コズミック・ラビリンス(CHAPTER3:2)
懐中電灯に代わって、より広範囲を照らせるランタンを手に広間中を捜し回ったが、それらしいモノは全く見付からない。マジでどこにも無いぞ? バグか? いや、いくら何でもストーリー進行上、いかにも重要そうなアイテムを設置し忘れるとかあるか?
なら、これも脳力開発の為の試練か? もっと注意深く調べてみよう。そう思ってランタンの明かりを頼りに床を調べると、石畳の上にうっすらと砂ぼこりが積もっていて、その上に幾つかの足跡が見つかった。その幾つかは自分のだが、それ以外の数人分の足跡が、この広間を行ったり来たりしている。
しかし、この広間の北側の通路……便宜上、自分が入って来た通路のある方角を南、広間の中央にある石碑を挟んで反対側を北と定義する……に向かう足跡は二組だけだった。おそらくピルグリム博士と、手記にあった助手のマーシュ君とやらの二人組のモノだろう。
他に手がかりは無いか更に子細に調べてみると、人間の足跡に混ざって小動物の足跡を見つけた。何だろう? 手記にあったネズミってヤツか? これも複数いるみたいだが、その内の一つの足跡が何かを引きずった様な線と一緒に、西側の通路に真っ直ぐ延びていた。
これだな。このネズミが例の翡翠の護符をくわえて、西の通路に引きずって行ったに違いない。と、すると、このネズミには知性と、恐らくは悪意があると言う事になるのだが、さて……
とりあえず最後に、広間の中央の石碑を調べるか。全高は三~四メートル、黒い光沢のある石で出来ていて、装飾は丁度俺の目の高さに、古の印のそれと似た五芒星が刻まれている。ならば、これは俺にとって有利なオブジェクトなのか?
何かが起きる事を期待して、恐る恐る石碑に触れてみる。まるで某古典SF映画に出てくる猿人になった気分だ。右手の指が石碑の表面に触れると、五芒星の下に白く文字が浮き上がった。
……
セーブしますか? (YES/NO)
……
只のセーブポイントかよ! 拍子抜けして、思わず脱力してしまった。だがしかし、これはチャプター3にして初の要素だ。
今まではチャプターを攻略しないとセーブは出来なかったのだが、ここに来てセーブポイントが現れたと言う事は、このチャプターの攻略には結構な時間が掛かるか、あるいは落とし仔の時みたいに途中で挫折するほど、死にまくる展開が待ち受けてるかのどちらか……あるいは、その両方かだろう。
まあ、ここまで来るのにも少々時間が掛かったし、一旦ここでセーブしておこう。……YESっと。
さて、これからどこへ向かうべきか。ピルグリム博士の行方も気になる所だが、さっきの手記を読むに、既に手遅れな事態に陥っている可能性が高い。ならば、薄情だが先ずはネズミを追って西側の通路に入るのが一番だろう。手記にはネズミには関わるなと書いてあったが、いかにも重要そうなアイテムを持ち去られたとあっては、事情は別だ。
……ランタンの明かりを頼りに、西側の通路を進む。ランタンは広範囲を照らせる代わりに、何かが潜んでいれば格好の目印になってしまうかもしれない。だが、懐中電灯の細長い光にいい加減心細さを覚えていた俺にとって、この明るさは何にも換えがたい安堵感を与えてくれていた。それに予備の電池が見付からない以上、無駄遣いは避けなければ。
歩いている内に、壁の石組に変化が現れた。今まで壁を構成する石組は、マチュピチュのそれを思わせる位に隙間無く組み合わされていたが、ここに来て隙間が目立つ粗雑な組み合わせになっていた。そして壁面に人骨を雑に積み上げた窪みが等間隔に現れるに至って、背景の雰囲気は一気に中世ヨーロッパの地下墓地の様に変化した。
それにしたって、マトモじゃない。頭蓋骨や大腿骨等、パーツ別に分けられた骨を積み上げたアルコーヴには、明らかに人間とは違う類人猿に似た頭蓋骨や、恐竜みたいな鋭い歯を持った顎の骨に、ナイフみたいな鉤爪を持った指の骨なんかが人骨に混ざってチラホラと見える。
俺は興味に駆られて、そうした骨を観察すべくアルコーヴの一つに近づいてみたが、いきなり骨の山の中から猫程もある灰色の獣が飛び出して来たが、反射的に右手のナイフを振り回して、どうにかそいつが俺の喉に飛び付くのを防ぐ事が出来た。
不意打ちが失敗したその動物は床に着地すると、不潔な牙を剥き出して威嚇の鳴き声を上げた。それが合図なのか、あちこちのアルコーヴや石組の隙間から似た様な小動物がゾロゾロと這い出して来た。
そいつは大まかにはドブネズミに見えるが、どこかしら猿みたいにも見える。それは前肢の先端が人間や類人猿の手首の様に見える為であり、何よりもその顔が醜いながらも人間そのものであったからだ。だが、その表情には理性は感じられず、ぼうっと浮いた定まらない視線とヨダレを垂らしながらニタニタ笑う口許は、まぎれも無く、狂気と飢えと嗜虐心に満ちていた。
気が付くと既に数十匹のネズミに取り囲まれ、もはや俺の方が完全に袋のネズミと化してしまった……




