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私は知らなかった*オリヴィア視点

 愛を通じ合わせたその日から、リックの態度は一変した。

 具体的には、


「ヴィア、こっちにおいで」

「え、ちょ、リック」


 お姫様抱っこで執務室に連れて行かれ、私を膝に乗せて仕事をしたり。


「ヴィア、何してるの?」

「んー、今は刺繍していたの。でもそろそろ休憩しようかと」

「なら一緒に」


 お姫様抱っこでサンルームに連れて行かれ、私を膝に乗せて一緒にお茶をしたり。


「あのね、さっきしてた刺繍、完成したのだけれど、リックに」


 真っ白なハンカチに私のイニシャルを刺繍して渡したら、ぎゅうぎゅう抱き締められて可愛い可愛いと愛でられ髪を撫でられ何度もキスをされて一秒たりともハンカチを手放さなかったり。

 だって私にだって独占欲はある。リックは顔がとても整っていて、令嬢たちに大人気だ。だから、


「ねえ、リックが登城するときに着てる礼装、あれに刺繍を入れたいの」

「うん?いいよ」


 袖や襟、裾に私の瞳の色の刺繍を追加してやった。一応言っておくと、自分で言うのも何だが私の刺繍の腕は確かだし、センスも鍛えられているから、それは決して邪魔な刺繍ではなく、それどころかより品のあるものになったと思う。

 すると、翌日の朝私は腰が砕けて起き上がることができないなんていう羽目になった。

 他には、


「ねえヴィア、相談があるのだけど……」

「何?」

「ヴィアのドレスはこれから全て私の色にしたいんだけど、駄目かな」

「え」


 リックの瞳は鮮やかで綺麗な色だし、リックの色のドレスは私によく似合う。

 リックが真顔で示してきた独占欲はすごくすごく嬉しくて、私の顔も自然と緩む。

 けれど、クローゼットの中が全て同じ色になるのはちょっと……。


「うーん……外に着ていくドレスだけじゃ駄目?」

「……」


 駄目らしい。


「分かった、なら人と会うときはリックの色にする。でも同じ色ばかりじゃ飽きてしまうわ」

「私の髪の色でも構わないよ」


 瞳の色同様、リックの髪も綺麗な色をしている。勿論私に似合うし、そこに否はないのだが、


「でもやっぱりピンクとか着たいし」

「……わかった、家ではそれでもいいよ、ちゃんとしたドレスを着ることも滅多にないしね。でも誰かに会うためのドレスは絶対に私の色にして。男どもが君を見つめるのが嫌なんだ」

「ならお茶会は」

「男どもはいるだろう?」


 執事や侍従も男に含まれるらしい。

 可愛らしい独占欲が嬉しすぎて、私は分かったと頷いてしまった。


「でも家はいいの?」

「良くないけれど、うちの使用人はきちんと弁えているから」


 口を尖らせるリックが可愛い。

 私は無意識にリックに抱きつき、頬ずりしていた。


「ああヴィアっ」


 甘ったるい声で私の名を呼び、リックが私を抱き締め返した。


「ねえ今からベッドに行くのはどう?」

「馬鹿っ」


 真っ昼間からなんてことを。

 私はリックを突き飛ばし、ぷいっとそっぽを向いた。


「さっさと仕事をなさいませ」

「ああ、夜は長い方がいいものね」

「違う、そういう意味で言ったんじゃないわ!」


 ぷんすかと怒ったような姿を見せて私はリビングに戻る。

 ソファに座って私が手に取ったのは、やりかけの刺繍。

 リックに渡すものだ。

 あとは、


「ご無沙汰しております、ダウエル公爵」

「おお、ウォルシュ侯爵令息ではないか。久しぶりだな。そちらはカールトン公爵令嬢、いや今はウォルシュ侯爵夫人だね」

「ご無沙汰しております。リチャード様と結婚致しましてオリヴィア・ウォルシュとなりました」


 すっとカーテシーをすると、ダウエル公爵はにこりと微笑んだ。


「令息は素晴らしい奥方を迎えたものだな」

「仰る通りです、私には勿体ないくらいの妻です」

「まあリック、そんなことはありませんわ」

「そんなことあるんだよ。でもねヴィア、だからこそだしそうでなくてもヴィアは私の最愛だ」

「人前ですわ!」


 抗議したが、リックは気にせずダウエル公爵と話を続けた。


「だからダウエル公爵もあまり妻を見ないで下さると」

「うん?減るものでもあるまい」

「減ります、それに私の最愛です。彼女を見るのは私だけでいい」

「はは、お熱いな。中てられてしまいそうだ。私は退散することにしよう」

「是非お願い致します」

「ははは」


 ダウエル公爵は楽しそうに笑いながら礼をし踵を返す。

 それを見送ってから、私はリックを小突いた。


「そういうことを人に言うのはやめて頂戴」

「どうして?私は私以外の男がヴィアを見るのが許せない」

「貴族でしょう、そのくらい諦めて下さいませ」

「無理だよ、私がどれほど君を愛しているか知っているだろう?」

「恥ずかしいのです!」

「そうか可愛いなあ、今すぐ家に帰って好きなだけ君を愛したいな」

「いい加減にして下さい」


 甘い声でそう囁くリックを再び肘で突く。

 だがリックはにこにこと笑い、私の腰に腕を回して抱き寄せる。

 密着するとなんだか安心してしまい、私は反抗できなくなってしまった。私はとことんリックに甘い。




 ――私は知らなかった。

 本当に愛してしまえば、こんなにも溺れてしまうなんて。


 あの婚約解消があって、私は決して愛に溺れることはしないと誓った。

 殿下に想いを抱いていた頃だってそんな風じゃなかったから、大丈夫だと思っていた。


 私が殿下と同じだとは思わない。

 彼の溺れ方は異常だった。


 でも、私の恋の相手は夫。

 好きなだけ溺れて構わないのだと、そう気付いた。


 私達の恋は決して燃え上がるような激しいものではない。

 でも、深い深い海のような恋。


 私達は、愛に深く溺れてしまった。

 それは決して苦しいものではなくて、心地良さだけがある。そんな恋で、愛。

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