第三十話 クランという未来
ツバサの日本刀を研ぎ直してから三日後――。
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エメラルド・グリーンの街は今日も活気に満ちていた。
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市場では商人たちの威勢の良い声が響き。
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鍛冶師ギルドからは金槌の音が聞こえてくる。
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スタンビートの傷跡はまだ残っている。
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それでも人々は前を向いていた。
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街は生きている。
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人々は未来へ進んでいる。
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そんな平和な朝だった。
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ビルセイヤは屋敷の庭で木剣を振っていた。
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シュッ――
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シュッ――
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無駄のない剣筋。
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毎朝欠かさない鍛錬である。
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前世で剣道を学んでいた頃から続く習慣だった。
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どれほど強くなっても。
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どれほど経験を積んでも。
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基礎を疎かにはしない。
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それがビルセイヤの信条だった。
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「相変わらずですね」
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柔らかな声が聞こえる。
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振り返るとリリアがお茶を運んできていた。
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「休憩してください」
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「ありがとう」
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木剣を置き、湯気の立つ茶を受け取る。
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リリアは最近、屋敷のことを積極的に手伝ってくれていた。
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食事の準備。
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掃除。
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帳簿の管理。
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気付けば屋敷に欠かせない存在になっている。
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「鍛錬は楽しいですか?」
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「楽しいというより習慣かな」
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「鍛錬は裏切らないからな」
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そう言って笑う。
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リリアもつられて微笑んだ。
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「そういうところがビルセイヤさんらしいです」
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その時だった。
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屋敷の門の方から声が聞こえる。
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「ビルセイヤ様」
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「お客様です」
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使用人がやって来た。
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「誰だ?」
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「ツバサ様です」
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ビルセイヤは少し驚く。
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そしてすぐに頷いた。
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「通してくれ」
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やがて庭へ現れたツバサは、どこか決意を秘めた表情をしていた。
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腰には日本刀。
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ビルセイヤが研ぎ上げた愛刀である。
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その刀はこの数日で数々の成果を見せていた。
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丸太を切れば抵抗なく両断。
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魔物の骨すら滑るように断ち切る。
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まるで別物になったかのようだった。
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ツバサは改めて理解している。
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目の前の男はただの鍛冶師ではない。
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ただの冒険者でもない。
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本物だ。
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「話がある」
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席へ着くなりツバサが言った。
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その声は真剣そのものだった。
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ビルセイヤも表情を引き締める。
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「聞こう」
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ツバサは一度深呼吸した。
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そして。
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「クランを作らないか?」
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その言葉に場が静まる。
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リリアが目を丸くした。
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セシリアも興味深そうに眉を上げる。
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エミリアは静かに耳を傾けていた。
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「クランか」
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ビルセイヤが呟く。
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ツバサは力強く頷いた。
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「スタンビートで確信した」
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「個人には限界がある」
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「パーティにも限界がある」
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「だが組織なら違う」
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あの日の戦場。
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街を守れたのは一人の力ではない。
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冒険者。
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兵士。
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商人。
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補給班。
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皆が力を合わせたから勝てた。
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「もっと大規模な依頼を受けられる」
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「スタンビートにも対応できる」
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「多くの人を守れる」
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「だからクランが必要なんだ」
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ツバサの言葉には実感が込められていた。
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戦場で得た答えなのだろう。
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ビルセイヤは黙って聞いていた。
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そして問い掛ける。
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「具体的には?」
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ツバサの表情が少し明るくなった。
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「まずは俺とお前」
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「セシリアさん」
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「エミリアさん」
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「そしてリリアさん」
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突然名前を呼ばれたリリアが慌てる。
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「えっ?」
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「わ、私は戦えませんよ?」
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ツバサは首を振った。
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「戦うだけがクランじゃない」
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「補給担当も必要だ」
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「会計も必要だ」
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「生活基盤を支える人も必要なんだ」
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リリアは目を瞬かせた。
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今まで自分は守られる側だと思っていた。
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だが違う。
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自分にも役割がある。
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必要としてくれる人がいる。
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その事実が少し嬉しかった。
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「確かに」
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ビルセイヤも頷く。
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「リリアにはいつも助けられている」
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「いなかったら困るな」
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リリアの顔が一気に赤くなる。
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「そ、そんな……」
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俯きながらも嬉しそうだった。
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その様子を見てセシリアがクスリと笑う。
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「私は賛成よ」
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「面白そうじゃない」
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エミリアも静かに頷く。
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「私も異論ありません」
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自然と全員の視線がビルセイヤへ集まる。
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ツバサは改めて実感した。
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この人が中心だ。
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この人の周りには人が集まる。
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だからこそクランが形になる。
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「どうする?」
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ツバサが尋ねる。
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ビルセイヤは少し考えた。
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そして笑う。
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「悪くない話だな」
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その一言で空気が和らぐ。
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ツバサも笑った。
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こうして――。
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後に王国中へその名を轟かせる伝説のクラン。
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数々のスタンビートを鎮圧し。
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大迷宮を攻略し。
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王国の歴史に名を刻む組織。
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その第一歩が静かに踏み出されたのである。
第二章 第三十話
「クランという未来」
――続く。




