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第二十八話 勝利の宴と新たな縁

 スタンビート終結から二日後――。


◇◇◇


 エメラルド・グリーンの街は、久しぶりに平穏を取り戻していた。


◇◇◇


 街の大通りには笑顔が戻り、商店には活気が溢れている。


◇◇◇


 子供たちは英雄ごっこに夢中になり、酒場では防衛戦の話題で持ち切りだった。


◇◇◇


 誰もが知っている。


◇◇◇


 あの日、街は滅びかけた。


◇◇◇


 だが、多くの冒険者と兵士たちの奮戦によって守り抜かれたのだ。


◇◇◇


 そしてその功労者たちを称えるため、冒険者ギルドでは盛大な祝勝会が開催されていた。


◇◇◇


「乾杯!!」


◇◇◇


 大広間に歓声が響く。


◇◇◇


 ジョッキが打ち鳴らされ、料理の香りが漂う。


◇◇◇


 焼き肉。


◇◇◇


 シチュー。


◇◇◇


 揚げ物。


◇◇◇


 普段より豪華な料理がテーブルを埋め尽くしていた。


◇◇◇


「ビルセイヤ!」


◇◇◇


「こっちでも飲め!」


◇◇◇


「ブラックベア討伐の英雄様だぞ!」


◇◇◇


 あちこちから声が飛ぶ。


◇◇◇


 ビルセイヤは苦笑した。


◇◇◇


「勘弁してくださいよ……」


◇◇◇


 そう言いながらも断り切れない。


◇◇◇


 結局、何度も乾杯に付き合うことになる。


◇◇◇


「人気者ですね」


◇◇◇


 隣でセシリアが面白そうに笑った。


◇◇◇


「他人事みたいに言うなよ」


◇◇◇


「私も人気者だから問題ありません」


◇◇◇


「自覚あるのか……」


◇◇◇


 ビルセイヤが呆れる。


◇◇◇


 そのやり取りを見てエミリアが吹き出した。


◇◇◇


 リリアも口元を押さえて笑う。


◇◇◇


 こういう何気ない時間が心地良い。


◇◇◇


 命懸けの戦いを乗り越えたからこそ、なおさらそう感じるのだった。


◇◇◇


 その時。


◇◇◇


「失礼する」


◇◇◇


 一人の青年が近付いてきた。


◇◇◇


 腰には一本の日本刀。


◇◇◇


 整った顔立ちの黒髪の剣士。


◇◇◇


 ビルセイヤはすぐに思い出した。


◇◇◇


「ツバサさん」


◇◇◇


「スタンビートの時は助かりました」


◇◇◇


 補給班へ向かったフォレストウルフを斬り伏せた青年。


◇◇◇


 リリアも立ち上がり、深々と頭を下げた。


◇◇◇


「ありがとうございました」


◇◇◇


 ツバサは少し照れ臭そうに頭を掻く。


◇◇◇


「気にするな」


◇◇◇


「当然のことをしただけだ」


◇◇◇


 その言葉にビルセイヤは自然と笑みを浮かべる。


◇◇◇


 実力があり、謙虚。


◇◇◇


 嫌味がない。


◇◇◇


 こういう人間は好感が持てた。


◇◇◇


「隣、いいか?」


◇◇◇


「もちろん」


◇◇◇


 ツバサが席へ腰を下ろす。


◇◇◇


 最初は世間話だった。


◇◇◇


 防衛戦の話。


◇◇◇


 冒険者ギルドの話。


◇◇◇


 魔物素材の売却価格の話。


◇◇◇


 だが話題が鍛冶になると、ツバサの目が少し輝いた。


◇◇◇


「そういえば」


◇◇◇


 ツバサが腰の日本刀を軽く叩く。


◇◇◇


「この刀なんだが」


◇◇◇


「ん?」


◇◇◇


「最近切れ味が落ちてきてな」


◇◇◇


「研ぎに出そうと思ってる」


◇◇◇


 ビルセイヤの視線が刀へ向く。


◇◇◇


 自然と職人の目になる。


◇◇◇


 鞘。


◇◇◇


 柄。


◇◇◇


 刀身の状態。


◇◇◇


 一瞬見ただけで大切に扱われていることが分かった。


◇◇◇


「良い刀ですね」


◇◇◇


 ビルセイヤが言う。


◇◇◇


 ツバサが驚いた顔をした。


◇◇◇


「分かるのか?」


◇◇◇


「ええ」


◇◇◇


「持ち主に大事にされています」


◇◇◇


 ツバサは少しだけ嬉しそうに笑った。


◇◇◇


 この刀は冒険者になった頃から共にある相棒だった。


◇◇◇


 無名の刀。


◇◇◇


 だが自分にとっては宝物である。


◇◇◇


「よかったら俺が研ぎますよ」


◇◇◇


 ビルセイヤが何気なく言う。


◇◇◇


「え?」


◇◇◇


「鍛冶師ですから」


◇◇◇


「多少は自信があります」


◇◇◇


 セシリアとエミリアが苦笑した。


◇◇◇


 多少どころではない。


◇◇◇


 この男の鍛冶技術は異常なのだ。


◇◇◇


「本当に?」


◇◇◇


 ツバサが尋ねる。


◇◇◇


「もちろん」


◇◇◇


「任せてください」


◇◇◇


 その言葉にツバサは少し考えた後、頷いた。


◇◇◇


「じゃあ頼む」


◇◇◇


「明日持っていくよ」


◇◇◇


「お待ちしてます」


◇◇◇


 二人は笑顔で握手を交わした。


◇◇◇


 それはただの研ぎ依頼。


◇◇◇


 だが後にツバサが驚愕することになる。


◇◇◇


 返ってきた刀は、まるで別物のような切れ味を手に入れていたのだから。


◇◇◇


 そしてその出来事が、ツバサの運命をさらに大きく動かすことになる。


◇◇◇


 クラン結成へ向けた歯車は、静かに回り始めていた。


第二章 第二十八話


「勝利の宴と新たな縁」


――続く。

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