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コズミック・ラビリンス(CHAPTER5b:3)

「あの橋を渡って、怪物と化したピルグリム博士を倒して迷宮の出口へ向かう。ここまでは攻略法に書いた通りです。そして、プレイヤーは出口から夜明けの荒野に出ます」


「で?」


「博士が言ってた通り、実は主人公にも怪物の血が流れていたんですね。主人公は昇る朝日の下で、自分の身体が博士と同じような怪物に変化してしまったのに気付き、悲鳴を上げ、絶望に打ちひしがれながら迷宮に戻ります。そこにエンドマークが重なって……それでお仕舞いです」


「まあ、らしいオチだな。アウトサイダーとか意識してんのかね? ……で、エンディングを見て、それからどうなるんだ?」


 俺の問いに、アルベルトはまたあの嘲りの混じった笑みを浮かべて言った。その顔は青や緑色の炎に照らされて、一層化け物じみて見えた。


「言ったでしょう? それでお仕舞いだって。……そのエンディングを見た者は、直後に現実世界で死んでしまうんです」


「……どうやって?」


「そこは様々みたいですね。ゲームが終わって背後を振り向くと、そこにいつの間にか名状しがたい何かの怪物がいて、そいつにそのまま殺されたのが大半みたいですね。恐らく、ゲームのクリアがフラグになって、何かが、何らかの手段で召喚されるんじゃ無いですか? まあそこは“知らんけど”と言わせて下さい」


 アルベルトは、そういって笑いながら一歩踏み込んできた。眉間に向けられた拳銃を恐れる様子は全く無い。俺は思わず一歩後ずさりながら、それでもアルベルトの話を聞いていた。


「後は怪物から逃れようとして転落死や事故死を遂げたり、怪物に喰われる位ならと自殺したプレイヤーもいたみたいですが、何れにしてもゲームの途中で死んだ僕みたいなプレイヤーと同じく、クリアしても死んだ連中はこの迷宮に囚われてしまうみたいですね」


「なるほど、良く解った」


 今度は俺が数歩進んで、アルベルトの眉間に直接銃口を押し付ける。奴はやはり、それを全く恐れずに何時もの柔和な笑みを浮かべた。その表情に、一瞬だけ奴に銃を向ける事を躊躇したが、気を取り直して出来るだけ凄みを聞かせながら先を続けた。


「で、お前は全部解ってて、俺を同じ目に逢わせようとしたってか?」


 やはり全く恐れる様子は無い。逆に上機嫌で言葉を返す。


「そんな怖い顔しないで下さいよ、ガリンペイロ。ただ、友人として現世に不満を持つ貴方を、生活苦や憂鬱な世界情勢に関係の無い、一切の悩みから解放されたこの空間に招待したかっただけなんですから。……慣れると、ここも結構快適ですよ。まあ、九玄太さんはそうは思わなかったみたいで、いつかのラウンジで見た様に何度か逃げ出そうとしていましたが、今では此処での暮らしにも慣れてきたみたいですし」


 気配を感じて辺りを見回すと、深淵から噴き上がる炎や溶岩の光や影の中に、九玄太やこれまでに見た様な“中身入り”の敵キャラにくっついてた顔が見えた。どの顔も俺を見ながら、期待に満ちたクソみたいな笑顔を浮かべてはいるものの、それ以上の事はしてこない。


 何故、一息に総攻撃をしてこないのかと疑問に思っていると、先にアルベルトが親切にも俺の疑問に答えてくれた。


「ああ、彼等ですか? 彼等は、貴方にほとんど倒されてしまいましたからね。一回倒されると、NPCに憑りつく力がしばらく失われるみたいでして。このゲームがもう少しメジャーだったら、まだ仲間も居たんでしょうがね」


 なるほど。……いや。と、言うことは? 慌ててアルベルトに視線を戻すと、奴の身体は波打って膨れ始め、探検服の袖や裾から、触手やハサミがゾロゾロとはみ出している。


「お察しの通り、僕が最後の一人です。では、月並みな台詞ですが……仲間になれ! ガリンペイロ!」


 俺が引き金を引くのと、膨張した奴の身体と触手に弾き飛ばされたのは、ほとんど同時だった。俺は数メートル弾き飛ばされると、そのまま巨大な茸の生えた岩に叩きつけられた。

 幸運にも茸がクッションの役割をはたしてくれたので、重傷を負う事は無かったが、衝撃でしばらく身動きが取れなかった。俺は奴の追撃を恐れて、それでもどうにかして砕けた茸の山から逃れようとしたが、恐れていた次の攻撃はいつまで経っても来なかった。


 ようやく上体を起こしてアルベルトの方を見ると、奴は身体の半分が異形の怪物と化していたが、無数に生えた触手の一本も動かさずに、ぐったりと地面に横たわっていた。

 俺は空になった拳銃を捨てるとバックパックから手斧を取りだし、それを杖代わりにどうにか起き上がると、よろよろとアルベルトに近づいていった。


 反撃を恐れていたが、俺が奴の側に近寄るまで一切身動きは取っていなかった。斧をいつでも降り下ろせる様に構えながら、奴の顔を覗き込むと……その眉間に小さな穴が空いていた。と、不意にアルベルトが息も絶え絶えながら、柔和な表情で話し始めた。


「やるじゃないですか……ガリンペイロ。偶然か、それとも真に目覚めた脳力によるものか…………どっちにしても……大したモノですよ……」


 その言葉を聞くと、俺は斧を下ろして奴の側に膝を着き、まだ残ってる方の手を取った。


「お前、わざと負けたろ。仲間にするんじゃなかったのか?」


「最初はそのつもりでしたがね。……こうして……我々の辿った末路と違う分岐を見つけられたら……。その先に……進んで欲しくもなりましてね…………。まあ、気持ちとしては半分半分ですかね?」


 そう言って微笑むアルベルトの顔に、細かいノイズが走り始めた。これで終わりか。


「悪いな」


「気にしないで。…………いつか機会があったら、この先がどんなだったか……教えて下さい。…………それじゃ…………また………………」


 それだけ言うと、アルベルトの顔は大きなノイズと共に消え、後には苦悶の表情を浮かべた、ピルグリム博士の顔が残った。もうこれは、ただのNPCの残骸に過ぎない。俺は博士の死骸から手を離すと、再び立ち上がった。

 その時、バックパックの中で何か金属が砕ける様なカン高い音がした。開けてみると、チャプター4で入手した金属製の小箱が砕けていて、その中に入っていたであろう小さな金属製の(ホイッスル)が転がり出てきた。


 ……成る程な。ここで使えってか。よく見るとこの地下空間は、あの短編に出てきた場所か。俺はあの呪文の刻まれた粘土板を取り出すと、そこに書かれているタイミングで笛を吹きながら、“奴”を召喚する呪文を大声で唱えた。


「いあ! いあ! はすたー! はすたー! くふぁやく ぶるぐとむ! ぶぐとらぐるん ぶるぐとん! あい! あい! はすたー!」


 すると間を置かずに、断崖の深淵から、不気味な羽音と唸り声が響いて来た。


 ゲームの容量から考えても、この先がゴールだろう。……いよいよか。俺は油断無く、虚空の深淵から飛来してきた“それ”を凝視した。

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