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「63!」

 私は姉さまに抱きつきながら、小さな声で話しかけた。


「姉さま、私のことはもう心配いりませんね」


「う、うん……そうね」


「姉さまは、トーマス殿下をどう思っていらっしゃるのですか」


「…………とても素敵な方だと思っているわ」


「素敵な方?」


「あのね、私がずっと好きだった人にとても似ているの……だからね、その人に似てるから好きなんじゃないかって思ってしまっているの……」


「それは」


「リテーリア、その先は、私から告げさせてくれないかな」


 すごく小さな声で姉さまが言ってきた言葉が殿下にも聞こえていたようだった。

 トーマス殿下が姉さまに近寄ってくる。

 姉さまは少しだけ後ろに下がりながら私の手をぎゅっとつかんできた。


 恐らく、先ほどまで殿下が姉さまに感じていた気持ちを、姉さまも感じているのだろう。


 本当にこの人のことが好きなのか、判断に悩んでいるのだ。



「アネモア……」


 殿下は姉さまの名前を呼んだ後少しだけ俯いてからまた顔を上げて話し始めた。


「ああ、その…………今になってしまったけど、どうしても伝えたいことがあるんだ」


「…………?」


「あ…………あの日、待ち合わせ場所に行けなくて、本当に、ごめん」


「…………え?」


「残業なんか投げ出して、早く君に会いに行けば良かったんだ」


「…………」


「ずっと謝りたかった……今からでも許してくれるなら……」


「…………」


「香織、俺と結婚してくれませんか」


「!!!」


 トーマス殿下がそう言った瞬間、姉さまの瞳から大粒の涙が溢れ出した。

 信じられない物を見るように、殿下の事を見つめ続ける。


 私は姉さまの手をゆっくりと外してあげた。




「……うそ」


「嘘じゃないよ、全部覚えてる」


「だって、私、死んだの」


「俺もあそこでは死んだよ、でも、今……こうして生きてる」


 ゆっくりと近づいたトーマス殿下は姉さまの頬に片手を伸ばした。

 壊れ物に触れるように、優しく手を近づける。


「……しゅん君、なの?」


「うん」


「本物なのね……」


「本物だよ」


 そう言うと、トーマス殿下は少しだけ笑いながら言葉を続けた。


「今は殿下をやってるけどね」


「ふふ、私も侯爵令嬢をやってるのよ」



 2人はしばらく見つめ合っていると、殿下が姉さまを引き寄せて抱きしめた。



「ねぇ、答えを聞かせてくれる?“アネモア”」


「ええ……」


 少しだけ顔を上げて姉さまはトーマス殿下の顔を真っ直ぐに見つめた。


「お受け致します、“トーマス様”。ずっと貴方をお慕い申し上げておりましたもの」


「ああ、嬉しい。私もだ、アネモア」


 2人は相手の存在を確かめるように、さらに抱き合った。そこには、愛し合う2人の人物がいるのだった。











「リテーリア、リテーリア!ちょっと!」


 私が姉さまを抱きしめる殿下を恨めしく見ていると、サラサ様に腕を引かれて端っこに追いやられてしまった。


「むぅ。何するのですかぁ……」


「ちょっとは空気を読みなさいよ、顔凄いことになってるわよ」


「………………静かにはしてましたもん」


 ちょっと辛い気持ちなだけで……。


「もう、そんな事言って。お姉様の幸せを願ってるんでしょう?」


「…………うぅぅそれは、はい……」


「全く、あなたは」


 小声で私を怒ってくるサラサ様に私も小声で不満を訴えながら、今度はしっかりと姉さまの顔を見る。すると、とても幸せそうに殿下に抱きしめられているのが分かった。


「姉さま幸せそうだ……」


「そうね」


「…………姉さま……本当、良かったね……」


 私が涙目で姉さまの幸せを噛み締めていると、サラサ様が少しだけほっぺを膨らませて、私のおでこをピシッっと叩いてきた。いたい。


「全く!ちょっとは(わたくし)たちにもその愛情を向けなさいよ」


「え?」


「私たちだって、あなたの事とても大切に思っているのに。空いた時間、これからはたくさんのお茶会やら研究で埋めてあげるわよ」


「うえ、研究……?」


 私が嫌そうに顔をしかめると、リューとマリーが笑いながら私に近づいてきてくれた。


「いいじゃん、僕の魔石からできる粉についても今度から研究始まるんだってさ、だからこれからもよろしく」


「私もリテーリアのお手伝いするように言われてるの、私もよろしくね」


「…………うーん。よろしくお願いします」


 なんだか納得いかないが仕方がない。

 姉さま達は、今まで離れ離れだった時間をやっと埋めていけるのだし、あまり邪魔するのも悪いだろう。


 私が項垂れていると、顔を赤くさせた姉さまとトーマス殿下が戻ってきた。

 トーマス殿下が姉さまの手を引いてソファに座らせてあげている。姉さまが座ると、殿下が頭をふわりと撫で、紅茶を淹れに向かった。



「くっ…絵になる。尊い……」


「リテーリア、声に出てるわ」


「はっ、つい出てしまうほどに素敵で」


「リ、リティちゃんてば、もう……」


 やはり、婚約するからと言って尊い姉さまを崇めるのは止めることはできなそうだ。さらに美しい殿下も加わってひどくなりそうで困る。


「……おい、また拝んでるぞ、気持ち悪いからやめろよ」


「無理よ、これは自然現象なの」


「………………さくら、マリー、こいつ本当やばいんじゃない?」


「仕方ないわ、リテーリアよ」


「そうだね……リテーリアだから……」


 あれ?私は本当に大切に思われてるかな?




 再度紅茶を淹れてくれた殿下が席に着くと、サラサ様が2人を見ながら口を開いた。


「一応私が見ていたからほとんど大丈夫だけど、後でちゃんとご両親に伝えるのよ、アネモア様」


「ありがとうございます、サラサ様」


「それより……トーマス、アネモア様……」


 サラサ様がすごく真剣な顔で身を乗り出す。


「なんだ?」


「な、なんでしょうか」


「私、乙女ゲームの、作成秘話の事詳しく聞きたいわ!!!」


 突然そう宣言したサラサ様に対し、キョトンとした顔の姉さまと真っ青な顔をしたトーマス殿下。


「え?作成ひ……」


「だめだ!!!」


「え?」


「あ、い、いや、作成秘話なんかない、から……だめ、だ……」



 どもるトーマス殿下を姉さまは心配そうに見つめている。




 おやおや?これは……。

 私はニヤリとした顔を隠そうともせず、慌てている殿下を今はフォローしてあげようと考えた。


「うふ、うふふふ、そうですよね、トーマス殿下、作成秘話なんか、ありませんよねー?」


「……お、おいリテーリア……」


「ふふふふ、そうねぇ、まぁ、当時そんな噂だっただけだったわね、ね、トーマス」


「……サラサ、お前たち……」


「おほほほほほー」


 わざとらしい笑いをあげながら私とサラサ様はその場をごまかした。

 マリーとリューが少し呆れた顔でこちらを見てくるが、これについては譲れない。


 後でじっくり聞かせてもらいましょうね、トーマス殿下、ふふふふ!



お読みいただきありがとうございます!


アネモア&トーマスクリアー!!

おめでとうー!!!


お疲れ、リティ。

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