「65!」
皆んなが扉の方を向いた。すると、外から呼びかける声が聞こえてくる。
「マリー?ここにいるのか?」
「ルータス様?」
マリーが扉を開くとそこには少しだけ慌てたようなルータス様の姿がある。
「マリー、報告があって……はっトーマス様とサラサ様。お二人が居るとは知らず挨拶もせずに申し訳ありません」
「ルータス、ここは城じゃないから畏まらないでくれ」
「申し訳ありません、つい……」
「いや、謝ることでもない」
ルータス様は少しだけ悩んだ結果黙って一礼をした。
「少し、マリーを借りてもよろしいでしょうか」
「構わないが」
殿下がそう言うと、ルータス様は再度一礼をした後にリューを見た。
「リュー、ルイが呼んでいた。何か聞きたいことがあるみたいだ」
「ん?僕?なんだろ……分かった、ありがとう」
3人が部屋から出て行くと、そこには、同じ世界から来た殿下達と姉さま、そしてどこからか来た私だけが残っている。
3人で話したい話もあるかもしれない、聞きたい事はまた後日話せばいいだろう、と考えた私は、用事を思い出したと言って抜け出した。
「あ、リテーリア!」
「ユリエスタ様?」
廊下で話しかけられたと思った私は後ろから走ってくる人物を見つけて驚いた。
なんだか今までで一番輝いた顔をしている。
そしてどんどんすごい勢いで向かって来ている。
「リテーリアー!」
「うわぁ!」
走って来たまま抱きつかれて私は危うく倒れるところだった体を踏ん張って耐える。
「ふっふーん!リテーリア、リテーリア!聞いてちょうだいよ!」
「なな、なんですか、ユリエスタ様ちょっと、おも……」
「ふふふーん!今の、重いって言いそうになった言葉も、今の私は許しちゃうんだから」
「あ、いや……でも、くるし……どいて……」
「あら、ごめん」
すんなり退いてくれたユリエスタ様は、私の体を起こすと、テンションが高いままに話し始めた。
「キリト様に告白されちゃったのよ!」
「ええ!それは……」
「うんうん」
「……すごいですね?」
「ちょっと!もっとこう、あるでしょう!」
腰に手を当てて私にずいずいと迫ってくるユリエスタ様に困惑の表情を向ける。
だってもう既に婚約者と聞いていたから、今告白されたと聞いてもどういう顔をしたら良いのか分からない。
「うんと、どんな告白ですか?」
「ふふふ!そう来なくちゃ!なんと、ついにー」
「ついに……?」
「好きって言われちゃった!」
「……ほわー」
両手を上に突き上げて私にキラキラとした目を向けてくる。
「ちょっと!もっとあるでしょう!」
「ん、うーん、いえ、婚約者と聞いてましたから」
ちょっとだけ私を睨みながらまたずいずいと迫ってくる。
婚約者になってから好きと言われたって言われても……私には良く分からない。
私の中では、友達の好きしかしらないのだ。
キリト様とユリエスタ様はとても仲が良さそうに見えた。
だから、改めて告白、おそらく恋愛的な好きと言われたと聞いても良く分からないのだ。
「あー!リテーリアってば全然分かっていないわ。愛する相手と分かって結婚できることがどんなにステキな事なのか!」
「う、うーん」
「んもぉ……勿体ないわよー」
「勿体ない?」
「そ!愛を知らないなんて勿体ない!」
こんなに人を幸せにするのに!
と言ってにっこり笑うユリエスタ様は、やはりいつもより輝いて見える。
その後はユリエスタ様の恋愛談をたくさん聞いたのち、部屋に戻った。
部屋に戻ると日記帳が置いてある机の前に座った。
なんとなく目を閉じてみる。
「エリサ……は、今日いないんだっけ」
今日は良い紅茶再入荷したとかでそこのお店に行くと言っていた気がする。
明日の紅茶は多分美味しい物が飲めるはずだ。
今日は色々なことが分かった日だった。
姉さまもちゃんとトーマス殿下とお付き合いする事が決まったし、ユリエスタ様からは色々教授してもらったし、なんだか愛についてたくさん知れた気が、する。
「でも、愛……って、私には早いと思うの、だってまだ私、10歳だし」
そう言葉にすると、記憶の奥底で誰かが何かを言ってくるのが聞こえた。
(でも、最近は小学生の時から恋人がいたりするんだって)
少しだけうとうととする頭の中でその人の声を反芻させてみる。
聞いたことのある声。心地いいような……。
その後、何を話したんだっけ。
(えー、そんなのマセ過ぎてて私ついていけないよ)
(ははっ、まぁ俺は生まれ変わって君がどんな年齢でも愛する自信があるんだけどね、××ちゃん)
そこまで会話を再生して頭が冴えた。
なんだ今の。
誰の声。
そもそも、小学生ってなんだ。
急な出来事に少しだけ心がそわそわする。
なんだか思い出してはいけない事を思い出した気がして落ち着かない。
このままでは夜きっと寝ることができなくなってしまう。
そう思った私は一旦部屋を出ることにした。
まだ夕方。
皆んなはまだ女子寮に戻ってきていない可能性が高い。
「………………」
私のくだらない話に付き合ってくれる人物なんて、姉さまとマリーとサラサ様しか思いつかない。
適当に散歩してもいいかもしれないけど、それではこの気持ちは静まらない気がする。
「先生のとこにでも行こうかな」
そして甘いケーキでも奢ってもらおう。
頭に残る声を頑張って消しながら足を進める。
なんだか、好きじゃない。
心がもやもやする声だ。
内容もよく分からないからずっとそわそわして落ち着かない。
早くこの気持ちから解放してほしい。
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