戦後処理
「おい! その石畳は向こうだ!」
港町ミラン、その港は激しい戦闘によって半壊滅状態だった。何本もの植物の触手が地面を突き破って暴れまわったり、Sランク冒険者が派手に戦闘を行ったのだ。それにしてはむしろ被害は少ない方だとも言える。
その港は現在、何人もの職人たちによって急速に復興がなされていた。今も怒号が飛び交う。
「親方ぁ! この木材は!」
「ああん!? それは……あっちだ!」
「親方ぁ! このタイルは!」
「ぅああん!? そいつは……そっちだ!」
「親方ぁ! この土魔法使いの集団は!」
「ぅらああああん!? そいつらは……あちらだ! つうか、一々俺に尋ねてくるな!! 自分で判断しやがれ!」
「親方ぁ! 俺の人生は!」
「ああん!!?? お前は……まっすぐ進めぇ!」
「親方ぁ!」
……そんな怒号の中を歩くのは二人の少女。
「……クテイさん、なんですか、あの急展開。私、ついていけません。なんの脈絡も無いんですけども。下手な寸劇を見ている方がまだ……クテイさん?」
「……」
「クテイさん?」
「……ぐすっ、よかったねぇ……自分の進むべき道が、見え、てぇ……」
「なんで!? 情緒不安定ですか!? 」
今回の騒動になんやかんやで関わったクテイとルキリヤの二人は雑談をしながら港の様子を見て歩いていた。
「あれから数日が経ちましたけど、やっぱり人間て凄いですね。もう大分、色々なところの修理が進んでますよ」
話をふるのはルキリヤだ。銀色の狼の尻尾をゆらゆらと揺らしながらクテイに話しかける。
「ん。魔法だって、あるし、職人さんは、身体能力パッない」
「身体能力パッないんですか?」
「ん」
クテイは有無も言わさず頷く。
職人さんたちを心から尊敬しているような声音だ。
「いや、ゆうてもですよ。熊とかの獣人とか、重戦士とかクテイさんみたいな詐欺……見た目よりもパワーのある人に比べたら……」
「……今、詐欺」
「あっ!?」
クテイがルキリヤの発言を追求しようとしたとき、ルキリヤが声をあげる。
ルキリヤの視線の先には、物理的にどうやっているんだ? と言いたくなるような光景が。とてもいかつく、頭にはちまきを巻き、肌が浅黒く日に焼けたマッチョが山のように丸太を担いで走り回っていたのだ。
「親方ぁ! すげぇやぁ!」
「フハハハ! 親方を舐めるなよ!」
無駄にハイテンションな人物が目の前を通りすぎるのを見て無言になるルキリヤ。
「……」
「親方、流石……です……ルキリヤ、言った、でしょ? 職人という人種は仕事において無類の力を発するの」
「は、はい。見せつけられました……それと、やっぱりクテイさんは説明の時には喋りがスムーズになるんですね……」
クテイは喋りがつっかえつっかえになったり、アナウンサーもビックリの長文をさらさらと話したりすることがある。
喋りがおぼつかない時があるのは、別段、人見知りというわけでは無さそうなのだが……
「そういえばクテイさん、ギルドからの対応はまた後日と言われてましたが、もうそろそろ大丈夫ですよね?」
「ん……そろそろ情報もまとまって、処理とかもろもろも一段落ついたであろうころ……行ってみる?」
クテイは、お人形さんのように整っていて可愛らしいが、表情に乏しい顔を上目遣いにルキリヤに向ける。
「……くふっ、か、かわゆい…………んんっ! え、えーっと、そうですね! ギルドに行ってみましょう!」
そして二人は港からギルドに向かった。
【sideティルエ】
翼をはためかせて大空を駆けるように飛行する美しき天使がいた。
しかし、その翼は純黒で、少しグラデーションのかかった紫色のロングの髪からは羊のような巻き角が飛び出ていた。
「まったく……私の出番まったく無かったじゃない! 心配して損したわ! ソワソワしっぱなしだったんだから……無事に終わって良かったけど……」
この天使、実は元々悪魔で、天使へと成り上がった者だった。分類上は堕天使となるのだろうか。
だが、この悪魔、マジ天使である。
「それにしても、あの……クテイって言ったかしら、あの娘はとんでもなかったわね……」
ティルエはクテイの戦闘を思い出していた。
戦闘技術は一流で、さまざまな魔法を使いこなし、あまつさえ、あの神々しい剣を召喚して見せたのだ。
「いえ、クテイだけじゃなくて……」
最初は他の面子にどうしても見劣りしてしまい、足を引っ張っているように思えたエルフと獣人のハーフ。しかし、戦いのなかでみるみるうちに成長していき、活躍さえしていた。
「本当にとんでもないわね、あの子たち」
ティルエはそうぼやくように言うが、その口許は僅かに笑っていた。すると、次の瞬間には表情を引き締め、
「……それだけじゃない。あの、クテイって娘の自称兄……の使い魔。使い魔にしか会っていないけど、あの兄も、とんでもないってことは十二分にわかったわよ……」
ティルエは身震いした。あの、紙でできた鳩、ただそれだけの筈なのに、その後ろにいるであろう人間の気配を感じ取ったティルエは溜め息を一つ溢す。
「一体どういう兄妹なのよ……滅茶苦茶ね本当に……まあ、いいわ。とても気になるけど、まずは私の用事が最優先ね……暫くは会うこともないでしょう」
「向かうは王都。ミランで道草を食っちゃったから、近道でグランヴィア山の上を突っ切るとしますか」
ティルエは黒い翼を大きく羽ばたいた。
【sideクテイ&ルキリヤ】
「じゃあ、決まりですね! グランヴィア山の依頼を受けて、そのまま王都に行くコースで!」
「ん。了解」
……ルキリヤの張り切った声がギルドに響いた。
次回はクテイ&ルキリヤsideの少し前から遡りますよ
よんでね(´・ω・`)




