コズミック・ラビリンス(CHAPTER5:4)
この呪文には見覚えがある。読んだだけで解った。これは、あの有名な召喚の呪文だ。
つっても、何だコレ? 攻略法には、アレを召喚するとか書いて無かったぞ? いつかのスタッフロールの石碑の広間みたいな隠し要素に関するアイテムか?
試しに呪文を実際に詠唱してみたが、何も起こらない。確か他に必要なアイテムだか儀式だかがあるんだっけか?
……まあいい。そろそろ奴が追ってくるかもしれない。攻略法には何もこの粘土板の呪文に関して何も書いて無いと言う事は、きっとゲームクリアには関係の無い、他の隠し要素に関するモノなんだろう。
なら、それを確かめるのは一旦ゲームをクリアしてからでも遅くは無いだろう。多分。
そう判断して隠し部屋から出たのと同時に、吹き抜けの上の方から何か重いものを叩き壊したかの様な轟音が響き渡った。もう追って来たのか! 飛ぶように残りの階段を降りると、眼前の半開きの扉に飛び込んでまた完全に閉じてやる。これで、このエリアの道程の半分くらいか?
その後も曲がりくねった迷路を攻略法を頼りに潜り抜け、その都度追いすがって来る魔犬の襲撃には、拳銃での牽制やドア等の迷宮内のギミックを使った方法で、どうにか切り抜けた。
そうして、このエリアの終盤に差し掛かった。目の前には二つに分岐した通路。右の通路には、ピルグリム博士の手による歪んだ矢印が書かれている。通常通りに考えるなら、矢印を頼りに右へ向かうべきだ。
実際、この右側の通路は道程は左に比べれば平坦で、程無く最終エリアへ向かう扉にたどり着く。しかし、これでは肝心の最終エリアにまで魔犬を連れていく形になり、ゲームのクリアを困難にする。
だから、ここは魔犬の護符に刻まれているのと同じ、ドクロの意匠が壁面に刻まれた左側の通路を進むのが正解なのだ。急がば回れ……ってヤツだ。
通路を進むにつれて、巨石を組み上げて造られたと思しき壁面は、次第にただの岩肌のような荒々しい様相を顕にして行き、ここまでの疲労感と相まって、ここが巨石の迷宮なのかそれとも広大な洞窟なのかも判別出来ないまま、まるで夢の中をさ迷うかの様な足取りで不規則な明かりの並ぶ広大な通路を進んで行った。
その倦怠を打ち破ったのは、当然魔犬だった。最早、広大な通路だか天然の洞窟だか判らない空間を進んでいると、また上空から奴が襲いかかってきた。
最早、疲労困憊の極みにあった俺だったが、上空から吹いてくる風を感じると同時に、反射的に奴の攻撃をかわして、石筍とも石柱ともつかないオブジェクトの物陰に隠れた。
クソッ! 目的地まであと少しなのに油断した。もう一瞬だけ避けるのが遅くても、奴に捕まって喰い殺されてしまっただろう。早くもヤツは体勢を整えて、こっちへ飛び掛かろうとしている。
俺はそれよりも一瞬早く、銃を奴に向けて撃つのと同時に、この通路の奥の入り口目掛けてダッシュした。背後でまた奴の怒りの咆哮と、のた打つ音が聞こえる。どうやら最後の一発も上手い具合に命中してくれたらしい。
目指すは、この通路の突き当たりのアーチ……を休む事無く駆け抜ける。そして、そのまま短い通路を駆け抜けて……石造りの棺が等間隔にどこまでも並ぶ、広大な地下墓地にたどり着いた。いや、この規模は、もはや死者の都ってヤツだろう。
さて、この中から一つの棺を見つけねばならない訳だが、幸いにしてその場所は攻略法で判っている。あとの問題は……
さあ、早速翼の音が聞こえてきた。目標の棺は、もっと奥だ。この先は広すぎて松明も無い。懐中電灯の明かりを頼りに棺の列の間を疾走する。
早く、早く、早く! 古びた棺の先にある、小さな霊廟を目印に走り、ときおり上空から迫る魔犬の攻撃を棺の間に隠れて遣り過ごす。奴はハッキリした眼が無いせいか、古の印もイマイチ効果が薄い。
そして何度目かの攻撃を回避して、霊廟にたどり着く。扉は例によって半開き。素早く飛び込んで内側から扉を閉じた。
その直後に扉に重いものがブチ当たる音と衝撃が、霊廟全体を揺るがした。早くも古びた石の扉に亀裂が走る。早く、早く、早く、早く! 霊廟の中に並ぶ棺から、素早く目当ての……護符と同じドクロの刻印がされている棺を見つけると、渾身の力を込めて石で出来た蓋を開きにかかる。
またも強い衝撃。扉全体に大きな亀裂が走る。持って後十秒かそこらか。半泣きになりながら、どうにか蓋を半分ほどずらした。中には朽ちた白骨死体があるだけだが、これが目標だ。
俺は素早く首から翡翠の護符を外して白骨の胸の上に置き、その後、有らん限りの力で蓋を元通りに閉じた。さすがに力尽きて、棺の上に突っ伏して荒い呼吸を繰り返す事しばし。
ようやく落ち着いて顔を上げると、崩壊した石扉の向こうには、最早なんの物陰も気配も感じ取れ無かった。……やった。これで長かった魔犬との付き合いも終わりだ。俺は安堵して霊廟を出て、この先にある最終エリアへの入り口へと向かった。
だが、魔犬が居なくなったハズなのに、まだ俺は何かから見張られている感触を拭い去る事が出来ないでいた。
……気のせいだよな?




