プロローグ:神童の終わりと、飽くなき武への執着
【第1章:黎明の魔気闘法編】
前世において、俺――神谷陣は、間違いなく歴史に名を残すべき「百年に一人の天才」だった。
古武術『神谷流』を代々伝える道場に生まれ、物心がつく前から祖父に拳を叩き込まれた。
武器を使わず、呼吸と精神の集中によって内なる『気』を練り上げ、触れた瞬間に爆発的な威力を叩き込む発勁の技。俺はその技術を、恐ろしいほどの速度で吸収していった。
十歳で大人の門下生を総なめにし、十五歳で祖父すら凌駕した。
周囲からは「神童」と持て囃され、俺自身、この世に極められぬ武などない、と傲慢にすら思っていた。
――だが、天は俺に、武の深淵を覗く時間を与えてはくれなかった。
二十歳を迎えたある日、俺の肉体は突然の病に侵された。
不治の病。日に日に痩せ細り、あれほど自由自在に操れた『気』すらも、体外へ霧散していく。
「嘘だろ……。俺は、まだ何も成し遂げちゃいない……!」
病院のベッドの上、痩せこけた自分の両拳を見つめながら、俺は歯を食いしばった。
天才と謳われようが、二十年ぽっちの人生では、武の入り口に立ったに過ぎない。
もっと先へ。誰も到達したことのない、本当の『極み』へ行きたかった。
この拳一つで、世界のすべてを圧倒するような、本物の強さを手に入れたかった。
そんな果てしない無念と、武への狂気的な執着を抱いたまま、俺の意識は深い闇へと沈んでいった。
◇
「――おめでとうございます、エルリア王妃様! 元気な男の子でございます!」
次に意識が覚醒した時、俺を包んでいたのは、聞いたこともない言語の歓声だった。
視界はひどく霞み、身体は自分のものとは思えないほど小さく、そして言うことを聞かない。
状況からして、俺は死に、別の世界へ生まれ変わった――いわゆる『転生』をしたのだと、すぐに理解できた。
大国ルミナス王国の第5王子、アレン・フォン・ルミナス。それが、俺の新しい名前。
だが、そんな奇跡への驚きなど、次に感じた衝撃に比べれば些細なことだった。
(なんだ……この、悍ましいほどのエネルギーは……)
小さな赤ん坊の肉体の奥底。そこには、前世で練り上げていた『気』など比べ物にならないほど、濃密で、海のように広大な未知のエネルギーが渦巻いていた。
まだこの世界の言葉も、文化も、何もわからない。
だが、この肉体に宿る規格外の質量を持ったエネルギーだけは、本能で理解できた。
俺は産声すら上げず、ベッドの中で自分の小さなお手手をじっと見つめ、ひねくれた笑みを浮かべた。
(前世では、肉体の限界と時間の短さのせいで、武の極みに届かなかった。だが、今の俺には、この異常なまでのエネルギーがある。これを使って、前世の術理をさらに高めることができたら……一体どれほどの領域に到達できるか)
想像しただけで、赤ん坊の身でありながら、ゾクゾクとするような歓喜が全身を駆け巡る。
どんな世界だろうと関係ない。王位継承権も貴族の権力争いも、俺には興味の欠片もありはしない。
俺の邪魔をする奴、そして俺の身内に手を出そうとする奴は、誰であれ徹底的にすり潰すだけだ。
「今度こそ、誰も追いつけない最強の道を歩んでやる」
ひねくれ者の戦闘狂王子アレンと、のちに彼の影として絶対の忠誠を誓う元暗殺者メイドのセリア。
世界を震撼させ、やがて伝説の『アンノウン』ランクへと駆け上がる男の二度目の人生が、今、静かに幕を開けた。




