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コズミック・ラビリンス(CHAPTER3:1)

 ……再び落とし戸と青銅の扉の間の空間に降り立つ。さっきの状態のまま再開しているので、右手に例の五芒星が刻まれた石を握り込んだままになっていた。


 懐中電灯で、改めて掌の石を照らす。線状に刻まれた五芒星、その真ん中には炎の様な模様が刻まれている。さっきの落とし仔を退けた力といい、これは間違いなく“古の印”だ。


 古の印……クトゥルフ神話系列の小説やゲームなんかではお馴染みの、まあ、怪物の類いを退ける護符の一種だ。さっきの落とし仔みたいな、旧支配者の下僕みたいな怪物には効果はあるが、ご本尊の旧支配者自体には効かないってのが定石だ。例外もあるが。

 厄介なのは“何に”“どのくらい”効果があるのか、どの怪物や旧支配者が“例外”に当たるのかが、その作品(コンテンツ)ごとにマチマチで、その効き目も、吸血鬼に対する十字架並みにテキメンに効く小説もあれば、それほどでも無いゲームもある。

 更には便利だからと乱用してると、旧支配者や上位の僕に目を付けられて狙われてしまう……みたいな設定も何かで読んだ事がある。このゲームがそこまで設定してるかは判らないが、コイツは只のホラゲーじゃ無くて、脳ゲーでもある。そんなゲームが、プレーヤーに一方的に有利なアイテムを、タダでポンと渡す訳が無い。


 ……まあ念のために、ここぞと言う時だけに使う事にしよう。すぐに取り出せる様に、バックパックじゃなく上着のポケットに印を入れて、先に進むべく目の前の閉ざされた大扉に灯りを向けた。

 今度の扉は、装飾がほとんど無い無機質な造りで、鍵穴もノブもノッカーも無い。どうやって開ければ良いんだ? ノブが無いから引く事は出来ない。なら、押すしか無いか。


 手で押しても反応が無い。扉にもたれて体重を掛けると、蝶番が(きし)む音を立てて、扉が少し動く感触が伝わった。成る程、ここは力押しで良いのか。なら、一気に開けてしまおう。俺は扉に両手を当てて、一気に扉を押し開けた。

 ……つもりだったが、錆び付いた扉は思ったよりも重く、俺がどうにかすり抜けられる程度の隙間を作るのに、少し時間が掛かってしまった。落とし仔を印で撃退する前に、扉を開けて逃げようとしていたら、きっと間に合わずに喰われてしまってただろう。


 これも脳力開発の一環ってか。軽く息切れしながら、懐中電灯を扉の先に照らす。相変わらずの石造りの通路。今の所、何の音も気配もしないので、念のためにナイフを抜いて先に進む。

 ……体感時間で二~三十分位経っただろうか? チャプター2に比べて多少入り組んだ造りになった迷路に少し時間を取られたが、そこを抜けた先にまた下に降りる階段を見つけた。迷宮(ラビリンス)とタイトルに付いてるが、今の所はそこまで複雑なマップでは無くて、そこは助かる。


 またしばらく階段を降りると……もうかなり地下深いんじゃないか? また通路が延びており、その先に小さな明かりが見えた。このゲームを始めて以来、初めての現象だ。だが、明かりが灯っていると言う事は、明かりを必要とする何かが居ると言う事。ピルグリム博士の一行なら良いが、もし違うナニかが待ち受けていたら……


 まあ、考えても仕方ない。懐中電灯とナイフを構えて、ゆっくりと大広間に入った。広さはちょっとした体育館くらい。真ん中に大きな灰色の石で出来た石碑があり、その前にランタンが置いてあった。


 まずは、何かが潜んでいないか広間の中を軽く探索する。自分が入って来た入り口を含めて四方に出入口がある。壁や天井には、大きな異形の怪物が群れを成して都市を破壊し、逃げ惑う人々をその触手や鉤爪でもって、好き放題に蹂躙する阿鼻叫喚の地獄絵図を描いたレリーフが、おぞましいまでのリアリティでもって彫られていた。

 こうして遠目に見れば、たんなるテクスチャとは思えない奇妙な迫力がある。まるで今にも動きだし、再び破壊と虐殺を再開しそうな……


 ……


 ……


 ……いかんいかん、思わず我を忘れて見とれてしまっていた。ボーッとしてると、またナニかが襲ってくるかも知れない。さっさと探索を済ましてしまおう。……とは言えしばらくの間、壁画のおぞましくもリアルな図案が頭から離れないでいた。

 自分が入って来た入り口を始めとして、どの入り口からも何の物音の臭いもしない。今の所は安全か。最後に一番気になる石碑とランタンに近寄った。

 ランタンはありふれたデザインの手提げ型で、古代の遺物には見えない。恐らくピルグリム博士の置き土産だろう。油はまだ半分ほど残っている。その手前には、小石で重石をされたノートの切れ端が置かれていた。

 紙片を手に取って調べると、英語でビッシリと何かが書かれている。俺は英語が全く出来ないが、言語設定で日本語を選択しているので、すぐに英語の文章の上に日本語の字幕が浮き上がった。


 ……


 親愛なる君へ。


 君は恐らく、自分がキャンプに取り残されているのを悟って、慌てて我々の後を追ってきて、どうにか此処までたどり着いたのだろう。……ここに至るまでに潜んでいた、怪物共の餌食になっていなければの話だが。


 この迷宮の門をくぐった頃には二十人を数えた我が探検隊も、次々と怪物の餌食となり、この手記を書いている今となっては、私と助手を一人残すのみとなってしまった。これまでに払ってきた犠牲を思うと胸が痛む。


 だが、後悔は無い。学究の徒として考古学を志して以来、知られざる遺跡や未知の文明の痕跡を新発見する事。すなわち、トロイアの遺跡を発見したシュリーマンや、ピルトダウン人の頭骨を発見したドーソンの様に、新たなる人類史の一ページに私の名を刻む事。それこそが私の長年の夢であったからだ。


 そして、念願叶ってこのオリエントの最果てで、我々は未知の文明によって築かれた地下迷宮を進んでいる。だが、身心共に傷付き、深淵の恐怖に晒され続けた我々が、この迷宮の最深部に辿り着く事は最早叶わないだろう。だが、君が我々を追ってきてくれているなら話は別だ。


 君は私と違って、この迷宮を探索する事には消極的だった。それ故に、私は君を地上のキャンプへ置き去りにしたのだ。だがもし君が地上の砂漠で日干しになることを望まずに、我々の後を追って来てくれたのなら、きっと君は持ち前の機転と、鋭敏な感覚と、……あるいはそれ以外の“能力”でもって、我々の屍を踏み越えて、この迷宮の終着点に隠された旧支配者達の秘跡を見ることが出来るだろう。


 残念だが、もはや我々にはそれは叶わない。我々はこの迷宮に長く関わりすぎた……あるいは、逆に関与が浅すぎたが為に、この迷宮に(とら)われてしまった。最早、我々はこの迷宮で朽ち果てるか、死ぬことは無くとも、二度と陽の目を見ることは無いだろう。君が我々と同じ轍を踏まない様に祈る。


 私は、この広間の石碑の裏側にある通路の奥に、この遺跡の秘密に触れる重要な通路を発見した。おそらくこの通路は迷宮の最奥に至る近道だと考えられる。だが、最早この迷宮の狂気と呪いに侵された我々が、この通路を辿って生還出来る見込みは無いだろう。


 こうして、この手記を記している今も、恐怖で震えが止まらない。だが、私はどうしても、この先にある迷宮の秘密を確かめたい。だから、最後に残った助手のマーシュ君に見張りを頼んで、その通路に入ってみるつもりだ。正直、無事に帰れる見込みは無いだろう。われわれの背後から、追ってくる名状しがたい禍々しい気配はより強くなっているし、壁の中を這いまわるネズミの足音はどんどん増えてくる。


 私はまだ正常だ。今の処は。


 私は正気を残している間に、なんとしても迷宮の最深部に辿り着くつもりだ。もし、それが叶わなければ……君には何としてでも私に代わって迷宮の秘密を暴いてほしい。


 最後に……ネズミには関わるな。黒いスフィンクスの顔を見るな。迷宮の秘密に挑む事を恐れるな。


 ……幸運を祈る。


 署名:ミスカトニック大学考古学教授 A・S・ピルグリム


 追伸:我々がここに至るまでに発見した翡翠(ひすい)護符(タリスマン)を、この手記とランタンと共に置いて行く。我々にはこの護符の使い道が解らなかったが、君には何かの助けになるかもしれない。


 ……


 ピルグリムの手記を読み終えた俺は、軽く溜め息を吐いた。おそらくピルグリムはもう生きてはいないか、もっと悲惨な運命を辿ったに違いない。この手の手記を残して、無事に生還したヤツなんかいない。お約束ってヤツだ。まあ、大方こうなると予想はしてはいたが……


 ピルグリムの行方も気になる所だが、それよりも重要な問題がもう一つ出てきた。


 翡翠の護符? そんなモノ、どこにも無いぞ?


 ……どこだ?

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