結婚が一般的な庶民からすれば、交際経験が複数人になることも珍しくはない。しかし、王侯貴族は政略結婚が一般的なため、基本的には生涯での交際人数が一人に収まる。

 ラルダも頭では分かっていたとしても、いざ目の前でゼンが過去の女性と遭遇していようものなら……そういった文化に不慣れな分、確実に嫌な思いはすることになるだろう。


 それに──……ゼンと、特にユンはな。


 本人たちにとっても、ある意味では「忘れたい相手」でもあるだろうからな。



 俺は密かに複雑な事情を持つ庶民兄弟に同情しつつ、それはそれとして新たに得られそうな美味しい仕事に、公爵家の人間として素直に喜ぶことにした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。