第二十八話 勝利の宴と新たな縁
スタンビート終結から二日後――。
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エメラルド・グリーンの街は、久しぶりに平穏を取り戻していた。
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街の大通りには笑顔が戻り、商店には活気が溢れている。
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子供たちは英雄ごっこに夢中になり、酒場では防衛戦の話題で持ち切りだった。
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誰もが知っている。
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あの日、街は滅びかけた。
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だが、多くの冒険者と兵士たちの奮戦によって守り抜かれたのだ。
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そしてその功労者たちを称えるため、冒険者ギルドでは盛大な祝勝会が開催されていた。
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「乾杯!!」
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大広間に歓声が響く。
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ジョッキが打ち鳴らされ、料理の香りが漂う。
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焼き肉。
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シチュー。
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揚げ物。
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普段より豪華な料理がテーブルを埋め尽くしていた。
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「ビルセイヤ!」
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「こっちでも飲め!」
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「ブラックベア討伐の英雄様だぞ!」
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あちこちから声が飛ぶ。
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ビルセイヤは苦笑した。
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「勘弁してくださいよ……」
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そう言いながらも断り切れない。
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結局、何度も乾杯に付き合うことになる。
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「人気者ですね」
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隣でセシリアが面白そうに笑った。
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「他人事みたいに言うなよ」
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「私も人気者だから問題ありません」
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「自覚あるのか……」
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ビルセイヤが呆れる。
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そのやり取りを見てエミリアが吹き出した。
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リリアも口元を押さえて笑う。
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こういう何気ない時間が心地良い。
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命懸けの戦いを乗り越えたからこそ、なおさらそう感じるのだった。
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その時。
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「失礼する」
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一人の青年が近付いてきた。
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腰には一本の日本刀。
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整った顔立ちの黒髪の剣士。
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ビルセイヤはすぐに思い出した。
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「ツバサさん」
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「スタンビートの時は助かりました」
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補給班へ向かったフォレストウルフを斬り伏せた青年。
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リリアも立ち上がり、深々と頭を下げた。
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「ありがとうございました」
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ツバサは少し照れ臭そうに頭を掻く。
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「気にするな」
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「当然のことをしただけだ」
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その言葉にビルセイヤは自然と笑みを浮かべる。
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実力があり、謙虚。
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嫌味がない。
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こういう人間は好感が持てた。
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「隣、いいか?」
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「もちろん」
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ツバサが席へ腰を下ろす。
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最初は世間話だった。
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防衛戦の話。
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冒険者ギルドの話。
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魔物素材の売却価格の話。
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だが話題が鍛冶になると、ツバサの目が少し輝いた。
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「そういえば」
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ツバサが腰の日本刀を軽く叩く。
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「この刀なんだが」
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「ん?」
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「最近切れ味が落ちてきてな」
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「研ぎに出そうと思ってる」
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ビルセイヤの視線が刀へ向く。
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自然と職人の目になる。
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鞘。
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柄。
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刀身の状態。
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一瞬見ただけで大切に扱われていることが分かった。
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「良い刀ですね」
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ビルセイヤが言う。
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ツバサが驚いた顔をした。
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「分かるのか?」
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「ええ」
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「持ち主に大事にされています」
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ツバサは少しだけ嬉しそうに笑った。
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この刀は冒険者になった頃から共にある相棒だった。
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無名の刀。
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だが自分にとっては宝物である。
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「よかったら俺が研ぎますよ」
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ビルセイヤが何気なく言う。
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「え?」
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「鍛冶師ですから」
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「多少は自信があります」
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セシリアとエミリアが苦笑した。
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多少どころではない。
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この男の鍛冶技術は異常なのだ。
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「本当に?」
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ツバサが尋ねる。
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「もちろん」
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「任せてください」
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その言葉にツバサは少し考えた後、頷いた。
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「じゃあ頼む」
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「明日持っていくよ」
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「お待ちしてます」
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二人は笑顔で握手を交わした。
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それはただの研ぎ依頼。
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だが後にツバサが驚愕することになる。
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返ってきた刀は、まるで別物のような切れ味を手に入れていたのだから。
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そしてその出来事が、ツバサの運命をさらに大きく動かすことになる。
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クラン結成へ向けた歯車は、静かに回り始めていた。
第二章 第二十八話
「勝利の宴と新たな縁」
――続く。




