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「72!」

 

「リテーリアは補助のキャラクターだから恋人とかは設定して居なかったはずだよ、細かい設定はルイの方が詳しいはずだから、聞いてみたらどうかな」


 たまたま廊下で出くわしたトーマス殿下に聞くとそんな解答をもらった。


 主な設定をしたのはトーマス殿下の方じゃないんですか、と不満に思いながらもルイ・アントンの場所を探す。


 そう言えばこの間殿下と管理人かどうか問いただした時から全く見ていない。




 私はどんどん料理の腕が上手くなる姉さまと一緒にモチモチのドーナツを焼いたので、それをおすそ分けしようと片手に持っていた。


 そう言えば、姉さまは昔からお菓子に関しては前の世界の時から表面を焦がしていたらしい。そして中身は美味しい物が出来上がるのだ。


 だからこそ姉さまが焼いたマフィンをみた時の殿下は驚いていたという訳だ。


 こんな綺麗に表面が焦げるなら逆に商品化したらどうですかと提案したところ、今その話進んでいるらしいので少し驚いている。



「んーお腹すいた」


 私は手元のドーナツを見た。

 多分だけど、私に食べて欲しそうにしてる。

 そうか、そうだよね、仕方ないよね。

 私はルイ・アントンがいる化学室に行く前にベンチに座った。


 最近私の友人達はみんな婚約者と過ごすことが増えてきた。

 魔石の実験の時には、サラサ様や手伝いのマリーとも話すことができているが、それ以外ではなかなかゆっくり話す時間は取れていない。

 ユリエスタ様はキリト様の仕事を手伝っているらしく、たまに学校に来ていない時もあるようだ。


「はぁ……姉さまも会えてない」


 姉さまはトーマス殿下の婚約者としての勉強を始めたらしい。

 学校以外ではお城にも通っているようだ。

 お茶会の約束はしたものの、姉さまが忙しすぎて日にちが決められずどんどん先延ばしになっている。


 私のめくるめく学園生活を送るはずが、1年くらいで仕事が増えて友人との時間も減ってしまうという現象が起きてしまっていて、また寂しい。



「リテーリアちゃん?何してるの?」


「あれ、ルイ・アントン、様」


 私に声をかけたルイ・アントンは手にたくさんの書類を持っていた。

 どうやらトーマス殿下に持っていくところだったみたいだ。


「ルイ・アントン様、私のお相手は?」


「…………えっ」


「私の恋人は誰ですかー、ゲームの設定で、いなかったんですかー」


「……ああー!びっくりしたー……そういうことか」


「???」


「えー……と、居なかった、よ?」


「なんか、うそっぽくないですか?」


 私がルイ・アントンにぐいぐいと近づくと彼は慌てて両手を上げながら後ろに下がった。


 バサバサバサーと書類が落ちる。


「あ」


「あー」


 2人でしゃがみこみ慌てて書類を集めていると、私は中に1枚私の絵が紛れているのを見つけた。


「あれ?これ……」


「わぁー!だ、だめだめ」


 片手でルイ・アントンから遠ざける。

 しかし、明らかに私よりも手の長い彼の手からは逃れることはできず、絵は回収されてしまった。


「それ、私ですよね」


「まぁ……そうだね」


「そんなに私、可愛くないのですが」


「いやいや。リテーリアちゃんの方がかわいい」


「………………」


 顔を赤くしながら横を向いて可愛いと言われると、正直こちらも恥ずかしくなる。

 やめてほしい。

 そんな顔されると嘘だと思えなくて心が落ち着かない。

 そう思っていたらなにやらぶつぶつ言っている。


「ほんと……なんで、おれ……リテーリアちゃん10歳だから、犯罪……」


「……犯罪?」


「んーもうちょっと、待って……せめて、14歳……いや、でも、違う人が出てこられても」


「何を言ってるのですか?」


「いいや!俺の中の話しなんだ、気にしないで。それよりもリテーリアちゃん。今度俺とお茶しない?こないだね、カフェで新しいケーキが出たって言ってたから」


「え!!本当ですか!!」



 書類を全部集めてルイ・アントンに渡すと頭をポンポンと撫でられて、ありがとうと言われた。



「うん、約束しようね」


「はい、約束です!あ、あの……片方食べかけなので、1つしか渡せないですが……これ差し入れです」


 そう言ってドーナツを差し出した。


「ん?これ、リテーリアちゃんが作ったの?」


「はい、そうです」


 私の言葉を聞いてその場で口に運んでくれた。


「うん……おいしいね、また作ってくれるかな?」


「はい、もちろん」


 私はその時、ルイ・アントンのステータスの相手の好感度は一体どれくらいの数値何だろうと気になったが、なぜか見ることはできなかった。


 その数値が高かったらどうしたら良いのだろうという思いが出たからだ。

 なんだか、かなしい気持ちになる。

 なんでだろう。



 殿下の元へ去っていくルイ・アントンの背中を見ながら、私は自らも気がつかない、深いため息をついたのだった。


お読みいただきありがとうございます!


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