異世界の王宮事情
夜も更け、深夜とも言うべき時間、国王の寝室から隠し通路を通って、王妃間の寝室へと入る。
物音をたてぬように慎重にベッドへと、近づく。
ベッドの近くには、ベッドの主が脱いだであろう夜着が落ちている。
ギシ―――
ベッドのふちに腰をかけ、ベッドの主である少女の頬に触れる。
「勇姫……。」
名を呼び、起きないことを確認する。
「……ぅう……ん……。」
唸るのはいつものこと、安心して触れることにする。
顔にかかる髪を梳き、額、瞼、頬、唇、首筋、胸、足、順を追って触れるだけの口付けをする。
最後に、愛らしい唇に深い口付けをする。
ぴちゃ、くちゃ―――
「うぅん……ん……。」
苦しいのだろうか、勇姫が鼻にかかった卑猥な唸り声を上げ、顔をそむけようとする。
だが、まだ、逃がす気はない。
顔を固定し、より深く口付けていく。
くちゃぁ、ぴちゃ―――
「んん……ぁはぁ……っぅん……。」
時間にして、およそ5分くらいだろうか、唇を離す。
口付けの後の腫れぼったい唇に、名残惜しさを感じながらも、これ以上やると止まらなくなるので、王妃の間の寝室を後にする。
これが最近の私、バッシュ・レオン・ハルベルト=セーラの日課である。
本音を言えば、もっとしたいし、あの美しい身体を味わいたい。
しかし、勇姫はセーラ国の女子の成人年齢である17歳をまだ迎えておらず、国王たる私でも、国の法律を破れば処罰が下る。
それに、婚前交渉などして、勇姫が貴族の馬鹿どもに、身持ちの悪い女だと言われるのは我慢ならない。
そしてなにより、勇姫の心がまだ私に向いていない―――。
まぁ、これについては、おいおい向かせていくし、妹思いの兄たちのおかげで、恋人や思い人がいなかったことも調査済みなので、問題ない。
勇姫の異世界生活は、ほとんど問題なく行えているようだ。
ただ、やはり異世界、生活の仕方が違うらしく、時々微妙な顔をしている。それもまた、愛らしい。
我慢できないときは、かわいらしい『お願い』をしてくれる。これは、鼻血ものだ。
『わがままは言っちゃいけないけど……でも、どうしても……。』という感じがありありと伝わってくる。
今夜の夕食の時も『庭の散歩がしたい』というお願いに、即効許可をだした。
ただし、侍女や護衛がいようとも、私の目の届かないところに勇姫がいくのはいやなので、毎日、午後のひと時を勇姫と散歩することに決めた。
城下にもいきたいようなので、最低でも半月に一度は勇姫と城下に出かけることも決めた。
また、風呂の件だが、勇姫の世界では、湯船に湯をためて入るが一般的だったようだ。そういう風呂が城の中にないわけではないが、他国からの来賓用が主であり、個人用ではなく、多人数向けである。
勇姫の肌を誰かれ構わず見せる気にはならないので、王妃の間の隣の部屋を急遽改装中である。
将来的に、いっしょに入るのがたのしみである。
たのしみはこれだけではない。
勇姫のドレス姿、これまた鼻血物である。
勇姫に着させているドレスは、勇姫より少し年齢が上の、この国の結婚適齢期といわれる年代、18から20歳の女子が好んで着るデザインの物を着させている。
あの幼い顔と、顔に似合わないスタイルとがあいまって、背徳的でたまらない。
まぁ、常にドレスでいる必要はないのだが、着る習慣がなかったようなので、慣れてもらうためにも着させている。
勇姫の生活が滞りなく行えているのも、私のたのしみが満たされているのも、勇姫に付けた侍女や、護衛が優秀なおかげであるが、いかんせん、奴らの視線が痛い。
主である私に向ける視線ではない。しかし、勇姫を思ってのことだと思うと何とも言えない。それに、あの視線がなければ、間違いを起こしていたかもしれないことは、一度や二度ではない。
だがしかし、勇姫に夜着を着せて寝かそうとするのはやめてほしい。
勇姫の美しい四肢を眺め、時々は口付け、将来についての想像をめぐらす。それこそが、満たされる欲望を持った私の、毎夜、一番のたのしみなのだ、奪われてしまったらたまったものではない。欲望が爆発し、勇姫に襲い掛かる。これは、まず、間違いない。
だからこそ、欲望が爆発しないうちに、勇姫が17になった折には、すぐにでも婚礼の儀を行いたいと思っている。
でなければ、法律を犯すことになる。それは、一国の主としてはあまりにも情けない。
セーラ国では、王の正妻である王妃にはある程度身分が必要になる。貴族であれば、侯爵以上の家の出であることが望ましい。側妃や愛妾となると、あまり身分は関係ないのだが、勇姫以外を妻にするつもりはない。
しかし、勇姫は異世界出身。この国での身分など無いに等しい。となると、ある程度の貴族に養子に出すことが望ましい。
侯爵以上で、政治的な力もあり、王に歯向かわず、勇姫の力となってくれる存在……。
思わず顔に笑みが浮かんだ。
「セルドル公爵家に養子として迎えてもらおう―――。」
私の欲望を秘めた声が、深夜、一人きりの寝室に響いた―――。